2012年 第6話 こんな私に罰を セリカ編

振り向くとそこには人間離れした美しい容姿のワインレッドの髪とガーネットの瞳をした男の人が立っていた

「…………っ……」

一目見た瞬間、私の中になくしたものが…ううんはじめてかもしれない

私の知らない感情が私の心を温かく包み込むの

息を呑んでまで目が離せないのはその人が綺麗だからじゃなくて、もっと特別な感情から……

「知り合いか?」

いきなり現れた男の人に警戒したレイは私の手を引いて席を立った

「ううん…知らない人……でも」

知らないケド、何か引き寄せられるものがあるのは確か

これは…なんだろう?

私が思い描いていた恋心に似てる…?

この気持ちが何か確かめたくて言葉を考えていると、いきなり男の人は物凄い力で私の手を掴みレイから引き離した

「っレイ!?」

普通では考えられない力の強さにポーッとなっていた私の思考がハッキリとする

この人…なんか…危険な感じがする

私の中ではじめての温かい感情とは別に本能で感じる危機感が襲う

悪い人…なの…?

「なんなんだあんた…セリカを離せ!」

レイも男の人の信じられない力に驚いたケド、私を取り戻そうと手を伸ばす

でも、そんなレイは簡単に男の人に突き飛ばされてテラスから落ちてしまった

一瞬の出来事は現実感がないのに身体は震え出してしまう

恐いと…

「レイ…ヒドイ!なんてコトするの!?」

レイが死んだかもと思うと身体が冷たくなるほど心配になって

それと同時にこの人がこんなヒドイ事をするのに大きなショックを受けた

確かめたい私の温かい感情が涙に変わる

「…死なないよ……ココ2階だもん」

冷たい声、冷たい表情

あたたかさのカケラもないのに

私は…それでも彼のコトが気になった

レイのコトが心配なのに、私の心は不謹慎なまでに彼のコトが気になって仕方がない

私は…最低かも…人間としても女としても……

「邪魔者はいなくなったね

会いたかったよセリカちゃん、君の答え次第で…」

本能は恐いと感じつつも彼に惹かれている

私はそれを押し殺して自分の理性を保つ

こんなヒドイ事する人は許しちゃいけない

レイが何したって言うの!

「私…貴方のコト知らないもの

レイのコト助けてあげて!死ななくてもきっと怪我してるわ!

ヒドイ事する人、私は嫌い!!」

複雑な感情、本能と理性がぶつかり合って私は泣きながら怒ってしまった

わからない…何が正しいのかも悪いのかも

「セリカちゃん…

どうして……俺は君の運命の恋人なんだよ?

君ならわかってくれるよね?

だって俺達は結ばれるのが当たり前なんだもん

人間だからわからないのかな?

生きてるからわからないのかな?

ずっと俺の傍にいたらいつかわかってくれるよね…」

そう言って冷たい彼の両手が私の首を絞めつけてきた

言動からして相当病んでるストーカーだと思った

でもね、少しだけわかったよ

…貴方のその言葉を聞いて、運命の恋人って

私のこの温かい感情は恋心だったんだね

レイのコト好きだったケド、レイにはなかった感情…

私…やっと恋が何かわかったのに……その相手に殺されちゃうんだ?

当たり前か…天罰だよね

ハッキリしない気持ちでレイを縛っていた悪い私への罰が当たったんだね……

だってこのまま生きてたら私は目の前の貴方を好きになる

恋するもん愛するもん

レイを振っちゃうコトになる捨てるコトになる

こんな最低な私を好きになってくれた愛してくれた最高の人を…私は不幸にした

私は…この罰を受けるべきだね

「……ゴメン…なさい………」

苦しくて意識が遠くなりそうでも私は謝りたかった

レイに

そして貴方に…

私が貴方に出逢うのを大人しく待っていればこんなコトにはならなかった

誰も傷付いたりしなかった

きっと貴方はもっと素敵な人のハズ

恋愛がわからないと甘えて、楽だからと流れに身を任せた私がダメだったの

だって寂しかったんだもん………

未来なんてわからないから焦っちゃったよ……

心が締め付けられる

涙が溢れるのは、私の弱さから

「…………セリカ…ちゃん……」

もう死ぬ覚悟は決めていたのに、急に彼は私の首を絞めていた手の力を緩めた

「……俺はなんてコトを…」

光のなかった暗い瞳が少しずつ明るくなっていく

明るい貴方の瞳に光が戻った時、涙を堪えているのも目に見えた

「ずっと俺がセリカちゃんに寂しい思いをさせちゃったから…

俺が悪いのに、レイくんと君にヒドイ事をするなんて……」

私の心が…この人にはわかるの?

それにレイと私の名前を知ってる

私は貴方を知らないのに…

まだ締め付けられた感が残る首に手を当てながら私はまっすぐに貴方の目を見る

「違うわ…私が弱いからよ

私が全部悪いの……」

「いや、俺が悪っ」

「私が悪いの!!貴方は私のコトを知らないから…!

私がシッカリしてれば……」

貴方の言葉を遮ってまで私が怒鳴るように言うと貴方は私の手を優しくでも強く握った

「ううん、わかるよ

俺は君のコトならなんでもわかるんだ

こうして触れるとセリカちゃんの心も過去も全て…」

私の過去まで…?

知られたくないコトまで知られそうな気がして私は手を引っ込めようとしたケド、貴方は離してくれなかった

「嫌いになんてならないから大丈夫」

さっきの病みすぎて殺人未遂のストーカーと違って、今の貴方は太陽のように明るく眩しく温かい笑顔を向けてくれる

私の不安も心配も掻き消すような……そんな強い想いが繋がった手から流れ込んでくるの

たった一言、たった一時

貴方と話すと触れると見つめ合うと…

心が強く引き寄せられて繋がる感覚

これが運命の恋人、永遠の愛…なんだって思った

もうなくなったりしない消えたりしない愛がここにある

「…君達にヒドイ事をした俺が嫌われちゃうよね……

レイくんがセリカちゃんの恋人だって勘違いしてたワケだもんね」

そう貴方は苦笑する

「………………………。」

貴方と心が通じて両想いってのはわかったケド…

このまま私は彼と恋人同士になっていいのかわからない

レイのコトが気になって…

レイは怒るよね憎むよね…傷付く…よね……

「………セリカちゃん……」

私の心がわかるって言うのは本当で、貴方から笑顔が消える

そして何かを考えて覚悟を決めて重い口を開いた

「…君達にヒドイ事をしたから……

俺は君が死ぬ時まで待ってもいいよ

君が人間として生きてるうちはレイくんと一緒に……

それが俺のやってはいけないコトをしてしまった罰だね」

「えっ…?」

「俺は人間じゃないから…

セリカちゃんが死んだ時に迎えに来て、それから永遠に一緒になれるなら……

人間の寿命なんてあっという間だもん…俺はそれくらい我慢しなくちゃね」

人間じゃないって何!?

私の思考が停止している間に貴方は気を紛らわすように話を止めない

「死んでほっといたらすぐに死神さんが迎えに来ちゃうケド、死神さんより早くに迎えに行けば

ず~っと俺と一緒だよ」

待って…ちょっと意味がわからない……

私はやっと心から愛する人の恋人にはなれないってコト?

レイのコトを言い出したのも私だし、レイのコトも考えれば…

私だけ幸せになるなんてありえないから……

私の複雑な気持ちも考えて貴方はそう言うのだった

そんなの…イヤって…生きてるうちも一緒にいたいって…言ったら、私は本当に最低な奴だ……

自分のコトしか考えてない

「セリカちゃん……俺の名前を呼んで、イングヴェィって……」

私の悲しい気持ち、苦しい気持ち、切ない気持ち

色んな感情を読み取ったイングヴェィは最後のようにお願いした

「…イングヴェィ………」

「うん、嬉しいな」

太陽のような笑顔なのに曇り空な印象を受ける

「イングヴェィは私のコトがわかるなら、私がどんなに最低な奴かもわかるよね

レイのコトも気になってるのに、イングヴェィと生きてるうちも一緒にいたいって思うような奴なんだよ」

「レイくんが気になるのはセリカちゃんが優しいからだよ

俺と一緒にいたいって思ってくれるのはそれだけ愛が強いからだよ

俺はセリカちゃんのコト、大好きだよ」

ドコまでも優しくて良いように私を理解してくれる

これが私の運命の恋人…愛しい想いが溢れるよ

抱き合うコトもできない

まだ手を繋ぐだけの距離しか許されない感じがして

2人だけの時間はいよいよおしまいだ

「ふ~ん、超展開すぎてオレはついていけないが

なんとなくはわかった」

レイの声がしてハッと視線を向けると服が少し汚れたくらいでとくに大きな怪我をしてない姿を見せた

「レイ…無事だったんだ……」

「あぁ」

めちゃくちゃ怒ってるコトだけはわかる…

静かに私達の傍まで歩み寄ってくるレイに私は顔が見れない

「話を聞いたなら…私のコト幻滅したよね最低だよね……」

どんな言葉も受け入れようとは思う

私が悪くて最低な奴だから

「とんだ悪女だな、セリカ」

「ちょっと!?セリカちゃんの悪口とか殺すよ!?」

怒るイングヴェィを横目にレイは痛いトコを突かれて沈む私の腕を掴み引っ張った

「ここでオレがさよならしたら2人仲良くってそうはいかないぜ

セリカは渡さない、責任はちゃんと取ってもらおうじゃないか?」

イングヴェィは私を奪われて反応するケド、すぐにさっき自分が言った生きてるうちはレイに譲ると言った言葉を思い出し悔しそうに唇を噛む

「………私のコト嫌いになったと思うし

その責任って言うのは外国に売り飛ばされる的なコトをされるんでしょうか?」

「セリカ、今真面目な話をしてる最中だからボケをかますのはやめるんだ

オレの言った事を忘れたのかい?

今もオレはセリカを愛してる」

険しい表情をしていたレイは愛してるって言葉で私に負けたと言うかのように表情を和らげていく

「えぇ…それはおかしいよ!?

私がレイなら絶対嫌いになるよ!?

前向きに考えるわ~みたいにその気にさせといて新しい良い人が現れたらあっさり乗り換えるようなビッチだよ!?」

「オレがセリカなら、キープの男の事なんて気にせずほっといて新しい恋人と姿を消そうとするな」

…なるほど

「それができたのに、セリカはオレに悪いと自分を追い詰めるほど悩む優しい女だよ」

な、なんか…照れる……

私悪い奴なのに優しいとか言われるの意味わかんない

「と言う事だからセリカが死ぬまではオレのモノって事でいいな、セリカの運命の恋人さん」

挑発するようにレイはイングヴェィに見せびらかすように私を腕の中に抱きしめてきた

「え~っと………ちょっと前言撤回しようかな~…

なんかムカつくしさ…

レイくんって性格悪いよね」

笑顔なのにイングヴェィがめっちゃ病みモードになった

でも、さっきみたいに自分を見失うような感じじゃなくてちょっと安心

「はっ?あんたが言った事だろ

それにセリカは二股するような女だ

諦めろ、こんなビッチはオレが死ぬまでこらしめてやるから」

ヒドイ事言われてるのに死ぬまでこらしめるが一生面倒見るって言うプロポーズに聞こえた私はおかしい…

「セリカちゃんは君に恋心なんてないんだよ

可哀相だから、つまり同情の付き合いなんだよね

それって二股にはならないし

虚しいだけだからやめといほうがいいと思うな」

やっぱり笑顔なのに雰囲気がめちゃくちゃダークなイングヴェィ…

それでもさっきまでの張り詰めた空気がなくなったコトはみんなが感じていた

「セリカ…」

レイはイングヴェィには聞こえない声で私に囁く

「オレはお前が本気で惚れてくれるまで、頑張る事に決めた」

あの日の夜にレイの家で言われた言葉が少しだけ変化していた

待つじゃなくて頑張るに…

それは私に自由に誰かを好きになっていいと言ってくれてるみたいだった

レイは優しいね…

イングヴェィがいなかったら、私が本気でレイを好きになる日もあったかもしれない

「レイ…ゴメンね、でも…ありがとう」

これからどうなるかはわからないケド、でもレイがこんな私を許してまだ好きでいてくれるコトに申し訳ない気持ちと感謝の言葉を伝えたかった

今の私は今までで1番の最高の笑顔を見せたと思う

これがはじめて、愛を知った私はこれからもっと良い笑顔でいられるハズだから



-続く-

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