第67話

「んー」


 ピノが小さく唸る。


「ピノ?どうした?大丈夫?」


「えへへへへへ」


 ピノが嬉しそうに笑う。


「え?」


「ピノ死んじゃうっぽい」


「なにを言っているの?」


 ボクの声に涙が交じる。


「そういう呪いなんだ」


「ピノ?」


 それはボクにはなんとなくわかっていた。

 ピノの身体から温もりが消えつつある。

 ピノの身体が透けつつある。


「ボク、ピノの最後のお願い聞いてくれる?」


「最後だなんて……」


「聞いてくれる?」


「……うん」


 ボクが小さくうなずく。

 自分が駄々をこねても世界は変わらない。


「キスして」


「え?」


「ユニオンして」


「ユニオン?」


「そうピノと契約をして強くなるの」


「契約?なんのことかわからないよ」


「ピノとひとつになるの」


「え?」


「ダメかな?」


 ピノの声が震える。


「ダメじゃないよ。

 ピノこそボクがキスしていいの?」


「ボクだからいいんだよ」


 ボクはピノの口唇にそっとキスをした。

 柔らかいとか暖かいとか感じない。

 なにも感じないキス。

 味もわからない。

 それは、ボクが緊張しているからだ。


「ん。ユニオン終わり」


 ピノが小さく笑う。

 そして、ピノの身体がボクの腕の中で消えた。


「ピノ?」


 ピノが返事をすることはなかった。


「アスペルガー。

 僕は君を許さない」


 ボクは小さくうなずいた。


「僕は僕を捨て俺になる……」


 ボクは僕を捨て俺になる。

 するとす小石だけ強くなれる。

 そんな気がしたから……


「ボクさん……」


 紅鮭がそっと現れる。


「おいおい。

 これは……どういうことだ?」


 灰児も遅れてやってくる。


「灰児さん、紅鮭さん。

 ピノが逝っちゃった」


「え?」


 ボクの言葉に紅鮭が言葉を失う。


「この魔力。

 ボク、お前はピノと……」


「ユニオンしました。

 それがピノの願いですから」


「そうか……

 わかった。

 俺がボク、お前を鍛える」


「え?」


「ボク、お前はピノのユニオンすることで能力があがった。

 能力があがるようになった。

 お前は強くなる。

 恐らく俺ら勇者の誰よりもな」


「俺が強くなるの?」


「俺?」


「はい」


「そうか、それがお前の覚悟か……」


「はい」


 灰児はうなずく。

 何かを感じ取ったのだ。


「私もお手伝いします」


 紅鮭が、そういうと小さくうなずく。

 ボクがほんの少し強くなった。

 その瞬間だった。

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