【絶対探知】
「……二人のデッキは殆ど同じ」
――そうではないはずだ。これが最強に手をかけた
「教えてくれる?
準決勝を観戦するサキは、ルドウやタツヤから遠くの、この席へと移動していた。
第二回戦を終えたこの少女も、
果たして……
「……
「あはは。やっぱりアタシ、
「あの……でも、ぼくは……」
「もしも親切に解説してくれるくらい天才で、美少女の……中学生
ひどく情けなくて、逃げてしまいたいと思いながら、今このように観客席に座っているのは、それでもシトの
彼女には二人の戦略が分かる。生まれながらの天才であるから。そして何より大事な一人だからこそ、その先に見せてくれるものをもっと知りたいと思う。
「……前にシトと
「それは……やっぱり、【
「そうじゃない。【
「【
「うん。
「……
「そう。だから尚更、どちらも【
ただ
「それを踏まえて。
「うーん。アタシはよく分かんないけど……なんとなく、【
「……! どうしてそう思うんだい?」
「なんだろう。長丁場の……上限レベルの高い試合になるはずだから」
レイは内心で感嘆していた。サキの直感は、正しい。
【
大量のIPを得られる【
「アタシなら……【
「……すごいな。それは正しい選択だよ……理屈上は。【
「そうなんだ。つまり、実際には違うってこと?」
「ん……前も話したことがあったかな。【
「じゃあ……【
「そう。一番合理的な選択肢は【
事実、関東地区予選における
対戦相手が内政を仕掛け、それを武力によって打ち崩す必要がある場合は、
「でもこの試合は、二人とも【
「――【
【
「
「そっか……【
サキの予感した通りだ。両者の
【
「強い仲間を育てるほど、敵のIPの餌にされるから! 【
「――その通り。加えて【
「この状況で一番総合力が高いのは、【
「だから、
「じゃあ、もうほとんど構築の余地なんてないんじゃ……?
「……強いよ」
【
彼女が強者と認める
サキは一度伸びをして、無造作にレイの隣に座った。
「ああ、すっきりした! ありがとね」
「……
「なに?」
「……ん。その……ぼくこそ、ありがとう」
彼女は、試合の解説以上の言葉をレイに求めたりはしなかった。
アンチクトンとして友を裏切ったレイを問い詰めることなく、それでも、この広い会場で真っ先に探し出してくれた。
「いいからいいから、暗い顔しないで! せっかくの全日本大会なんだから、楽しまなきゃ! ね?」
――――――――――――――――――――――――――――――
「グヘヘ……なかなか面白い坊主だぜ。だが、この服を汚した落とし前はつけてもらわないとなァ……? さっきの小娘だって、当然の仕打ちだ……赤竜騎士団のこの俺様の前に飛び出してきたから痛い目にあったんだぜェ~?」
赤竜騎士団S級騎士、ザルドブル・ドルゲステアは、無礼な駆け出し冒険者へと向けて凄んでみせた。
相手は見るからにみすぼらしいギルド支給装備。一方のザルドブルは、たった一人で幻想種の空鯨をも屠るS級騎士である。カウンター奥に震える店主は彼の殺意の視線だけで失禁し、この酒場の気温すらも明確に冷えたようであった。
「当然……こういう時の作法は分かってンだろうな? 決闘だァ……!」
「俺にも準備がいる。決闘の日時はいつだ」
「あァ? そんなものあるかよ。テメーはこれから、俺様の好きな時に切り刻まれて、好きな時に這いつくばるんだよ。テメーがボロ雑巾になろうが、俺の飽きるまで何ラウンドでもだ。俺にナメた口を利く野郎がどんな目に遭うか、この街の連中にようくウッボアアァァァッ!!?」
「――それは助かる」
堕落騎士の全ての歯を一撃で叩き折った拳圧が、目深に被ったフードを翻した。銀髪と酷薄な眼差しが露になる。
駆け出し冒険者の正体は、我らが
「ならば今すぐでも構わんということだな」
床板を盛大に巻き上げながら壁までめり込んだ男は、再起不能。
「……弱いな。品性にも乏しい」
IP獲得言動ではない。他の異世界と比較した、ごく素朴な事実の確認であった。
『単純暴力S+』。世界を脅かす敵はより強大であり、対する味方の質は低い。崩壊の差し迫った世界は治安の悪化も甚大である。
故に、現地の仲間を強化する【
「すげえ……!」
「あのザルドブルを一撃で!」
「あれが噂の、最年少A級冒険者のシトか!」
「もしかしたら、西壁剣峰の魔王も倒してくれるかもしれないねえ……」
「ははは婆ちゃん、子供にそりゃ言いすぎだって。王国の大隊だって手も足も出なかったって話だぜ?」
「待て。その情報を詳しく聞きたい」
西壁剣峰の魔王。【
この異世界の脅威となる森羅精霊にとっては、魔族も等しく攻撃対象である。【
「なんでも、森を切り開いて……工場? だかなんだかを作ってるって話だぜ」
「ああ。紙を束ねて……本を作ってるとか……」
「……活版印刷技術……!!」
決してあり得ない速度ではない。しかしそれは、【
異種族への文字の普及。さらには印刷技術による教育の浸透。
(……文字と書物が普及すれば、口伝て以上に正確に、広く偉業を知らしめることができる。何よりも統一言語の完成は、征服をより強固にできる。今の時点から今後のIP獲得の下地を作っているのだ……! そのための活版印刷! 奴の
だが、看過する他に選択肢はない。相手が
中学生レベルの
敵でありながら、世界救世に必要不可欠な戦力でもある。
――故に【
(……正面から戦うしかない)
その時、酒場の扉を開いて、小太りの男が駆け込んでくる。
シトの馴染みの商人であった。
「シトさん! やったアル! 臨時議会で特許法が成立! シトさんの発明、たくさんお金になるアルよ~ッ!」
「……計画通りだ。ならば次はサスペンションの開発! 自動車の普及に入る!」
――――――――――――――――――――――――――――――
「――自動車。なるほど。どうやら
「馬にも劣る玩具に何ができますの? 人間らしい、愚かな鉄遊びですわ」
報告を告げた側近のサキュバスは豊満な肢体を接触してテンマを誘惑しようと試みていたが、いつものように無意味だと分かると、不満そうに体から離れた。
「今の技術段階ではそう見えるのも無理はないが――自動車の真の強みは、移動手段としての性能などではない。普及すればするほどに、道路の舗装と整備が必要とされるということ。辺境地域に対して公共事業を創出し……張り巡らされた道路インフラは文明の流通速度を飛躍的に高める。いずれ、地方にすら文明の力が浸透する」
「よく分かりませんけれど、おかしな話ですね。それだけ利点があるものなら、先に道路を作ってしまえばいいだけなのに」
「人間の内政を動かすセオリーは、魔族のように単純ではないさ」
一方でテンマもまた、各地の有力魔族や森羅精霊を打ち滅ぼしつつ、着々と文明の普及を進めているところだ。
既に、魔力で自動化された活版印刷工場を数十箇所に建設している。それらの工場で印刷された『教科書』は、世代交代の早いゴブリンやリザードマンに無償配布され、彼らに基礎教養を与えるとともに、種族を越えた統率の基盤を築いている。
「……君ならば分かるだろう、
少なくともテンマはそうではない。最強の
戦術学。工学。言語学。薬学。経営学。彼は、現実から異世界へと持ち込める全ての
「誰もが漫然と用いる自動車の内部構造。たかが風邪薬の化学式と製法。食卓に転がるマヨネーズの容器に至るまで……真に最強を目指す
同じくテンマを感嘆させた強者だとしても、
テンマは彼の送った人生を知る由もない。だがその
「血が滾る。君ならば、この滾りの先を見せてくれるか……
――――――――――――――――――――――――――――――
オープンスロット:【
シークレットスロット:【????】
保有スキル:〈無限剣SS+〉〈刹那拳SS〉〈空渡りSSS〉〈戦術予報A〉〈千里眼A〉〈工学A〉〈経済学A〉〈完全言語A〉〈完全鑑定A〉〈広域経営S〉〈鳳凰術S〉〈海龍術S+〉他20種
オープンスロット:【
シークレットスロット:【????】
保有スキル:〈波動SSS+〉〈咬駕門SS+〉〈爆滅の魔眼S〉〈究極肉体SS〉〈第六感SS〉〈魂備蓄SS〉〈政治学S〉〈カリスマSS〉〈完全言語S〉〈完全鑑定B〉〈空獅術SS+〉〈界蛇術A〉他23種
――――――――――――――――――――――――――――――
「……まずは、話をしてみませんか?」
跡形もなく粉砕された住宅跡地である。
エル・ディレクスはズタズタに破れたスーツの上着を脱いだ。
「そもそも世界の違う
「ふーん……大体事情は分かったけど。なに? この世界の
「……いいえ。私の世界に分岐しているドライブリンカーが、そういうシステムであるだけです。あなた方のルールは違うのですか?」
金髪の青年――ニャルゾウィグジイィが、ドライブリンカーを左腕に呼び出す。
この世界に普及しているものと同じように見えるが、恐らくは、僅かに違う。
どこか遥か上位の世界から、ドライブリンカーは無数の分岐世界に下ってきた。様々な形で、持ち込まれた世界に定着し、複製され、さらに別の世界へと分岐していく。全容を把握できぬ、無限の系統樹のように。
その過程における一つの形が、エルをはじめとしたこの世界の
無論、そうではないドライブリンカーがあり得る。
現世での
「観光だよ」
「……?」
「こんなの、観光用の玩具だ。20年くらい過ごすのがルールでさ。異世界からのエネルギーの回収がてら、
「……あなた方の
エルの世界のドライブリンカーに、後からIP連動システムが組み込まれたのか。あるいはニャルゾウィグジイィの世界のドライブリンカーが、元々のシステムをオミットしたのか。
どちらが正しい形であったか、それはさしたる問題ではない。世界間の干渉が一方通行である以上、誰にも答えの出せない物事なのだろう。
「……異世界を滅ぼし、潜在エネルギーを回収するための兵器」
「はははははは。兵器じゃないって。玩具だよ」
エルは戦闘の構えを取った。打撃衝撃を原子核の自転運動へと共振させスピン編極核融合反応を引き起こす、〈核力発勁SSSSSS〉である。
「マジになっちゃって……あんたが手出さなかったら、あと一ヶ月か二ヶ月くらいは、この世界も長生きできたと思」
衝撃は、30mの彼方から瞬時に到達した。脇腹に打ち込まれた一撃の重みに、【
宙を舞う間に、足がかりのない空中にエルが現れる。地球上の遍く物質反応を凌駕する速度で打ち込まれた拳は、しかし【
両者の拳の間、水素原子が極小の核爆発を起こす。爆風が彼我の距離を再び離す――否。
到達地点の背後。既にエル・ディレクスが存在している。戦闘余波で折れ飛んだ標識の一本を、居合じみて構えていた。
距離や障壁の概念を無意味化するスキル。〈トンネルエフェクトSSSS+〉。
「剣禅一致。剣の到達点は無念無想の極地であって、故に世界と合一である――」
世界が即座に断裂した。地表から空へと伸びた概念無視の切断線は、エルと青年の延長を結ぶ人工衛星を一つ消滅させた。
「……故に。アカシック柳生。“無明瀑流”」
意識に油断はない。〈予知SS〉。〈超並列思考SSSS〉。数秒先の光景を知覚している。〈アカシック柳生SSSSS-〉にて振るった『止まれ』の標識は、超絶の威力と強度で横合いからの衝撃を受けた。
「面倒くさいなぁー。僕、戦いにきてるんじゃないんだけどなあ!」
「……」
条理の通じぬ、極北の身体能力。斬撃詠唱動作の因果を遡って数秒前に切断を発生させる〈アカシック柳生SSSSS-〉すらも、回避している。
その身に斬撃が触れたことを知覚した後で、肉体の速度だけで回避したのだ……それも、〈トンネルエフェクトSSSS+〉で不意を撃たれた状態から。
「あなたは……ぐっ!?」
光が弾けた。
眼前のニャルゾウィグジイィが拳を放ったが、エルが知覚できた打撃物量は五桁までが限界であった。地殻が陥没して、市街は攻撃余波で溶融した。
「――無駄だって。とっくに知ってるだろ?」
(……戦闘スキルを、これだけ極めても)
一切の破損を無効化し、さらに肉体の完全性を保ち続ける〈完全構造SSSS+〉〈不滅細胞SSSSS+〉を以てして、無視のできないダメージが刻まれている。
「
――――――――――――――――――――――――――――――
エル・ディレクス IP6,249,962,303,610 冒険者ランクSSSSSSS
オープンスロット:【
シークレットスロット:【
保有スキル:〈核力発勁SSSSSS〉〈アカシック柳生SSSSS-〉〈完全構造SSSS+〉〈不滅細胞SSSSS+〉〈超並列思考SSSS〉〈分子欠陥知覚SSS〉〈予知SS〉〈トンネルエフェクトSSSS+〉〈完全言語SSS〉〈完全鑑定SS〉〈資産増殖SSSSS〉〈未来工学SS+〉〈未来物理学SS〉〈未来経済学SS〉〈絶対名声A+〉〈料理D〉他1968種
ニャルゾウィグジイィ IP-202
オープンスロット:【
シークレットスロット:【
保有スキル:〈格闘N/A〉〈話術N/A〉〈心理学N/A〉〈日本語N/A〉
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