2012年 第7話 静かに迎える何者かとの決着!

切られた首に冷たい風が突き刺さるような感覚に思わず膝をついて倒れてしまう

人間に似せられて創られたから大量の血が吹き出すが、人間と違うのはそう簡単には死なないってコトだ

飛びそうになる意識をシッカリ持ち直して魔法で傷口を塞ぐ

「あんまり…調子に乗るんじゃねぇぞ………

俺はオマエの先輩なんだからな!!?」

さっきから一方的にやられて先輩のプライドがズタズタだっての!

知らないならわからないなら教えてやる!!

「しぶとい人ですね」

呆れたように男は言い、またすぐに俺に向かってくる

魔法を使って出現させた縄で男の動きを止めようとしたが簡単に縄は切り刻まれて止めるコトなんてまったくできそうになかった

「あら…ダメかも…」

そのまま俺は男が魔法で取り出した短剣に胸を一突きされる

「オマエ…これで俺が死んだら……」

いや死なないケド、魔法力が尽きるまでは大丈夫だケド

死ぬほど痛い!!!!

力が入らない手で俺の胸に短剣を突き刺す男の手を掴む

「自分も消えちまうんだぞ…」

「……私が何故…?」

俺の言葉に少しの反応を示す

殺人のために創られたとしても、もしかしたらまだ生まれたばかりで何も知らないから人の話を素直に聞く部分はあるのかもしれない

「その翼の色、生まれた時は真っ白だったハズだろ

でも、今の翼がそんな真っ黒になってるのは人を殺そうとしてきたからじゃないのか?」

「……………。」

少しずつ男が手に込めていた力が和らいでいく

「確かにマスターの言葉は絶対だケド

それが正しいか間違ってるかはまた違うよ

オマエはマスターに騙されてるだけだ

このままだとオマエは消えるかもしれないな…」

「それは…」

消えるって言葉にショックを受けたのか

あまり表情は変えるような奴じゃないケド、短剣から手を離して少しだけ俺から離れた

生まれたばっかの奴って素直で助かった!!

俺もそんな時代あったな~としみじみするわ~

「……マスターが貴女を殺せと命じたのです

出来なければ壊すと…

貴女を殺しても私は消えてしまうなら…」

自分で胸に刺さった短剣を抜いて傷口を回復していると男は物凄く落ち込んでしまっていた

えぇ…見た目めっちゃクールで俺より大人っぽいのに、なんか落ち込むとか……子供か…

俺も生まれた時はこうだったかもしれないケド…

「ま、まぁまぁそんな落ち込むなよ

オマエのマスターが誰か知らないケド、イングヴェィに相談すればなんとかしてくれるって」

マスター達のリーダーだし逆らう奴なんていないだろ、たぶん

「それから俺はオマエが殺すように命じられたセリカって女の子じゃなかったりする…」

「…それは私が間違ったと言うのですか?

何故そんなにこの女性と似ているのでしょう……」

何度も確かめるように男は持っていたセリカちゃんの写真と俺を見比べる

まるで間違い探しでもしてるかのように

「たぶん創られた時に似てしまったのは偶然かもな

でも、俺とセリカちゃんが兄妹として家族になるのは運命だからこれでいいんだよ」

コイツを止めたからセリカちゃんは死なないハズだ

これで元に戻れるんだよな

「そうですか」

「で!オマエのマスターって誰だ?」

固く口止めされてるだろうが駄目元で聞いてみる

「セレン様です」

アッサリ答えてくれた

そんな簡単に言ってくれるなんて思わないからビックリだよ!?

しかもなんとなく予想してたセレン様って!!!

もっと誰!?って言うような黒幕がよかったわ

「セレン様の想い人であるイングヴェィ様の恋人を」

「うんわかった…言わなくていい、なんとなくわかるから」

好きな人の心を手に入れたいために過去に刺客まで送り込むなんて

セレン様って本当恐いって言うか…

…リジェウェィさんを壊したのは、イングヴェィソックリに似せて創ったから八つ当たりだったんだろうな

自分のものにならないなら…って、そんな感じがするよ

「って言うか、それ言っていいのか?

誰にも言うなって口止めされたりしなかったのかよ」

「…間違ってる事だと思ったから……」

あっ…そういや、俺がさっきそう言ったんだっけ

可愛い奴だな

可愛い後輩…そして俺は先輩…良い響き

「うん、それでいいよ」

「これから良い事を続けたら私の翼も元に戻るのでしょうか」

「俺も経験済みだから大丈夫だ

戻れるぜ、こんな綺麗な翼だって夢じゃない!」

いつの間にか正座して真剣に俺の教えを聞いている後輩に自慢するように自分の翼を見せ付けた

「わからないコトなんでも教えてやるからな

今日からオマエは後輩だ!俺のコトは先輩と呼べ!」

先輩後輩の関係と認識した俺は年上心を刺激されてますます調子に乗るのだった

「先輩…うざいです」

「えっ…」

さっきまで素直な奴だったのに急に態度が豹変…

俺達って見た目の年齢で創られているから生まれて少しは赤ん坊のように素直でもすぐに年相応までに成長するん…だった…かな……

俺はいつまで経ってもガキっぽいケド……

それにしても一気に変わるのか!?

「自分の存在が消えないのなら、翼は黒いままでも問題はありませんね」

「う、うん…まぁ…別に痛みとかないし…

いやでも…黒より白いほうが綺麗だろ?」

「別に」

………一気に可愛くなくなった!?なんだコイツ!?

「それから先輩後輩とか、たった数年早く生まれたくらいで偉そうにされるのはどうかと

大して変わらないでしょうに」

「シーン…なんかめっちゃ寂しいわ……」

仲良くなれそうにないとちょっと悲しんでいたら

「私は貴方の事を気に入りましたよ

だから名前を教えなさい」

「気に入られてる感がめっちゃしないんですケド…

俺はセリ…」

「セリ…私は香月、よろしくお願いします」

香月は少しだけ嬉しそうに笑うと俺の胸に手を当てて傷口を完全に治してくれた

さっき自分でも回復してたケド、話に気を取られて中途半端になってたコトをスッカリ忘れてた

素直な奴なのかムカつく奴なのか良い奴なのかわからないケド、たぶん香月は良い奴なのかも

新しい友達ができた瞬間だった

そんな時、セリカちゃんの声が遠くからして近づいてきた

「なんか爆発騒ぎがあったって聞いたら、セリくん何してるの!」

セリカちゃんと一緒にレイはもちろんだケド、イングヴェィの姿も見えてハッと思い出す

今日がイングヴェィの来る日だったのか!?

レイとセリカちゃんのコト忘れてたし…なんて言えばいいんだ……

2人が良い感じっての知ったら死ぬかもしれねぇぞイングヴェィ…

「爆発騒ぎはもう解決したから心配いらねぇセリカちゃん!」

今はイングヴェィと目が合わせられない…

「そちらの彼は…人間じゃないね?

もしかして彼がセリカちゃんを狙う何者かなの?」

イングヴェィは香月の黒い翼を見てすぐに感づいた

黒い翼のコトを知っている人なら予想はできるもんな

俺は慌ててさっきのコトを説明する

「…香月は確かにセリカちゃんのコトを狙ってたケド本当に今は大丈夫なんだ」

「ふーん…アンタが今まで私に嫌がらせしてきたってワケね!?」

話を聞いたセリカちゃんが一発くらい殴らないと気が済まないとか言いながら香月に突っ掛かった

「セリカ、やめろ」

「セリカちゃんのお手てが痛い思いするだけだよ!?」

苦笑して止めるレイと血相変えたイングヴェィが止めるのも聞かず香月を掴もうとした時、逆に香月に腕を掴まれて何もできなくなってる

「殺さないであげているのに、わざわざ殺されに来る馬鹿な女」

「殺さないんじゃなくて殺せないんでしょ!」

「そうですね…貴女を殺せば私も消えてしまう

しかし…貴女となら心中するのも良いかと思ってきました

よく見ると私好みの女性」

香月の発言にイングヴェィとレイが人殺しそうな目で睨み怒っているのが伝わってきた…

何この空間恐い…

そんなコトに気付いてないのはセリカちゃん1人でいつものペースを崩さない

「そう言うの無理心中って言うのよ!

絶対殺されないからね!

…まぁ私もアンタのコトは好みのタイプだケド…」

黒髪のイケメン好きセリカちゃん

とりあえず空気を変えようと思って俺は

「そう言うコトで香月はセレン様に騙されてこうなっちゃったからイングヴェィなんとかしてあげられないか?」

話したケド、イングヴェィは笑顔でも怒りの炎はおさまらない

「えっ?どうして?

香月くんはもうセレンさんの所に戻って壊されればいいのにね」

「イングヴェィ!翼黒くなってるぞ!?」

落ち着かせるためにまずは話題を変えて、イングヴェィが過去に来てから今までのコトを聞いてみた

するとイングヴェィはもうレイとセリカちゃんの関係を知っていたみたいだ

その部分は俺から話すのは恐かったからよかったケド…

この先どうなるかわからないでも前向きに考えるってコトになっているらしい

恋愛ってオレにはよくわからんが、なんか難しいってのはわかった

「まぁ、香月くんとセリくんの友達リジェウェィくんのコトはなんとかしてみるよ

君達にもちゃんと心があるってコトをセレンさんはわかってないのかもしれないね」

だから自分の創ったものを香月やリジェウェィさんをおもちゃのように使って壊すコトができるのかな…セレン様は

「サンキュー!これで元の時間に戻れば、元通りになってるってコトだよな!」

早く帰りたいな俺の時代のセリカちゃんに会いたいって思っていたらイングヴェィは深いため息をつく

「君は良いかもしれないケドさ…

セリくんの話を聞くと、レイくんや香月くんはいなかったんでしょ

セリカちゃんが殺される過去は回避できたケド、俺にとったらライバルが2人も増えたってコトなんだよ……」

おぅ…大変だな……

香月も入るのか…?ただ好みのタイプって言ってるだけだぞ

でもイングヴェィは深いため息をついた後にいつもの太陽みたいな明るい笑顔を見せる

「でも、いっか

恋愛は障害があるほど燃えるって言うもんね

セリカちゃんにたくさん友達ができて笑ってくれるならその方がいいよ」

レイとかは友達って言えないと思うってツッコミたかった

イングヴェィのそう言う前向きなところ良いな

まぁ修羅場にならないコトを祈るわ…

「それじゃ、俺はセレンさんと話をしてから元の時代に戻るね

先にセリくんを元の時代に戻しとくよ

最後に今のセリカちゃんと話すコトある?」

元の時代に戻ればいつもの日常が帰ってくる

だから話すコトなんてないのに、でも俺はどうしても言いたい

「セリカちゃん」

声をかけると珍しくこの時代の君が俺の傍まで来てくれた

ちゃんと目を見てくれたのははじめてかもしれない

少しずつ目の前の君が自分の時代の君に近づいてるコトが嬉しいな

「今年のクリスマスにこの時代の俺が君に会いに行くから、受け入れてほしい

俺が自分の時代に帰っても君の傍にいられるように…」

こんなコト言わなくても君なら受け入れてくれるのに

俺が君のクリスマスプレゼントになるのは運命なのに

「うん…すぐだよね

またセリくんに会えるの

ありがと…私のコト守りに来てくれて、冷たくしてゴメンね」

言葉にしてもらいたかった

安心したかった

知らない間に過去が変わってて、目が覚めたら君がいないってコトが凄く恐かったから悲しかったから苦しかったから

シッカリとした約束を交わして、俺は自分の時代へと帰る

あの時と同じ…朝になって目を開けると、隣には…君がいるハズ



-続く-

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