2012年 第2話 もう一度、君を振り向かせたいから
セリカちゃんが俺と出会う前に亡くなっているという書物の記録に俺達は暫くの間、言葉を失ってしまった
これが現実だと受け入れなければと俺の脳裏に過ぎったが、すぐに首を横に振ってそんな現実はないと否定する
「違う!!こんなのウソだ!!
俺は3年前にセリカちゃんのクリスマスプレゼントになるんだよ!!
それが真実!!こんな書物信じねぇからな!!」
運命の人がいないと知ってショックを受けていたイングヴェィは、俺が書かれている書物の真実を否定するとなくした光を瞳に戻す
「その話…詳しく聞かせてくれるかな?
本当に君が、今の現実がウソだと思うなら
……誰かが過去を変えてこうなってるのかもしれない」
過去を変えた…?誰かが?
もしそうなら、もう一度過去を取り戻すコトができるのか?
今のウソの現実を本当の現実に戻せる?
セリカちゃんとまた一緒にいられる…
そしたらリジェウェィさんが死ぬコトもない
俺は微かに見えた希望に藁を掴むような思いでイングヴェィに俺が記憶している真実を話した
夢のような話を……妄想とも疑うコトなく、受け入れてくれる
「セリくんの話が本当なら、誰かが過去を変えない限り今の状況にはならないってコトだね
過去を変えるなんて絶対にしちゃいけないのに…」
俺の話が終わるとイングヴェィは色々と考えながら話す
「それじゃ…もうセリカちゃんには会えないのか……」
過去を変えちゃいけないなら、この現実を受け入れろって?
「ううん、それが本当の現実なら取り戻す為に、過去を変えた何かを同じように過去に行って阻止しなくちゃ」
ややこしくて一瞬、ん?ってなるケド
とりあえずセリカちゃんとリジェウェィさんがいる本当の俺の現実に戻れるってコトだよな!?
「だから………セリカちゃんを殺した奴を許さない……」
「恐い恐い恐い恐ぇよ!!!???」
その病んでるところは変わらないのな
「って殺した奴…?」
イングヴェィは酷く表情を曇らせて病むと、書物を見せて言う
「死亡原因ってのがあってね
セリカちゃんは何者かに殺されたって書いてあったよ」
「何者ってなんだよ?
誰々に殺されたって書いてないとか不親切すぎねぇ?」
「普通は殺人は加害者の名前は書いてあるんだケド…セリカちゃんのには書かれていないのは変だよね
考えられるのは、この何者かってのは人間以外ってコト」
それって悪魔とか妖怪とか…神様とか俺達のような存在のコト…だよな?
イングヴェィはその怪しい何者かが過去を変えた原因だって言う
まぁそうだよな
本当ならセリカちゃんはその年のクリスマス近くに俺と出会うんだから
その前に殺されたってのは…変だ
「わかった!とりあえずそのセリカちゃんを殺した奴を捕まえて、セリカちゃんを守ればいいんだろ!?
それなら早く過去に行こうぜ!」
「問題は…」
今すぐにでも行きたい俺の気持ちにブレーキをかけるようにイングヴェィが息をつく
「まさか過去に行く方法がわからないとか…」
「いや過去には行けるんだケド、あれはかなり魔法力を使うからね
1回で1人しか行けなくて、次に過去に行けるくらいの魔法力が回復するには1週間もかかるんだよ」
「1週間も!?」
「2人目以降は最初に送った人と同じ時間軸にしか飛べないし、過去に行くには同じ日じゃないと無理なんだ
だから、君を3年前の今日に送ったら事件の1週間前だから俺は事件当日に行くコトになるんだよね…
1週間も待ってられないな、今すぐ助けに行きたいのに
俺が先に行ったら君は来れないし、どうしても俺が後からになるでしょ?
人間世界じゃ君は魔法力が回復するケド
俺は回復しないし、行っても相手が人外なのに素手で戦わないといけないとか大丈夫なの!?
そんなんで俺は彼女を守れるの!?」
っうるせぇーーーーー!!!!!!!!!!?????????
気持ちが高ぶってるのは俺だけじゃなくてイングヴェィもそうで心配をめっちゃぶちまけてくる
そういやマスターも自分達には人間世界の空気は毒だからって長居できなかったな
だから俺達のような存在を創って人間にクリスマスプレゼントを送ってるワケなんだが
「うっせーわ!
素手で勝てるワケねぇと思うんなら大人しく待ってればいいだろ!!?」
「大人しくなんて待ってられないよ…
魔法が使えなくても、俺は彼女を守る
相手が何者でも、何があっても…俺が守りたいんだ」
魔法が使えないイングヴェィなんて人間と変わらない
俺の記憶のあるイングヴェィは人間世界でも魔法を使えていたのは回復しなくてもそれだけ魔法力があって
たぶんどのマスターとも比べものにならないくらいに
過去に行ける魔法だって使えるマスターなんてたぶんほんの一握りだと思う
そのイングヴェィの魔法力がスッカラカンになっても、セリカちゃんを守ろうとするなんて…
どんだけ好きなの???
今の現実じゃ会ったコトもないのに???
魔法が使えないイングヴェィなんて魔法が使える俺より弱いんだから待ってればいいのに…
それでも守ろうとするのは…愛だから……?
そうして、俺はギリギリまでイングヴェィの小言を受けながら過去へと送ってもらった
「やっぱり俺はこっちの世界のほうが居心地がいいかもしんないな」
たった1日だけの天界だったのに、イングヴェィに過去の人間世界に送ってもらうとめちゃくちゃ懐かしく感じた
今は3年前の事件が起こる1週間前…
1週間後にはイングヴェィも来てくれるから少しは心強い
魔法は使えなくてもな…
俺は魔法が使えても犯人が何者かわからない人外相手に1人は不安でたまらないよ
失敗したらセリカちゃんが殺されんだからな……
人間世界の朝の空気をたくさん吸いながら、俺は自然と自分の家へと足が向いた
そこは俺とセリカちゃんの家…オンボロアパートへ……
「ただいま~!」
いつも通りに当たり前のように自分の家のドアを開けると
「ぐふっ…!」
いきなり頑丈な細い棒で腹をおもいっきり突かれた
普通に殴るじゃなくてえぐるように突き刺す発想が鬼畜だと思った
「……いきなり…何するんだよ……」
突かれた腹を抑え膝を折って痛みに耐える
「それはこっちの台詞よ!」
容赦なく乱暴してくる凶暴性に俺はハッと思い出す
そうだった…俺と出会う前から出会って暫くは超凶暴な性格なんだったセリカちゃんは……
上から聞こえる威嚇の声に顔を上げると、1日しか会えなかっただけなのにもう懐かしいセリカちゃんの顔だ
すると涙が……腹の痛みと会えた感動の涙が……
「アンタね!最近、私を狙ってる奴は!?
普通の女の子なら死んでるかもしれないケド、私はそう簡単には死なないわよ!
それどころか返り討ちにしてやるんだから!!」
何があったのか気を荒くしてセリカちゃんは棒を振り回す
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!落ち着けって!?」
俺はセリカちゃんの攻撃を全て避けて、棒を掴み抑えた
…狙ってるって?
もしかしてすでにセリカちゃんは何者かに狙われた状態?
1週間後に死ぬのは知ってたケド…もうすでに襲われていたなんて……
「は、離しなさい…!」
棒を掴んで止めるとそこからセリカちゃんが奮えているコトに気付く
そうだった…気が強いのも荒いのも自分を守るタメで、本当はめちゃくちゃ弱い女の子なんだって……
朝方でもまだ外は薄暗くて部屋の中も真っ暗だ
俺が入ってきたと同時に攻撃してきたってコトはセリカちゃんはずっと眠らず何者かを警戒していたんじゃねぇかな………
そうわかると俺の心は締め付けられ酷く痛んだ
ひとりぼっちで恐かっただろうに…
「セリカちゃん!!」
「何!?なんで私の名前知ってるの!?」
「俺を見てくれ!!」
まずはセリカちゃんの気を緩めるコト、信頼してもらうコトが先だと思った俺は部屋の電気を点けて自分の姿を見せた
…君と同じ姿の……俺を
「………っ…」
電気の明かりで俺を見たセリカちゃんは目を見開いて息をのみ
「うわぁ~…私のコトが好きすぎて私の顔に整形までしてくるストーカーとか気持ち悪……」
初めて会った時と同じコトを言われた
うわぁ~懐かしい…その台詞……
「俺はストーカーじゃねぇ!!!??」
「よく聞くと声までソックリでドン引きだわ……」
「あぁ!もうその流れは前にやったからいらねぇよ!?
俺はセリカちゃんを守りに来たんだ」
真剣に向かい合ってると
「何の凝った演出か知らないケド、その散らかした羽根ちゃんと掃除してよストーカー野郎」
ぐ…それも同じコトを……
あの時はまだ生え変わりの抜け羽根が多かったケド、今はあの時より抜け羽根少なめなんだぞ!!
俺はちゃんと翼を見せて人間じゃないアピールをしてみた
「俺は君のクリスマスプレゼントだよ…
君の家族に、兄になるタメに来てやったんだぞ」
「シーン………」
その冷めた痛い奴を見るような目が苦しい!!!!
またコレは1から信じてもらうのが大変そうだな…
「とにかく!俺は君の敵じゃねぇから!!」
「同じ顔にするくらいの熱烈なストーカーだから私に好意はありそうね
でも、ストーカーは行き過ぎたら殺人だってやっちゃうし
好意があるってコトは襲われたりするかもしれない…」
「襲うって…胸ないのに…」
しょんぼりして言うと人殺しそうな目を向けられ全力で蹴られた
「いやいや、俺は君のコトが大好きだケド
恋愛感情はねぇから安心しろってマジで」
「……………。」
ジト目が……怒ってるケド可愛い、凶暴だけど可愛い
あっそうだ!俺はどんなに怒っててもセリカちゃんが笑顔になるものを思い出した
指を鳴らして、友達の白い子ウサギを呼び出すとセリカちゃんの表情がみるみる緩んで柔らかくなる
「か、かかかか…可愛い……可愛すぎて死んじゃう!!!」
俺の手の中にいる子ウサギを奪い取るように抱き上げて頬擦りしてる
「だろ?ソイツを触らせてやったんだから、俺を部屋に入れろ」
心を開いたと思った俺はそう言うと鋭い視線を突き付けられ
「何言ってんの…動物は可愛いケド、これとアンタとは別だし」
俺の友達のウサギは持ったまま俺だけを足蹴にして玄関から追い出そうとしてきた
ちゃっかり俺の友達が誘拐されてる!?
「ま、待ってくれよ!?
このままじゃセリカちゃんは危険なんだよ!?」
受け入れてもらえないでいると1週間後に起こる恐ろしいコトが回避できないかもって頭に過ぎって俺は必死にドアを締められないようにしがみつく
「このままじゃセリカちゃんは1週間後に殺されちまうんだぞ!?
俺はセリカちゃんを守るタメに未来から来たのに!!
未来から来た!そう未来から来た!!
ココで追い出されたら意味ねぇじゃん!?
1人でいたら絶対危険なんだよ!!」
「未来?バカなの?
アンタの話を信じるワケじゃないケド、もし私が1週間後に殺されて死んでも別にいいわ…
私には家族も友達もいないから、生きてても毎日がつまんないのよね……」
セリカちゃんの言葉に俺はショックを受けて力が抜けてしまった
その隙にドアを締められて寒くて寂しい廊下に1人ポツーンとなる
確かに…最初に会った頃の君はそんな感じだった
でもそんなコト忘れるくらい何年も一緒にいて君は変わって
幸せだから………
俺の知ってる君と違ってショックを受けたんだ
でも、そうだ
君はこの先の未来で幸せになるから
「…だから…絶対に死なせない……殺させない……
守らなくちゃ……」
どんなに拒まれても、またしつこく鬱陶しいくらいにしがみついて
君に受け入れてもらう
それが俺の幸せでもあるし、もう一度過去をやり直しても君のクリスマスプレゼントになりたいから
そのタメに俺は生まれてきたんだよ
俺は自分の意志と決意を再確認して、固く閉ざされたドアをもう一度ノックした
-続く-
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます