第65話

 平和な時間。

 平穏な状況とはいえない。

 しかし、ピノは嬉しかった。


 災いは忘れかけたころにやってくる。


 ピノは、忘れていた。

 自分もまた咎人であることを……


 楽しい時間が去りピノは部屋に戻ろううと道を歩いていた。


「ピノ」


 低い男の声がピノの心に響く。


「え……」


 ピノは、その声を知っていた。

 ――アスペルガー。

 長期間ピノを苦しめた存在。


「お前の飼い主は誰だ」


 アスペルガーが問う。


「私の飼い主……?

 ピノに飼い主なんていないもん」


 ピノはそういってその場を離れた。

 しかし、その声は追ってくる。


 逃げても逃げても追ってくる。


「ピノ。

 お前の飼い主は誰だ?」


「ピノは誰のものでもないもん!

 ピノはピノだもん!ピノは誰かのものになるのならボクがいい!」


 ピノは、涙目でそう訴えた。


「ならば……ボクを殺してしまおうか」


「え?」


 ピノの表情が固まる。


「ボク。

 咎人。お前と同じ経験地が豊富に貰える存在。

 お前と同じく我を満たすだろう」


「やめて」


「なぜだ?

 飼い主に逆らうのだ。

 それにふさわしい罰を与えなければな」


「私、なんでもするから……

 だから、お願いボクには何もしないで……」


「なら、戻ってこい。

 なら許してやる」


 アスペルガーの声にピノは逆らえなかった。


 ――数時間後、ピノはアンゲロスから姿を消した。




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