2017年 第4話 大切なものを奪われたら セリカ編
「セリカ…機嫌が悪いな」
私はレイとクリスマスパーティの買い出しに来ていた
スーパーでこれとあれとってカゴに詰めながら、私は膨れている
「だってセリくん、全然連絡もしないし帰って来ないんだもん
いくらバリファさんのお仕事だからって、私との大切なクリスマスはどうでもいいのかしら」
気付けばカゴの中はカートの上も下もいっぱいで、さらにその中身はセリくんの大好きなものばかりだった
…こんな…お菓子までいっぱいだ…
「セリはクリスマスはセリカと過ごしたいと思っているよ
バリファさんの事も大好きだから一生懸命になっていても、今夜までには帰って来るさ」
「ん~…」
そうなんだけど…今日はクリスマスイブだよ…
みんなでパーティするのに、お手伝いもしないで仕事だからって……
ううん、違うわ…
私、なんだか嫌な予感がしてるんだ
何回電話しても、電源切ってるみたいで繋がらないしもちろんメールも返って来ない
「…あっ、すみません」
混雑したスーパーの中で男の人とぶつかってしまった
相手の人も「こちらこそ」と頭を下げる
はぁ…私、人が多い所は苦手なのよね
さっさと買い物済ませて帰ろっと
「大丈夫かい?」
「うん、それより見てレイ
あの小さなクリスマスツリー可愛い」
お花のコーナーで、腰くらいまでの高さのツリーがクリスマスっぽく可愛く飾られていた
一目見て可愛いと惚れてしまう
もう家のクリスマスツリー(偽物)は飾っちゃったけど
「買って帰ろうか」
「そうね、きっとセリくんも喜ぶわ」
「セリカはいつもセリの事ばかり、少し羨ましい」
レイは私の顔を覗き込んで笑うと私が何か言う前にツリーを持って会計を済ませる
いつも私はセリくんのコトばかり…か
「オレもセリと同じくらいセリカの頭にあってほしいよ」
全部の会計を終わらせたレイは私に帰ろうと言う
荷物は大量にあり、レイは大丈夫だと笑うけどさすがに多いからと私はお菓子ばかり入った軽い荷物を持たせてもらった
帰り道を歩きながら私はレイのコトを考えていた
何も…言えなかった、さっきの質問に
だから今も微妙な空気の沈黙が…
「…あっ!ここ!セリくんと思い出の公園」
いつも思い出す
通った時やクリスマスになると
色々あったなって…
「はっ!?また私、セリくんのコト…」
「ハハハ、いいよいいよセリカはそれで
セリの事はオレも好きだから」
レイはわかってくれている
私が結婚しても、セリくんがとても大切だってコトは変わらないって
だからそれも全て受け入れてくれると言ってくれたんだ
「そういえば、香月さんにプロポーズされたんだって?」
「なんで知ってるの!?」
「本人が言ってたぞ、振られたってな」
香月って自分からそういうの言うタイプなんだ!?ちょっと意外
「…香月には申し訳ないと思うけれど…」
「うん、セリカが香月さんのプロポーズを受けたら困る」
レイの…顔が見れない
俯いてしまう
ずっと待たせてるのに、長いコト
「オレもセリカにプロポーズした
あの時からずっと今でも変わらず好きだ」
もうとっくにみんな覚悟が出来ているのに
私は…私は…
言わなきゃ…
応えなきゃ…ちゃんと…
「私より良い人はいっぱいいるよ…?」
違う!!違うだろ私!?そんなコトを言いたいんじゃないのに…!!
向き合うのが恐いんだ、私の意気地なし
「オレはセリカがいい、セリカ以外は嫌なんだ」
私は…
出逢った年にレイに酷いコトをしたのに
それでもレイは私を好きでいてくれるんだ…
こんなにも自分勝手な私を
私もずっと、数年経ってレイがどんなに素敵で信頼できる人なのかを知った
セリくんにもとても優しくて大切にしてくれて、この人なら結婚しても絶対に幸せなんだってわかった
「そろそろ返事がほしい
セリカの気持ちを、セリカの口から聞きたいんだ」
そうだ、もう嘘付いたり誤魔化したり惚けたりしないって私は決めた
ちゃんと応えるんだって…私は…
顔を上げるとレイの顔が近いコトに気付く
えっ!?何!?この雰囲気!?
もしかして…
だんだんと近付いて…レイの唇が当たりそうに
「待って」
寸前の所で手で止めた
「…誰か見てる……」
公園の反対側にこちらを見てる人影に気付くと人影は去っていく
「…人前ではよくないな」
レイは残念だと肩を落とす
カップル(じゃないが)がイチャついてたら気になる人は気になるのかもしれない
でも、さっきの人影…なんとなく嫌な感じがした
なんだろうこの引っかかりようは
セリくん…何処にいるの、早く帰ってきて
私は胸の締め付けに心苦しくなった
そして、イブのパーティはセリくん不在のままはじまっては終わって次の日
クリスマスだ……
「もう!セリくんったら結局帰ってこないで!!」
私の怒りと不満は爆発した
帰ってきたらビンタしてやるから!!
はぁ…それにしても、昨日はレイに返事をする機会があったのに流れてしまったし…
せっかくのチャンスを何やってんだか
「みんなはまだ寝てるのかな」
隣の部屋、薄いふすまの向こうにはイングヴェィとレイと香月の3人が泊まっているハズ
セリくんのいないイブははじめてかも…
このまま…帰って来なかったらどうしよう
そんな、まさか
私のクリスマスプレゼントだよ?人間じゃないんだよ?魔法も使えるし…
でも…でも…なんなの、この不安でたまらない感じは…
「捜しに行こう…」
心配でたまらなくなった私は出掛ける準備をした
そうして、みんなに気付かれないように外へと出る
一体何処を捜せばいいのか、まったくわからなくても私は街を歩き回った
昼前、マクドで遅めの朝食と昼食を取る
「くっそ失敗した」
周りはカップルばっかりだった
しかもいつにも増してのイチャ付きぶり
街ん中もカップルばっかりじゃ!!
イングヴェィとレイと香月から電話が来て、ひとりひとりに説明もした
3人一緒にいるのに、ひとりだけかけてこいよ!?
同じ話めんどくさいだろ!?
セリくんを捜していると言うとみんなもそうすると言ってくれた
それぞれが心当たりのある所を捜してくれて、イングヴェィは一度天に帰ってバリファさんにセリくんの居場所を聞いてくれるとありがたい協力をしてくれる
「ねーあの人ひとり?」
「うわクリぼっち可哀相!」
黙れクソカップル
私を指差して笑うカップルはコイツらがはじめてじゃない
セリくんがちゃんと帰ってくればこんな可哀相な思いしなくてよかったのに!
別に可哀相とか私思ってないけどね、クリぼっちとか慣れてたし昔に
ポテトを食べながら私はもう一度セリくんが行きそうな所を考えた
いや待てよ、今家には誰もいないんだよな?
それなら一度家に帰ろう
もしかしてセリくんが帰ってきていて、お仕事で疲れて寝ているかもしれない
私はドリンクを一気飲みにし片付けて家へと帰った
「………。」
帰り道は、誰かにつけられているコトに気付いた
私が足を止めれば相手も足を止める
振り返ると目が合ってニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべられた
ストーカーか、まぁ珍しくないな
男は家の近くまでついて来るだけで何もしない
声をかけてくるワケでもなく、わざと私が一人暮らしアピールをしても男は襲ってくるコトもなく来た道を戻り去っていく
「なんだ…あの男……」
なんだ…ものすごい引っかかる
ここで見失っちゃいけないって強く何かが訴えかけている
いつもなら一人暮らしアピールなんてそんな危ないコトは絶対しないのに
私はさっきの男を強く意識していた
追いかけよう、目には目を…ストーカーされたらストーカーし返すんだ!!
私は生まれてはじめて、ストーカーをした
しかもどうでもいい男を
見つからないように後をつける
男はご機嫌で周りが見えていないみたいで私には気付かない
「ここが奴の家か」
家は突き止めた
一軒家だが、壁が高く中の様子が見えない
「失礼しまーす」
何処まで危険に足を踏み込むのか、私は門から静かに入り庭へと回る
いや、なんかストーカーされてムカついたから
セリくん帰って来なくて腹立ったからちょっとした八つ当たりを…
「うっ…!?」
庭へ回ると、隠された壁の内側は動物の惨たらしい死体が放置されている
なっ…アイツ、あの男…こんな酷いコトを?
数ある中のひとつにうさぎの耳は千切られ、顔には無数の待ち針が刺されている
身体は毛を剥かれ丸裸にされ、火で炙ったのか大火傷していた
酷い…許せない…
他の動物も…犬、猫、鼠、鳥、みんなみんな酷い姿で放置されている
こんなの…近所の人が気付いて通報しないのか?
臭いとか…いや、ここにいる動物達はまだ臭うほどじゃない新しいわ
まるで、誰かに見せつけるような…放置の仕方…
ふと窓のほうへと視線を向けると部屋の中が見える
「えっ…あれ?…何…」
心臓が止まりそうだ
信じられなかった、見間違いなんじゃないかって目を反らしたかった
熱が上がる、手に力が入る
私の目に映ったのは、手足が切断されていて腹部から内臓を引きずり出されているセリくんの姿だった
「…セリ…くん、そんな……ウソだ」
でも…それは現実だ
私の視界は涙で霞む、それでも私は一心の想いで辺りを見回す
大きな石が庭に半分ほど埋まっているのを見つける
私はその石を掘り出そうと土に爪と指を立てた
薄く柔らかい私の爪は硬い土に負けて剥がれ折れてしまう
血が流れてもそんな痛みなんてわからないくらい私は必死で石を掘り起こし持ち上げる
待ってて、すぐに私が助けてあげるから!セリくん!!
大きな石で窓ガラスを勢いよく割った
そこから手を忍ばせて鍵を解除しようとしたら、窓ガラスを割る前に男に気付かれ
「そんな事しなくても開けますって」
ガラスの破片で伸ばした手も腕も傷だらけになってしまう
それも私は何も感じなかった
私にあるのは、この男への怒りだけだ
セリくんを助けたい、それだけなんだ
「ようこそ、僕の新しいおもちゃ
女神様は粋な事をしてくれたねぇ、女の子のおもちゃがほしいって願う僕にクリスマス当日にちゃーんと!クリスマスプレゼントしてくれる!!」
男は鍵を開けて私を中へと入れた
「セリくんを返して!」
私はあまり冷静ではなかった
怒りに任せて乗り込んでいるのだから
話が通じるとは思っていないし、相手は男だ
力じゃ絶対に負ける
私は相手の出方を見る前に先手必勝でタックルをかます
意外に上手くいった
男は部屋の隅に積み上げてあったゴミの山へと後ろから突っ込み倒れる
「セリくん…!帰……」
素早くセリくんのほうへ向き直り駆け寄るが…窓の外から覗くより、近くで見るとその痛々しい姿に言葉を失う
目を開けてくれない…私が呼んでも返事をしない
もしかして…死…ううん!そんなコトない!絶対ないから!!
私はセリくんの身体を持ち上げる
それなりに重かったけれど、手足も内臓の半分もなかったからとても軽いと思ってしまった
女の私が持ち上げられるくらい軽いって…なんだよ
「大丈夫、セリくんは人間じゃないから死んだりしない!イングヴェィがなんとかしてくれる!だから大丈夫!!」
そう自分に言い聞かせても、私は気持ちがいっぱい溢れて泣きだしてしまう
早く…ここから逃げて……
窓に手をつこうとすると、男に背後から掴まれ引きずり戻される
「逃がさない、僕のおもちゃ
一番ほしかった女の子のおもちゃ…楽しく遊ぼーよ!ねぇっ!!」
おもちゃ?ふざけるな!!!
このクソ野郎はおもちゃと言って外の動物達やセリくんに酷いコトしたって言うのか!?
私の…クリスマスプレゼントを…大切なものを壊したこの男を私は絶対許さないからな!!
「オマエと遊んでる暇なんかあるか!警察に突き出してやる!!」
めちゃくちゃ暴れた、死ぬほど暴れた
負けてたまるかって私は気持ちでは負けなかった
「警察は困る、僕は犯罪者になりたくないからねぇ
だから人間じゃないセリくんや貴女で遊ぶんだよ」
男は私を部屋の壁へと押し付け、壁に両手をナイフで突き刺し動きを封じる
「いっ…」
痛い…何、凄く痛い…
さっきまで感じなかった痛みもこの激痛には耐えられそうにない
バカだ私…捕まってしまったらもうどうしようもないのに
「ほーら、女の子の方がやっぱりいい!
柔らかくて…」
男は私の胸を掴む
き、気持ち悪い…痛い…痛いし気持ち悪いし…嫌だ
さらに服を切り刻んで私は下着姿のままにされる
ヤバイ…今日は上下違うやつだ
しかもウサちゃんパンツ
これは死んだ時に見られたら恥ずかしいやつだ
「僕はー、女の子にしかないものがずっと見たかった」
男の持つナイフを目の当たりにして背筋が凍りつく
熱が引いて、やっと自分の置かれた状況に気付く
死ぬ?私は…ここで…そんな、いきなり殺されるなんて……
嫌だ、でも…
「見せてくださいよ」
男は私の腹部にナイフを切り込み開いていく
「い、ぃ……たぁぃ」
我慢できない激痛が腹部から全身へと広がる
そこから男の手が入ってきて、気持ち悪いのと激痛で頭がおかしくなりそうだ
「これか~?女の子にしかない…子宮ってもの」
意識が…遠くなっていく
血がたくさん流れ出ちゃったもん
もうダメなんだ…私は…
こんな、気持ち悪い男の手を突っ込まれたまま死ぬなんて最悪…
痛い、痛いよ最悪だよ
でもでも…
セリくんはいなくなったあの日からずっとこうされて来たんだ…
私…私、気付いてあげられなかった
最悪、私ってめちゃくちゃ最悪だ
今だって、助けられていない
セリくんを助けたかった…
早く気付いてあげられなくて、ごめんなさい…
でも、いいや…セリくんが死ぬなら私も死んだって
だって、セリくんは寂しがりだから私がいないとダメじゃん
こんな死に方は嫌だけど、セリくんの苦しみに気付いてあげられなかった罰だね
視界が霞めば耳も遠くなる
そんな中で
「……その子に…手を出すな」
セリくんの声が聞こえる
小さな、消えそうな命を私の為に奮い立たせて…
なんだ…じゃあ、私も死ねないね…
セリくんが生きててよかった
それだけで私は痛くても気持ち悪くても、笑ってるよ
涙を流しながら、セリくんの顔が見えなくても
そこにいるってわかっているから
-続く-
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