vs銅ルキ
【人外転生】
「……ご存知の通り、この日本は世界でも特に
スタジアム中央では、二年ぶりに来日したWRA会長エル・ディレクスが、ドームを埋め尽くす観客への開会挨拶を行っている。
しかしその当たり障りのない内容には、関東大会で公然と全国の
エルが壇上より降り、続いて全国大会出場者の入場となる。
各地区での予選トーナメントで勝ち進み、あるいはその他の大会の成績優秀者で占められた十六名。
我らが
(……)
異世界とこの世界の真実。一方通行の干渉。そして、ドライブリンカーの実態。
……シトは集中力を取り戻すべく、己の呼吸を律している。
異世界では当然のように可能なことも、この現実にあっては容易ではない。
「随分と」
故にそれが自らに向けられた呼びかけと気付くまでには、一瞬の間を要した。
「――思い詰めているようだな。
「
壇上では、出場者の一人が選手宣誓を行っている。
だがシトのすぐ隣に立つ黒コートの巨漢こそは、関東地区予選トーナメントにて異世界を滅ぼし……
「私は君のポテンシャルを評価している。この大会では、恐らく君と当たることがない点は残念なところだがな」
「貴様らの目的は何だ。異世界を滅ぼすことで、何を得ている」
「我々は
「
「出場者の皆さんは選手用通路まで退出してくださーい」
「はい」
「うむ」
シトとテンマは、並んで選手用通路へと戻った。
「――貴様らの
「そうか。君は勝負のために『捨てる』ことができるタイプだと見込んでいたが……どうやらそうではないようだ。ドクター」
テンマの声にはたと気付き、シトは通路の奥を振り返った。
白衣を纏った老人が佇んでいる。剣呑な片眼鏡が、照明の光を反射していた。
「貴様は……!?」
「13年2ヶ月16日と11時間29分」
しわがれた声が告げた。
「君の記憶は正確かな、
「何を……言っている……!? 貴様は、何だ」
「『貴様は何だ』? 第一声がそれか? ああ、ああ。嘆かわしい!」
老人は大袈裟な手振りを交えて進み出た。
その眼光と佇まいには、
シトの顔を真下から覗き込むようにして、彼はまくしたてた。
「たとえ記憶にないとしても、十分なヒントを与えているはずなのだがね! 君の就学以前に互いに顔を合わせたことがある。これが真実であれば、即ちこの私は君自身ではなく、君の家族の関係者であると当然分かるはずだ。さらに我々アンチクトンは明らかに
「……ッ!」
シトは恐れ、飛び退いた。
「と、父さんの……
「回答が大雑把過ぎる。65点といったところだが、まあ、及第としよう。
「ドクター
大葉研究所で目にした論文を思い出す。
論文の第一著者は、
「……ドライブリンカー開発スタッフが、世界を滅ぼす組織に堕したか!」
「世界を滅ぼす? ――く、くくくくくくくく。逆だ。逆だ。まったくもって逆だとも、
「戯言を! 貴様らの目的が
「ほう、エネルギー! ならば君の理解を試してみよう、
シトの糾弾に、ドクター
「それはポテンシャルをより安定な状態へと遷移させることだ! 即ち、より可能性選択肢の少ない形による世界救世! 君の言うところの世界滅亡! 我々
「……外道め……!」
シトは怒りのままに戦闘の構えを取った。屈強なる
黒衣の集団。アンチクトン。異世界を滅ぼし、その可能性のエネルギーを我が物とすることが、彼らの活動目的であるのか。この老博士は、そのためにWRAが敢えて流通に乗せぬ
中学生であるシトは、彼らの意図するところを全て察しているわけではない。
しかし少なくとも彼らの
「否定は可能性を狭めるぞ、
「何だと……?」
目を閉じ、無言を貫いていたテンマが口を開いたのは、その時である。
「……話の途中だ」
ドクター
予選トーナメントでも見た、幽鬼めいた少年が口を開く。
「遅いので迎えに来たんですよ。テンマさァん。ドクターも、そんな
彼らこそがアンチクトン。全ての
……だが。
「バ……バカな……」
シトの動揺の理由はそれではなかった。冷酷を装う仮面は崩れて、先程整えたばかりの呼吸は乱れた。ドクター
彼は、その中に見た。
「――や。シト」
忘れようもない、一人の少女の姿を。
閉じた唇の両端を吊り上げるような、真意を悟らせない笑み。
「いまさら気が付くなんて、ひどいな。いくら列の反対側でも、同じ開会式にだって出てたんだよ?」
「
その笑顔も佇まいも、かつての彼女と変わらないように思える。
白い素肌を晒す黒衣に身を包み、悪しきメモリ使いの中に現れたとしても。
「……シト」
長い睫毛越しに、深い瞳が彼を間近に見据えている。
「ぼくを褒めてくれないのかい?」
「……な、何故だ……こんなところで、何をしている……!」
「決まっているでしょう。きみと戦うために来たんだ。逃げずに、今度こそ」
囁くように言う。彼女と戦いたいと望んでいた。
レイもそのように思っていたのだ。そこにどのような経緯があったのだとしても。
「だが、それは……」
「間違っている?」
レイの前髪が、シトの額に触れた。
「それでもきみに勝ちたいんだ。ぼくはそれだけでいい」
膝の力が抜けて、シトは壁に手を突いて体を支えた。
黒いドレスのスカートを翻して、レイはアンチクトンの一団へと戻っていく。
シトは彼女のその様を見ながら、手を伸ばせずにいる。
「……
「無様ですねェ。戦う前からボロボロじゃないですか」
ドクター
「どうしてテンマさんもドクターも、あなたのような者に目をかけているのか」
「く……貴様ら……貴様らだけは、許さん……!」
「はァ」
今や床にくずおれているシトに、ルキはしゃがんで目線を合わせた。
「ならば、いいお話をお伝えしましょう。あなたはレイさんと戦わずに済みます。そこは、どうかご安心ください。
アンチクトン。その全員が、未だ得体の知れぬ
そして
「――第一回戦をお相手するのは、この私ですからね」
――――――――――――――――――――――――――――――
「……
「えっ。ルドウ、
観客席に並んでシトの試合を見守るのは、
「ルドウは知らないかもしれねーけどよ。シトは一度負けた相手にほど強いぜ。もし予選トーナメントでハヅキちゃんが勝ち上がってたとしても、シトなら絶対に秘策を用意してたはずなんだ……! 同じ
「俺だってそれくらい分かってる。だがな。奴の強さはテメーとは正反対の、思考と戦略に立脚した強さだ」
第一回戦の相手は、アンチクトンの一名である、
シトは彼らが用いる
「だからこそ、今の状況で冷静でいられるかどうかが問題なんだ。
「……うん。どうしてだろう、
「脳ってのは機械と同じだ。そんな状態で普段通りのパフォーマンスが出せるか? この第一回戦、奴の惨敗だってあり得る!」
「いいや……やっぱりお前はシトのことを分かっちゃいねーよ」
今、
ポケットから取り出した羊羹を食べつつ、タツヤは試合場を見据えている。
「……何があろうと。あいつは、その程度で折れるような
――――――――――――――――――――――――――――――
「では、
世界脅威レギュレーションは『先史文明A+』。
何ができるのか。今の彼は、どのような
「……」
「無様ですねェ」
俯いたまま立ち尽くすだけのシトに、ルキは淡々と告げた。
侮蔑でも嘲笑でもない、単なる事実の指摘の如き口調だった。
「あなたのような
「――【
「……なんですって?」
ルキは言葉を止めて、隣に立つシトを見た。
照明の影が差して、その表情を伺うことはできない。
「【
使用デッキの宣言であった。
これまでの
それでも、
彼が
「……ク。倒しがいが出ました」
死人めいた無表情が、その一箇所だけ蘇生したようにも見えた。
「ならば私も、あなたを打ち倒す
二種の
黒く禍々しき、人類を害する
「そして【
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