最終日1

 小鳥が鳴くよりも早く目覚めた俺は、またも寝ぼけて俺のベッドにいるアーガを起こさ無いようにベッドから出る。そして反対側のベッドで寝ているジョー君の元に行く。


「おい、起きろ、行くぞ」


 出来るだけ物音を立てずに肩を揺らす。揺さぶられて目を開けたジョー君と目が合う。


「ん? 何?」


 寝ぼけ眼でこちらを向くジョー君を引っ張り二人を起こさないように気を付けながら表に出た。

 寝間着姿のジョー君と朝日が昇り始めた外にでると肌寒かった。


「・・・で、何なの?」


 ジョー君は今度はしっかりと起きて聞いてきた。


「手伝ってやるよ。 誰か知らないが、合いたいんだろ?」


 振り向かずに歩く俺に、ジョー君の動揺の気配が伝わってくる。そんなジョー君を気にせず俺は会話を続けた。


「先生から聞いた」


 俺の言葉でジョー君の歩く足が止まる。


「何で関係のない君が手伝ってくれるんだ」


 俺も動きを止め、オレンジ色の朝日を背に答えた。


「何となく、何となく先生にイラっとしたからかな」


 俺達はケビンから遠く離れた森の入り口にいた。向かっているのは昨日、冒険者体験をした町である。

 町に行く理由は、ガルフとニーナに協力してもらう為だ。不躾で悪いとは思うが、この疑似異世界で協力してくれるのは二人しかいないので仕方がない。

 少し霧が出ている森に入った俺たちは魔物に気が付かれないように慎重に歩く。


「ジョー君は誰に会いたいんだ?」


 俺は最小限の音量で歩きながら言った。

 少しの沈黙のあとジョー君は、ポツリポツリと話始めた。


「・・・前の世界では魔王の側近だったんだ。 それで文不相応にも魔王様を好きになってしまった」


懐かしむように戻れない過去を語ってくれる


「あの頃は楽しかった。毎日が色づいていて勇者や賢者と戦って、仲間と杯を交わし、魔族の繁栄を望んでいた。誰もがそう感じていた・・・はずだった。

 魔王様は違ったんだ。魔王様は人間、亜人、魔族の全ての種族が幸せに暮らせる世界を望んでいたんだ。」


「じゃ、魔王様に会いたいのか?」


 俺の質問にジョー君は思っていたのと違う答えを出した。


「いや、会いたいのは勇者だ。魔王様は確かに合いたい。でも、それよりも勇者にあいたいんだ」


 ジョー君は愛する者に会いたいのではないのか、それとも勇者が好きになってしまったのか、そんな疑問を思いながら話の続きを待つ。


「魔王様の最後の言葉を聞きたい、それだけだ」


 いつもとは違い饒舌に語るジョー君と話していると森を抜け、町が見えてきた。

 ここまで来たら、もう魔物の心配もないだろう、俺たちは完全に日が昇り村人がポツポツといる町中を歩き、冒険者ギルドに向かった。

俺たちはギルドでガルフ達が泊まっている宿を教えてもらい向かう事にした。

 道中では町の人々の視線が痛かった。なにせ二人とも寝間着姿なのである。

 目的の宿に着くと、忙しなく朝の準備をしているエルフの娘に声を掛け、ガルフと会えるように取り次いでもらう。

 宿の酒場で数分待っていると、寝癖を付けたガルフが二階から眠たそうに下りてきた。


「朝早くからなんだよ・・・ってお前等か、忘れ物か?」


 ガルフは眠いのか大欠伸をしながら、俺たちの席に座る。


「少し、手伝って欲しい事がある。 協力してくれそうなのはガルフとニーナぐらいなんだ」


 俺の口調とジョー君の表情を観て、遊びではないと分かるとガルフは鋭い眼差しになる。


「何かあったのか?」

「その説明はニーナを呼んでもらってからでも、構わないか?」

「わかった、呼んでこよう」


 そう言うと、宿屋の二階にあがっていった。ニーナとは同じ部屋で暮らしているのだろうか?

 ニーナを呼んでもらったのは、二度も同じ説明をするのも面倒だし、俺たちがいないのに気が付きミルル達が探しにくるのに、どのくらい時間が掛かる分からないからである。


「待たせたわね。 で? 何事なの?」


 ニーナを呼んでもらった所で、俺たちの説明をした。元異世界の住人だった事、それとジョー君に会いたい人がいる事、それを手伝って欲しい事を簡潔に説明していった。


「異世界とは・・・驚いた」

「事情は分かったけれど・・・私たちに何が出来るの?」


 ニーナの意見はもっともで、実は俺も勇者を呼ぶ方法など知りはしない、なのでジョー君に聞くしかない。


「ジョー君は、初日に何か試したんだろう? 何やって殴られたんだ?」


 それを聞くとジョー君は渋い顔をして答えてくれる。


「転移魔術を使ったんだ。 座標を元の世界にして、それと平行して死霊魔術を組み合わせて死者の魂を呼ぼうとした・・・けど、ダメだった」

「原因はわからなかったのか?」


 ガルフの質問にジョー君は首を振り答える。


「魔法事態は何事も無かったんだけど、途中で魔法陣が薄くなって強制的にキャンセルさせられた」


 俺は魔法に詳しくないので、余り話が理解できないが、ガルフとニーナは顔をキョトンとさせていた。


「それって、魔力が足りないだけじゃないか?」

「そうね、魔法陣が薄くなって、砕けるように消えたんじゃないの?」


 え? 基本中の基本みたいだが、どうなんだろうか、ジョー君をみると驚いた顔をしていた。


「そうか、なるほど、生まれてから魔力が足りないなんて無かったから忘れていた」


 魔力が切れたこと無いって・・・前の世界では、どれだけチートだったの! ジョー君! 恐ろしい子!


「ま、まぁ、することは分かったな。俺とニーナ、それと勝でジョーに魔力を分け与えて成功させるしかないな」


 ガルフが苦笑いをしながら言った。


「じゃ、大規模な魔法を使うみたいだし、森を抜けた草原に移動しましょうか・・・それと移動する前に、あんた達は着替えなさいよ? 目立ちすぎるわよ」


 ニーナの指摘で俺たちが寝間着姿であったことを思い出した。


 着替えをガルフに買ってもらい、着替えた俺たちは草原にいる。


「じゃ、僕は魔法の準備をするから、少し時間がかかるから待ってて」


 ジョー君は手を地面に翳しながら、何か呪文を言っている。


「こ、これって古の魔術じゃないの? 伝説の代物だと思ってた」


 ジョー君の魔法の準備を観ながら、ニーナがそんなことを呟いていた。


「勝の世界はどんな所だったんだ?」


 準備が終わるまで暇だったのかガルフが聞いてきた。話すことは禁止されていないから良いだろうと思い、俺は日本の事を少し話してあげた。


 ガルフが魔法も使わないで鉄の塊が空を飛ぶのに驚いていた所でジョー君の準備が終わった。


「それじゃ、ここの四隅の立って魔力を入れて欲しい」


 俺たちは指定された場所に立ち、全身に魔力を巡らせる。魔力を巡らせるのは授業でやっていたので俺でも出来た。

 ジョー君が再び呪文を唱えて初め、体から魔力が流れ出るのを感じ始めた時、それはやってきた。


「な~に、楽しそうな事やってんだ?」


 黒い羽を広げながら、先生がやってきた。

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