紅色 ~傷~ 5
「ねぇ、どうしたの、突然ぼ~として?」
「……ん?」
何かを考え込んでいた時、彼女──
こそばゆい感覚と女の子に耳元で声を掛けられたのとの衝撃のダブルパンチに少し頬を赤く染める。
「い、いや」
早く早く。早く、返事を返さなければ。
僕って奴はどうしてこう、美少女との会話を中断させるような、漫画で言うなら一コマ空けるようなことをするんだ。
主人公やその他モブ勢なら、この場面は驚愕と歓喜に震えながら会話を続けるシーンなはずだ。喜びはある、驚愕と歓喜に震えているけれど、僕は罰当たりにも他のことに意識を向けていた、その結果がコレ。
会話が途切れ、会話を続けるタイミングを見失っている(主に僕が)。
存外、タイミングを掴むのは難しいものだと改めて痛感する。
しかし、このまま膠着状態のまま終わらせるのは口惜しい、好物ののり弁が買えなかった時のように口惜しい。
僕は不思議な義務感に駆られ、
「な、何でもないです」
と、せめて僕から切り出すのが礼儀だろ。
僕はちゃんと彼女の話しを聞いていた。
僕は彼女だけを見ていた。
僕は彼女の言葉について考えていた。
と、彼女に伝わるように念を込めて慌てて返事した。
「そう?なら、良かった。何か難しいことを考えて悩んでいないのは幸いなことだ」
彼女はニコやかに笑って、本当に幸福そうに僕に向かってキラキラ輝く天使の笑顔を見せた。
その生命を
それは留まることを知らず、暴走した列車の如く止まることを知らない。
「あ…………あぁ……」
無限上昇する心拍数に追いつけず、言葉が声が感情が表面上に出せない。
止まらない。止まらずに止まらない。
声は徐々に薄れ去っていき、終には口を無理矢理チャックされたかのように固く難く、上唇と下唇を接触させ、口を閉じた。
コレが『
コレが本物の『
高校に受かるかなとか、宝くじ当たるかなとか、ガチャで良いキャラ出るかなとか、料理美味くできるかなとか、新しい都市に新しい学校に新しい友達に馴染めるかなとか、そんな日常風景の中から切り取った絵に描いたような『
違う、異なる──そんな確信した気分に陥った。
どこか、あの人に似ている部分があるのはどうしてだろう?
「それにしても、君の名前、何か良いね」
「え…………?」
急な話題転換に少し驚き、彼女が僕の名前を褒めたことが頭の中の情報を大きく占めた。
彼女は、僕の名前が良いと言った。
何故なのか。
先程の『
「僕の……名前ですか?」
「うん」
「『
「違う」
「……『
「うん」
頭を縦に振り、肯定する。
「
「
と、不思議に漏れていた。
感情の赴くままに、息を吸って吐くように自然と口から出ていた。
「え…………?」
「……あ。す、すいません!当然、変なこと言って……!」
僕は彼女に謝った。
会話の端を折るようなことを言った。
加えて、何の意味を指して言ったのか自分でもわからない事実が余計に僕を
僕の発言は彼女からしてみれば理解不能のものだったに違いない。
「何を謝っているのかはわからないけど、私は気にしてないし、困ってもいないよ」
「そ、そうですか?」
「うん。何も可笑しなことはないよ」
とりあえず、彼女に『変な人物』だと言うレッテルを貼られなかったことに安堵する。
本当に何やってるだ、僕は……。
少しネガティブな雰囲気を醸し出していたのがわかったのか、彼女は僕に向かって言葉を投げかけた。
「……ふふ、『
彼女は
「僕も……」
これは彼女との繋がりを作る話へと導くための小さな釣り糸。
そうだと……わかっていても。
僕は──
「そうだと…………思います……はい」
と、返した。
これで彼女との『
絡まることは簡単で、解けることは難しい、そんな
「それなら、とっておきの『話題』があるのだげど、そのことについて話してみない?私が提示する話題は『好きな食べ物は?』だよ」
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