2012年 第3話 運命が狂った日

「ちょっと…いつまで着いてくんの?」

「いつまでもドコまでも!」

結局、ドアを叩きまくっても中には入れてもらえなくて

数時間後にセリカちゃんが仕事に行くみたいで出てきたからついて行くコトにした

「ウザすぎ…

今から仕事に行くんだから邪魔、消えて

アンタのせいで遅刻しそうだし」

「遅刻…俺のせいで……?

心配ないよ!他の人には見えない魔法が使えるから!」

「何言ってんの?」

深いため息に目も合わせてくれなくなった…

そんなコトより、セリカちゃんの顔色がいつもより悪いような……

「…そういえば最近寝てないんだろ?」

昨日も起きてて俺を撃退するくらいだったし…

人間は睡眠を取らないといけないんだろ?

俺だって寝ないと魔法力回復しないし…睡眠ってめっちゃ大事だと思うんだよな

「俺が変な奴来ないか見張っててやるから今日は仕事休んで寝ろよ」

心配して俺はセリカちゃんの歩く前に移動する

「変な奴はアンタでしょ」

まったく信頼されていない…

セリカちゃんは俺を避けて遅刻しそうだからと駅の階段を速足で降りて行く

人が多く流れるような階段を降りるセリカちゃんを眺めていると、なんとなくイヤな気配を感じて俺は警戒するように辺りを見回した

その時、セリカちゃんの悲鳴が聞こえる

「わっ…!?」

聞こえた声で視線を戻すとセリカちゃんが階段から落ちていくのが見えた

ヤバイ!?そう思っても今からじゃ間に合わない

何やってんだ俺は、セリカちゃんを守るって誓ったのに…

それでも俺ははやる気持ちから追い掛けた

でも

「おっと、大丈夫かい?」

人が落ちてくると気付いたみんなはセリカちゃんを避ける中、セリカちゃんが落ちたのに気付き近くにいた男がシッカリと抱き留めて助けた

「ぁっ…す、すみません……ありがとうございます」

一瞬何が起こったかわからなかったセリカちゃんも自分が金髪で夜色の瞳の美形に抱き上げられているコトを自覚すると瞬時に頬を赤らめる

おい…誰だあのイケメン……許さない…

「いや、君が無事ならいいんだ」

太陽のような笑顔のイングヴェィとはまた違う爽やかなイケメンスマイルにさらにセリカちゃんは顔を赤くし固まっている

「ちょっとちょっと!セリカちゃんを助けてくれたコトには礼を言ってやってもいいが!さっさと離せ!!」

他人から姿を見えなくする魔法を解いて俺はセリカちゃんを引っ張る

「あんたは彼女の兄弟かい?

彼女、あまり体調がよくなさそうに見えるから今日は帰って休んだ方がいいだろう」

んなこたぁ言われなくてもわかってんだよ!!

俺が言っても帰らないセリカちゃんなんだから…

「そうですね、今日は大人しく帰ります

すみませんありがとうございました」

えー!!!??

セリカちゃんは恥ずかしそうに頭を下げて素直にイケメンの言うコトを聞いた

何コレ差別!?

ってかセリカちゃん!君にはイングヴェィって恋人が(未来に)いるのにそんな人間のイケメンだからって、なんて顔するんだ!!!

100歩譲ってイングヴェィはマスターのリーダーだから許すケド、人間のソイツは許さないぞ!!!!

「あぁそれがいい、自分を大事にな」

爽やかな笑顔を残して立ち去るイケメンをセリカちゃんは暫くぽーっと見つめていた

俺は横からジトーと睨む

結局、女はイケメンが好きなんだよ!

あんな爽やかそうな顔してっけど、モテモテだから絶対女たらしだぞ

セリカちゃんの嫌いな人間の男なのに!

「さっきの人…私が体調悪くて階段を踏み外したと思ったんだろうケド」

「ん?」

急にセリカちゃんは階段から落ちたコトを思い出すと少し怯え出した

「誰かに押されたような気がした……」

その言葉を聞いて俺はその時にイヤな気配を感じたコトを思い出した

今はイヤな気配は消えてしまってるが……

あの時の…イヤな気配はセリカちゃんを狙う何者か?

人間じゃない…何者かが………


とりあえず、イケメンに言われたセリカちゃんは大人しく家に帰ってベッドに横たわった

「なんでアンタが家にいるの…?」

「変な奴が来ないか見張っててやるよ!!」

「アンタが1番怪しいんだってば、何回言えば…」

と言っておきながらセリカちゃんは今まであまり眠れていなかったからなのか枕元に丸まってるウサギの癒し効果ですぐに深い眠りに入る

ちょっとホッとした…

セリカちゃんが寝てくれて…いつも元気でいてほしいから

俺が傍にいながら守れなかったコトを反省し、次からは頑張るとまた強く決意した



次の日、コンビニに行くセリカちゃんに着いていくとその先で昨日のイケメンとバッタリ出会ってしまう

「やぁ、君は昨日の」

「貴方は…」

おかしくない?なんでいる?どう考えてもコイツが怪しいし、今回の件と関係ないならただのストーカーってコトで警察呼ぶ

気付いたのはお互い同時にで、2人はコンビニのど真ん中で再会の喜びに感動している様子

邪魔だろ…なんだこのなんとなく感じるムカつく雰囲気は!

セリカちゃん、俺にはオマエとか言うクセにそのイケメンには貴方ってどういうコトだ!!差別か!?

「もう体調の方はいいのかい?」

「はい…」

イケメンの爽やかな笑みに照れて俯くセリカちゃんを見てこれ以上会話させるワケにいかないと思った俺は2人の間に割り込む

「怪しい奴だなオマエ!?」

って言うとセリカちゃんが俺の腕を強く引いて足を踏んできた

「いつも一緒とは仲の良い兄妹なんだな」

「そうなんです」

ぃたたってえぇ!?俺のコト、キモイストーカーとかあれだけ言っておいて!?

コイツこそストーカーだよ!?本物だよ!?

わかりやすいように邪魔してるのにイケメンもセリカちゃんも気にせず話を続けるなんて…

「ちょっと!何失礼なコト言ってんのよ」

ほほほと言いながらもセリカちゃんは小声で俺を睨みつける

「だってよ!何かあった時に出会う奴が1番怪しいだろ!?

漫画やドラマとかでよくあるパターン!!

近付いて仲良くなってから裏切ったりする奴、絶対コイツだよ!」

「この人は階段の下にいたのよ

どうやって私を突き落とすのよバカ」

言っても信じようとしないセリカちゃんはまた俺の足を踏み付けてイケメンのほうに向き直った

確かに…コイツは正真正銘の人間だ……

あの時に感じた気配とは違う

でも…セリカちゃんの顔がイングヴェィを見るような顔になってるから……イヤなんだ

今のセリカちゃんはイングヴェィを知らないからだけど……

イヤな予感がするんだもん………



それでも、この偶然の再会が運命だと錯覚したセリカちゃんは日に日にイケメンと仲良くなっていくのだった

「今日はレイとデートだから留守番ヨロシクね~」

散々俺のコトをストーカーとか言って拒否ってきていたのに

あのイケメン、名前はレイと仲良くなってからはスッカリ毎日がご機嫌で多少のコトは快く受け入れてくれるようになった

今では俺も前と同じようにセリカちゃんの兄として住まわせてもらっているが……

これはイングヴェィがレイに変わっただけで、君に恋人ができるなんて俺は面白くねぇし

「いつの間にアイツと恋人同士になったんだよ」

「ん?イヤだ~まだ恋人同士ってワケじゃないわよ」

ふふふと照れ笑い

その浮かれ具合はもう同じようなもんだろ!!

「最近、変なコトも起きなくなったし

レイといると穏やかだから、これって良いコトなのかも

ついに私の時代がきた!みたいな」

アハハと可愛く笑う君に不覚にも心奪われてしまいそうになるが、俺がシッカリしてないとダメだってコトをすぐに思い出す

「それおかしいだろ!?

今まで何者かに自分の命を狙われていたのに、レイと出会ってからパッタリとそんなコトがなくなったとか

もうレイが怪しすぎるわ!!今までのコトはソイツがやってたってコトなんじゃねぇの!?」

「アンタはテレビの見すぎマンガの読みすぎなのよ」

俺が真剣に心配してるのにセリカちゃんは聞き流しながらデートの準備を終える

「それじゃ行ってくるね」

「門限17時!」

って言ったケドたぶん聞いてないな

機嫌良く家を出て行くセリカちゃんを見送ったフリをして俺も姿を消して後をつけて行くコトにした


「ゴメンねレイ、待った?」

「いや今来た所」

待ち合わせ場所の水族館前に着くとすでに待っていたレイを見つけると君は笑って足を速める

今来た所ってそんな偶然ねぇだろ!?

10分は待ったとか言えよ!!!爽やかなイケメンとかムカつく!!

(セリカちゃんにソックリな俺はカッコイイイケメンには程遠いからと激しく嫉妬する)

デートでありきたりな言葉を交わして仲良く水族館に入って行く2人と一定の距離を置きながら俺も中に入っていく

と、初めて水族館に来た俺はお魚さんがいっぱいいる大きな水槽に感動した

「スゲー…動物園には何回か行ったケド水族館ってこんなんだったのか」

セリカちゃんって前は魚見て何が楽しいの?とか冷めたコト言ってたのに

レイに誘われたら行くんだな…

「あっ!イルカとペンギンショー!?何ソレ!?

絶対面白い!!行ってみよー!」

初めての水族館は俺の目には魅力的に映り興味津々になる

ショーの案内を見た俺はすっかりセリカちゃんの後をつけるコトを忘れて自分の興味のままに水族館を楽しもうとした

そして…俺が過去に来てから1週間経った今日がイングヴェィの来る日だってコトも忘れていたのだった……


ショーを見終わってお土産のぬいぐるみコーナーを見ていると

「これ可愛い~」

さっき見たイルカが可愛いぬいぐるみになってたくさんいた!

…いや違う!可愛いケド違う!!

ぬいぐるみを見ているとまた何かの気配を感じてハッと自分の役割を思い出す

セリカちゃんが階段から落ちた時に感じた気配と同じ…人間じゃない気配

「貴女を殺しに来ました」

そう耳元で囁かれた瞬間、持っていたイルカのぬいぐるみが大爆発する

咄嗟に魔法で自分の身を守ろうとしたケド、不完全な魔法のまま受けてしまったからかなりダメージは受けてしまった

俺がいたぬいぐるみコーナーは爆発のせいで跡形もなくなったが

幸い、そこには俺しかいなかったから怪我をした人間はいないみたいでホッとした

「何々?何が起きたの?」

「凄い爆発したけど…」

平和ボケなのか、逃げればいいのにたくさんの野次馬が集まってくる

さっきの声は俺を狙ってる…?わからないケド

とにかくもし狙われてるならココから離れないと次は他の人も危険だ

俺はダメージを受けた重い身体を引きずりながら外へと出た


「っハンパねぇわ!!なんなんだアイツ!?」

人気のない海が見える場所で魔法を使って怪我を治していく

俺を殺しに来たって言ってたケド…

痛みが引いてくると冷静に物事を考えられるようになってきて俺は気付いた

今日って…セリカちゃんが殺される日じゃなかったか……?

もしかしてさっきの奴は俺をセリカちゃんと見間違えて?

姿は消していたが、奴は俺が見えていた

そして爆発の消耗が大きく姿を消す魔法を維持できず解けてしまった

最近、変なコトが起きなかったからスッカリ油断してたぞ

「ハッ!?」

怪我を治していると自分の上に影が重なり顔を上げる

「あの爆発を直撃して生きているとは、人間は思っていたより強い存在なのですね」

黒い翼から抜ける羽根が俺の頬を掠めた

コイツ…悪魔でも神様でもない……

俺と同じ存在だ

見ただけでわかる、自分と同じ奴は…

「オマエ…こんなコトしてどうなるかわからないのか!?」

黒い翼は自分の心が醜くなった証で、完全に真っ黒になってしまったら消えちゃうんだぞ!!

「マスターが貴女を殺せと言ったのです」

そう言って目の前の男はセリカちゃんの写真を取り出して見せてきた

………おい!コイツのマスター誰だよ!?人間殺せなんて言うマスターはイングヴェィからクビにしてもらうように言っとかなきゃな!!

その前に…コイツの口ぶりからして何も知らないみたいだ

翼の色は知らない奴も多いかもだが、同族に会ってもコイツはわからない

相手が人間かどうかも判断つかないってコトは…生まれたばかりなのかもしれねぇな

何より抜け羽根が多いから!!

「アンタのマスターは何を教えたんだよ…

俺達は人間を殺すようなコトしちゃいけないんだぞ?

人間にクリスマスプレゼントを送り届けるのが役目なんだ」

俺達はマスターの好みで創られるから黒髪のクールな長身美形な男って言ったら……セリカちゃんの好み……だが

その前に大事なコトは…この人は使い捨てで創られたってコトか

本当にマスターが人間を殺せと教えたならコイツはセリカちゃんを殺した瞬間に消滅する

そんな俺達を使い捨ての道具としか思ってない人と言ったら……

もしかしてセレン様の…?

「私は貴女を殺せと言われただけ、マスターの言葉は絶対です…」

冷たい表情のまま男は素早い動きで俺の後ろに回り込む

クリスマスプレゼントを渡すタメに創られた俺と殺しのタメだけに創られたコイツとの力の差は歴然で

俺は簡単に男の手にかかるのだった

「さようなら…」

冷たい声が耳に届いた時、喉元を深く切られた俺は声を出すコトもできずその場に膝をついて倒れた



-続く-

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