紅色 ~傷~ 8
7月26日 昼休み。
僕こと『
こんな暑い夏に屋上で燃え盛る太陽の光を浴びながら昼飯を食べるなんてどうかしていると思うが、僕には屋上へ行かなければならない小さな理由があった。
ガタガタと所々の錆と鉄が豪快な金属音をたてて少し重い鉄の扉を開ける。
すると、真正面から巨大な空気砲を撃たれたかのような衝撃が僕の顔面に直撃した。
「やっぱりここの扉修理した方がいいと思うんだけど.....」
もう何度目かはわからない同じパターンに特に感じることもなくなり、さも何もなかったかのようにいつも通り『神無月夜空』を続行する。
扉の取手を離し、ら屋上を吹き抜ける巨大な空気砲がドンッ!と轟音を響かせて強制的に閉じらせる。
最早、オート扉である。
これも慣れたものだ。
「.....よし。今日は人が少ない日だ」
偶に人が多い日があるけど、今日はその日ではなかったことに安堵する。
僕が通う高校の屋上はベンチ6台設置されているだけのとても殺風景な場所なのだが、昼飯を食べる場所として、ここの風は暑い夏の今の時期にはうってつけの場所でもあったのだ。
昼飯を食べるならクーラーが効いている教室でもよかったのだが
原因は明白だ。
僕はその明白な原因を取り除こうとはしなかった。肯定するわけでも否定するわけでもなく──保留、逃げることにしたのだ。
その原因を追求することは自分の破滅へと繋がっているのではないかと恐怖した。
僕は自分の心臓がドクンドクンと弾む右胸へと手を当てる。
あぁ、鳴っている。
焦りの沈静化が安心を産み、安心が平常を産んだ。
僕はもう一度再確認した後、「ほっ」と息を吐いて目の前の現実を受け入れるため何回か
「
と、僕のよく知る小さな声が聞こえた。
その声はこの屋上に来た大半の理由占めるものだった。
人が少ない屋上は僕に感情の抑制と冷静さを付与し、軽やかな動作で屋上全域を観察する能力を与えた。
見つける──いや、発見するまで2秒弱。
僕が何故「見つける」を「発見する」と言い換えたのか、それは──妖精がいたからだ。
僕の最初の彼女の第一印象はこの世界の住人ではないのでは、だった。
それほど彼女という存在が僕にとってはファンタジーなこの世ならざる人物だったのだ。
「
柵に身体をもたれかかせる少女がいた。
黒髪ボブのひ弱そうな小さな体躯な少女。
蒼い宝石を連想させる濁りのない深い深い深海の瞳。
触れたら最後もう二度と会えないのではないかと思わせるその空気。
「今、来ました」
「待ってたで」
燃え盛る太陽と青く澄んだ空の下で世界違いの小さな妖精さんは昼休みの静かな屋上で僕を待っていた。
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