2017年 第3話 苦しみも悲しみも憎しみも
君のコトを想う
毎年、セリカちゃんは何も言わないけれど
俺がマスターのお仕事で数日いないだけで寂しがっているコト…知ってるんだ
今年もきっと寂しい思いもさせているに違いない
早く…早く帰ってあげたい
そして、強く抱きしめてあげるから
真夜中に
眠っているのかいないのかわからない狭間で、君のコトばかり考えていたらそれは夢にも見てしまうのかただの思い出した記憶なのか…
「セリカちゃんはどうして誰からのプロポーズも受けないんだ?」
見た目は俺とソックリで綺麗系、黙っていれば上品なお嬢様
性格は…まぁ…うん
なんやかんや、セリカちゃんはモテる
本人はモテるコトがあまり好きではないみたいだけれど
「それはね、あの人と私が遠慮しているからよ」
あの人…?誰?イングヴェィ?レイ?香月?それとも俺の知らない男?
セリカちゃんはわざわざあの人と表現して、俺にすら自分の気持ちを隠し通した
「私が結婚したら、今の環境も関係も変わってしまうもの
そんなのいつまでも続くほど私達はもう子供じゃないのにね」
とセリカちゃんは苦笑する
「いいの…私はこのままでも幸せだし
でも…そろそろ…何年経ったかな、長すぎたね
嘘付いて誤魔化して惚けるのも、ずっと出来るコトじゃないよね」
好きな人にいつも嘘付いて誤魔化して惚けてたのか!?何年も!?
まぁセリカちゃんツンデレだから、今更驚いたりしないよ
「………セリカちゃんが結婚したら…俺は……」
今のみんなとの関係が俺には永遠に続くと思っていた
幸せな時間…
それが君の結婚の時にガラリと変わってしまう
俺は君のクリスマスプレゼントで、家族で兄であった
家族で兄で…それは人間としたら…君の結婚で傍にはいられなくなってしまうもの
当たり前のコト
寂しいよ…悲しいよ…正直嫌だよ
でも、俺だって大人になって…君の幸せを願って受け入れたい
だから…その時が来たら…笑って、おめでとうって言わなきゃ
寂しくて…寂しくて…どうしようもないくらい、死にそうでも
「な~にセリくん、その顔…いつまで経ってもガキなんだから」
俯く俺の顔を覗き込んで君はふふっと吹き出すように笑う
君は俺の気持ちなんて…
「心配しなくてもセリくんと私はずっと一緒だよ
私が結婚してもそれは変わらないわ
あの人だってそうあってほしいと願っているから」
よくわかってる
俺を安心させるように君は俺をぎゅっと抱き締めてくれる
温かくて優しいセリカちゃんのコト、俺は大好きだ
「セリくんのコトを追い出すような人と私が結婚すると思う?
そんなん一生独身でもいいわ」
クールな君は結婚にあまり興味がなかった
本気で好きな人が出来たら結婚する
そんな人が現れなかったら結婚しないで独身でもいい、と言うんだ
俺がいるから寂しくない
俺がいるから幸せ
俺がいるから頑張れる
って…いつの間にか君は俺をとても大切な存在だと思っていてくれていた
俺だってそう思っている、両想いだって知ってる
なのに、俺はいつも不安になってしまう
「アハハ…よく君と結婚してくれるような物好きが現れたな」
今だって誰にも渡したくない
ぎゅっと抱き締めて離したくない
「残念だったね、物好きがいて」
でも、いつも不安になったって君はすぐに俺を笑顔にしてくれる
結婚相手には悪いが、君にとっての1番はアンタじゃなくて俺だってコト
それだけで俺は最高に幸せなんだから
寂しくなんかない、セリカちゃんが結婚しても
今の環境が変わっても、俺達の関係だけは少しも変わったりしない
環境が…変わったら……
「わっ…!?」
冷水を浴びせられ目が覚める
一晩寝れば魔法力も回復して、身体中の傷は元通りに治せる
「起きたねセリくん!!おはよー!!」
目の前にいるのは、俺の幸せじゃなかった
いつも目が覚めたら…大好きなセリカちゃんがいた
でも、今は目が覚めたら大嫌いなシンがいる
恐怖でしかない…
「今日も僕と遊ぼう」
「い、嫌だ…帰りたい…」
「聞こえませーん?」
「だって、シンは俺に痛いコトするじゃん
こんなの…」耐えられない
「僕のクリスマスプレゼントを僕がどういう扱いしようが僕の勝手だろ!?
僕のおもちゃが反抗的な事を言うんじゃない!!」
乱暴に髪を掴まれ引きずられる
またはじまるんだ…アレが…
長い長い1日がはじまって、俺は耐え続けるしかなかった
死ぬような時間が続く、痛みは慣れるコトなく新しい痛みを次から次へと与えられていく
死にたくない
セリカちゃんの所へ帰るんだ
大好きなセリカちゃんの所へ…
好きって言ってもらう、ぎゅっと抱きしめてもらうんだ
大好き…大好き…セリカちゃん…
現実逃避のようにセリカちゃんのコトしか考えられない
幸せだった日々を忘れたくないから思い出しては、現実の激痛に呼び戻される
俺の幸せはあの時から壊されて、もうすぐなくなってしまう
「痛い痛い…!やめて!!」
拷問はどんどんエスカレートしていく
腹を裂かれ、そのまま内臓を掻き回される
このくらいじゃまだ死なない
魔法力が残っているうちは回復ができるから
でも、痛みは感じるから今は終わりのない永遠にも感じる
シンは俺の魔法力が底を尽きる手前で止めては一晩経って回復するのを待つ
きっと、最後の日のクリスマスは魔法力が底を尽きた後に殺されるんだ
「セリくんの反応いいよぉ、興奮する」
前の俺はここから逃げ出せた
そのせいでセレン様に壊されるコトになった
今だって逃げたいよ
でも、今回はこの家から出られないようにされている
死にたくない
セリカちゃんと会えなくなるから…
でもでも…痛いのは嫌、恐いのは嫌、苦しいのは嫌、辛いのは嫌、悲しいのは嫌
嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ…!!
痛いのと、身体の中を掻き回されるなんて気持ち悪い!!
「い…や……」
抵抗するように弱々しい手を伸ばすとシンはそれを払いのけ、俺の舌を引っ張り掴む
「いや?僕のおもちゃなのに?
もしかしてここから逃げ出したいとか思っちゃってる?
だめだめだめー!君は僕の事を楽しませる最高のおもちゃでしょぉ!?」
スパッと舌をナイフで切り落とされる
溢れる血が息を止める
苦しい…必死に息をしようと血を吐き出してもすぐに溢れ出る
「今日は失神しないの?それとも慣れてきた?」
慣れるかボケ!!
コイツを殺せば解放される…けど、俺が人間を殺せば自分も消えてしまう
それが俺と言う存在なのだから
耐えるしかないのか…耐えた所でクリスマスの日に殺されるのに…?
大好きなクリスマスは…大好きなセリカちゃんと一緒にいたい…のに……
「…そろそろセリくんの魔法力も切れる頃かー…今日はこの辺で
明日はクリスマスイブ、君の最期の前日だから張り切る」
明日…?もうクリスマスイブ?
永遠のように長かった拷問の日々も後2日で俺は殺される…
なんとか、ここから抜け出さないとって思ってるのに休むヒマもなく何も考えられない
終わった後はすぐに眠って魔法力が回復してしまうから…
セリカちゃん…会いたいよ……
枯れるほど涙を流しても、いつまでも枯れるコトはないんだね
クリスマスイブの日
いつもなら…みんなと楽しく過ごす俺の大好きな日だった
でも、今年は違う
シンが手加減するワケもなく、俺にさらに強い痛みと絶望を与えた
散々遊んだ後に
「クリスマスイブにはケーキがないとはじまらないなぁ!」
とか言って出掛けてしまった
シンがいなくなってから、少しの休憩が出来る
残っている魔法力を使って痛みに耐えながら身体を治す
手足がなくなっている自分の姿を見るのにももう慣れた
最初はそれが痛いだけじゃなく、恐くてたまらなかった
自分じゃなくなるようなショックを受けたんだ
窓の外を見ると空は曇っている
寒い…なんか、俺ずっと寒いよ…君がいないから
「みんな…と会いたいな…」
今日はイブだから香月も帰ってきてるんだろうな
イングヴェィもレイもいて、セリカちゃんはパーティを楽しんでるかな
いや俺が帰らないコトに怒ってるかも
連絡もできないし…
「セリカちゃん…」
俺…帰れないかも、君の所へはもう…
どれだけ外を見ていたのかわからない、けど俺にはそれがとても短く感じて
出掛けてたシンが帰ってきた
玄関のドアが音を立てるとびくついてしまう
またはじまるんだって…わかっているから
「セリくん!聞いてくれ!!
外で可愛い女の子を見つけたよ!!」
シンはご機嫌で俺の傍まで来ると興奮して喋り出す
「あんな子を、めちゃくちゃに遊んでやりたいなぁ…」
「それは…ダメだ
人間に手を出したら、犯罪になるんだぞ」
「わかってるってよー、僕は犯罪者にはなりたくないから妄想するだけで実際にはしないって」
シンは強い願望を持っていても、理性で押さえ込み人間には手を出さない
隠れて動物相手にやらかしたりはするが…
動物だって立派な犯罪なのに…
シンは本当に酷い男だった
俺が動物好きなのを知ると、いつもよりたくさんの動物を捕まえてきては目の前で残酷に殺して笑う
助けられなかった…魔法で動物達を外に逃がそうとしても、俺の魔法はこの家の外へまで届かなくなっていたから
せめて…苦しまずに魔法で息の根を止めてやればよかったかと後悔しかない
シンは簡単に殺したりしない、苦しめて苦しめて…殺す
それがこの男のやり方
「女神様も僕の願いを叶えてくれるなら、男より女の子がよかったなぁ
セリくんは男でも綺麗で可愛いからなぶりがいがあるけど、物足りないなぁ
女の子ならあんなことやこんなことだってしたいのに!!」
あんなことやこんなことが何かはわからない
ロクなコトじゃないと思うけど
「まっいいかぁ!セリくんをその女の子と思って楽しめばいいんだしさ!!」
またシンの手が俺に伸びる
その手に掴まれたら、もうその先は悪夢しかない
そうして、クリスマスがやってきた
シンは朝から出掛けていて、俺はいつもより遅く目が覚めた
どうしよう…もう今日しかない
今日俺は殺されてしまう
結局、逃げられなかった…
いや…まだだ、まだ諦めたりしない
俺はセリカちゃんの所へ帰るんだから!!
窓はダメ、玄関のドアも開けられない
それなら…シンが帰ってきた所を狙えばいい
玄関のドアの前で待ってて、シンがドアを開けた瞬間に飛び出せば
逃げられる可能性もある
なんて…
「お出迎え?」
甘い考えだった
シンが帰ってきて、タックルするように飛び出してみたが、簡単に阻止される
「聞いてセリくん」
笑顔でシンはそう言いながらナイフで俺の片耳を切り落とす
聞いてほしかったら耳落とすなよ!!
俺の腕を掴み引っ張りいつもの部屋へと連れて行かれる
もう…ダメだ……
閉まる玄関のドアを見て、もう終わりなんだと涙で視界が歪む
「昨日の可愛い女の子と目が合ったんだよぉ!!」
俺を突き飛ばし、覆い被さっては腹へとナイフを突き刺す
「僕さぁ、見てみたいんだよねぇ
女の子の…女の子にしかないもの」
俺のコトなんか見ていない
シンはその女の子に夢中なのか、想像しながら俺をメッタ刺しにする
「ほしいなぁ、ほしい…ほしいほしいほしいほしいほしい!!
あの女の子が僕はほしい!!こうして引きずり出して…」
開いた腹の中をかきむしり掴む
痛い…もう嫌だ
我慢するのも…
息をするのも苦しい
ピタリとシンの動きが止まる
庭へと顔を向けて
「…女神様は……僕が一番ほしいものをくれたよ……」
俺の内臓を引きずり出して掴んだシンの手の力が抜ける
霞んだ視界でシンの視線の先を…追えなかった…
魔法力のなくなった俺はもう生きているコトも出来ないのだから
最期に君の夢が見れてよかった…
君は凄く怒っていたけれど
ゴメンね…セリカちゃん
でも、嬉しいよ…夢でも最期に会えて
帰れなくて…本当に、ゴメンなさい
俺はセリカちゃんのクリスマスプレゼントなのに…
大好きだよ、死んでも君のコト
-続く-
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