vs鬼束テンマ
【弱小技能】
WRA認定異世界全日本大会は、学生選手権などの上位者に加えて、各地区ごとの予選トーナメント上位者から最大二名が出場者として選出される。
関東予選の枠は二名。
「ふふ。いい戦いだったね、シト。さすが、天才美少女中学生
「タツヤ。えーっと、その……アタシも、準決勝見ててさ。なんていうか、まあ? ……頑張ったじゃない?」
「つーか、なんで俺までこいつらと一緒くたみたいな感じになってやがんだ」
激闘を終えた両者を迎えるのは、
「おうサキ! 負けて悪かったな! お前の応援があったのに勝てなかったのは、俺の力不足だ……! 三倍の密度で特訓してりゃあ、シトの【
「また、バカばっかり言って」
互いに笑い合うタツヤとサキの一方で、シトは不機嫌そうに顔を背ける。
「フン……俺は馴れ合いは好まん」
「喜びなよ。勝った時くらいはいいじゃないか。これで、きみの念願の
「ねえ、なんか、みんな
サキは、かねがね疑問に思っていたことを尋ねた。
関東最強、
「どれくらい強いの?」
「
「……
「へえ……なんか、普通だね」
「だからこそ怖いのさ。敵を直接ステータス画面で見ても、どれが【
「……反面、使い手を選ぶ
「器用なタイプなんだ」
「ケッ。クソ野郎だよ」
だが、サキの評も的を得たものではある。
その一つを軸に、戦闘、経営、内政などの戦型を状況に合わせて流動的に使い分けるデッキ。アーキタイプ名を、皮肉にも一芸型という。
「……そうだな。奴のデッキ構成を予測し、対策を打たなければ……勝てない」
「やれやれ。余裕のない奴だなあ。
「知らねェーよ! 大体、
「ハハハハハ! ルドウも悪いな! やっぱりシトは強えや! まあ機嫌直せ! 帰りにメンチカツ奢ってやっからよ!」
「テメーの奢りなんざ誰がいるかよッ!」
「まったく……タツヤもルドウも、いつもどおりなんだから」
サキが呆れ混じりの笑みを見せた、その時だった。
「まあまあ皆はん、仲がよろしゅうて。うらやましいわぁ」
いま一人の
シトは、畏怖と敵意の声を漏らした。
「
萌黄色の鮮やかな着物に、長く艶めく烏の濡れ羽色の髪。圧倒的な余裕を感じさせる落ち着いた佇まいは、関東最強の称号に恥じない。
【
「
「ああ。異世界ナルニア杯での借りを、返す時が来たぞ。
「借り。はて」
ハヅキは、とぼけたように首を傾げて、パチパチとまばたきをした。
「――なにかを
「いつもの余裕面か。ならばそれを決勝にて、この俺が剥ぎ取ってやる……!」
「負けました」
「……何?」
涼しい顔で告げられた事実に、シトの気勢も止まった。
「せやから、うち、準決勝で負けました。……いややわあ。
「う、嘘だろアンタ……! 何あっさり負けてやがる! 関東最強なんだろ!」
ルドウもまた、動揺を隠せず叫んだ。関東地方の
ハヅキは、閉じた扇子で口元を隠した。
「勝手に関東最強言われましても、うちはたまたま栃木に越してきただけです。別に関東さんの代表になったつもりはありまへんから」
「相手は誰だ。何をされた」
「……
シトの問いには、その横で携帯端末を覗くレイが答えた。
「大会の出場記録はない。無名の……選手だ。けれど、彼は……もしかして……」
「そやからうちもね。何してきはるか分からへんし、いつも通りに【
「お、おい……
たまらず、タツヤも口を挟む。彼が真に関東最強を下した敵であるなら、
それでは準決勝でタツヤを下したシトの実力といえども、及ばぬのではないか。
「それは――あ」
「あ?」
「やっぱりやめときましょ。うち、
「なんだそりゃあ!」
「うちは、うちが楽しいようにしとるだけです。……ほな、
「この先――」
シトは、ハヅキが現れた選手用通路の奥を睨んでいる。
彼女は既に試合を終えてきていた。つまり彼女が戦っていたBブロック準決勝も、シト達と殆ど同じタイミングで勝負が決まっていたはずだ。
しかも、超速攻の勝負を仕掛けてきた
「試合の結果を見て判断しろということだな?」
「……」
ハヅキは僅かに微笑んで、踵を返した。
「さて。ほんならうち、原宿寄って帰ります。シュークリーム食べたいわぁ。ふっふふふふふふ! ……では皆さん、ご機嫌よろしゅう」
スキップで去っていく着物姿が見えなくなった後で、ルドウは苦々しく呟いた。
「……あの
「ああ。見に行こう」
通路を渡り、第二会場へと出る。予選トーナメントBブロック準決勝の会場。そこに
試合終了後の異世界を映し出したままの超世界ディスプレイは、彼の戦いの結末を克明に映し出していた。
「なにィーッ! なんだ……この世界はッ!?」
「何……だと……!?」
タツヤとシトが、同時に叫んだ!
テンマとハヅキが戦ったBブロック準決勝の、これが結果だというのか!?
燃え盛る大陸。荒れ狂う海。死体を喰らうハゲタカ。空は暗黒に染まり、雷鳴が絶え間なく鳴り響く。
あらゆる人の営みが壊滅し、死に絶えた、それはまさしく終末の光景であった!
「異世界が――滅亡していやがるッッ!!!」
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