2017年 第2話 香月からの セリカ編

「………遅い…」

レイの所へ遊びに行ったセリくんに、夕飯が出来たから早く帰って来いってメールをした

すぐに返事が来て、まっすぐに帰ると言ってから2時間も経っている

レイの家から私の家まで歩きなら30分ほどだ

そんなの帰って来ないのはおかしい

しかも今夜はセリくんの大好きなハンバーグカレー、喜んで走れば20分で帰ってきてもおかしくないのに

「もしもしレイ?セリくんなんだケド…」

別に心配してるワケじゃない

7歳でも、見た目も中身も私と同じくらいの成人である…子供っぽいが……

「そうなの、まだ帰ってなくて…たぶん大丈夫だとは思う

もしかしたら急にバリファさんのお仕事が入ったのかも」

レイの家は返事が来た時間と同じくらいに出ている

セリくんは毎年マスターのお仕事をお手伝いしているから、急にそうなったとしたなら一生懸命しようとして連絡を忘れるコトも…なくはないかもしれない…

「もう…せっかく作ったのに」

レイとの電話を切ってテーブルの上にある冷めた料理に頬を膨らませる

お仕事だったとしても連絡のひとつくらい入れなさいよね!!

プンスコプンスコしながら、私はひとりで冷めたハンバーグカレーを食べるコトにした

「……なんか寂しいな、やっぱ」

あの日からいつも一緒なのが当たり前だった

日中の仕事は別々だけど、家に帰って少し待てばセリくんは絶対帰ってきて

休日もほとんど一緒

毎年この時期になると少しの間だけ帰って来なくなる

セリくんの本当のお仕事があるから

クリスマスプレゼントを届けに行くコト

そのたった数日が毎年慣れないで寂しいと感じる

そうして私達は出逢ったのにね…

最初は鬱陶しいストーカーとか思ったけど、いつの間にか大切な存在になってて

今も何よりも大切だとわかっている

恋愛感情は一切ないけれど、私はセリくんが恋愛感情にも負けないくらい特別な存在だと認めていた

寂しいとか、そんなの死んでも言わないけどね

…調子に乗るから、それに邪魔したくないし

「早くお仕事終えて帰ってきなさいよ…」

昨日と寒さは変わらないハズなのに、セリくんがいないともっと寒いと感じてしまう

冷たいベッドの中も久しぶりだな

いつもはセリくんがいるからあったかくて…

心配しながらも私は眠りにつく

なんとなく嫌な予感も抱えながら…



次の日の朝は起こされた

「おはようございます」

朝早くから家を訪ねて来たのは香月だった

「酷い顔ですね」

「久しぶりに会ってそれか」

寝ていたのもあるが、セリくんが心配でまともに寝れていないのもあった

目の下には酷いクマが出来ている

そして香月は当たり前のように部屋に入ってくる

「待て待て、まるで自分の家かのように」

「明後日はクリスマスイブでしょう?だから帰って来たのですよ」

それはわかってますケド…

香月はいつもは海外で働いていて、会えるのはクリスマス近くになってからの数日間だけ

忙しいらしいのに、毎年この時期だけちゃんと帰ってきてはみんなと過ごすと言う約束を守っている

「セリは?」

「昨日から帰っていないわ、たぶんバリファさんのお仕事」

「そうですか、それなら2人っきりですね」

「すぐイングヴェィとレイも呼ぶから」

実はイングヴェィとレイ以外にも香月からもプロポーズされたコトがあった

「今年も売れ残っているようなので私が買いましょうか」

「ぶっ殺すぞ」

毎年こんな挨拶のようにプロポーズを受ける

そう、冗談なのよね

香月はハッキリ言って…私のめっちゃタイプだ

黒髪の長身美形が私は大好きなのだ

性格も割と好きなほう、たまに腹立つけど

でも、好みのタイプと好きは違うみたいで

私は香月に恋愛感情を抱くコトがなかった

「好きで売れ残っているのよ」

「…えっ?」

いつでもお嫁にいけると思ってる?みたいなガチな表情やめろ!!

「なんかさ、私が結婚したら今のみんなとの関係が崩れてしまうような気がして

こうしてクリスマス近くになったら、集まるコトもなくなるのかなって…」

それが私は寂しいと思っているワケじゃない

毎年…毎年、セリくんはみんなと過ごせて幸せだって顔をするから

それがなくなってしまうのが…嫌なのかも

私が結婚したら、セリくんも遠慮して距離を置かれてしまうんじゃないかって

笑顔もぎこちなくなってしまったら…

私はその答えが間違ったのだと思ってしまうから

「変わるでしょう

もう皆さんそれに気付いています

セリ自身も、覚悟は決めているかと」

「……そうね…長すぎたもの」

私の心配するコトはいつの間にか、とっくに過ぎた昔のコトなのかもしれない

みんなこの数年で、考えも覚悟も何もかも決まっているハズ

それなのに私はいつまで一歩を踏み出せないのか、どうして受け入れないのか…

そんなの…未来がわからないからだよ

セリくんと出逢う前の私は、セリくんに出逢うコトの未来なんてわかるワケなかった

未来がわからないから恐い、間違うコトが…私の答えが恐いの

「うん…そうだね」

「私と結婚しませんか?」

「……はっ?」

なんて?ちょっと聞こえなかった

普通に会話してて急に聞こえなくなるコトってあるか!?

ないわ!!ちゃんと聞こえていたよ

でも、それは幻聴じゃないのかと思うほどはじめてだった

「いやいや…なんて?」

「私と結婚してください、セリカ」

香月は…私をまっすぐと見下ろしていた

顔は洗ったケド、ノーメイクで髪もボサボサでクマが酷くてパジャマ姿のままの私にそう言うのだ

確かに私は毎年香月からプロポーズを受けていた

売れ残っているから買うと、それが冗談なのか本気なのかわからない曖昧な感じ

こうして、ストレートにハッキリ言われたコトはなかったから

「本気!?」

「もちろんですよ」

「ウソでしょ!?香月と私ってそんなに一緒にいるコトもないし話すコトもそんなに…」

毎年冗談ばっかり言ってたくせに…急になんなのか

ビックリした、驚いた、信じられなかった…

だって、香月はそんなに私のコトよく知らないと思うよ?

よくわからん女より、香月もモテるだろうから可愛い女の子がたくさん群がって選び放題だろうし

何より私より素敵な人にもたくさん出逢ったんでしょう

「離れていたら、好きになってはいけませんか?

私は貴女以上の人には出逢った事がない」

「そういうの見る目ないって言うのよ!?」

本気なんだ…そっか、そうなんだね

離れていても…よく知らなくても、好きになるコトはあるわ

何もおかしいコトじゃない

「…いや…真面目に…する」

ってか、私以上の人がいないとかありえないでしょ!!

見た目だって中身だって、賢さだって私以上の人なんていっぱいいるよ!

それでも私なんだ…私を選んでくれたんだね香月は…

「……ありがとう、嬉しいわ

でもね、私…好きな人がいるの」

「知ってます」

知ってんのかい!!

「そ、そっか…だから…ごめんなさい」

私のコトを好きになってくれてありがとう

でも、そのコトに対して嬉しくはなかった

好きな人以外に好きって言われると困ってしまう

私は貴方に何も返せないから

好きを返してあげるコトができないから

申し訳なく思ってしまう…

好きな人に受け入れてもらえないコトはとても悲しくて寂しいコトだし…ね…

「早く結婚してください

貴女がいつまでも売れ残っているから、私も諦められないのです」

「うっ…それは…」

「告白はしましたか?

振られても私がいるので大丈夫でしょう」

何が大丈夫なのか…

もう、振られろ!!と言われているような気分だよ

「してない…けど、向こうからはプロポーズ…されました……まだ返事してないの

何年も……」

「………。」

アホなの?意味わからないんだけどって顔してる!!?

わかってるよ!そんなコトはさ!!

でも、色々と事情が…あって……

いやそれももう長い月日の中で解決はしているのかもしれない

それでも…私がなんか臆病っててね…ダメだな

「意外です、貴女はハッキリしている女性だと思っていました

正しい事でも誰も言えない状況であろうと言っては周りの心労を増やすような」

そんな女を嫁にしようとしてるのよ貴方は?

香月と長々話していると、またピンポーンと鳴る

ハッ!?そうだ!イングヴェィとレイを呼んだんだったわ!

ヤバイヤバイ!早く着替えてメイクして髪も整えないと

香月にイングヴェィとレイを迎えて、私の部屋には絶対誰も入れるな覗くな!と伝える

「おはようセリカちゃ…あれ?香月くん…」

「今年は早く帰って来たんだな、香月さん」

「一年振りです」

薄いふすまの向こうで3人の声が聞こえてくる

1人足りないと感じながら…私は、彼はお仕事なのだからと我慢して抑えた



-続く-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る