2017年 第7話 ただいまとおかえり
ようやく長い長い悪夢から目を覚ます
「…あっ…セリカちゃん……」
目を開けると、セリカちゃんがおはようと微笑んでくれる
本当に…長かった悪夢みたいに、数日の痛みの記憶が今はおぼろげだ
「セリカちゃんだ!!」
俺は嬉しい気持ちと涙と一緒にセリカちゃんを強く抱き締める
あったかい…やわらかい…セリカちゃんの匂いがする……
帰ってきたんだね、俺はやっと…君の所へ
幸せだ…幸せ過ぎて苦しい…
胸がいっぱいで何も…言えない…
身体が熱くて、感情が高ぶって、どうにかなりそう
「セリくん…おかえり…」
セリカちゃんも俺をぎゅっと抱き締め返してくれる
「ただいま、よかった…セリカちゃん…生きてて」
「えっ、よくないよ
みんなに私の上下違う下着を見られて、しかもあの日に限ってウサちゃんパンツなんて子供っぽいやつ
あんな目に合うって知ってたらちゃんとしたわ」
そこ…!?気にする!?…乙女心ってよくわかんねぇな…
セリカちゃん…ちょっと震えてる
やっぱりあの日のコト恐かったんだ
なのに、俺に強がって大丈夫なフリする
俺は、もう君のコトならなんだって知ってわかってるんだから…
「大丈夫大丈夫、イングヴェィもレイも香月も誰も気にしないって」
「誰かが気にするしないじゃなくて、私が気にするの!」
えーウサちゃんパンツ可愛いのに、やっぱり乙女心はわからないな
「でも、俺本当にセリカちゃんが死んじゃうのかと思って」
「それは私もだよ…
だから私はカッとなって飛び込んでしまった
私はもっと冷静だと思っていたけれど…大切なものの前では感情的になっちゃうんだね……」
君に大切って言ってもらえて嬉しい…でも、それで君を危険な目に合わせてしまうなら…
「その私の失敗のせいで、みんなに迷惑と心配かけちゃったからホント私ってダメね」
「そんなコト…」
ないよって言う前に、君は賢いからよくわかっていた
「でも、私が飛び込まなかったらセリくんが死んでたかもしらない
なら私のしたコトは失敗と一緒に成功を掴んだってコトだ
私が助けたワケじゃないケド…」
だんだんとセリカちゃんの声が弱々しくなって…涙とともに零す
「よかった…セリくんが生きてて……」
君の涙を指で拭うと、見るなって軽く押される
セリカちゃんが生きて、君の傍に帰ってこれて…泣くほどのコトなのに
俺の涙は君の涙で抑え込まれる
こんなにも、君が弱い人だって俺は最初から知っていたハズなのに
今更ながら、俺が泣いてる場合じゃない!君のコト守って支えなきゃいけないんだって
ちょっと?大人に、男らしくなったと心に刻む
「寂しかったよ、セリくんのいないイブもクリスマスも…毎日…やだった」
セリカちゃんが…デレてる!?
なんだコレ!?あのセリカちゃんがだぞ!?
地球が滅亡しないか!?大丈夫!?
ど、どうしよう…逆に困る…
だって…だって…君のコトがめちゃくちゃ可愛いと思ってしまうから
いや!?ずっと可愛いってのは知ってたよ?
だって俺にソックリなんだもん、可愛いのは当たり前
なのに…なんだろう……
いつものように抱き締められない、いつものように好きって言えない…
俺はあの悪夢の日々に毎日のようにセリカちゃんの所へ帰れたら
いっぱい抱き締めて…大好きって言って…頭撫でてもらって……たくさん甘えたかったのに
それができないって…病気かな?俺
「あっ…ら、来年からは大丈夫…
マスターに言って、イブとクリスマスは絶対セリカちゃんだけのものだって…お願いするから…」
「約束破ったらこれよ?」
パッと拳を掲げられる
ひっ、殴られる!?
いつものセリカちゃんだ…
なんか、残念……えっ?何が?残念だ?
でも!いつものセリカちゃんだ!
俺はいつも通りまた抱き付く
「セリカちゃんとの約束は破ったりしないよ
それより、寂しかったんだ?俺がいなくて」
「専用のサンドバッグがなくて、ストレス解消できないよね」
「俺が可哀想と思ったコトある!?
俺はセリカちゃんのコト大好きなのに…」
さっきのデレは幻覚か何かか…
「私もセリくん大好きよ」
意地悪言うケド、それはただの照れ隠しだってわかってる
セリカちゃんはいつだって俺のコトが大好き
自分が危険な目に合っても…
そんなコトはやめてほしいケド
だから、俺もセリカちゃんの為なら…死んでも構わない
「っっっセリカちゃん!!」
嬉しくて幸せで、それを最大限に表現したくて、俺はセリカちゃんの頬へとキスする
ただいま…帰ってきたよ、君の所へ
「7歳でほっぺにチューを覚えたか」
ナメられとる!?
チュー以外のコトだって知ってるぞ!!
これでも君と同い年として作られているんだもん!!不老だから見た目の成長は出逢った時の姿で止まってるけど
なんか…悔しい…と思いました
「あっそうそう、私ね…結婚するわ」
「えっ?」
突然の宣言に心がくぅと苦しくなる
「それは…イングヴェィかレイか香月のプロポーズを受けるってコト?」
「うん…」
わかってた…いつか君にその時が来るなんて
だから数年をかけて、考えて…納得して、受け入れようって決めた
覚悟もした、君が誰を受け入れようと俺は君の傍を離れないし
君の愛する人を認めるって……
君の傍にいられるだけで幸せなのに、やっぱり俺はワガママでいざってなっても
まだ嫌だと思ってしまうのか…
俺がこんなんじゃ、セリカちゃんは幸せになれないのに
「私、ずっと好きな人がいるって言ったでしょ
それイングヴェィなんだ」
「マジか!?」
わかんなかった!!
イングヴェィなら…文句ないよ
たまに病んでる所が大丈夫か?って思うケド…
「レイにもちゃんと返事する」
「それフラグじゃなよな?」
「なんの!?」
来年はレイが暴走してなんやかんやあるとか
来年になったら心変わりしてて、実はレイと結婚するとか意外な所で香月を追い掛けて海外に行くとか…
「ちゃんと謝って、納得してもらったら…私はイングヴェィに告白するわ」
そっか…
セリカちゃん、俺には見せないような笑顔するんだ
なんか…知らない人みたい
セリカちゃんはイングヴェィが好き…イングヴェィを愛してる
自分が1番じゃないって…こんなに辛いんだ
「うん…頑張って……」
笑ったつもりだった、でもきっとちゃんと笑えてない
俺はやっぱりいつまで経ってもガキだ
君の幸せを願うより、自分が君に1番愛されるコトを願って…嫉妬してる
後で聞いた話だが、シンはあのまま捕まって警察のお世話になっている
もう聞きたくもない話だが…
そして、クリスマス過ぎちゃった…
アパートの上で1年振りにマスターが俺に会いに来てくれて
「お久しぶりです!マスター!」
嬉しい…嬉しいハズなのに、心のモヤモヤが晴れない
「セリ!心配しました…ごめんなさい…」
「えっ!?どうしたんですか?なんでマスターが謝ったりなんか」
寒い寒い冬の風を受けながらマスターは視線を落とす
「セレンから貴方を守れなかった事、リジェウェィや他の子達も」
ハッ!?スッカリ忘れていたが、今回のコトもセレン様が…
「いえ、マスターは何も悪くは…」
「いいえ…私が無力なばかりに…
貴方もリジェウェィも他の子達も、セレンが創ったもの
…それはセレンがひとこと口にするだけで所有権を奪われてしまうのです」
マスターがおっしゃるには、創ったものが捨てようが壊そうが所有する力は失わないと言う
だから俺の身体は言うコトを利かないし、リジェウェィさんも逆らえず抵抗できない
マスターは捨てられたものを拾って育てていただけに過ぎず、セレンが返せと言えば嫌でも渡すコトになってしまう
「セリ…」
マスターが急に大粒の涙を流す
えっ!?そんなの困る!!泣かないでください…
リジェウェィさんも…他の仲間も殺されて、俺もめちゃくちゃ悲しくて…泣いちゃうけど……
「セレンはきっとまた貴方に接触するでしょう
そうなれば、また今回のように酷い目に…」
今回と…同じコト…?
あの悪夢をまた?何度も繰り返すかもしれない?
そんな…
俺は血の気が引いて心を恐怖する
嫌だ…もうあんなの…絶対に嫌だ
今度こそ、俺は死ぬかもしれない…セリカちゃんが殺されちゃうかもしれない
そんなのは…なんとしても
「ふーん、セレンさん…反省はしないんだね」
聞いていたのか、イングヴェィが屋根の上に姿を現す
「イングヴェィ様…
セレンはとてもショックが強いようで、それとともに……深い復讐心を抱いているようです」
「わかってる…困った人だね
セリくんとセリカちゃんに危害を加えるなら…」
イングヴェィだけじゃなかった
話を聞いていたのはみんなでベランダから顔を上げてセリカちゃんが言う
「何そのセレンって女!?セリくんにまた手出したら殺すよ!?」
「セリとセリカに酷い事をしたのはオレも忘れはしない」
レイも静かに怒っている
「私も同じ気持ちです」
香月なんか本気さが翼の色に影響してる!?
みんながみんな…セレン様を許さない気持ちでいる…
俺は…俺だって、もうセリカちゃんと引き離されたりしたくない
セリカちゃんに危害を加えさせたりなんかしない!!
俺はセレン様に逆らえなくても…
セリカちゃんだけは守りたい……大好きな人を
次はどんな手で来るかわからないケド、負けたりなんかしないから!!
-シリーズ第5弾・2017年終わり-
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