僮話大戦

モンド・エド

第1話 全裸王

彼らは全てを手にした

文明を進化を闘争を科学を魔術を神秘を

認知出来る全てを総て手にいれた

そうして彼らの世界は終わった

果てへたどり着いた、果てすらも手に入れてしまった彼らは

絶える事を選んだ

一切遺さず絶える事が…望ましかった



春、とても眠い季節

明後日の入学式前に学生寮へ向かった俺はまず寮の周りを歩き回る事にした

コンビニ、スーパー、book・o○f、す○家

ひとしきり見て回った頃には日が暮れていた

「…実家から遠くに来たな」

口下手で無口な親父からはなれる…いや、嫌いだから逃げたんだ

死んでしまった母は親父のどこが好きになったのか、問いたい

…やめよ、考えてもしょうがない

明後日、新しい生活が始まる

実家から離れられれば良かっただけだったけど、この学校はなかなかだ

卒業まで寮に住めるし私服OK

試験は苦労したが結果オーライだ

そう考えていたからか学校の前まで来ちまった

学校を横目に門まで来た


「…」


誰かいる、それだけなら良かったんだけど雰囲気がやべー

赤い和服姿の…多分同い年くらいの男?…うん男、あ、目があった


「遅かったな…待ち合わせを過ぎているぞ」


「人違いです、それでは」


関わったらだめな人だ危ない危な


「まて」


ヤベー呼び止めんなよ


「…はい」


「どうやってココにきた?」


「歩いて…ですが」


「嘘は無駄だ人払いの結界を気づかれずに難なく突破できるなど…」


結界ってナンジャーイ!

日常でネタかジョーク以外で聞かない用語キチマッタ!

KEKKAI?誰かイエ○ウを呼べ!


「もしや…敵か?」


ウアーーーー!

【敵】!【TEKI】!?

妄想で抑えておけよ!

いやいやいやまてまてまて、落ち着け~落ち着け~オレ!

あいつは敵か聞いてきてるから素直に言ったら大丈夫かもしれない!


「敵じゃないです!」


「嘘をつけえーーー!!」


「選択肢がねぇーーーー!!」


「ふん、あくまでもシラをきるか…いいだろう」


「待ってくれ、本当に何のことだか…!」


「問答無用!《僮話限界、天の狗(アマノイヌ)》!」


和服のあいつがそう口にした直後、とてつもない突風がオレを襲った

突風で後方へ吹き飛ばされ、転倒した俺は再びあいつへ目をむけると

そこには白い服に羽の団扇、鷹か鷲のような羽、そして赤い肌に長い鼻

その姿はまるで


「天狗…」


『然り!』


「天の狗、天狗は知っているだろうがコイツはただの天狗じゃない、信仰を得て神格化した天狗だ」


なにがなんだかわからねえ、どうなってんだ

天狗だ?オレは何にまきこまれた!?


「サルタヒコ、コイツは持っているか?」


『内に輝き有りし者、眼前に!』


「…決定だな」


天狗が団扇を振り上げる

オレはあり得ない事態に混乱状態で考えがまとまらず

振り下げられた団扇をみて

あやふやに死を考えた、終わりだと考えた


「《僮話限界、傘小地蔵》!」


「何、仲間!?」


「みかんあげるからあの人を助けて!」


『あいよ~!』


突然あらわれた女の子がみかんをオレにむかって投げる

飛んできたみかんは空中でほどけるように消えて

天狗の突風は傘をかぶったイケメンのお坊さんにかき消された


『大丈夫かい少年?』


「大丈夫ですか!?」


大丈夫か聞かれ、まだなんだかわからないけど

少なくとも無事だったオレは2人に感謝した


「和服の人は私がどうにかしますのであなたは逃げてください!」


真剣な表情で彼女はオレに言ってきた

オレは彼女の言うとおり逃げた

後ろからあいつと天狗の声が聞こえる

彼女の声も聞こえる

だけどオレは逃げるしかなかった

なにも出来ないから逃げるしかなかった

がむしゃらに走るオレは息を切らしてその場に倒れ込む

立ち上がり、呼吸をととのえながら今の状況を整理する

よくわからない事にまきこまれたのは事実だ

天狗が…そう天狗がいた


「はは、ウソみてえ」


だが確かに現実だという実感がある

助けてくれた彼女は天狗の言ってた敵?

たしか彼女も言っていた、たしか…


「ドウワ…ゲンカイ」


「へぇ、あんた関係者?」


気づかなかった

考え過ぎてまわりに気づかなかった

目の前の男は黄色のリーゼントに黄色のレザージャケットを着た目に悪そうなヤツだった


「僮話までなら部外者だけどね、限界まで喋ったら関係者だよね、

イヤー運がいいなーこんな弱そうなヤツぶっとばせば願いに近づけるんだから、ラッキーだわホント」


「なんだよ…なんなんだよおまえらは!」


「ン~? もしかするとまきこまれたばっかりの人? イヤーホントかよマジ初めて見たよ初心者、いるんだねー、何も聞かされてないヤツ」


「あんたは…知ってるのか、教えてくれ!何がおこってるんだ!」


「イヤーメンドイからパス、あーでもコレだけは教えるわ、この戦いに勝ち残ったヤツはさー、世界を好きにできるんだよ」


「世界を好きにできる?」


「まあ知ってもお前はここで終わりだけどな…《僮話限界、酒呑童子》」


黄色が話し終えると身の丈3メートル以上の鬼があらわれた

恐ろしい、そんな言葉では足りないほどの重い圧がオレの動きを止める

声もでない、体すら震えない、これは、絶望だ



[数分前、門前の天狗と地蔵]


アキラが逃げていく姿を見送り天狗と地蔵の戦いが行われていた


「落ち着いてください!私達は味方です!」


「笑止!なら何故敵を助ける!」


「彼は部外者です!我々メーカーのリストにもいません!」


「メーカー!?では君が待ち合わせに来るはずの者か」


「はい、モモエと言います柳田さん」


「なるほど名を知っているなら本当なのだろう…が、ヤツを逃がした理由が足りないな」


「…?いえ、彼は部外者で」


「サルタヒコが輝きを見た、アイツは読身(よみ)だ」


「え、いけません!ココには敵がいます、早く彼を見つけないと!」


「何、何故敵がいるかわかるんだ」


「本当はアナタの実力を見るためにおびき寄せたんです、ですが彼が関係者になったのなら敵は彼を襲います 助けないと!」


「だがどうやって見つける、サルタヒコでもすぐには見つけられない」


「大丈夫です、《僮話限界、傘小地蔵》五千円あげるから彼の場所を教えて」


『ダメ~』


「お地蔵さま!?」


『それは君の願いだよモモエ、傘小地蔵は他者への善意が絶対だ、今の君には彼を助ける事より自分への責任感が強い、それじゃあ動けないな』


「そんな…」


「仕方無い、つかまれ、飛んで探すぞ!」


「え、えぇーーー!」



[数分後、酒呑童子と黄色]


黄色の呼び出した酒呑童子に身がすくんだアキラは絶対絶命


死ぬ、間違い無く死ぬ、助かる可能性はあの二人だ

でも二人が味方かもあやしい

やっぱり可能性なんてない

死ぬのはイヤだ、まだこれからなんだ

こんなわけわからない終わりはいやだ


「母さん…」


……

………


何もおきない

おそるおそる目を開くと


「…止まってる」


自分以外のすべてが静止している

いったいなにが起こったのか、考える間もなく声が聞こえる


『死にたくないか?』


「誰だ!?」


『答えよ、死にたくないか?』


「…ああ、死にたくない」


『何故死にたくない?』


「わかんねえよ…死にたくないんだ」


『何故死にたくない?』


「何故…悔しいから」


『…』


「…何もわからないまま理不尽に死ぬなんてごめんだ!」


『……』


「あの天狗野郎と黄色をぶん殴ってやらなきゃ死にきれない!!」


『我が侭だな貴様』


「我が侭で悪いか!?こちとらまだsexも未経験の童貞だ!」


『クックック…再び問おう、死にたくないか?』


「死にきれないね!」


『生きてなにをなす?』


「自分の好きに生きるに決まってる!」


『クッ…ハッハッハッハッハッハッ!…良かろう!ならば呼べ!この儂を!動き出した時に言うのだ!』


「『《僮話限界》』」


動き出した世界、酒呑童子の巨躯が宙を舞う

オレの目の前にあらわれたのは

膝まで届く綺麗な金髪に豪華絢爛な王冠、そして…


『どうした?読身よ儂の完璧完全な肉体美に見惚れたか?』


「全裸だコレ!!!」


美しすぎる筋肉と美貌を持った全裸少女だった


『問題が?』


「あるよ!いろいろと!」


『儂の肉体美に勝る服などない、ならばこの身が既に最高の服なのだ』


「いや~?!」


『年齢も気にする必要はない、この身は少女だが不老となった時に止まっておるゆえ年齢は貴様より上だ』


明らかに少女の色々が危険な領域なのだが強制的に納得してしまう何かがあって反論しにくい


「お前らこっち無視するなよ?!」


そうだった、金髪全裸少女に気が奪われてしまっていた


「てめえ何の僮話だ!」


『ふむ、言い忘れていたな、読身よ名は何という?』


「え、アキラ…です」


『ではアキラよ聞け、我が僮話は《裸の王様》王女クリステラ、ステラと呼ぶがよい!』


「クリステラ…」


裸の王様と聞いて黄色が爆笑した


「はッ裸の王様だってぇ…アッハッハハァ!」


『黄色の何が可笑しい?』


「イヤーだってさ、どう考えてもザコじゃんさっきはビックリしたけど間違い無く勝っちゃうよ、酒呑童子の敵じゃないね」


黄色の後ろからふっ飛ばされた酒呑童子が現れる


「イヤー人間型の僮話が伝説型の僮話に勝てるわけないっしょ」


確かに体格を含めて圧倒的に相手が勝っている

勝ち目なんて無いように見える、けれど

王様がいるだけで勝ち目とか考えてる自分がバカバカしく感じる


『アキラよ見ておけ、我が侭を通すとは何かをな』


王様は笑みを浮かべながら酒呑童子へ歩む


『黄色の、裸の王様の話はどこまで知っておるのだ?』


「イヤー?確か高慢でワガママな王様が詐欺師に騙されてバカにされた話しだったっけ」


『そう、あの詐欺師にはしてやられた!だが同時にワシの我が侭に火がついたのだ!』


「ハア~?」


『騙される前からワシは着がえ好きでな、山のように服を持っておった。

だが騙されて気づいたのだ、着飾るだけに何の意味があろうか…と

肉体美こそ最高の服ではないのか!…とな』


単に露出狂になっただけではないだろうか


『ワシは鍛えた!鍛えて鍛えて鍛えきった!そして限界を知ったのだ』


「あぁ、限界?」


『そう、人間の限界を知ったのだ、人の身…まして女である体では望む肉体美を手に出来ぬとな』


「……」


黄色が黙って聞いている、そのまなざしは真剣だ


『決めたのだ、ならば人を超えればよい、人を捨てればよい』


『ゆえにワシは、様々な伝記にしるされる怪物をこの身一つで倒していった。

東の悪鬼、南の多頭蜥蜴、北の巨人、西の巨竜…それ以外にも倒していったが、一番は戦神との闘いだったな』


ありえない自伝に圧倒されて、言葉も失いそうだ、オレは王様に聞く


「あんた…勝ったのか?神さまってヤツに」


『“勝った”ああ勝ったとも、全身に神の血を浴び奴を殴り殺した!

その時からワシの体は時が止まった、この意味がわかるか?』


「アー…神に呪われたって話か?」


『クックックッ…ソコではない、神を殺した肉体のまま、という所だ』


…この王様は【自分の望む肉体】のために全てを使って神まで倒したってことか!


「身勝手すぎる、誰も止めなかったのか!?」


『誰も止めぬよ、儂は王、全て総てワシのモノだ』


「ハー…なんてワガママな女だよ」


黄色すら呆れるほどのワガママに自分も驚きを隠せない

オレ達の反応を見てクックックッと笑う王様の姿は美しくもあり、同時に恐ろしくもある


「デモサー…それでも酒を飲んだ酒天童子には勝てないんじゃねぇ?」


『ほう、何故そう言える』


「アー…酒天童子はサ、怪力もそうだけど術にも長けてるんダゼェ?」


『それで?』


直後、酒天童子が王様を掴み投げ飛ばす

王様は吹き飛びながら少女とは思えない悪魔のような笑顔を浮かべ酒天童子を見た時、王様の後ろにもう一体の酒天童子が棍棒で王様を地面に叩きつけた

轟音とともに叩きつけられた王様を見て黄色は嬉々として話す


「ハハー!酒天童子は自分を増やせるのサ!しかも分裂みたいに力を分けないでそのままの力で増える!一人でどうにか出来るならしてみなヨ!」


黄色が言い終えた後、叩きつけた酒天童子は粉々に吹き飛んだ

黄色とオレは何が起こったのかまったくわからなかったが、最初の酒天童子も砕け散った時に思ったのだ


「「なんだこれ」」


『黄色の、もう終わりか?』


その言葉に苛立ちを感じる、何も言い返せない黄色をよそに王様は話をつづける


『戦いは数だと言った大臣がおった、いくら強くあっても数には勝てないとな、だからワシは4つの国に戦争を仕掛けて、二億八千万の軍勢をワシ一人で全滅して証明してやったのだ、有象無象がいくら集まろうが究極の個にはかなわぬとな!!』


この王様は全てを手に入れるだけの力を望み手に入れた、誰もが不可能だと訴える事を可能にする力を持った王様を見たオレは神々しさと狂気を見た

黄色が王様にビビりまくってる間に空からさっきの天狗に抱えられた助けてくれた女性と襲ってきた男、女性がオレに近寄って大丈夫かと心配してきてくれる(優しい)

男は黄色をしばいてる(怖い)

女性が安心したようにため息を吐く


「はじめまして、私はモモエ、メーカーのエージェントです、貴方は僮話大戦の参加者に選ばれました、我々メーカーはこの大戦に勝利するために読身と呼ばれる参加者を集めています。貴方の名前と僮話を」


いきなり大戦に巻き込まれたオレはなされるがまま彼らについていく事になった

金髪全裸少女の王様と共に、世界の命運を握る戦いにオレは身を投じる事になる


『ソコにはウマイ飯があるか?』


「ちょといい空気でしめようとしてるんで黙ってもらえます?」


つづく

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