二日目2
灰色の髪色をし、ネイビーブルーの瞳をした男は未だに動きださない俺達を見て困っている。
「あんたの顔が怖いから、動けないんじゃないの?」
男に悪態をつきながら木の陰から先ほど魔法を唱えたと思われる女性が茶髪のポニーテールを揺らしながら出てきた。男は一端女性の顔を見ると、直ぐにこちらを向いて再び問いかけてくる。
「で? まだ動けないのか?」
俺はやっと我に返り、状況を理解する。俺達はこの二人組に助けられたみたいだ。ほかの三人も自分がもう安全であることが分かって安堵の色を浮かべている。
「あ、ありがとうございます」
俺はやっとで絞り出して言った
「お? 喋ったぞ、立てるか?」
男は笑顔になり、俺に手を差し伸べてくれる。俺は差し伸ばされた手を握り立ち上がる。
「俺はガルフって言うもんだ。 で、こっちの無愛想な女がミーナだ。 見てわかると思うが冒険者をやっている」
ガルフが自己紹介をしてくれ、ミーナと呼ばれる女性が青色をした目を細め「無愛想ってなによ」とガルフに怒っている。
「俺は勝です。助けて頂いてありがとうがざいます」
俺に続き他の三人も立ち上がり自己紹介と感謝の言葉を言う
「僕はアーガ! 助けてくれたありがと! おっさん強いんだね!」
「うちは丸です、助けて下さり、ありがとうございます」
「ジョーです、・・・ありがとう」
自己紹介をすませ、落ち着いた所で俺たちが迷っている事と流れ人であることを告げた。
するとガルフ達は俺たちの目的地の冒険者で、ちょうど戻る所だったらしい
「ほっとくのも後味が悪いからな、助けたついでに送っていってやるよ」
六人で移動すること約二十分、町は以外とすぐ近くにあったみたいで町の外観が見て取れた。
移動の最中にガルフとミーナから冒険者での武勇伝を聞かされてた。この二人は以外と名の知れた冒険者であるらしく、ドラゴンを最短で倒しただの、固有魔法を持っているなど中々に興味深い話だった。
しかし、この二人もNPCであることに変わりは無い、俺たちの授業が終わったら消えて無くなってしまう、そう思うと少し悲しいものがある。
そんな事を思っていると町に着いた
「俺たちは冒険者ギルドに行くが、付いてくるか?」
ガルフの言葉に甘える事にして冒険者ギルドに行くことにする。
ギルド内に入ると、ワラワラと人がよってきた。もちろん俺たちにではなくガルフとニーナにだ。
「おい! ガルフ! 今回の遠征でも儲かってんだろ? 奢れよ!」
「ニーナちゃ~ん、今日暇だろ? 一緒に飲みに行こうぜ~」
二人はそんな軽口を適当にあしらいながら、奥の受付に進んで行く、これだけでも二人が名の知れた冒険者であることは嘘でではないとわかる。
「ガルフさん、お疲れさまです 今回の遠征はどうでしたか?」
受付嬢が笑顔でガルフとニーナに問いかける。
「ぼちぼちだな、今回は相性が悪かったからポーションをしこたま使っちまったよ、それとギルドマスターに伝えてくれ、流れ人が来たってな」
ガルフの言葉に受付嬢がチラっとこちらを見ると、何かを理解したのかにっこりと笑った。
「わかりました、直ぐに伝えますね、お掛けになってお待ち下さい」
俺たち六人は近くの酒場で待つ事にした。ちょうど昼になっていたので昼食もすませる事にする。
俺たちが昼食を食べ終え、雑談をしていると初老の小さな人がやってきた。
「すまねぇ、待たせたな」
やってきたギルドマスターは気さくな人そうだ。俺たちはギルドマスターの部屋に移動する。
「で? あんたらはギルド員の仕事かい? それとも冒険者かい?」
マスターは俺たちが流れ人と聞いて既に職業体験だと理解しているみたいだ。
「冒険者に登録して今日一日、体験したいと思います」
俺がそういうと、マスターは何の興味も無さそうに頷いた。
「そうかい、ガルフ、ニーナ、こいつらの面倒をみてやれ、どうせ遠征帰りで暇だろう? 少ないが報酬も出す」
マスターの言葉に少し悩んだ顔をしたが直ぐ顔を上げ答える。
「いいぜ、中々流れ人と話す機会も無いしな、いいだろ?」
そう問いかけるガルフにニーナはあきれ顔で答えた。
「どうせ、断ってもガルフ一人でやるでしょ? あんた一人だと心配だから、手伝ってあげる」
「って事だ、よろしくな」
そう言いながらガルフがこちらに笑顔を向けてくる。
そうして、やっとで俺たちはガルフ達とで冒険者を体験できそうだ
「じゃ、まずは冒険者に登録するぞ」
俺たちはガルフに連れられマスターの部屋から先ほどの受付嬢の場所に戻ってきた。
「どうしたんですか? ガルフさんに合うクエストはありませんよ?」
受付嬢が戻ってきたガルフに言う、いつもと違う行動を不思議に思っているみたいだ。
「こいつらの面倒を見ることになってな、冒険者登録してやってくれ」
「また、変な仕事を受けましたね。 わかりました、ではこちらの水晶に手をかざして下さい」
受付嬢が取り出した水晶に俺は手をかざす、すると透明な水晶が青白く光ったと思うと文字が浮かんできた。
「もう結構ですよ ありがとうございます」
何かメモをとって、受付嬢が水晶に手をかざすと青白く光っていた水晶が透明になっていき最初の状態に戻る。
「残りの三人もお願いします」
三人も何事もなく登録がおわり、待っていて下さいと言われ数分ほど待たされた。
「これが、冒険者カードになります 皆さんは今日限りとの事ですので、仮カードになりますから今日の最後に返して下さいね」
俺たちはカードを受け取り、それぞれ見せ合う。ステータスは種族によってバラツキがあるが、どれも平均的な物であった。
「じゃ、クエストを受けにいきましょうか」
ニーナがクエストが張ってあるボードに向かっていく、俺たちも付いていきボードの前に行く。
「どれにするかな~ お! これなんどうだ?」
ガルフが嬉しそうにとったのはオーガの討伐20体と書かれていた物であった。
「バカ! 複数だと私たちがカバー出来ないでしょ? 速攻で全滅しちゃうじゃない! これぐらいが無難でいいでしょ?」
ニーナが取ったのは山にいるワイバーン一体の討伐の用紙であった。
・・・この二人は俺たちを殺す気なのかも知れないな
「お二人が活躍してしまうと、うち達の経験にならないので、これくらいが良いかと思うのですがどうでしょうか?」
丸さんが、このままでは不味いと思ったのか下の方に張ってあった、薬草採取のクエストを取り二人に見せる。
「ん? そんなので良いのか? 面倒なだけだぞ?」
「そうよ、魔物を討伐してこそ冒険者よ?」
この二人の脳味噌は筋肉で出来ているのかも知れないな
そんな事を思い、これからの冒険に不安を感じてしまう。
結局、一番簡単な討伐クエストのコボルトの複数討伐に決まった。複数といっても別に一体でも構わないらしいので二人には妥協してもらい、これにした。
「お前ら、装備も無いんだよな? ギルドで貸してもらえよ」
貸してもらえるのなら、それに越したことはない、俺たちは装備を借りる事にした。レンタル料は掛かってしまうが微々たる物だったので問題なかった。装備も整えて俺たちは、コボルト討伐に向かうことにする。
コボルトは先ほど俺たちが助けられた森にいるとの事なので、また森に入ることになった。森に入りしばらくするとガルフの動きが止まる。
「静かに・・・あそこの奥・・・見えるか?」
ガルフが奥の木を指さして教えてくれる。俺は少しだけガルフの横から顔を出して見てみる、そこには二足歩行の獣がいた。ゴブリンほど大きくはなく、武器も持っていないみたいだ。
「あれがコボルトだ・・・ じゃ、行く最中に決めた段取りでやるぞ」
俺たちは軽く頷きガルフの合図を待った
道中で話し合った結果、俺とアーガが前衛で丸さんが後衛、ジョーくんがどちらもこなす陣形になった。
「今だ! 行け!」
ガルフの合図で俺とアーガが飛び出す、それと同時に丸さんがコボルトに拘束系の魔法を放ち動きを止める。行き成りの事で状況が理解できていないコボルトに容赦なく俺とアーガが切り掛かった。俺が上段から首元を叩きつける様に切り裂き、アーガが俺の横からコボルトの心臓を一突きする。攻撃が当たったと判断すると直ぐに離脱し、丸さんの元に戻った。コドルトはしばらく苦しんだ末にピクリとも動かなくなる。
「倒したのか?」
俺がそんなことを呟き、ほっと肩をなで下ろすとガルフに頭を叩かれた。
「アホ! 倒したからって気を抜くな! コボルトは複数で行動する事の方が多いから油断するなよ」
俺は叩かれた頭をさすりながら反省する
「しかし、初めてにしてはよくやった! 次は丸とジョーが交代してやってみろ」
ガルフはニッと笑うと誉めてくれた。
その後も順調に狩りは進み、四人で合計八匹のコボルトを討伐する事が出来た。二匹同時に狩ることも出来たので俺たちは満足である。ちょっとした休憩時間にガルフとニーナは暇つぶしにコボルトを三十体ほど倒して驚かされたりもした。
「こんなもんだろ、お前ら帰るぞ~」
ガルフの言葉に返事をして帰る準備をする。この様子なら日が落ちる前には帰れそうだ。討伐の興奮が冷め止まない俺たちは、帰り道ではずっと討伐の事を話していた。
ギルドに着くと受付嬢に討伐部位を渡しクエスト完了の報酬をもらい、装備とカードを返す。
「今日はありがとうございました」
「とっても楽しかったよ! 僕もガルフみたいに強くなりたいね!」
「とても勉強になりました これからも頑張って下さい」
「・・・ありがとう」
俺たちはガルフとニーナに感謝の言葉を言う。
「いいってことよ! これも仕事のうちだ!」
「中々にあなた達との討伐は楽しかったよ、またどこかで合いましょ」
照れているのか、ガルフは少しぎこちない仕草で頭を掻きながら、俺たちに笑いかけてくれた。ニーナはそんなガルフに呆れながらも、俺たちとの冒険を楽しんでくれたみたいだ。
俺たちはギルドマスターに今日の報告と感謝の言葉を言いギルドを後にした。
町の出口までガルフとニーナが付いてくれており、軽く挨拶をして別れをすませる。
「帰りは迷うなよ!」
「元気でね~」
町の出口にいた二人は俺たちが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
そして俺たちは何事もなくケビンまで帰ってこれた。勿論、俺は町で晩酌用の葡萄酒とおつまみを買っている。
ケビンに帰ると俺たちが一番だったのか、ミルルしかいなかった。
「四班の皆さん、お疲れさまです! 冒険者の体験はどうでしたか? 他の皆さんは既に各自レポートを書き始めていますよ!」
俺たちが一番だった訳では無いらしい。
ミルルに道に迷った事やガルフ達の話をし、俺たちもレポートを始めようとケビンの中に入った。
「レポートって・・・何書く?」
俺はレポートがあるなんて思ってもいなかったので、冒険者体験を楽しんでいただけでガルフに質問なんてしていない。
「思ったことを書けば良いのではないでしょうか?」
丸さんが自分のレポートを書きながら答えてくれる。
ちらっと隣で書いているアーガを覗くと、冒険者が強かったです。と知性の欠片もない文章が目に入った。後で書き直しになるだろうなと思いながら、ジョー君の方を見ると筆が進んでいないのが見て取れる。
「ジョー君も余り気にしていなかったのか?」
俺は何か書くことが生まれるかもと思いジョー君に問いかける。
すると、喋りかけられるとは思っていなかったのかビクリと動きこちらを見てくる。
「少し、他のことを考えていた」
他の事って何考えてんだろ、昨日の顔の腫れと関係あることなのだろうか。俺には関係なさそうなので早々に会話を切り上げ白紙のレポート用紙に目を落とす。
結局書く内容は思い付かなかったので、今日あった出来事を時系列に書いたのと、最後の方に自分の思った事を少し書いて終わらせる事にした。
俺は終わらせたレポートを提出するためにミルルの元に出向く。
「レポートが書き終わったから持ってきた」
「勝さんですね! 少し待って下さい!」
ミルルは夜ご飯の準備をしていたのか、カレーの匂いをさせながらトテトテとやってくる。二日連続でカレーは少し嫌だなと思ったがミルルのエプロン姿が視界に入った瞬間にそんな事はどうでも良くなった。
「毎日、俺にカレーを作って下さい」
「ふぇ!? 何冗談言ってるんですか! 怒りますよ!」
おっと、心の声が表にでてしまったみたいだ。
「これ、それとジョー君に何かあったか知ってるか?」
俺は何事もなかったかのようにレポートを渡し、話を違う内容に移した。ジョー君が気になっていたのも本当だ。
「何かあったんですか?」
ミルルは首を傾げ、逆に質問してきた。
「いや、知らないなら良いよ それよりも今日もカレー?」
俺はまたも会話を違う物にする。
その後ミルルにカレーの素晴らしさを小一時間ほど説かれた。ほのぼのした時間を過ごしていたら晩ご飯の時間になったので、移動するのが面倒だった俺はミルルと一緒に食べた。
晩ご飯もすみ、食器を片づけた俺はケビンに帰って町で買ったお酒を楽しもうと、薄暗くなった道を歩いていた。すると、やる気の無い声に止められる。
「おい、こっちこい」
ぶっきらぼうに呼んだのは、ものぐさ教師だった。
「何ですか? それと教師がお酒飲んで良いんですか?」
先生は葡萄酒の入ったグラスを片手に、少し頬を赤らめている。
「先生も人間だ。酒くらい良いだろ? 少し晩酌につき合え話がある」
いや、人間じゃないだろ、俺は心の中で突っ込むと先生の隣に座った。地べたが少し冷たく心地がよい、これはお酒が欲しくなるのもわかる。
「ほら、葡萄酒とつまみだ、飲め」
そう言いながら先生は、どこにあったのかグラスをもう一つ取り出し注いでくれた。
「ありがとうございます。 ご馳走になります」
「いや、気にせず飲め、どうせお前のだしな」
おい、何で人の物を盗んでんだよ、道理で見たことがある酒と食べ物だと思ったよ。
俺は文句を言うのを諦め、渡されたグラスを受け取り酒を煽った。
「で? 何の様なんですか」
俺は話をすませて自分の部屋にさっさと帰りたかった。そんな俺の期待を裏切るかのように先生は話を始める。
「そうだな、お前好きな人はいたか? 勿論生前の話だ」
何の話だよ、良い年して恋バナでもしたいのか、何を考えているのか分からない唐突の話に俺は呆れた。
「まぁ、それなりに幸せな人生を送ったんでいましたよ」
先生の会話に合わせることにする。早く帰りたいしな。
「幸せな人生か、それは良かったな。でもな、愛する者がいて幸せでない者は沢山いるし、ここに来た奴らにも少なからずいたりする。そんな彼ら、彼女らはどうすると思う?」
俺は少し考えて模範解答の様な答えをだした。
「・・・会いたいと思います」
大体話が読めてきた。流石の俺でも昨日の事と今朝の事でジョー君の事を言っているのだと分かる。ジョー君は何らかの方法で愛する者に会いに行こうとした、それはやってはいけない事で先生に罰を食らった、とそんな所だろうな。
「そうだな、会いたいよな、私も会いたい」
「で? 俺にジョー君のフォローでもしろって言うんですか?」
少し苛ついた口調でそう言った俺に先生は笑った。
「ハハハ、違うな、そう話を急がすなよ」
舌打ちしそうになるのをぐっと堪えて先生の話の続きを待った。
先生は真顔になり一言だけ言った。
「殺してやれ」
そう言った先生の目は虚ろで、さっきまでの心地よかった夜風は、肌を刺すように冷たく感じた。
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