8 …生

『ふざけんなまじで…おれはもうがまんできねえ…あのくそやろう…じぶんかってばっかいいやがって…おれはこんなきのくるいそうなせかいにはもういちびょうだっていたくねえのに………あいつ…まじでおわりだ…もうしんでようがかんけいねえ………かんじのやろう!!!ぶっころしてやる!!』


 ◇◇◇


 めをさましても ここにいる。


 めをさます というのも みょうだけど。

 だって ぼくは ひらがなで

 もう いきものですら ない。


 ここは はくしのせかいで

 ぼくは ひらがなに てんせい した。


 それで こうして はくしのせかいを

 たびしている。


 どうして ねむくなるのか ふしぎだけど

 とにかく ときどき いしきが とだえる。


 こちょうのゆめ ということばがあるけど

 もしかしたら ゆめのなかで

 こうして はくしのせかいを

 さまよっているのかも しれない。


 なんて かんがえても とにかく

 げんじつとして ぼくは ここにいる。


 たびの おともは かんじに てんせいした

 おんなのこの かんじちゃん。


 ぼくは さっかしぼうとして 

 しんだあとも このせかいに 

 

 ものがたりを のこしたいと 

 おもっている。


 でも かんじちゃんは 

 そんなのきょうみなくて


 ものがたり せいさくに

 きょうりょく してくれない。 


 それから ぼくより 

 としうえ らしいけど


 としうえあつかいすると おこる

 めんどうくさい こ。


「君、大変失礼!」


 しまった。よまれていた。

 いないから まだねてると おもったのに。


「私、激怒」


 そんなに おこること ないじゃないか。

 というか ぼく そんなに

 きみをおこらせるようなこと かいたかな


「否定! 肯定!」


 どっち?


「此処、否定!

 彼方! 悪口!

 君、残酷!」


 ここじゃない?

 むこうに わるぐちが かいてある?


 え? どういうこと?


「平仮名! 悪口!

 私、超衝撃! 号泣危険水域!」


 ちょうしょっく で

 もうちょっとでなきそうだった のね。


 え ごめん でも

 ほんとに わるぐちって なんのこと?


 ぼく みにおぼえが ないんだけど。


 だって ぼくらは もじだから

 なにも かくしごとは できない。


 ぜんぶ こうして はくしのうえに

 もじになって あらわれるんだから

 かくしごと しようがない


「駄洒落? 激寒」

 

 だじゃれ? なにが?


「君、平仮名。

 秘密所持不可。

 君、人間時代、作家志望。

 生前執筆業、生計不可。

 自虐駄洒落」


 かくしごとが できない。 

 かくしごとが できなかった。


 なるほど それをかけた 

 じょーくって いいたいの?


 じょうだんじゃない。

 ぼくは ほんきで

 さっかをめざしていたんだ。


 たしかに しぬまで

 ぷろには なれなかったけれど。


 でも あのころのぼくは

 じぶんが ぷろになれないなんて

 じょうだんでも かんがえなかった。

 しぬまで あきらめないつもりだった。


 だから けっきょく しんだけど

 こうして あきらめないで

 ものがたりを のこそうって 

 かんがえてるんじゃないか。


「失言。御免。

 私、反省」


 いや いいんだけど。

 それより わるぐちって

 ほんとうに なんのこと?


「不思議。彼方。同行。

 平仮名悪口、痕跡」


 こんせき?


 なんだろう。ついていけば わかるかな。


 ◇◇◇

『ふざけんなまじで…おれはもうがまんできねえ…あのくそやろう…じぶんかってばっかいいやがって…おれはこんなきのくるいそうなせかいにはもういちびょうだっていたくねえのに………あいつ…まじでおわりだ…もうしんでようがかんけいねえ………かんじのやろう!!!ぶっころしてやる!!』


『あのかんじやろうはくそだ。あほだ。ばかまるだしのごみやろうだ!!おれはしょうらいせかいいちのさっかになるおとこだぞ!!!それを…えらそうにあのあほ………あのかんじくそやろう!!!!くちさきばっかであたまのおかしいくそかすむのうやろう……………ひひょうかきどりでおれのさくひんをこきおろしたくずどもとおなじだ!!!ぶたのえさにくいつくぶたいかのぶたやろうだ………』


『くずいしとおうごんのくべつもつかねえのうみそのかわりにすぽんじうめこまれたくそかすどもとおなじだぜったいにゆるさん!!!あのかんじくそやろうにつきあわされるくらいならころしてやる…』


「此処。私、先程散歩中。偶然発見」


 さっき ぼくが ねむっていたときに

 さんぽしていて みつけたのか。

 

「肯定。

 私、発見時。超衝撃。

 平仮名、悪口。

 君、私、超絶嫌悪? 憎悪?

 号泣危険水域」


 ちがう ちがう。

 ぼくは かんじちゃんが すきだよ。


「告白? 求婚? 思考時間必要」


 ちがう ちがう ちがう。

 まじめな はなしだよ。


「真面目傾聴体勢」


 そうだね まじめにきいてね。


 これ ぼくじゃないよ。

 まず ぜんていとして 

 ぼくは きみのことが すきだし


 でなけりゃ こうして いっしょにはいないよ


「若林、春日」


 なんて?


「御免。続行要求」


 う うん。

 ええっと それから

 もし かりに ぼくが 

 だれかのわるぐちを かくとしても 

 このこんせきには ぜったいならない。

 

 だって さんてんりーだーの つかいかたが

 めちゃくちゃ だもの。


「三点隊長?」


 たいちょう じゃなくて 

 よむほうの りーだーね。


 これだよ。ここにのこってる

 てんてんが ならんだやつ。


「三点隊長…?」


 まあ いいや。

 それのこと。


 でも それは

 つかいかたの るーるがあって。


 かならず ふたつ つづけて つかうんだ。

 たとえば これをつかうとしたら。


 こうして……

 ふたつずつ…………

 つかうって………………

 きまりが あるんだ。


 それに かんたんふ!

 これも! つかったあとは

 いちます くうはくを あけるって

 るーるが しょうせつには あるんだよ。


「小説規則? 何処機関制定?」


 いや……どこの きかんとか しらないけど。

 むかしから そういう るーる なんだって。


「私、古典的無意味社会規則、嫌悪。

 校則髪色、面接服装、自著履歴書」


 まあ ぼくも そういうのは きらいだけど。


 りゆうは ともかく ぼくは そういう

 しょうせつしっぴつの るーるには

 したがって かいている。


 だから ぜったいに

 ひとに みられたくないような

 かげぐちを かくとしても

 こんな ふうに むちゃくちゃには ならない。


 だから これをかいたのは ぼくじゃない。


 それに さいしょにもいったけど

 ぼくは かんじちゃんの 

 わるぐちなんて かかないよ。


「感謝。好感度爆発上昇」

 

 それは どうも。


 じゃあ それなら ぼくにきょうりょくして

 いっしょに このはくしに 

 ものがたりを のこすってのは


「拒否。興味皆無。面倒」


 あ そう。

 まぁ いいんだけど。


 それより わかったことが あるね。


「何?」


 これは だれかがいた こんせきだよ。


 このせかいには ぼくらいがいにも

 かんじや ひらがなにてんせいしてる 

 だれかが いるってこと。

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