2018年 1話 しあわせなクリスマス セリカ編

「長いコト、待たせたね…」

今年の12月、クリスマスになる前に

思い出の水族館に彼を誘った

今日は伝えたいコトがあるから、大事なコト

私はやっと覚悟を決めた

色々悩んで考えて…遠慮して、それが1番良いと思ってた

そんなの、遠慮するコトが失礼なのにね

ずっと待たせた

貴方の長い時間をずっと私が縛り付けていた

やっと返事をするよ

プロポーズの言葉に…私の気持ちを伝えて

「ずっと一緒にいて、貴方がどれだけ素敵な人か…知りました

去年の事件で、セリくんと私を助けに来てくれた時は本当にありがとう

カッコよかったよ、王子様かと思っちゃった」

アハハって笑ってみたり、だって…笑わなきゃ泣いてしまいそうだから

弱気になるな私、やっと言うって決めたんだから

「いつも大切にしてくれて、私だけじゃなくセリくんのコトも理解してくれた

嬉しかった…貴方と結婚したら絶対幸せになるコト間違いないね」

黙って聞いてくれてる

「だから大好き…」

貴方はひとことも口を挟まずに、私の言葉を最後まで受け止めてくれる

「でも、その大好きは恋愛の大好きじゃないんだ

ごめんなさい…レイ…

私は貴方のプロポーズをお受けできません…」

深く頭を下げる

私は今レイを酷く傷付けてると思う

本当に…ごめんなさい…

こんなに長いコト待たせておいて、断るなんて

私死ね!って感じ…

「ごめんなさい…私は最初から最後まで最低な女だったね

こんな女好きになるなんて…ダメだよ」

顔を上げてレイの顔を見るけど、視界が霞んでよく見えないなぁ…

「セリカ…」

なんなら殴ってもいいです!それでレイの気が済むなら

「返事をくれて、ありがとう」

「殴っとく?」

私はレイに頬を突き出す

「振られたからってオレがセリカを殴るわけないだろう?」

イケメンだな…レイは…こんなん好きになるわ、私以外……

「まったく…泣きたいのはこっちだって言うのに」

しょうがないなと苦笑しながら私の涙をレイは指で拭ってくれる

「セリカは悪くないよ

何年もあって、オレがセリカを振り向かせられなかっただけ

それに…最初から気付いていた

セリカはイングヴェィさんが好きなんだって

オレの入る隙は作ってもなかった……」

「バレてる…?」

「バレバレだ

気付いていないのはセリくらいだろう」

「そうだね、セリくんに言ったら驚いてたもん」

レイ…無理して私と話していないかな

振られるなんて…辛いコトなのに

「セリカはこれからイングヴェィに告白するのかい?」

聞くの!?そういうの聞きたくなくない!?

レイは気にしないタイプなんだろうか…

「う、うん…近いうちに…イングヴェィのコトも長く待たせてしまったから」

「振られたらいつでもオレの所へ、香月さんの所じゃ駄目だぞ」

「辛いわそれ!!怒ってる!?」

「セリカに怒ったりしたら情けない男になるじゃないか

まぁ上手くいってもオレの前でイチャつかないでくれよ」

「気をつけます…」

「喧嘩したり倦怠期が来たり不仲になったら、すぐオレに言うんだ

わざと仲違いさせるから」

本音が口に出てる!?しかも凄い楽しみで嬉しそう!!

レイは冗談(いや本気かもしれない)を言ってもずっと笑ってくれた

私が気にしないようにって気遣ってくれたんだってすぐにわかる

レイは本当に素敵な人なのに、私はなんでこんなに良い人を振ってるんだろう

それは…レイには申し訳ないけれど

イングヴェィは私の運命の人だからなんだ…

「アハハ、もうレイは…意地悪だな

でも…ありがとう、本当にごめんね…」

「セリカ……」

最後に、改めて言うとレイは悲しそうに笑った

それが本当に最後なんだってレイは察したから…



レイに返事をしてから数日は心の整理に当てた

次の日からもレイは変わらず今まで通りに接してくれて、私と結婚しないと決まってもセリくんにも優しく大切にしてくれた

たまに本当に変わらず好意的な言動もあったから、話聞いてた!?なかったコトになってる!?とか思ったけど

そんなコトはなく、周りに気を遣わせない為の振る舞いだとも察した

そうこうしているとイングヴェィの方からクリスマスデートに誘われる

自分から誘うつもりだったけど心の準備をするのに思ったより時間がかかってしまったみたいだ

クリスマス…!来るの早い!まだ余裕あるって思ってたのに!!でも…もう戻れない

私は前に進むわ

そして、私は心を決めた

長かったね…長い間…待たせちゃって、まずはそのコトを謝ろう

それから好きって伝えて…

も、もし…振られたらどうしよう

そんな不安や心配を過らせながらイングヴェィとのデートへ出掛ける

待ち合わせ場所に向かうまでもなんか死にそう、ドキドキし過ぎて

今日はいつもよりオシャレして来たわ

美容院とネイルにも行ってきたし、新しい服だって買って着てきた

メイクもいつも以上に頑張ったわ

何度も鏡でチェックする

うん!完璧!私が振られる要素なんて何一つない!!

けど…告白するのってめっちゃめちゃドキドキする…!心臓に悪いんだな

死ぬんじゃないかな私

「セリカちゃん、こっちこっち」

待ち合わせ時間より早く着くように出たのにイングヴェィは私より早くに着いて待っていた

ちょっと!予定が!先に着いて心の準備をするつもりだったのに!!

「イングヴェィ…早いね」

こっちこっちと呼んでおきながら私を見つけたイングヴェィの方から走り寄ってきてくれる

「ううん今来た所だよ」

絶対ウソじゃん

でも…いつも私を待ってくれて笑顔で迎えてくれるイングヴェィがよかった

私はずっとイングヴェィのコトが好きだったんだと思う

それに気付いてから、そして告白しようと決めた今日はいつもと違う気がする

いつも見てるイングヴェィの太陽のような笑顔はずっと変わらない

変わらないのに、いつもよりドキドキする

いつもより素敵に見える

こ、こんな…いつもと違うように見えたら…余計に告白なんて……

ううん何を弱気になってるの、ここで私が何も伝えられなかったら

レイと香月に凄く失礼じゃない、何があっても…絶対告白する!!

ちゃんと勝負下着も付けてきたから、そういう展開になっても大丈夫!!……いや…無理かも

「それじゃあ行こうか」

イングヴェィに手を差し出されて、私は緊張が跳ね上がりながらも手を掴んだ

恥ずかしい…いつも以上に

ディナーの前にイルミネーションを見に行く予定にしたから私達は電車に乗る

ヤバい…どのタイミングで告白するとか考えてなかった…!!

やっぱりイルミネーションの時?雰囲気も良いだろうし定番だよね!ありきたりだけど…うん、悪くないかも!

もうやるしかない!私は告白前、最後の覚悟を決める

イルミネーションの場所に着くと

死ぬほど混んでいた

前に進むのが牛歩、自撮りするカップルや混雑に押されに押されピンボールのようになって気付いたらイルミネーションを通り過ぎていた

なにこれ

「結構混んでたね」

イングヴェィは優しいからなのか、いつも通り笑顔

えっ?わかんない?全然わかんない

私がどういう状況を得てここにいるのかわからないよ

ドン!ドン!ドン!気付いたらここ

良い雰囲気とか何もないから

天は私に告白するなと言うのか!?

「もっとちゃんと見たかった…」

そして良い雰囲気になって告白したかったのに…!!

「ごめんね、セリカちゃんは人混みが苦手なのに連れて来ちゃって」

「ううん!私もここに行こうって誘われて行くって言ったもん、イングヴェィは悪くないよ

こういう場所はどこに行ったって混んでるわ」

イルミネーションはチラッと見えた

写真ではめっちゃ綺麗だったけど、現実は大したコトないなって感想(何様)

でも、混んでてしんどいし満足に見て楽しめないけど…

こういう場所に好きな人と来たかった

カップルらしいコトがしたかった

それは女の子の夢だと思うの

だから私はイングヴェィと一緒に来れて嬉しい…よ

って素直に言えば良いのに、恥ずかしくて言葉を呑み込んでしまう

今からこれでちゃんと告白できるのかって落ち込む

イルミネーションでは告白失敗しちゃったけど、まだよ、まだクリスマスディナーがある!!

そして私達は予約しているホテルのレストランへとやって来た

イルミネーションの所と違って静かで落ち着いた雰囲気、夜景が綺麗に見える席へと案内されると

私はここで告白しよう!と仕切り直しを誓う

「あっ」

「夜景綺麗だね、セリカちゃんの方が綺麗だけど…ん?どうしたの?」

告白するぞと思ったらイングヴェィと被ってしまう

私の方が綺麗って…そんな定番な言葉も、いつもの私なら笑い飛ばしてるのに

大好きな人に言われると、嬉しくて恥ずかしいんだね

恥ずかしさで告白の言葉を飲み込んでしまう

「あっ、夜景が綺麗だなって…同じコト思ったね」

夜景へと目を向けるとガラスに映るイングヴェィは私を見ていた

「夜景も良いけど、俺はずっとセリカちゃんを見ていたいな」

また…恥ずかしくなって何も言えなくなる

イングヴェィはいつも通りなのに

意識すると、そのいつも通りが私にはいつも通りにはいかない

私はいつも通りじゃないから

イングヴェィのコトが好きだって認めて向き合うと決めたら、どう接していいのかわからなくなってしまうのかな

食事が運ばれたりイングヴェィと話していると、どんどんと時間が過ぎていく

いつ告白すれば…タイミングが掴めず、だんだんと苦しくなってきた

時間はあっという間に過ぎてしまう

気持ちばっかり焦って言葉が出て来ない

早く言わなきゃ、言わなきゃ今日が終わるって自分を追い込んでしまう

なんで言葉が出ないんだろう…

目の前に置かれたデザートが霞んで見えてくる

もう…デザートまで来ちゃったよ…

泣いちゃダメなのに…我慢してる涙が溢れて来るの

「セリカちゃん…?どうしたの?」

イングヴェィの心配する声にハッとして私は首を横に振る

「な、なんでもないの!可愛いデザートが嬉しくて…あったかいうちに食べないとね!」

声震えてる…絶対イングヴェィに心配かけてる、最悪だ

告白するって意気込んで言えなくて、イングヴェィに心配かけて…私は…私は…

何やってるんだろ

デザートはウサギさんの形をしたケーキが大きなハートを抱えていた

このハートに熱々のシロップをかけて食べるらしい

イングヴェィは私がウサギさん大好きだからってこんな可愛いデザートも用意してくれたんだ

イングヴェィはいつも私の喜ぶコトを考えてしてくれる

なのに私は何もお返しができてない…

「私は大丈夫だからイングヴェィも食べよう?」

イングヴェィの視線を感じながら、シロップの入った器を持ち大きなハートにかける

大きなハートは上から外側へと溶けていく

半分くらい溶けると大きなハートの中に何か光って……

「セリカちゃん」

いつもより…いつもより…イングヴェィの私を呼ぶ声が愛しく聞こえた

大きなハートの中に入っていたのは…指輪…?

「結婚しよう」

指輪からイングヴェィへと視線が移る

すぐに自分が何を言われたのか理解できなかった

でも、すぐにわかるよ…目の前に指輪があったらなんて言われたかなんて…わかるよ

難しい言葉なんて使われなかったもん

シンプルでストレートで…プロポーズ

「はい…喜んで」

我慢なんてしなかった

私は涙を溢れさせて最高の笑顔で返事をする

笑うと涙がポロポロと落ちていく

「お願いします…イングヴェィ」

死ぬほど嬉しかった

さっきまで告白できなくて勝手に落ち込んでたのに…

結局、またイングヴェィに助けられてしまった

なかなか言えない私をイングヴェィは引っ張ってくれる

長年待たせて返事もまともにできなくて、こんな情けない私なのに

もう一度プロポーズしてくれて…ありがとう…

「セリカちゃん…嬉しいよ、ありがとう」

イングヴェィは席を立つと私の隣へと来て、婚約指輪を取り私の左手の薬指に嵌めてくれた

「大好き、愛してる」

何度も聞いた愛の言葉だって今日は特別だった

いつも私ははぐらかしたりすっとぼけたりしてたけど

「私も愛しています」

恥ずかしいけど、もう大丈夫

ちゃんと自分の気持ちを言えるよ

もうごまかさないから

左手の薬指に違和感がある

普段指輪をしないから、慣れないこの違和感が凄く嬉しい

イングヴェィは席に戻るとデザートも食べてと言ってくれた

「美味しいね」

「よかった」

「イングヴェィは食べないの?」

「食べる?」

「ううん、お腹いっぱい」

嬉しくてすぐに気付けなかったけど、イングヴェィ震えてるような…

「思った以上に緊張しちゃったみたい

実際にオッケー貰うと、想像以上に嬉しくて…胸がいっぱいになってね」

……デザートをバクバク食べてる私は薄情か!?食べるのやめないけど

挨拶がハグとキス、いつも素直に好きとか言うイングヴェィが…そんなに緊張するなんて

私はとりあえずフォークを置いた

「本当は、今日イングヴェィに告白しようと思ってたの

ずっと待たせてごめんねって…ちゃんとプロポーズの返事をしようと思ってたのに

私は緊張して勇気が出なくて……

なのに、イングヴェィにもう一度プロポーズさせちゃって……ごめんなさい

私…ズルいよね」

「違うよセリカちゃん、もう一度プロポーズするって俺が決めたコトなんだ

去年のコトがあって…今年のクリスマスにセリカちゃんにもう一度プロポーズするって決めたんだよ」

去年のコト…思い出すのはやめよう

暗くなっちゃうから

イングヴェィがもう一度って考えてくれたコトが嬉しかった

ズルい私なのに、それでも待ってくれて愛してくれて…

「もし断られても、また来年、再来年と、毎年プロポーズするって決めたりね」

それは…いや凄い

でもイングヴェィらしくて…好きだな

「ふふ…イングヴェィって…優しいのね」

イングヴェィの超ポジティブなとこが私は大好きだった

自分勝手な私なのに、ずっと安心させてくれた

貴方の愛を私は疑ったコトがない

一途で健気で純粋で…大好き

1番好きなのは顔かな!!?あとは良い匂いがするのと透き通るような綺麗な声となんでも言うコト聞いてくれるのと、とにかく全部好き!!

私が最低でもなんでもいい

勝手に心もスッキリしたコトで、私はデザート食べるのを再開した

「あのね…セリカちゃん、このホテルのスイートをとったから…今夜は…」

……きた…きて、しまった…ついに

マジか、もしかしてって思ってたけど

心の準備なんて出来てないよ!?

私は食べていたデザートを途中で残してしまった

どうしよう、ヤバい…

でもずっと待たせたのだから…そうだよね、何もおかしくないよね…

でも私達って正直、恋人期間がなくていきなり婚約で結婚だから…変な感じだ

私達は暫く無言になってお互いを見れなくなってしまった

顔だけを真っ赤にして、下がらない熱がいつまでも残る


ひぇーついに来てしまった…

ホテルのスイートルームなんてはじめてだ

凄いよ、私好みの素敵な部屋だし

感想?とにかくスゴイ、それだけ

でもはしゃげない

そんな余裕がない

どうしよう…本当に…こういうの慣れてないから

き…緊張のしすぎで……倒れそう

「座ってね」

いつまでも突っ立ってる私をイングヴェィはソファに座らせる

はじめて座るこの高級感溢れる座り心地最高なソファ!感動

「こんな時に聞くのもなんだけど」

「はい」

自然と背筋が伸びる

「俺がいなかったら、セリカちゃんはレイくんを好きになった?」

えっ、いきなりそんなコト聞かれると思わなかった私は面食らう

プロポーズして婚約したその夜に他の男の話をするなんて

それってイングヴェィは聞くのも辛いコトだと思うのに、なんで聞くんだろ

「んー、レイって優しいしイケメンなのに意外に誠実で一途だもんね…好きにならない人はいないと思う」

「うん、そうだよね」

ウソついてもわかってしまうから、私は素直に答えた

イングヴェィに出逢う前は先に会ったレイのコト好きだったし、そうなるんじゃないかな…

でも…レイのコト好きだったケド…なんか、違う気がして…

それでまぁ私は最低なんですけどね…

「………。」

「なんか言った?」

「ううん…なんでもないよ」

イングヴェィはいつもの太陽な笑顔で私を見る

そんなに見られると…また、恥ずかしい…

なんかドキドキする、身体が熱くなる

さっきのプロポーズをオッケーしてからイングヴェィのコトもっともっと強く意識するようになっちゃって

私が目を反らして俯くとイングヴェィは私の隣へとやってきては腰を下ろす

こんなに近いと心臓壊れるわ…勝手に身体が熱くなる

私、本当に恋してるんだな~…

「結婚したら、何処に住もうか?

その前に結婚式はいつにしよっかな、何処がいいかな…ねぇセリカちゃん」

め、めっちゃ近い気がする…

イングヴェィが私の膝に置いてある手を握って絡ませる

いやー…これ…これが恋人ってやつですか、そうですか…

慣れないな…慣れないよ…

今、イングヴェィのほう向いたら絶対キスされる…

手を触れられるだけでも…死ぬほど恥ずかしいのに

「子供もほしい?」

ストレートにくるねー!?

「俺は人間じゃないから出来るかどうかわからないケド…」

「あっ…そうだね、でもどっちでもいいよ」

イングヴェィは自分が人間じゃないコトをとても気にしていた

私は全然気にならないよ、イングヴェィも気にしなくていいのに

人間じゃないイングヴェィに恋する覚悟くらいとっくに出来ているわ

私が気になるのはこの状況だ

今日婚約者だけど今日恋人になったと言っていい!!しかもついさっきです!!

恥ずかしくて…本当にどうしたらいいのかわからないの

「セリカちゃんならそう言ってくれると思った!!」

イングヴェィは嬉しい!って気持ちをストレートに伝えるかのように私をハグする

わー!?テンション上がっちゃってる!!

それもそうか、私が絶対ほしいって思ってて、人間じゃないイングヴェィにその機能がなかったら…別れ話に変わっちゃうもんね

イングヴェィが私を愛してくれるなら、私は2人っきりでも構わないよ

あっセリくんと3人で

「セリカちゃん大好き!!」

そのままイングヴェィは勢い余って私を押し倒した

ちょっとセリくんに似てる部分もあるような…

「うん…私も」

押し倒したかと思うとそのまま私を抱き上げてベッドへと連れて行かれる

これはもうダメなやつだ!もう私、覚悟決めないと…今夜…私はイングヴェィと……

だ、大丈夫かな…

とにかくイングヴェィが気を使わないように、私は頑張って笑顔を作った

私が微笑むとイングヴェィは顔を真っ赤にする

急に自分が私を押し倒してるコトに照れが隠せないようだ

「セリカちゃん…もっと…触ってもいい?」

イングヴェィは私の胸元へと手を滑らせる

「そ、いや…!待って!」

まだシャワーを浴びてないので!

さっきからずっと変な汗かいてるし…だから

ブラウスのボタンをひとつ外されて、私は顔に熱を持ってテンパる

「恋人期間すっ飛ばして今日婚約者になったばっかりだよ!?まだ早すぎる…と思うの…」

ピタリとイングヴェィは手を止めて

「それ、去年も聞いたよ

それに俺は何年も我慢して来たのに、まだおあずけなの?」

イングヴェィの意地悪な顔が私は弱かった

なんだかいつものイングヴェィじゃないような…でも良いと思います

「恥ずかしいもん…」

「33歳なのに、可愛いねセリカちゃん」

それ関係……あ…る、ないわ!!年齢関係ない!!

ってか、私いつの間にかアラサーに…なんかショック

「セリカちゃんは嫌なの?嫌なら…しないよ」

イングヴェィは不満そうには言わなかった

私が本当に嫌だったら…イングヴェィは…ずっと我慢してくれる

私は嫌じゃない…嫌じゃないよ

私だってそういう気分になる時あるわ

でも、今は凄く恥ずかしくて…どうしていいかわからなくて…

でもでも…イングヴェィが好きだから、愛してるから…触ってほしいと思う

「…嫌じゃない…イングヴェィなら…私は大丈夫」

緊張する、変な怖さもある

不安はいっぱいだよ…でもイングヴェィをいっぱい待たせてしまったから

私はここで逃げちゃダメなんだ

今度こそ…

私は自分の胸元にあるイングヴェィの手に手を重ねる

「……えっ」

……ん?

イングヴェィは急に耳まで真っ赤にして動かなくなった

「せ、セリカちゃんに……あ、セリカちゃんと…し」

イングヴェィがテンパった!?

もしかして、はじめてだからか!?そんな反応するんだ!?

待て待て!さっきの勢いはなんだ!?

好きだから突っ走って、自分がこれからする事の大きさに気付いたの!?

「セリカちゃんの…」

「大丈夫…じゃなさそうだね」

「だ!大丈夫!!でも、妄想とは違って…」

妄想されてたのか…いや、仕方ないか

緊張のし過ぎでイングヴェィは手が震えて私のブラウスのボタンをうまく外せない

何これ気まずい…

ワンピースとかにしとけばよかったかな

もう下からめくったら大丈夫みたいな簡単なやつ

私も緊張してたけど、イングヴェィの緊張振りが逆に心配で冷静になれる

だけど、イングヴェィは顔を真っ赤にしたままふふっと吹き出して手を離す

「ウソ…結婚するまではしないよ

アハハ…たくさん待たされたからセリカちゃんに意地悪するつもりだったのに、俺のダサい所見られちゃったね」

えっ…なんだそれ……

「か、からかったのね!?」

くそー!恥ずかしがって損した

でも助かったって気持ちがめっちゃ大きい

ちょっと…怖かったし…まだ早い気もしたから

「セリカちゃん、怒った?」

ごめんねって謝ってくれるイングヴェィに私は怒る気なんて最初からなかった

むしろ、凄く…嬉しかった

「ううん…嬉しい、大切にされてるんだなって思えたから」

また勝手に涙が出て来るな…

イングヴェィはたまに意地悪したりからかったりするけど、私を大切にしてくれるから大好きだ

好きな人がイングヴェィで…私は幸せだな

「決して、ヘタレとかじゃないからね!!」

「それは怪しいな~」

「本当だよ!俺はセリカちゃんを大切にしたいの!」

「本当かな~?やっぱりただのヘタレじゃ」

イングヴェィの顔が近付いて来たと思ったら、キスされて言葉を塞がれてしまう

「その時までに心の準備…しておいてね」

私は何も言えなくなった

心の準備…か、私はついにイングヴェィと結婚するんだ

イングヴェィと出逢ってから7年かな

長い年月のハズなのに、短かった気がする

色々あった…良いコトも恐いコトも、たくさんあったね…

でも、私は幸せだ

幸せだった…これからも幸せでいられる

イングヴェィと一緒なら私はずっと幸せだよ

夢見たい、私ちゃんと嬉しいもん…

イングヴェィと結婚できるコトが、凄く嬉しい

「今日は一緒に寝ようね」

「はい…!」

何もないとは言っても、同じベッドで一緒に寝るのも恥ずかしいよ

7年も一緒にいるのに、なんでこんなに恥ずかしいんだろう

好きだからって当たり前の答えだ

こんな…私を、受け入れてくれて…ありがとうイングヴェィ

イングヴェィの力になれるように、良い妻になりたい…なれるように頑張る

ずっと私と一緒にいてね、愛してるイングヴェィ



-続く-

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