2017年 第1話 誰のものか
なんやかんやあっという間に12月、今年で8回目のクリスマスを迎える
君と過ごす日々は幸せいっぱいで、そして平和が続いて…ドンッと背中に何かがぶつかる
「ちょっとセリくん、朝からコタツの中でゴロゴロしてないでどいてくれる?お掃除中なの!」
平和は長く続かなかった
俺の平和、コタツの中でぬくぬくが今脅かされているのだ!
「だって寒いんだもん!」
隙間風が!!
俺とセリカちゃんはまだあのお化け出そうな曰く付きのオンボロアパートに住んでいた
もうなんか最近は雨漏りしそうなくらい天井の色が変わってたりもするし、網戸なんて古すぎて開かなくなってるし、畳は所々ハゲてトゲが刺さって痛い、ドアの隙間開いてるのが目に見えてとにかく冬は寒く夏は暑いなどなどまだまだ不満はある
引っ越すお金はあるにはあるんだが、セリカちゃんはここにいると言う
綺麗なお部屋のほうがずっといいのに…
セリカちゃんはそのうちお嫁に行くだろうから引っ越しのお金が勿体ないんだって
イングヴェィとレイのどちらのプロポーズもまだ返事をしていないのに何言ってんだか
と言うか、セリカちゃんはイングヴェィとレイのどっちが好きなんだろう?
前にレイとそんな話をしていたら、見ればわかると言っていたケド…俺は全然わかんないね…
見た目も知能も大人として創られている俺でも、年齢はまだ7歳(誕生月は1月)
恋愛面や感情面はまだまだ未熟だったりする
セリカちゃんのコトは大好きってわかっても、恋はよくわかんないし、女の子に興味はまだ…
と言うか、俺は人間じゃないからこのまま永遠に恋なんてなくて女の子に興味を持つコトすらないのかもしれない
マスターの所にいるみんなだって、そんな話をしている人がいたかどうか…俺の記憶の限りはいなかった
まいっか、別に困らないもん
あっ!これフラグとかじゃないから!!
俺に好きな女の子が出来るとかないから!!
セリカちゃんがいればいいんだ
だって、俺はセリカちゃんのクリスマスプレゼントで世界一幸せ者だから
「寒いならレイの所にでも遊びに行ったら」
コタツから引きずり出された
幸せは一瞬で壊れる
「えー、冬はセリカちゃんと一緒にいたい気分になるのに…俺も掃除手伝うから!!」
「出てってくれたほうが掃除しやすい」
ガーン!!俺の片想い!この温度差!!
確かにレイの家はあったかくて、何よりめちゃくちゃ甘やかしてくれて居心地良いけどさ!
セリカちゃんは掃除機の先で俺の足を突っつく
俺が掃除を手伝うと余計散らかったり手間がかかるからやるなと言われていたのは何年前のコトか…
俺だって成長してるんだぞ!いつまでもキッズ扱いして!!
お外は寒いからヤダヤダと甘えるように抱き付く
「あっ…そういえば、セリカちゃん最近太った?」
なんか抱き心地が昔より…
「ギクッ…ぅっ……」
柔らかい気がする!!
見た目は昔と変わってなくて細いんだケド、同じ顔なのに俺と違って女の子の身体はふにふにして気持ちいい
「うるさいわね!さっさと出て行きなさい!!」
うわっなんかわかんないケド、めっちゃ怒らせた!?
「うっ…わかったよ、今日はレイの家に遊びに行ってくる」
本気の邪魔って目をされて、俺はしぶしぶとコートを羽織って外に出た
俺はセリカちゃんと過ごしたいのに…
でも、今日は普通の日…クリスマスは毎年のように一緒だからいっか
そう思うと今年のクリスマスがまた楽しみで楽しみで仕方なくなった
クリスマスが近付く度にその嬉しい気持ちも大きくなっていく
レイの家に着いた
去年かな、レイはマンションから引っ越したんだ
家を買ったみたいで「セリカを嫁に貰って一緒に住むんだ」って豪邸をな
まだプロポーズ受け入れてもらってないし、セリカがレイを選ぶとも限らないのに
ピーンポーン
あっ連絡しないで来ちゃったけど、よかったか?
「セリ、どうしたんだい?」
急に来たけどレイは爽やかに笑って俺を家に迎え入れてくれた
レイとは出逢った頃は敵だなんや怪しい奴だやら、セリカちゃんに近付くなとか思っていたが
すぐに意気投合して今では大親友の仲だ
レイはセリカちゃんと同じくらい俺を大切してくれて、俺はセリカちゃんがレイのお嫁さんになっても変わらない関係をくれるんだって思った
セリカちゃんを俺から奪ったりしない、俺も一緒に住もうって言ってくれて…嬉しかった
「あら~?その子は誰かしら?」
部屋の奥から知らない女の人が…何故か下着姿のまま廊下に出てきて俺を見下し不適に笑う
「……………。」
誰だこの女…
えっ!?なんで下着姿なの!?レイの家に!?
「誰!?はこっちの台詞だ!どういうコトだよレイ!!
オマエが浮気なんて信じらんねぇ!軽蔑する!!」
付き合ってないから浮気って言葉も変だが
レイはセリカちゃんのコトが好きだったのに…あれか!プロポーズの返事をされずに長いコト待たされたからセリカちゃんのコトは諦めたのか!?
「おい姉さん、セリが来たから着替えろって言ったじゃないか」
えっえっ…?姉さん?お姉さんいたの?
似てないけど?
「嫌ねぇレイったら、本命の彼女はそっちなのぉ?私との関係がバレたからって姉呼ばわりは酷い男」
クスクスと笑って俺を上から覗き見るように近付く
「ちんちくりんで胸ないし、こんなのの何がいいのかしら」
胸ないのは俺が男だからだが、セリカちゃんもこの巨乳のお姉さんに比べたら小学生だったので何も言い返せなかった
「やめろって、いくら姉さんでもセリを悪く言うと許さないぞ」
「はぁ、つまんないわねレイ
せっかくなんだから他の女が家にいたらってシチュエーションで彼女の反応を見たくないの?」
やっぱり本当のお姉さんなのか
背の高い女の人、金髪で夜色の瞳…レイと同じだけど…性格なんかは違うな
これが…結婚したら…小姑ってやつか
「彼女のセリちゃん?だっけ、私はレイの姉のレン
レイは今まで女の子と付き合った事がないの
はじめての彼女がこんな育ちの低そうな女の子で可哀想
でも彼女ならまだ大目に見るけれど結婚は駄目よ、期待しないでね
もちろんデキちゃったも許さないわ」
「彼女じゃありません!!結婚できないし!子供も産めないです!」
男だもん俺
じゃなくて!この人は俺をセリカちゃんと勘違いしてるんだよな
なんだ!?めっちゃムカつく!
育ちが低いってなんだよオイ!
そりゃセレブ様のアンタとは住む世界も違ぇだろうな!!
だからってセリカちゃんをバカにするのは許せねぇ!!
そっちがその気なら、アンタに嫌がらせする為に俺はレイとセリカちゃんを結婚させるぞ!
「じゃなかった!私はレイの彼女で、もう今日結婚します!」
俺はこの顔をフル活用してセリカちゃんのフリするコトはよくあるんだ
「セリと結婚か…この国では出来ないぞ?」
「空気読めよ!?」
お姉さん納得させないと結婚認めてもらえないってコトわかってる!?
なんとかなると思っているのか、本気で説得しようとしないレイ
他人事じゃないから、この状況
セリカちゃんがオッケーするかどうかは知らんが
「認めないわよ、レイはちゃんとした所のお嬢さんと結婚するんですもの
こんな野良兎は早々に捨てなさい
お姉ちゃんがお見合いのセッティングしてあげますからね」
馬鹿にされてるのはムカつくが…セリカちゃんがレイのコト好きかどうかもわからないのに、お見合いなんてするなよ!とは言えず黙って唇を噛むくらいしかできなかった
レイの人生だから俺が口挟むコトじゃない
レイがお見合いを受けるならそれでいい
俺は反対したりしない
でも、もし俺がセリカちゃんの心を知っていてそれがレイを好きと言うコトだったら
ここは黙っていたりなんかしないんだけれどな
「姉さん…またその話かい
オレはお見合いなんてしないぞ
何度も言うが、オレはセリカが好きなんだ
セリカ以外の女性なんて考えられない」
「まだそんな事を言っているの?
貴方がプロポーズしてから何年経っていて?
今日はじめてセリちゃんに会ったけれど、その子全然レイの事好きじゃないって顔してるじゃない」
レンさんは俺を見て溜め息付いている
それは…俺はセリカちゃんじゃないし…
でも…なんか……
「いつか好きになってくれればいい…
オレはセリカを急かしたりしないから
姉さんにはわからないだろうけれど…」
「レイの良さをわからないでいつまでも待たせてる女の何処がいいのよ!?
レイならモテるんだから、女の子だって選び放題でしょう!
そんな変な女より、もっとちゃんとした貴方だけを見てくれる子を…」
「うるさいな!姉さんは!
オレは子供じゃないんだ、自分の事は自分で決める」
レンさんと言い合うのを止めるようにレイは飲み物を買ってくると言って出て行ってしまった
「…何よ…飲み物なら昨日買ったばかりなのに…」
少しの静まり返った空気も俺は笑みを零す
だって、お姉さんのレンさんはレイのコトが大好きだってわかったから
大好きな弟が好きな人にいつまでも振り向いてもらえないなんて、そら怒るのも無理はないかもしれない
嫌なイメージだって持つ、私の弟の何が不満なの!ってさ
「レイの良さなんて、とっくに気付いていますよ」
ふふっと笑うとレンさんはムッとする
「それじゃあどうしてさっさとプロポーズを受けないのかしら
私は結婚を認めないけれど!」
「レイが良い奴で素敵な人だから、ちゃんと考えて答えを出したいんです
とても長く待たせてしまってるかもしれないですが…」
俺が言えるのはここまで、この先はセリカちゃんの口から言うコトだ
「ふん…私はセリちゃんの事は嫌いだもの
万が一結婚したら小姑としていびり倒してあげるわ」
「それは勘弁して」
俺はセリカちゃんの味方だからレンさんがレイのコト大切に想ってるってわかってても、セリカちゃんに意地悪したら許せなくなっちゃうから
「それから…そろそろ服着てほしいです」
数十分するとレイが飲み物を買って帰ってきた
たくさん買ってきたなペットボトル
ココア、カルピス、コーラ、ロイヤルミルクティー、レモンティー、オレンジジュース、リンゴジュース、ミネラルウォーター、ミルク、お茶
「ちょっとレイったら買いすぎよ」
やっと服を着てくれたレンさんがペットボトルの数を見て驚く
「セリは気分屋なんだ、その時によって飲みたいものが違う
嫌いな飲み物は、珈琲、抹茶オレ、カロリーオフ系、甘すぎるもの、アルコールなど
基本的にペットボトルは嫌がる
いつもなら作って置いてやるんだが、今日は急に来たからな
紅茶の葉すら切らしているよ」
「面倒くさい子ね…」
レイの作るロイヤルミルクティーとレモンスカッシュとレモードのどれかが飲みたかったな~
「レモンティーで許す」今日の気分
「偉そうな子ね…」
「常温かホットしか飲まないし、1番好きな飲み物は水」
「変な子ね…」
レイって俺のコトめっちゃ知ってないか!?
いやセリカちゃんと俺の好みってまったく一緒だから詳しいのは当たり前か
ペットボトルに入ったレモンティーをコップに移し替えてもらってストローをつけて俺の前に差し出される
その後にレイはお菓子まで出してくれた
嬉しい!喜んで食べて飲んでいると
「セリちゃん、子供っぽくない?」
ガーン!レンさんの一言にお菓子を落とした
「セリは仕方ない(7歳だし)、そのままでいいんだ」
「ペットにおやつあげてる気分になるわ
本当にいいの…?レイは彼女で」
「姉さんは知らない
口は悪いし生意気に見えて悪女のような振る舞いをしても、本当は賢くて優しい
誠実で律儀で義理堅い、何が1番いいかを考えて行動できる人なんだ」
若干、姉弟で話噛み合ってない気もするが…
えっ?誰の話?
…セリカちゃんは…そうだな、そうかもしれない
自分の大切な人には全力で、受けた恩は返そうとする
でも、まったくの他人にも配慮できるし気を使う
凶暴で乱暴でも、いつも周りのコトを考えてたりするかな…
「だから…プロポーズの返事が遅いのも、それが1番だって遠慮している」
「それが私は気に入らないのよ!」
プリプリ怒るレンさんをスルーしてレイは俺の隣へと腰掛ける
「もう…とっくに、わかっている事なのに
誰も一歩を踏み出そうとしない
お互いがお互いに遠慮しているから、オレ自身も含めて
そう思わないかい、セリ?」
「…何が!?」
レイの言っているコトがよくわからなくてお菓子を食べる手を止めて難しく考えてしまう
そうするとレイは笑って「いやいいよ」とまたお菓子を食べるように言った
まるで俺は部外者みたいな…
お互いがお互いに遠慮している…?そうか?
遠慮なんて皆無でいつも火花散らしているだろ、レイとイングヴェィは
よくわからんが、わかるコトは俺はセリカちゃんの決めた人について行くだけ
君が誰を選んでも、何処に行っても、何があっても
俺はセリカちゃんと一緒なんだから
それから俺はレイに夜まで遊んでもらい、セリカちゃんからのメールが来て帰るコトになった
「今日の夕飯はハンバーグカレーだって!ヤッタね!」
「子供が好きそうなメニューね」
「エビフライも大好きだよ!とくにセリカちゃんが作ってくれるのが1番美味しいんだ」
「よかったわね」
夕飯が楽しみで喜んでいる俺とハイハイおこちゃまおこちゃまとあしらうように返事するレンさん
はじめてセリカちゃんと会った時は毎日コンビニ弁当でやだったケド、少しずつ作ってくれるようになって今では毎日セリカちゃんの手料理で幸せなんだ
初期の頃は不思議な味が今は普通に美味しい
セリカちゃんの作るご飯が1番好き!
俺の為に作ってくれてるって言ったら、花嫁修行だからアンタの為じゃないとかツンデレなコト言うケド、絶対俺の為だもん!!
「早く帰んなきゃ!」
「送ろうか?」
レイはいつもそう言って、セリカちゃんに会いたいだけ
「ううん、大丈夫!」
玄関で靴を履いて
「じゃあまた遊びに来るから!おじゃましました!!」
「またねセリちゃん」
なんやかんやなレンさん
「送らなくても本当に大丈夫かい?家に着いたらちゃんと連絡するんだぞ」
レイは俺の彼氏か!?心配しすぎだろ
まぁ、見た目と中身をセリカちゃんと同じ年として作られている俺でも、やっぱりまだ7歳の俺にレイは子供扱いするんだろう
それでもいざって時は魔法も使えるんだし、俺に危険なんてないのにな
「わかったって、じゃあバイバイ!!」
元気良くレイの家を出て帰り道を機嫌良く歩いたり走ったりをする
「セリカちゃんのご飯楽しみ~」
早く家に帰りたい、俺とセリカちゃんのお家へ
空を飛べばもっと早く帰れるのに、人間として生きるなら魔法は使っちゃダメって言われているから我慢~
ルンルン気分で寒い寒い夜道を歩く
こんなに寒い季節も、凍える夜だって、君の所へ帰ればあったかいから…
「おかえりなさい」
「…ん?」
暗い夜道の途中のコトだった
外灯の下にフードを深く被った女性がそう呟いた
ひとりごと?それともイヤホン使って誰かと電話してるとか?
まぁいいや、と俺はその女性とすれ違う時
「おかえりなさい…セリ」
名前を呼ばれて腕を掴まれる
「俺の名前を…誰だアンタ!?」
聞き覚えのある声だ…でもすぐには誰か思い出せない
とても嫌な予感がするから…
女性は俺の腕を掴んだままで、もう片方の手でフードを外す
「セレン…様…」嘘だろ
その顔立ちや姿はマスターの1人であるセレン様だった
サイズが人間並みに小さくなってるのは、イングヴェィに創作の力を奪われたからか?
よくわからないが、なんでこんな所に…
セレン様は数年前に悪さが過ぎてイングヴェィから創作の力を奪われた
もう俺達のような存在を作れなくなって、それに大きなショックを受けて姿を消したと聞いていたが
「えぇ、貴方のマスターのセレンですわ」
「はっ?俺のマスターはセレン様じゃないバリファ様ただひとりです!」
「いやーね、貴方を作ったのはこのあたくしですわ
バリファは私の子を拾っただけの事」
何言ってんだ、俺を壊して捨てたくせに
と聞いているだけで…俺はその時の記憶がない
俺のマスターバリファ様がその記憶を消してくださったみたいで、俺は何一つと知らない
「それでも、俺のマスターは貴女ではない…」
振り払おうと思うのに俺の掴まれた腕はまったく動かない
なぜ、魔法を…使われているのか?
「その不思議そうなお顔はどうしたのかしら
魔法なら使っていませんわ」
セレン様の言ってるコトは本当なのかどうかはわからない
それでも俺の腕が動かないのは確かで…腕だけではなかった
「あたくしにはもうセリしかいませんの」
「俺しかいない…?」
「そうですわ、創作の力を奪われたショックで他の子達は壊してしまいましたの」
ショックじゃなくて八つ当たりって言うんだぞソレ…
「もちろん、バリファの所にいたあたくしの子達も全て…ね」
セレン様はうふふと嬉しそうに微笑む
嘘…それってリジェウェィさんもなのか?
もう…大丈夫だって思ってたのに、どうして?
いや嘘だ、そんなコトはバリファ様が許さないハズ
「嘘だと思いますの?
セリ、あたくしが創ったのですわ
一度所有を放棄しても、それを取り戻すのは簡単な事
ただ拾っただけのバリファより、創ったあたくしの方が所有する権利が強いのですわ
ほら…その証拠に貴方はあたくしに逆らえないでしょう?
逃げたければ逃げてみなさい」
セレン様が俺の腕から手を離す
何処も掴まれていないハズなのに、俺の足も身体も動かせない
そうしてようやくわかった
リジェウェィさんは本当に壊されたんだ…他のみんなも……
そんな…酷い、一度ならず二度までも……
「逃げられないみたい…
セレン様は俺もまた壊しに来たんですか?」
そんなの困る!俺はセリカちゃんのクリスマスプレゼントなんだ
セレン様に壊されるワケにはいかない…
「あらあら、そう恐がらないでくださいまし
確かに他の子達は壊してしまいましたけれど、貴方にそれは出来ませんわ
またイングヴェィ様に怒られますもの」
イングヴェィのコトをまだ好きなのか、それともただたんに恐いのか…
「あたくしはセリだけが頼りなのですわ
今年はバリファのお手伝いではなく、あたくしのお手伝いをしなさい」
「それって、俺にクリスマスプレゼントを届けろってコトですか?」
「そうですわ!セリはお利口さんですわね~」
ヨシヨシと頭を撫でられた
そんなコト…?
毎年、バリファ様のお手伝いをしている俺には難しいコトじゃない
本当はマスターのバリファ様からお受けしたい所だが…仕方ないか
壊されないだけマシだ
そうなったらもうセリカちゃんに会えないんだから…
でも…リジェウェィさんを壊したコトは許せそうにない
怒りはあっても身体が言うコトを利かない
「そんな簡単なコト…」
「そうでしょう?そうでしょう?
ではさっそく行きますわよ」
「いや、それは…セリカちゃんが待ってるし
せめて連絡でも…」
って聞いてない…
セレン様にあっちと言われるままに連れて行かれる
セリカちゃんにメールを送りたくても身体が言うコトを利かないし、もうこうなったらすぐにクリスマスプレゼントを届けるしかないな
暫く歩くと今年の担当する家へと着く
外から見ると壁が高いだけの普通の一軒家だ
「もう一度チャンスをあげますわ」
「えっ?」
もう一度って?
「セリは覚えていないのですね
ここは貴方がはじめてクリスマスプレゼントを届けに来た家ですわ」
はじめてのクリスマスプレゼントはセリカちゃんなのに…記憶のない本当のはじめては違う人だってコトに大きなショックを受ける
そ、そうだよな…壊された理由はちゃんとクリスマスプレゼントを届けられなかったんだから
それがはじめてなのは…当たり前か
「あの時の貴方は失敗して帰ってきましたの
だから、今回はリベンジですわ!
ちゃんと彼にクリスマスプレゼントを届ける事が出来れば、前回の失敗は許しましょう」
彼ってコトは男か、やる気が出ないな~
「わかりました…やらなきゃセリカちゃんの所へは帰れないんだろうし」
「ファイトですわセリ!
一人暮らしの方ですから間違う事はないですわね、いってらっしゃいな」
セレン様は笑顔で俺の背中を押してその家の玄関を潜らせる
最後に見たセレン様の笑顔が妙な感じがして、俺は大きな不安に襲われる
「頑張らなきゃ…」
それでも俺はセリカちゃんの所へ帰りたいから玄関からお邪魔した
セレン様がいなくなると俺の身体は自由に動く
おっ帰れる!?と思って、玄関のドアを開けようとしたが開かない…
鍵はかかっていないのに、これもセレン様に逆らえないってコトなのか
スマホは…ポケットに手を突っ込むと、ない
いつの間にかセレン様に引き抜かれたみたいだ…クソ
担当する人間にクリスマスプレゼントを届けない限り本当にこの家から出られそうにないな
「す、すみません…あの~、お届けものです…」
玄関の近い所からひとつひとつの部屋を覗いていく
奥へ奥へ行くと嫌な予感と不安が大きくなり、それとともに異臭を感じる
不思議に思い異臭が強く感じる2階の部屋のドアを開く
「…なっ……これは…」
部屋の中は目も当てたくないような光景があった
「酷い…こんなの」
動物が無惨に殺されて放置されている
犬、猫、鳥、兎、鼠、ありとあらゆる動物達がそれぞれ酷い殺され方をしていた
一瞬で、嫌な予感と不安の意味がわかった
それに気付いたと同時に俺の後ろに担当する男が立った
「ようこそ、女神様からのクリスマスプレゼント」
振り向くと男は俺の腕を掴み、右手に持ったたちばさみで俺の小指を切断した
「い…たああああああ!?!?」
今までに感じたコトのない激痛が熱とともに全身を駆け巡る
思わず膝をついて痛みに耐えながら魔法を使って小指を再生する
痛みはなくなったが、涙は渇かない
急な恐怖に襲われ混乱する
なにこれ
なにこれ
なにこれ
わかんない…
なんで?俺はこの人にクリスマスプレゼントを…
男は俺の髪を掴み引っ張り顔を近づけて
「僕のおもちゃ!!待ってた!!」
と異常な笑顔で叫んだ
「本当は女の子がよかったのに…
でも我が儘言ってられないねぇ!
だって君ならいくら拷問しても殺しても犯罪にならない!
あー素晴らしい!それっておもいっきり遊べて、僕の欲求を満たしてくれるからねぇ!!
また会えて嬉しいよねぇ?」
また…会えて…
拷問して…殺す?
何、俺のはじめてのクリスマスプレゼントはこの拷問狂殺人鬼のおもちゃだったって言うのか…
そんな……
「楽しませてください
今日からクリスマスまでは拷問して、クリスマスの日に殺す」
男はたちばさみを俺の右目へと突き立てる
…幸せだった毎日が赤く染まっていく
そんなものなかったかのように切り刻まれて、痛みと恐怖と…真っ暗な未来
もう、セリカちゃんの所へ帰れないんだ…
痛みと悲しみと恐怖と寂しさで
俺は死んでしまうのか…?
-続く-
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