一日目2

俺たちは指定されたケビンに入り自分の荷物を確認する。

 木造建築のケビンは四人で生活するには少し広く、部屋には二段ベットが二つあり男女兼用だ。

 俺がベットの場所を決めようとしたら


「僕はここ~♪」


 そう言いながらアーガが勝手に窓際のベットに飛び込んだ。

 その様子を見ていた他の二人も、それぞれ勝手に決めていく、俺も流れに従って余っていたアーガの下側のベットに腰を据える。

 このメンバー、自由すぎない?


 俺たちは荷物の整理を少しして集合場所に戻る。他の生徒も既に集まっており、ミルルが生徒の確認をしている最中であった


「四班の皆さんも時間内ですね! 私は時間を守る生徒は好きですよ!」


 そして点呼も終わった俺たちは整列させられ・・・待たされていた。何故かって? ものぐさ教師が帰ってこず、それをミルルが探しに行っているからである。

 十分ほどしたら、ミルルが先生を連れてくる


「すまん、すまん、天気がいいから寝てしまった」


 この先生には、何も期待しない方がいいのだろうな

 ミルルが疲れた顔をして、皆の前にくる


「では! 気を取り直して! 種族の変更をします!」


 すると俺たちの下に魔法陣が展開され眩く光る。唐突に起こった事に何の反応も出来なかった。一瞬の出来事であったが視線が少し高く、耳に違和感があるのがわかる。隣のアーガを見ると頭の獣耳と牙が消えており、代わりに人間の耳があるのが見て取れた。


「だから! 行き成り過ぎますって!」


 ミルルがまた、先生に起こっている


「え? 転移はしていないだろ?」


 こいつは何言ってるんだって顔で先生は首を傾げ、ミルルを見ていた


「はー・・・もう、いいです」


 ミルルは何かを諦めたらしい、そんな二人を余所に生徒たちは自分たちの容姿が変わっているのを楽しんでいた。アーガなんかは「ねぇ、ねぇ、可愛い?」と耳を摘みながら聞いてくる。ジョー君は魔族になったらしく目が真っ黒になっており、少し凛々しくなっていた。

 丸さんはどうなっているのかと思い探してみるが見あたらない、当たりを見渡していると


「うちはここです」


 声と共にズボンを引っ張られる感覚がして下を見と、あんなに身長の高かった丸さんが腰の当たりまでになっていた。


「少しドワーフに憧れておりまして」


 顔を少し赤らめて言ってくる丸さんは、愛くるしくて抱きつきたくなる。

 い、いや! 俺はロリコンじゃないし! ミルル一筋だし!

 そんな俺の性癖はどうでもいい、丸さんは身長にコンプレックスでもあったのだろうか?

 ざわついている俺たちにミルルが声をかける


「皆さんお静かに! 種族の変更も終えましたので、それぞれケビンで今から配る服に着替えて下さい! 

 着替え終わりましたら、また集合して下さいね!」


 配られたRPGで村人Aが着ていそうな服を持ち、ケビンに戻る

 着替えを終えた俺たちは、また同じ場所に集まっていた。因みに一部屋しかなかったケビンでは男は浴室で着替えた・・・覗いてなんかないよ?



「では! 第二世界の見学に出かけますね!」


 生徒全員が集まったのを確認したミルルはそう言った。

 俺たち一行は、ミルルを先頭に草原を歩いている。雑談を交えながら進む俺たちは、第二世界の景色を楽しんでいた。名前も知らない鳥、見知らぬ草花、全てが新鮮で心躍ってしまう。

 それから、小一時間ほど歩くと小さな村が見えてくる。

 村にはいると、家畜のすえた匂いと村人の生活音が聞こえてきた。おばさん方の井戸端会議や、商人の声、家畜の鳴き声など、日本の都会で暮らしていた俺には慣れない音だ。

 そんな村独特の雰囲気を感じているとミルルが皆に声をかける


「では、農業や酒場などを見学して下さい! ここでの生活風景や常識をしっかりと見て感じて下さいね! 二時間後にここに集合です!」


 そう言われると班で思い思いに移動していく 

 俺たちの行く場所は道中で決めており、村を見渡しながら自分たちの目的地を目指す。お目当ての場所は直ぐに見つかった。

 その場所に入ると、中の屈強な男達からの視線で少し身じろいでしまう。


「おいおい、ここは冒険ギルドだ! 子供が来る所じゃねぇから、帰って畑仕事でもしてな」


 スキンヘッドの男が酒を煽りながら言った。

 そう、俺たちが来たのは冒険者ギルドである。

 俺達の班は希望職業が冒険者で統一されており、満場一致で冒険者ギルドに決まっていたのだ。


「私たちは流れ人です。こちらの見学をしたいと思いやってきました」


 丸さんが言った「流れ人」とは、疑似異世界で行動するのに必要な身分である。ここの人達は一瞬で作られた物で、決められた行動をしている。つまりNPCと言われる物だ。

 NPCの人々は「流れ人」には危害を加える事は出来ず、授業で必要なことは協力してくれるように設定されている。


「そうかい! あんた等が例の「流れ人」か! それなら話は別だ! ガハハハハハ!」


 先ほどの態度とは打って変わって、歓迎される空気になる。そんな中、奥にある受付に行き美人の受付嬢に取り次いでもらうとギルドマスターなる人が出てきた。


「見学をしたいんですね。では、こちらに移動して下さい」


 俺達はギルドの外観とは似合わない、少し豪華な部屋に案内され、ギルド内での説明を受ける。

 説明を終えた俺達は、二時間だけお世話になる事を話し、ギルド職員に挨拶してまわった。

 そして受付の端で見学させてもらう。内容としては変わったことはなく、淡々と仕事をこなす姿を見るのと、気になった事に質問するぐらいだった。まぁ、小さな村っぽいし仕方がないとは思う

 二時間なんてあっと言う間に過ぎてしまい、職員にお礼を言って集合場所に戻ってきた。


「あんまり凄くなかったな」

「そうかな? 僕は良かったよ」

「うちもそう思います」


 俺とは違いアーガ達は満足したみたいだ。小説の読みすぎで少し自分の中のハードルを上げすぎたのかもしれないな


「勝さん! どうでしたか?」


 俺が冒険者ギルドに落胆しているとミルルが話しかけてきた。


「少し拍子抜けだったかな、なんて言うか・・・普通?」

「そんなものですよ! 毎日問題が起きていたら、大変ですからね!」

「そうだよな、これも勉強になったよ」

「為になったのなら良かったです!」


 そうミルルが笑顔で言った。

 皆が見学から帰ってくると、次は町に行くのだそうだ。


「では! 行きましょう!」


 町は村の近くにあったみたいで以外と直ぐについた。


「皆さん、お腹も空いたと思われますから食事にしましょうか!」


 ミルルが指さして先頭を歩いて行く

 流石に四十人もの生徒が一つの食事処に入るわけには行かないので、バラバラに違う店で食事をする事になった。俺達は目に付いた酒場に入ることにする。


「で? 午後はどうすんの?」


 アーガが料理を食べながら訪ねてきた


「そうだな、遊ぶか」


 午後は見学しなくてもいいだろう、何も職場だけでなくても町の空気に振れるのも経験になる。別に他の仕事の見学に行っても良いのだが面倒臭いのだ。


「良いですけど、町の冒険者ギルドも少し覗かせて貰ってもいいですか? 村との違いもみたですしね」


 丸さんがドワーフ用の椅子に座っていると何だか子供に見えてしまうのは、気のせいだろうか


「別に構わないが、ジョー君もそれでいいか?」


 俺の言葉で食事をしているジョー君の手が止まる


「・・・俺は少し別行動させてもらう」


 あれま、一緒に行動しないのか、一人で行きたい場所でもあるのだろう、別行動が悪いと言っては無かったし良いと思う。

 俺達は食事を済ませると、他の生徒達と合流した後、ジョー君と待ち合わせ場所と時間を決めて別れた。


「じゃ、最初に町のギルドに行くか」


 アーガを先頭に冒険者ギルドに向かって行く。

 町のギルドは村のと外観は似ていたが一回りほど大きい、それだけ沢山の人が利用しているのが分かる。だが、それだけで仕事内容や中の雰囲気は、あまり変わらず俺達は直ぐにギルドを出る事にした。


「それじゃ、町に繰り出しますか!」


 腕を上げ、歩いていくアーガに丸さんと一緒に付いて行き町の中を散策する。

 町は中央に行くほどに賑わっており、屋台などで買い食いをしながら、町の風景を堪能した。

 楽しい事は一瞬で、気が付いたら集合時間に差し迫っていた。俺達は町の感想を言い合いながら、集合場所に戻る。集合場所には既にジョー君が待っていた。


「すいません、待たせましたか?」


 丸さんが見上げながらジョー君に言う。

 するとジョー君は顔を背けてしまう、どうしたのかと思い背けた顔を見てみると頬が赤く腫れていた。


「ジョー君! その頬どうしたの?」


 俺が声をかける前にアーガが心配してジョー君に聞いた。


「別に、転けただけだよ」


 目を合わせずに答える。しかし、その顔は明らかに誰かに殴られた物であった。しかも、その仕草は隠し事があると如実に物語っている。


「そうか、転けたのか気をつけろよ」


 ジョー君にも色々あるのだろうし、深く関わると面倒な事になってしまいそうで怖い

 何か不満があるのか、アーガと丸さんがジト目で見てくる。そんな目で見るなよ


「皆さん! 揃いましたね! では、帰りましょうか!」


 俺が困っているとミルルが生徒が集まっているのを確認して帰宅宣言した。

 帰り道では少し気まずい空気が流れていたが、二人も頬の件には振れない事にしたらしい、俺とは違い二人は善意からなので俺の心に刺さる。

 ケビンに帰ってからは、ミルルが決めていた夕飯を生徒皆で作り、明日の諸注意を軽くし解散となった。勿論、夕食はカレーである。

 解散後は女子陣はガールズトークに花を咲かせていたが、疲れていた俺は備え付けの風呂に入って直ぐに寝てしまった。

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