紅色 ~傷~ 9
──彼女は誰だ。
それは僕の最初の疑問。
それは彼女をこの瞳に入れたときの疑問。
それは彼女と出逢ったときの疑問。
それは彼女と会話したときの疑問。
それは彼女が僕にあることを告げ、それを理解したときの疑問。
それは──こうして彼女と屋上で相対しているときの疑問。
未だ答えを知らない、未だ彼女を知らない僕は再び彼女──『
「……」
沈黙。
「.....」
沈黙。
「……」
僕は話しかけない。
「……」
うちは話しかけない。
沈黙が沈黙を呼ぶ無限ループに突入した僕達は1分経った今でもどちらからも話しかけない状況を続けていた。
「……」
どうして僕に話しかけてこないんだろ?
「……」
どしてうちに話しかけてこうへんねやろ?
人が少ない昼休み屋上で男女が向き合うこの状況は傍から見れば見つめ合っていると思われてしまうのでは? と僕はこのお互いが沈黙し合うこの馬鹿馬鹿しい状況を打開しようと思った。
「……」
手を前へ出し、「どうぞどうぞ」と京先輩に先行を譲るジェスチャーを示す。
このジェスチャーで京先輩も僕に構わずに話し出すだろう。
と、思っていだが、
「……」
クイクイ。クイクイ。
「……」
クイクイ。クイクイ。
「……」
京先輩はまるで打ち合わせをしたように僕と同時に手を前へ出し、「どうぞどうぞ」のジェスチャーをしていた。
その姿を見て、子供っぽくて可愛いと思ってたしまったのは不覚で京先輩に内緒だ。
もし言ったら、間違いなくそれをネタにされて、
『そかそか。夜空君はうちのことが可愛いくて可愛いくてしかない、と。まぁ、しゃあーないわ。うち、めっちゃくちゃべっぴんのそらもうプリティでビューティホォーな妖精さんやからな!……なんなら、ぎゅっと抱きしめてもええんやで?』
とか、戯言を言っている京先輩を容易に想像できてしまう自分も京先輩に少しずつだが、毒されてきているかもしれないと危機感を覚える。
自己評価するのはいいけど、この人の場合は自己評価が高く、そして自分を常人より高い位置に置きたがる傾向がある。
その傾向が『
……さて、このままでは拉致があかない。
このまま「どうぞどうぞ」のジェスチャー対決では話しが一向に前へ進まない。
なら、どうするか。
そこで、僕はある一つの手段を思いつく。
それは『
「……」
体を180°翻し、真後ろにある扉の取手を握ってこの屋上から去るような動作をとる。
「……!?」
京先輩は僕の方を目を細めて見つめる。
何か言いたげなその表情を僕は待っていた。
この後京先輩の方が先に沈黙を破るだろう。
そのことを僕は確信していた。
何故なら──京先輩は本当に優しい人だから。
普通ならこんなの今までの流れを見れば、演技だとまるわかりだ。
しかし、京先輩はそういう自分の目の前から人がいなくなることに人より敏感だ。
出逢って3ヵ月位だが、僕にはそのことがよくわかった。
恐らく、家族か友人でも亡くなってしまったのだろう。
そのことに気付いていながら、このような手段を取る僕は、褒められた人間の分類ではないことは重々承知だけれど、それでも僕はこの手段を選んだ。
何故か?
──当然だ。持てる手段は全て使うのが礼儀だ。
誰に?
──勿論、自分にだ。
泥の沼から水泡がぶくっと一つ浮き上がる。
浮き上がった水泡が消えてなくるときの波紋は小さな波紋を次へ次へと呼び寄せる。
ソレは何の前触れもなく訪れる現象だ。
ぶく。ぶく。ぶく。
闇は影を生み、日陰に生息する生物によっては成長させる養分となる。
ソレは細菌のように増殖していく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます