2017年 第5話 仕方なくなんかない
最期に君に会えてよかった、それが夢でも…
俺は一瞬でもそれで満足して諦めてしまった
でも、違う
君の怒った顔…それが最期なんて絶対に嫌だ!!
俺は君を幸せにするクリスマスプレゼントだから、君が笑顔じゃないのは嫌なんだ!!
最後の力を振り絞って俺は自分の身体を回復する
そして、意識がハッキリすると…目の前には本物の君が…
ずっと会いたかったセリカちゃんは…シンの手で腹部を裂かれ、俺とは違う内臓の一部を引きずり出されていた
「シン…オマエ…!その子は普通の人間なんだぞ!?
そんなコトして、本当の犯罪者じゃねぇか!!」
許せなかった…
君を傷付ける全てが…
そして、シンを殺さなかった俺自身を…
シンは外で気に入った女の子がいたって話してた
それがセリカちゃんだったなんて…
最初から…自分が消えてでもシンを殺していたら…!君はこんなコトにならなかったのに!!
「セリカちゃんに触るな!!」
落ちていたナイフを拾い上げシンへと駆け寄る
ずっと痛かったよ、恐かった、苦しかった、辛かった、悲しかった、気持ち悪かった
でも…それ以上に君を俺と同じ目に合わせてしまったコトが死ぬほど…嫌だ
君が死んでしまっていたら…恐い
君の痛みを思えば…苦しい
君を失ってしまったら…辛い
君を幸せに出来なくて…悲しい
君がその男に触れられるのは…気持ち悪い
全部!全部!痛いよ!!何よりも、俺にとってはこれが1番!
「邪魔するなぁ!今良い所だろぉ!!?」
ナイフの扱いが素人丸出しの俺はシンに簡単に突き飛ばされる
セリカちゃんを早く助けなきゃ、シンを殺して…そして、セリカちゃんの傷を魔法で治して…
待ってて…すぐに助けるから、セリカちゃん!!死ぬなよ!!
「邪魔なのは、オマエだろ…俺のセリカちゃんを奪うオマエが邪魔なんだ!!」
もう一度、今度こそ…もう時間の猶予なんてないんだから…
そう考えて、一歩を踏み出した時
割れた窓からレイが助けに来てくれた
「レ…」イ
と名前を呼ぶより早くもレイはシンを殴ってから取り押さえる
あっという間に…簡単に、レイは…まるで王子様のように颯爽と…
「セリ!早くセリカを!!」
「は、はい!!」
言われて自分が何をしなくちゃいけないかを思い出す
急な予想もしていない展開に頭が追い付かない
あの悪夢の日々が終わった…?
いや、終わってないよ……
「セリカちゃん!」
俺はセリカちゃんを壁に貼り付けている手に刺さるナイフを引き抜き床へと下ろした
まだ…まだ息はあるけれど…
引きずり出されていた内臓をセリカちゃんの中へと戻して、魔法を使う
「あ、あれ…?」
治らない…どうし…あっ!そうだ、さっき俺自分を治した時の魔法が最後…なんだ…
待って…待ってよ…
セリカちゃんの開いた腹部を閉じるように手で抑える
俺の手にはベッタリと君の血が濃く…強く染まっていく
「ダメ…レイ、今の俺じゃ治せない……」
涙声でレイにそう言う
「セリ…乗り込む前に救急車と警察は呼んだが……セリカ…」
救急車?そんなの待ってる暇もないし、人間の医療じゃセリカちゃんのコト救えないよ
「セリカちゃん…あぁ…うわぁ……」
くっ…嫌だ、死なないで…
「…セリくん…泣いてるの?」
微かに動く君の手を俺は掴む
こんな姿になって、喋れるなんて…
目は開きそうにない、相当無理をしているハズ
「セリカ…ちゃん…喋っちゃダメ」
「無理、たぶん…私もうダメだもん
最期くらい喋りたい」
「最期じゃないから…」
「よかった…セリくん……助かって
ゴメンね、早く気付いてあげられなくて」
だんだんと息が細くなっていくのが目に見えていく
強く…強く、君の手を握りながら、祈っても祈っても…良くならない
「私、バカだな…
いつもの私ならこんなヘマなんてしないのに
庭から窓を覗き込んだらカッとなって…乗り込む前に警察に連絡してればよかった
でも…それより、本当はあの人に頼るコトがよかったのかもしれない
いつまで経っても、私は誰かに頼るコトも甘えるコトも、素直に出来なくて可愛くなくて
本当に、バカだ…」
「セリカちゃん…そんな弱気なコト言わないで…いつもみたいに」
「……何もできなかった…セリくんを助けたのは私じゃない
イングヴェィ?レイ?香月?」
視界が真っ暗なセリカちゃんにはレイの姿は見えていない
声も近くにいる俺のものだけ微かに聞き取れているくらい
「ありがとう…セリくんを助けてくれて、最期に会えてよかった」
小さくセリカちゃんが笑った気がして、そのあとは喋るコトはなかった
「セリカちゃん…大丈夫だよ…俺だけじゃないよ、セリカちゃんだって助かるから…ねっ?そうだよね?」
だって俺達はずっと一緒なんだって約束したじゃん
セリカちゃんが結婚しても…何があっても、何処にいたって…
やだよ、セリカちゃんがいなきゃ俺は存在してる意味がないんだから
溢れて零れる涙は止まるコトなく…俺が泣いても悲しくても寂しくてもセリカちゃんは何も言ってくれなかった
セリカちゃんは…昔こう言ったコトがある
俺の友達のウサギが亡くなった時
「死んだら…仕方ないね……」
セリカちゃんもとても可愛がっていた、自分の子供のように
たくさん泣いて泣いて…祈って、願って、それでもダメだった…
ダメになって、ウサギを抱きしめて君は言ったんだ
ちゃんと死を受け止めて、ウサギの幸せを願った
でも、俺はそう思わない…君を失って仕方ないなんて思わないよ!!
死を受け入れたりなんかできない!!できるもんか!!
「うわあああ!!セリカちゃあああんんん!!!!死なないで!寂しいよ!!悲しいよ!!俺を置いて…いかないでよ…」
悔しい…悔しいんだ…後悔しかない
俺があの時ああしていれば、こうしていれば…
なんで、こんなコトに…
嫌だよ、俺は…君を……
-続く-
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