9 カタカナ テンセイ
【了】
アア……
ドウヤラ マダ
ワタシハ イキテイル。
ホカノ レンチュウハ
ヒラガナ ヤ カンジ ヤ
アルファッベットニ ナッタモノハ
ミナ シンダ。
イヤ
コノセカイニ トリコマレ
ナニモノコセズ キエテイッタ。
イズレ ワタシモ ソウナルモノト
アキラメテ イルツモリダガ……
イツマデ タッテモ
ソノ トキガ オトズレヌ
フフ ワレナガラ
オウジョウギワノ ワルイ
マダ アキラメガ ツカヌノカ……
モハヤ ワタシハ シンデイル。
ワタシ ハ シニ
ワタシ ダッタモノハ
コウシテ カタカナ トシテ
コノ セカイヲ ナガイアイダ
サマヨッテイル。
◇◇◇
「平仮名君、平仮名君」
なに? かんじちゃん。
「私、記憶捜索用、質問、創作」
きおくを さがすための
くいずを おもいついた?
どんなの?
「第一問。難読漢字、開始!
鉋。鋸。玄翁」
かんな のこぎり げんのう。
「全問正解。君、生前大工。私、確信」
むちゃくちゃだ そのりくつ。
「第二問!
鰰。鯏。鯑」
えっと……
はたはた あさり かずのこ
だったかな。
「全問正解。君、寿司屋?」
だいくじゃ なかったのか。
「寿司屋兼、大工」
けんぎょうで できるかなぁ。
「第三問! 難読地名問題!
音威子府。興部。厚沢部」
おといねっぷ。おこっぺ。あっさぶ。
「全問正解。畜生」
ちくしょう? ちくしょうっていった?
「第四問! 沖縄編!
中城。南風原。平安座」
なかぐすく。はえばる。へんざ。
「……東京編。
東雲、上石神井、麹町」
しののめ。かみしゃくじい。こうじまち。
「全々々部、正解。
君、生前、道民、島人、東京人間。
全可能性所持」
つまり にほんのどこか ってことでしょ。
「君、漢字得意?」
にがてじゃ ないよ。
どくしょは すきだし。
やっぱり さっかしぼうとしては
よめないかんじが あったら
くやしいじゃない。
だから ひまなときは じしょひいて
しらないかんじとか さがして
おぼえたりしてた。
「君、努力家」
さぁ わからないよ。
どれだけ どりょくしてたかなんて。
それに どれだけ どりょく してたって
こうして しんでしまったら おなじだよ。
「悲観的。
私、白紙世界、愉快。
私達、見解相違?」
かんじちゃんと いるのは たのしいけど。
でも ぼくは このせかいを
ゆかいだとは おもえないな。
なんだか このせかいに
ちょっと うすらさむいものを かんじる。
「本当? 私皆無」
だってさ。
ぼくらいがいに このせかいに
てんせいしたひとも いたよね。
それに だれかの
こんせきも みつけた。
ああ ほら。
また みえてきた。
ひらがなに てんせいした
ぼくいがいの だれかの
かきのこした ことば。
『なんのためにいきてるのかわからない。なんのためにしんだのかもわからない。しねばおわるんじゃなかったのかよ。ああしんでまでこんなふうにくるしまなくちゃならないならうまれてこなけりゃよかった。そうしたらこんなにくるしむこともないんだ。くそ。あきらめなければゆめはかなうとかそんなことばしんじたおれがばかだった。くそ。もういちどじんせいがやりなおせるならにどとしょうせつなんてかかねえからな』
ほら。
うらみごと ばかりなんだよ。
なんだか こわいじゃないか。
まあ こんなせかいに てんせいして
こうして なにもできず
ただ もじを のこすだけの
そんざいになったら
きが くるってしまうのかも しれない。
もしかしたら ぼくだって。
「私、全然平気。白紙世界、愉快」
かんじちゃんは のうてんきだね。
「君、大変失礼。
私、生前苦労多数。
多分」
たぶん ってことは
かんじちゃんだって
あんまり おぼえてないんだろ?
「肯定。
生前……私、趣味、無数。
読書。映画。電子遊戯。
散歩。旅行。冬運動。水泳。走行。
全部、多分、幸福。
若干、記憶薄々」
たのしかったことは おぼえてるけど
きおくが うすれてるって?
ぼくも おなじなんだよ。
どうして
おぼえて いないんだろう。
かぞくのことも
ともだちのことも
みんな おぼえていない。
だから すこしも
かなしくないのに
どうして ぼくは
いきていた ことだけを
おぼえているのだろう。
それに さっかしぼうとして
まいにち しょうせつを
かいていた こと。
それも わすれていない。
「私、推察、可能性。
幸福記憶、残留傾向?
不幸記憶、消失?」
いや ちがうとおもう。
だって ぼくのばあいは
しょうせつを かいていたことも
つらい きおくだから
「何故?」
なぜ か。
そうだな なんでだろ。
さいしょは もちろん
たのしくて つづけてた。
たのしいから いつまでも
しょうせつを かきたいと おもって。
まいにち しっぴつして
なおきしょうか あくたがわしょうか
なんでもいいけど いちりゅうになって
いっしょう さっかとして
いきていく つもりだった。
すきで やっていた はずなのに
いつからか なんだか
まいにちが くるしくて。
だって いくらかいても
だれにも みとめられない。
なんの ひょうかも えられない。
つづけるいみが わからなくなって
ずっと でぐちのみえない
くらやみのなかに いるきがした。
むくわれる ときがくるはずって
しんじていたけれど
まあ けっきょく むくわれず
こうして しんでしまった。
「私、推察。
平仮名君、努力家。
多分、生前、毎日努力。
多少疲労、蓄積。
可能性。生前努力、継続、数年後。
君、高名作家。
直木賞確実視。万歳」
もしかして なぐさめてくれてる?
「否定。私、本心」
だったら うれしいな。
まあ ぼくに さいのうが あったなら
せいぜんに すこしは つめあとでも
のこせたと おもうけど。
「君、今、平仮名。
死後、継続、物語執筆。
普通死後、当然、執筆停止。
平仮名、物語執筆、不可能。
君、継続。
私視点、君努力家」
どりょくかに みえる?
それは うれしいな。
ぼくは しんで ひらがなに なったけれど
それでも ものがたりを このせかいに
のこす つもりでいる。
だって くやしいじゃないか。
もう だれにも みとめられないとしても
それでも さっかしぼうとして
さいごのいじを みせないと。
まあ かんじちゃんみたいに
なにもかんがえず のんきに
このせかいを ぼうけんするのが
いちばんだろうけど。
「君、大変失礼」
ほめたんだよ。
それにしたって このせかいには
ぼくらのような もじになった
いのちが そんざいするけれど
いったい ほんとうに どうして
こんなせかいに ぼくらは いるんだろう。
「平仮名君、平仮名君」
なに? かんじちゃん。
「光。前方」
ひかり?
ああ ほんとだ。
なんだか まぶしい ひかりが みえる。
「調査調査」
そうだね いってみよう。
◇◇◇
【了】
アア コノモジニ フレレバ
スベテ オエルコトガ デキルノニ
ワタシニハ ソノユウキスラ ナイ
シ ヲ ウケイレラレズ コウシテ
タダ トドマッテイル
ナンダ? ダレカ チカヅイテクル
ドウヤラ マタ
ベツノモジニ テンセイシタモノガ
イルラシイナ。
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