2012年 第4話 何百年経ってからの初恋 イングヴェィ編
本当に不思議でたまらないコト
今までになかった感情が心の奥底から芽生えて燃え上がるみたいに
それは俺の生きてきた全てより色鮮やかに見えて、君のコトを考えるだけで楽しみで嬉しくて幸せって感じるんだよ
一目見ただけでわかる…これが運命なんだって、だから早く会いたい
俺の運命の永遠の恋人へ
セリくんを過去に送り出して、俺の魔法力が回復するのも後少しとなった
ワクワクもあるしドキドキも止まらない
これが恋心!?なんて浮かれちゃって恥ずかしいな
でも、抑え切れないもんねエヘヘ
…ハッ!?ダメダメ、今日は今年のクリスマスのコトでみんなと話し合い中なのに
でもでも…顔が、ニヤけちゃう……んだもん
心を落ち着かせようと温かい紅茶を一口飲むと
「イングヴェィ様、最近とてもご機嫌でいらっしゃいますのね」
俺の様子に気付いたセレンさんが不思議そうに首を傾げる
「えっ!そんなコトは…」
確かに俺は君への恋心に浮かれてはいるケド、本当は君がとっても大変なコトになっているから早く俺も駆け付けたいって心配なんだよね
人間世界で魔法が使えない俺が…守れるかどうか不安はあるケド…
「今度は急に落ち込みまして!?」
すぐ顔に出る俺の変化にセレンさんが心配してくれる
「ううん、大丈夫だよ」
そうそう…どんなに不安でも、俺は君を助けるんだもん
強く誓うよ!愛の力で!
すぐポジティブになれるのが俺の良い所だった
「あの…お話は変わりますがイングヴェィ様、今年のクリスマスこそはあたくしと過ごしませんか?」
頬を赤らめてセレンさんは毎年こうして誘ってくれるんだケド、俺はいつも断っている
女神のような美貌で男からは絶大な人気があるセレンさん
でも、俺はセレンさん含めて誰かに特別な感情が持てなかった
ずっと、ずっとね…当たり前にあるハズの好きな人とかできなかった
生まれてから一度も、今までなかったから…
「今年のクリスマスは恋人と一緒に過ごす(過去に行って助けてハッピーエンド)予定だから、ゴメンね」
去年は世界平和を1日祈り続けるからで断ったよ!
一昨年はみんなが楽しく過ごせるようにって祈り続け………
えっ…恋をしたらそんなコトより恋人を優先しちゃう…もしかしてよくないコト?
いやいや!自分の役目はちゃんと果たすし、君のコトも幸せにするのは当然だよね!!
うんうんと勝手に考え納得して自分に言い聞かせる
「みんなのリーダーがな~に言ってんだか、イングヴェィに恋人とかオレ聞いてないんですけどー!!!??」
セレンさんと反対の席に座ってて会話を聞いていたリュストくんがテンション上げて俺の頬を突っついてきた
しかも高速で…ウザすぎ!?
「誰!?誰よ教えろってー隠すなよーオレ達親友じゃーん?」
親友になった覚えはないんだケドな
「隠すワケじゃないケド、まだ恋人じゃないし
それに相手は人間だから…」
口に出して誰かに話すともっと照れ臭くなる
それなのに言いたくなってしまって好きって感情と一緒に君のコトが俺の言葉になっていくよ
「……どういう事なんですの………その女は……」
リュストくんが騒いでクリスマスの話から俺の好きな人の話にみんなが盛り上がっていく中でセレンさんが面白くないと言う顔で静かに輪から外れて唇を噛んでいるのには誰も気付かなかった
そして、魔法力が回復した俺は1週間心の準備もしていたからすぐに過去に行くコトにした
俺もセリくんが過去に行った1週間前に行ければいいんだケド、自分の魔法で過去に行った人がいた場合、その人と同じ時間にしかいけないんだよね…
同じ時間に生きてる人が迷子にならないためだとは思うんだケドさ
自分の魔法でも知らないうちに身についてるからよく考えると奥が深くてちゃんと意味があるんだなって勉強になるよね
「わあ~ココが人間世界なんだ~」
すっごく長生きしてても実は人間世界にははじめて来るんだった
ちょっと感動する
上から人間世界を見るのと、人間と同じ目線で見るのとは全然違うね
俺が来たのは水族館…?と言う魚を見るところだった
近くにセリくんとセリカちゃんがいるハズだからここなんだろうケド…
魔法が使えないから姿を消せない俺は周りの人間達から
「突然美形の男が現れた!?」
としてめちゃくちゃ騒がれてしまった
「カッコイイ…外国の人」
「こんなに綺麗な人がいるなんて知らなかった…」
「芸能人か何か?オーラが違うよね!!」
こ、これは……よくわからないケド騒がれたコトにビックリして逃げるようにその場を去ってしまった
水族館の中に光る魚コーナーって言うのがあって照明も暗いからとりあえずそこに隠れ入って落ち着く
どうしよう…魔法が使えないから姿も消せないし、俺ってそんなに目立つのかな?
オーラが違うって…人間じゃないコトがバレてたりするの!?
「綺麗だね、見たコトない魚がいっぱい」
誰もいないと思っていたのに、俺より先客がいて女の子の声が聞こえてビックリする
「そうだな」
女の子の声に応える男の声…もしかしてカップルかな?
と気になった俺はちょうど良い真ん中にある水槽の角に隠れながらそのカップルの姿を覗き見る
「魚ってあんまり興味なかったケド、ちょっと楽しいかも」
綺麗な色の魚の水槽を見ていた彼女が隣にいる男に視線を向けた時、その横顔に俺の心が跳ねる
一瞬でわかった、写真で見た時よりもずっともっと強くときめく想いが
君は……俺の運命の人…セリカちゃん……
はじめて本物の君を見て嬉しくなった心が熱くなる
すぐにでも君の前に姿を現したくなったケド
その気持ちは一瞬にして崩れていく
「レイ…?」
レイと呼ばれた君の隣に立つ男が君の肩を掴んで引き寄せる
少しだけ驚いた君も、何も言わなくてもわかったのか
「うん…」
と頷いてそのまま身を任せる光景を見てしまったら、俺の笑顔は凍りついて崩れて足が動かなくなってしまった
セリくんが、セリカちゃんは俺の恋人だって言ってたから…
俺はその気だった
まだ出会っていないのに……
過去が変わったなら、セリカちゃんに人間の恋人がいてもおかしくない…
そんなコト予想もしないくらい君への想いが強くて深くてまっすぐで……
苦しいよ……
あれだけ夢見ていた運命の恋人は、出会う前はただの他人なんだね……
ショックで消えてしまいそうだったケド、それでも俺は君のコトが諦められなかった
この恋がなくなった時こそ自分の存在が消えてしまうと思うくらい全てをかけていたから
「次はシロクマ見に行こうよ」
「今はシロクマの赤ちゃんがいるって知っていたかい?」
「えっそうなの!?絶対可愛いんだろうな」
光る魚コーナーを後にした2人から距離を取ってついて行く俺ってもしかしたらストーカーかもしれないって思ってきた
周りの人間は相変わらず俺を見て騒ぐケド、今こっちはそれどころじゃないんだよね!?
甘酸っぱい恋が終焉に向かってるからさ!!
それをどうやって止めるかに必死だよ!!!
「そんなに急がなくてもシロクマは逃げたりしないぞ」
「それでも早く見たいんだもん」
仲良く手を繋いで笑い合う2人を見てると涙が出てくるぅ…
嬉しい楽しい幸せって感情が伝わってくるみたいに…
俺も君に見てもらいたい触れてもらいたい…愛してもらいたい……
今目の前の君には恋人がいるなら、その恋人から君を奪うのは悪いコト…?
頭に過ぎるのは略奪しかなくて…自分の翼が黒く染まっていくコトにも気付かない……
本当に…本当に…本当のセリくんの言う世界なら、俺と君は恋人同士なのかな……
そんなの夢みたいだよ
「今日は君が何者かに殺される日……」
ふと思い出す本来の目的
それと同時に、俺じゃない恋人のいる君なんて…死んでしまえばいいのに……って思っちゃった……
そしたら、俺が連れて行くコトができるんだもん……
誰にも渡さないし…ずっと俺だけのものにしたい……
そうだよ…そうだ…殺すしかない
もうどうなってもいい、他のコトなんてどうでもいい
……恋をした俺は全てが失格だね………
恋を知らないままだったら、世界は平和だった
でも、俺は幸せを知らないまま
それってどっちが良いのかな……なんて、考えるまでもなく
俺は君を選ぶよ、欲にまみれて
シロクマを見終わると水族館にあるカフェテラスで休憩をする2人の姿を離れた場所から眺める
カフェ店内に人間はたくさんいるケド寒いこの季節にテラス席にいるのはレイくんとセリカちゃんだけだった
好きな人といるとあったかくなるから寒さなんて気にしないって?ムカつくな~…
「次は何見る?」
パンフレットを見ながらホットココアを飲む君にレイくんは今まで浮かべていた爽やかな笑顔から真剣な表情に変わる
「セリカ」
「なんですか!」
いつもと違う雰囲気と感じ取った君はそういうのが苦手なのか冗談っぽい発音で返事をした
「前にも言ったが、俺の恋人にならないかい」
それでも口に出されるとふざけていられなくなって真面目に彼女は照れて俯く
そう…まだ2人は付き合ってないってわかったケド、手繋いだりしてたから…返事はOKなんでしょ?
そんなの聞きたくないよ……
「レイ…私は…貴方のコト」
「言わないで、聞きたくない…」
変えられた過去でも今の現実を俺は受け入れたくなくて、君の言葉を阻止するべく近づいた
突然現れた俺にレイは警戒して君の手を引いて席を立つ
君はただただ驚きに目を見開いて俺を見る
そんな目で見ないで…誰って言うような目で…見ないでよ……
「知り合いか?」
「ううん…知らない人……」
知らないって言われると傷付くのに
でもそうだよね、知らなくて当然だよね
だってここでの君とは今が初めて出逢った瞬間…
こんな最悪な出逢いしたくなかったケド
「でも……」
呟くように君は何かを言いかけた
でも、俺はすぐに君の手を掴んでレイくんから引き離した
簡単に…魔法は使えなくても、普通の人間より俺は力が強いみたい
「きゃっ!?」
「なんなんだあんた…セリカを離せ!」
君を取り戻そうと俺を掴もうとするレイくんの身体を軽く突き飛ばすと簡単にテラスから落ちる
こんな簡単に…人間が……
「レイ…ヒドイ!なんてコトするの!?」
「…死なないよ……ココ2階だもん」
君の白い肌が真っ青になってあんな男のコトを心配する
あんな奴が君を守れるワケない
人間なんて弱いもんね
何者かが殺しに来るのを守れるワケないんだから……
君を守れるのは俺だけだよ
…俺がその何者かになるかもしれないなんて疑うコトすらしない
「邪魔者はいなくなったね
会いたかったよセリカちゃん、君の答え次第で…」
殺して連れて帰ってあげる……
「私…貴方のコト知らないもの
レイのコト助けてあげて!死ななくてもきっと怪我してるわ!
ヒドイ事する人、私は嫌い!!」
泣きながら怒る君を見て心が酷く痛む
羨ましい羨ましい羨ましい…君にそこまで心配されるレイくんが羨ましい……憎いな…
運命の君が…運命の俺を嫌いになったら…世界は終焉?
「セリカちゃん…
どうして……俺は君の運命の恋人なんだよ?
君ならわかってくれるよね?
だって俺達は結ばれるのが当たり前なんだもん
人間だからわからないのかな?
生きてるからわからないのかな?
ずっと俺の傍にいたらいつかわかってくれるよね…」
俺は君の首を両手で絞めていく
視界が霞んで見えなくなっていっても手の中にある感触はどんどん強く深く感じる…
君への愛が強いほど力が込められていくよ
いつから俺は狂ってしまったのかわからない
初めて芽生えた恋心は満たされないと暴走していくから
俺に恋心が欠如していたのはこういうコトになるからだったのかも
でも、もう恋を知ってしまった俺はその想いのままに翼を真っ黒に染めてでも貫くコトしかできなくなった
自分が夢見ていた仲良く一緒に生きていくってコトも崩れていってしまう
愛してほしい
ただそれだけ……
俺はこんなにも君を愛しているんだよ
-続く-
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