歓迎会2

「あんた! 足をどけなさいよ!」


 マリナが怒気をはらませて男子生徒に言う、しかし男子生徒は気味の悪い笑顔をしたままで動こうとしない


「これは、不味いですね」


 生徒を近づけさせない様にしていた佐々木さんが額に冷や汗を垂らし呟いた


「何かヤバい事があるんですか?」


 見るからに状況が芳しくないのは俺にも理解できる。しかし、生徒会メンバーなら魔法やら俺の知らない異世界パワーで簡単に捕縛する事は出来るのではないだろうか


「簡単ではないんですよ。勝君は転生の条件を覚えていますか?」


 もちろん覚えている確か「人類に多大な貢献をした者」だったよな


「それに何か問題が?」

「転生希望者は必ずしも清い心を持っている訳ではないんですよ。人類の枠組みには亜人や魔人も入っていますからね」


 なるほど、多大な貢献をしているが別に人類の為に努力をしている人と言うわけでないのか、例えば魔人の為に人間を滅ぼした魔王もいたりするのかもしれない


「そういった生徒には目覚めた当日に実力の差を教えてあげてたんですけどね、これは僕たち生徒会のミスです」


 それってヤンキー漫画でよくある「へっへっへっ、ここでのルールを教えてやるよ」って言いながら新入生を絞める奴では?


「羽や目を見る限り鬼人種のバンパイアで間違いないだろうけど」


 確かに男子生徒の羽や瞳はよく漫画やアニメでみた吸血鬼の物で、よく見てみると口には牙が生えているのが分かる

 でも、それだけでは問題にならないのでは?


「あの生徒は魔力暴走を起こしています」


 魔力暴走?また新しい情報が入ってきた

 佐々木さんが言うには、授業中や研修中にはよく起こる事らしいのだが、こういった日常では珍しいとの事、確かに男子生徒を見ると体から黒いオーラがうっすらと見て取れる


「普通は危機的状況にならないと、まず暴走しないのですが・・・」


 マリナが危機的状況に追い込んだんじゃないのか?まぁ一般生徒の俺に出来ることは無いだろうな


「勝さん少し協力していただけません?」


 なんでだよ!なんで俺なんだよ!前世は勇者でも王でもないんだぞ!


「グアアアア」


 フレドンの悲鳴が館内に鳴り響く


 おいおい、白目むいてるが大丈夫なのだろうか体は丈夫そうに見えるんだけどな

 断る理由もないし、ここに来て初めての友達を見捨てるのは心が痛む、それにマリナも頑張っているのだ

 そして俺なりに理由を考え手伝うことにする


「いいですが、俺に何が出来ますか?」

「ミルルさんが隙を作るので、そのわずかな間で彼を助けて下さい」


 佐々木さんは微笑んで答えた


「いや! 荷が重くないですか?」


 まぁ、いいか俺に出来ると思って期待しているのだろう

 それにもう痺れを切らしてマリナが男子生徒に飛びかかりそうになっている


「わかりました。タイミングは指示して下さいね」


 俺は身構え飛び込むタイミングを待つ、するとマリナが飛び込んだ


「ちょ、あいつ!」


 マリナが飛び込むと同時に佐々木とミルルが目配せをして動き出した

ミルルが数秒で魔法陣を展開し、謎の光が男子生徒を拘束する


「ふん!」


 しかし、ミルルの拘束は一瞬で解かれてしまい、マリナの拳も軽くいなされ床に叩き付けられてしまう


「今です!」


 佐々木さんの合図で俺も飛び出す、男子生徒は飛び込んできたマリナとミルルの光の拘束に意識をむけており、こちらには気が付いていない様だ。

 姿勢を低くし走りだした俺は、男子生徒には目もくれずにフレドンに向かっていく、目の前まで迫った俺に男子生徒も気が付きフレドンを踏みつけていた足で蹴ろうとしてくる


「これでも!喰らいなさい!」


 這い蹲っていたマリナが男子生徒の軸足を蹴る。体制を崩し、俺に向かっていた蹴りが空を切った。

 その隙に制服の襟を掴みフレドンを投げ飛ばす


「勝さん! 逃げて下さい!」


 ミルルの声が聞こえた時には、もう男子生徒の拳が目の前にあった

 体制を崩された勢いを利用して殴りかかって来ていたのである

 俺は拳が当たる衝撃にそなえて目を堅く瞑り全身に力をいれる・・・が痛みは無かった、それどころか何かが当たった感触もない


「くっそー!」


 声が聞こえ目を開けると俺を庇う形で男子生徒の右腕をマリナが跳ね上げていた。忌々しそう睨みながら左手でマリナの左胸を殴ろうとする

 俺はとっさにポケットに入っていた万年筆を握り、男子生徒の胸に刺した


「ぎゃああああああ」


 男子生徒が悲鳴をあげて動かなくなり、静寂が訪れる


「やったの?」


 マリナが呟いた


 ちょ、おま、それは言っていけない台詞だよ!


 案の定、男子生徒の全身から黒いオーラが溢れ出し体を包んでいく、そしてこちらを向いて飛びかかって来なかった

 そう、来なかったのである。マリナが盛大にフラグを立てていたがそれをぶち壊した者がいた


「やぁ、少し遅くなった」


 生徒会長が朱色よりも濃くなった紅色の髪を揺らしながら歩いて来た

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