「ごちそうさまでした」


 先に外へと出てしまった涼太を尻目に、私はレジでお会計をする。


「ランチも美味しいですけど。夜のコース料理も、最高に美味しかったです。あと、ケーキも。ありがとうございました」

「どういたしまして。西崎さんが美味しそうに食べてくれると、僕も嬉しいです」

「あ。私、がっつきすぎてましたか?」


 料理に夢中になっていた自分を思い出し、恥ずかしくなる。


「いえいえ。そういう意味では……」


 木山さんが苦笑い。


「また、いらしてくださいね。いつでもお待ちしていますから」

「はい。もちろんです」


 外に出ると、涼太がスマホの画面に見入っていた。

 彼女か?

 チラリと見えた画面だけでは、判断はつかない。その画面を覗き込もうとしていたら、後ろから声をかけられる。


「西崎さん」


 振り返ると、さっき〝また〟といって挨拶を交わした木山さんだった。


「あれ、どうしました? 私、何か忘れ物でもしましたか」


 慌ててバッグの中身を探ろうとしたら、小さめの紙袋を差し出された。


「これ。よかったらどうぞ」

「え?」

「うちの自家製ドレッシングです。以前、とても美味しいと言ってくれたので」

「うそっ。いいんですか?」


 驚きつつも、しっかり紙袋を受け取る私。

 前に篠田先輩が、言ったらくれるんじゃない? なんて話をしていたけれど、言わなくてもくれましたよ。私の心の叫びが聞こえてしまったのかな? なんにしても、メチャクチャ嬉しい。


「野菜は体にいいですし。うちのドレッシングで野菜をたくさん食べてもらえるならと」

「とても嬉しいです。ありがとうございますっ」


 ブンブンと頭を下げてお辞儀をし、木山さんのお店をあとにした私はにんまり笑顔。


「へぇ~。姉ちゃん、意外と人気あるじゃん」


 意外とって何よ。……そんなことより。


「ドレッシングをもらえるなんて、本当に嬉しい」

「単純でいいな」


 弾む足取りの私を見ながら涼太が笑う。


「どういう意味よ」

「まんまだよ」


 わけの解らない涼太のことはさておき。帰り道を歩きながら、私は家の近くにある深夜営業のスーパーに寄って、どんな野菜を買おうかとホクホク思案していた。



※この続きは、1/15発売の単行本「マイペースな君」でお楽しみください♪

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