無知であった現実

初めて会った時、彼のことをひどく懐かしく感じた。短く切られた銀髪。何もかもを呑み込んでしまいそうな真っ黒な瞳。初めて会ったのだから懐かしいも何も無いはずなのだが懐かしく感じた。巨大龍の討伐から仲間とパイオニール王国へ帰還した日。つかれているのかもしれないと思い、王都での対応を仲間に任せ眠りについた。それから少し経ちこの国一番の商会の主と会うことになった。『クラン・レイバー』その名前を聞いた時、彼を思い出した。銀髪の少年を。クラン・レイバーに会う当日レイラルは1人港を歩いていた。周りには散歩だと言っているが銀髪の少年がいるかと思ったのだ。レイラルの予想は見事に的中し急いでいるのか走っている銀髪の少年の姿があった。声をかけるのを躊躇っているうちに少年はこちらに気づいたようで、なんとなく隠れてしまう。少年はイシュルという名前らしい。聞いたことはない。会ったこともない。確かだ。だがやはりレイラルはイシュルに対して懐かしさを憶えていた。イシュルはどうやら奴隷の身分を嫌っているようで。だが、平民だって大変なのだ。奴隷には自由がないと言ったイシュルを見つめる。まだ世界を知らない子供の言うことだ。何もわかっていない子供。そんなイシュルに自分の過去を重ねる。似たようなものだと思う。いづれ分かるのだ。世界は何故こうなのかを。人は自分にないものを欲しがる。イシュルもいづれ気づく。どうしようもないのだと。話している内に思ったよりも時間がすぎてしまっていた。


「イシュル、悪いがこのあと用事があるんだ、今日はこれで」


イシュルにそう言い残してレイラルを呼びに来た男の元へ行く。すると男が聞いてきた。


「彼は、知り合いですか?」


「知り合いという程でもないけどね。面白い子だなと思って」


「は、はぁ」


イシュルと話してから、懐かしさの原因がチラついた気がした。






「ロイ、ロイ!やばいっ!僕さ!すごかったんだ!」


ロイの元に戻る途中で感じていなかった興奮が突如こみ上げてきて走り出した。英雄と会った!話した!聖騎士レイラルと!何でだ!?なんで僕のことを覚えてた?次はあるか?ロイもこればよかったのに!いろんな思いが込み上げてきて、必死に興奮を伝えようとしたが、


「何言ってんだよ?つか、おっせぇ!絶対サボってたろイシュルゥゥゥ!!!」


そう言いながら詰め寄りイシュルの頬をつねるロイ。


「ひはふっで!へーゆー!しぇいはうはま!」


半ば叫びながら足をバタバタと地面に叩きつける。すると、ロイがやっとつねっていた手を離してくれた。


「で、どこでさぼってたんですか!イシュル君!」


腕を組み口を尖らせあからさまに怒っているぞという態度で聞いてくるロイに少し笑ってしまう。そして、一息ついてからレイラルにあったことを一気に話した。


「え……あー、頑張ったな?イシュルにしちゃいい出来の冗談だぜ!」


「ちっがう!冗談じゃなくて!ほんとに!レイラル様がいたんだ」


その言葉にロイは再び疑わしそうな目でこちらを見つめてくる。


「………………ほんとに?嘘じゃない!?レイラル様?」


「そう!ほんとに!嘘じゃない!レイラル様!」


「──うっっっわぁぁぁ!!俺も行けばよかったあああ!!!!えええええ!!!」


「は、はっははーん!!人に仕事押し付けたからだよ!」


ロイが悔しがってるのが面白くて鼻を高くする。恨めしい目でこちらを見るロイにフンッと背をそらすとロイが頭をぶつけてきた。


「いっだっ!?っ…………石頭め」


ケラケラと笑うロイを涙目で睨みながらぶつけられた頭をさする。


「でもなんでレイラル様がこんな港に来てんだよ?」


「さぁ……?でも何か呼ばれてたからクラン様とかと会うんじゃない?」


「あ〜ありそうだな~っとさっさとやらねぇと」


後ろにまだ残っている作業を指して困ったように笑う。残った作業はかなりの量があった。


「終わるかな?」


「終わらせねぇと困るよ。」


「そうだね、やろう。僕はこっちやるよ」


「んー」

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