十二魔神将の……共闘?
漸く、ここまで戻って来た。
実際問題、十二魔神将を相手にするよりも、魔王城の正門からここに戻ってくる方が遥かに疲れる……。
「……よっこらしょっと……」
俺は、十二魔神将が守護する部屋へと通ずる門を守る「
一仕事終えて腰を下ろす時に、ついこの
「
今まで通って来た各部屋を、主が居なくなった今も守護している。
ゴーレムが厄介なのは、魔法生物であるが故に倒しても本当の“死”を迎える事が無い。
時間の経過と共に復活し、再び自分が作られた使命を愚直に果たすのだ。
ゴーレムの再生を止める手段はただ一つ。
この無生命モンスターの創造者を倒すしかない。
つまり魔王を倒さなければ、ここに来る度、何度でも戦わなければならないんだ。
無秩序にこの城内をうろつくモンスターは、やり過ごす事も出来る。
しかし、特定の場所を守護し続ける怪物達はそうもいかない。
一度の通過で一気に魔王討伐まで辿り着ければ戦う事も一回で済むんだが、俺の様に何度も訪れていればその都度倒さなければならないという訳だ。
今となっては十二魔神将と戦うよりもこいつらとの連戦の方が骨も折れるし、面倒臭いと言うのが正直な話だ。
「ふぅー……」
俺は大きく息をついた。
若い頃は疲れなんてまるで感じなかったけど、こう言った時に疲れを感じて溜息をつくなんて、本当に歳を感じる。
思考が、どんどんネガティブな方に傾いて行くのが分かる。
そう感じて、更に面倒な事を思い出した。
前回倒した十二魔神将の一人、ゼムリャが死の間際に嫌な事を言っていた事を……だ。
―――お、おのれ、勇者めっ! し、しかし俺の後ろにはまだ五人の魔神将が控えているっ! そ、それにその後ろには……まだ……ギャ――――――ッ!
そう……十二魔神将はまだ五人も残ってるってゆーのに、その後ろには、まだ何者かが控えているって事なんだよな……。
「……はぁー……」
さっきとは違う大きな溜息が俺の口を突いた。
何だか、倒しても倒してもキリがない錯覚に囚われてしまったのだ。
そもそもパーティ攻略なら、これほど苦労する必要もなかっただろう。
もし、俺にここまで一緒に来る事が出来る仲間がいれば、恐らく二、三度の攻略で魔王の元まで辿り着いていただろうな。
……今、それを言ってもしょうがないか。
現実には、今はもう俺に仲間など居ないのだから。
そして、それを承知でソロ活動を行っているのだから。
「……さて、行くか」
そこまでの思考を振り払う為に、あえてそう声を出して俺は立ち上がった。
すぐ目の前には、禍々しい意匠を凝らした重々しい扉。
それは、八人目となる魔神将の部屋へ通じる扉だ。
扉に掛けた両手に力を込めて、俺は両開きの重い扉を目一杯、全開に開き切って中に入った。
「待ちくたびれたぞっ! 忌々しい人間の勇者めっ!」
広い部屋に、十二魔神将の一人が叫ぶ声が反響した。
この後、特に横やりを入れなければ、向こうから勝手に名乗りと得意属性を紹介してくれるはずだ。
得意属性が分かれば、それに相反する属性もすぐに知れる。
つまり、自ら弱点を教えてくれるのだが。
「俺様は魔王様直属っ! 十二魔神将が一角っ! 水魔神将ヴァッダーだっ! 貴様を倒す者の名だっ! 大事にあの世へと持って行くが良いっ!」
案の定、自ら自身の属性を語ってくれた。
本当にこいつらはやりやすい。
水の属性を持つヴァッダーは、間違いなく雷を弱点属性としている筈だ。
そして、勇者が主に覚える攻撃魔法は雷撃系。
今回は楽勝だと思った。
だがその直後、ヴァッダーの背後から別の人影がユックリと現れた。
「俺は一人でも問題ないと言ったんだがな。魔王様の指示とあれば仕方が無い」
ヴァッダーの背後から現れたのは、もう一人の十二魔神将と思われる魔族だった。
「……貴様は?」
今まで、十二魔神将が誰かと共闘する様な事は無かった。
己の能力に過信している節があり、自己顕示欲が強い奴らばかりだったので、いくら魔王の指示とは言え共闘を承諾した事に意外感を隠せなかった。
だが、俺はそれを表に出さぬよう注意して、もう一人の十二魔神将に問いかけた。
「我は十二魔神将が一角、火魔神将フエゴ。覚えておくが良い」
ギラギラと好戦的な目をしているが、その中に理知的な光を感じ取った。
少なくとも、ヴァッダーよりやり難い相手かも知れない。
だが、やっぱりこいつもわざわざ自身の属性を明かしてくれた。
今はそれだけで十分だった。
それに、奴らの組み合わせには決定的なミスがある。
その事に、奴らはどちらも気付いていない様だった。
「お前らの名前なんか、イチイチ覚えてられるか。面倒臭いから、二人纏めてかかって来いよ」
面倒なのは間違いないが、俺はあえて挑発的な言葉を投げ掛けた。
十二魔神将が、チームを組んで俺に当たると言う事は間違いでは無い戦術だ。
今まで、単騎で挑んできた結果が各個撃破なのだから、とっくに学習しても良い話だろうが、それを実行に移すのが遅すぎるのではと思えるほどだった。
だが、それだけでは全然合格点に届かない。
魔王は恐らく、人間がパーティで強大な敵に当たる様を見て、十二魔神将にもチームで当たる様に指示をしたのだろうが、付け焼刃のコンビ攻撃等何の役にも立たない事に気付いていない。
それに、組み合わせも大事だ。
よりにもよって、水のヴァッダーと火のフエゴ。
属性に強弱の関係がある様では、互いに存分な攻撃力を発揮出来る訳が無い。
「貴様っ! 俺様を愚弄するのかっ!」
「……目に物を見せてくれる」
俺の言葉に、激昂した二人の十二魔神将が大きく吠えて襲い掛かって来た。
戦いは俺の想像していたよりも、かなり楽に展開していった。
思った通り、こいつらはただ“二体”で攻撃して来るに過ぎなかった。
そこに連携や協力は存在していない。
ヴァッダーが攻撃を仕掛けている時は、フエゴが後方でそれをただ見ている。
ヴァッダーが大きく後退すれば、フエゴが入れ替わりに俺と剣を交え、ヴァッダーは手出ししない。
前衛の攻撃に併せて後衛が援護攻撃をする事も無ければ、後衛から隙を作る為の攻撃を仕掛けそれに併せて前衛が動く事も無かった。
つまり奴らは二対一のタッグマッチをしているだけで、俺は目の前の敵に集中するだけで良かったのだ。
唯一不具合があるとすれば、奴らは後退している間体を休める事が出来るが、俺は常に戦い続けなければならないと言う事だろうか。
それでも、このレベルの敵に連携攻撃を仕掛けられる事を考えれば遥かにマシだし、俺はこのままならばいずれ二体共葬る事が出来ると確信した。
それ程に、俺と奴らのレベル差は大きいようだ。
ただ、変に時間をかけて、共闘や連携の真似事をされだすと厄介だ。
その事を気付かれる前に、俺は早速揺さぶりを掛ける事にした。
狙うは火魔神将フエゴ!
こいつは火属性で、弱点が水属性。
俺に水属性の強力な技や魔法は無いが、それが“得意な奴”がこの部屋に居る。
俺はフエゴと戦いながら、後方で待機しているヴァッダーに、弱い電撃魔法で攻撃を仕掛ける!
不意を突かれたヴァッダーは、威力は弱いが速度が速い雷撃魔法をモロに喰らった。
「グッ! き……貴様、よくもっ!」
大きなダメージは無いだろうが、不意の攻撃を避けきれず逆上したヴァッダーが、怒りに任せて強力な広範囲の水属性魔法を俺とフエゴのいる周囲に放った!
「荒れ狂えっ!
ヴァッダーが仲間の存在も顧みず、強力な水属性魔法を行使する!
魔法で召喚された大量の水流が先端を槍の様に硬化させ、まるで鎌首を持ち上げるかの様にこちらを向いた。
そして、それをそのままこちらへ向けて解き放つ!
フエゴの体越しに、ヴァッダーの動きを観察していた俺は、回避出来るギリギリの所で、フエゴの体勢を崩して大きく退いた!
「ガッ……ガ―――ッ!」
そこに取り残される形となったフエゴが、ヴァッダーが放った極大水属性魔法の直撃を喰らう!
奴の範囲魔法は、効果範囲に複数の対象が存在していればその鎌首は複数に別れ、それにより威力も減少する。
だが、今残されているのはフエゴ一人。
ヴァッダーの極大水魔法は、その威力を最大限にしてフエゴへと襲い掛かった!
フエゴの体に突き刺さった巨大な水の槍はそのままフエゴの体を中空へと持ち上げ、大きく旋回してそのまま地面へと叩きつけた!
「ゴッ……フゥッ!」
倒れたフエゴの体に、水龍と化した激流が立て続けに襲う!
激流の中には大小様々な水の槍が形成されており、幾度となくフエゴの体を攻撃した!
恐るべき魔法だが、それだけでフエゴを倒すには程遠いものの大きなダメージをフエゴに与えた事は間違いなかった。
それも仲間である筈の、ヴァッダーの手によって。
ヨロヨロと立ち上がったフエゴが、怒りの眼差しをヴァッダーへと向ける。
「フンッ……ノロマが」
「き……貴様っ! ヴァッダーッ!」
だがヴァッダーはフエゴを気遣う事もなく、フエゴがヴァッダーに不信を抱く事も止められなかった。
ここからは、正に俺の思惑通り事が進んだ。
一度芽吹いた不信感はそれを修復する事も無くドンドンと膨れ上がり、ヴァッダーはフエゴに気遣う事無く後方より水属性魔法を連発した。
その内の数発を食らうフエゴはその都度動きが鈍くなり、その直後に放った俺の攻撃を食らって大ダメージを負う。
「グッ……ハァ――ッ!」
そして間もなくフエゴは断末魔の悲鳴を上げて絶命し、その肉体を消失させた。
味方である筈のフエゴが敗れたのを目の当たりにしたヴァッダーだが、それに大きく動揺する事は無かった。
彼が死に絶えてから即座に躍りかかって来たヴァッダーだが、彼の属性は水であり炎のフエゴよりも更に御しやすい。
俺は勇者の雷撃魔法を駆使して、フエゴに掛かった時間よりも更に早くヴァッダーを葬った。
結局、土のゼムリャと戦った時間よりも遥かに早い時間で、二体の魔神将を倒す事が出来てラッキーだった。
疲労も、前回より酷いと言う事も無い。
一+一を二にも三にもするのは、その連携次第。場合によっては、その逆の結果になる事もある……今回の様に。
あれから約一ヶ月経とうとしているが、クリーク達はその事に気付いてくれているだろうか。
静まった魔神将の部屋に佇み、俺はそんな事を考えていた。
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