僕のかみさま - 3/4

 道具を取りに行く雲快と途中で別れ、雲凛は食匣近くの井戸端にいた。手にした水盆の中、神水に揺れる数本の髪の毛を見詰めていた。そのうち一本を指でつまみ上げ、太陽光に透かす。雲奎の髪の毛は、光に透けて薄く茶色を帯びた。


(神様が、本当にこんなこまいのんに、ほんとうに住むんじゃろか? )

わっちの髪をどうするんよ?」


 唐突な師匠の声に驚き雲凛が振り返ると、ニンマリと笑うクウヤがいた。鼠色の作務衣姿のクウヤは、雲快と同年代の食匣の丁稚で、昔は雲凛の兄貴分でもあった。

 雲凛はクウヤを睨みつけた。

「お師匠はんの声、真似すな!」

「だんだんに区別つかんくなってきたじゃろ、へへ」

 朝の一連の仕事が終わったクウヤは、雲凛の姿を見つけ、からかいに来たのであった。クウヤは自分のポケットから未だ少し温かい饅頭をひとつ取り出すと、それを二つに割り、片方を雲凛の小さな口に押し込んだ。

美味うまかろ」

雲凛はむせながらも咀嚼し、激しく頷いた。

「饅頭作りも俺が一番うまくなってしまった。兄さんらの立場がのうてな」

クウヤはそう言ってくつくつ笑い、雲凛のポケットに残りの半分を突っ込んだ。

「にしてもお前、お師匠はんにわずろうてるんのんか、めっこい《かわいい》なあ」

「ちゃう!」

「したらん、何よ、髪の毛いじりくさって」

「よう知らん、西のこしょさんから脅されててん。こしょさんらの間で流行っとるき、したっとる方と通ずるためのおまじないって」

「髪の毛使う呪詛か。悪趣味やなあ、いかにも西で流行りそうじゃ」

「神様の、おまじないやって言っとったき」

「神様なんて、この街にはおらんよ」

 その声に振り向くと、いつのまにか、雲快が焚き上げの道具を持ち、戻ってきていた。雲凛はギクリとした。詳しいことは知らないが、クウヤは雲快を見ると機嫌が悪くなる。雲快の姿を目にしたクウヤは、興を削がれたように舌打ちすると、わざと音を立てながら立ち去った。

 雲快はしばらくクウヤの背中を見ていた。雲凛はそんな雲快を見ていた。

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