2012年 第1話 記憶と現実の違い
夜の闇の中で眠る前は君の可愛い顔を見て目を閉じた
だから…朝になって目が覚めたら、目の前に君がいるのが当たり前なのに…
「ん…んん…眩しいな……」
カーテンを閉めてるハズなのに、いつもより光が強いと感じ目を覚ます
「あれ…?」
まだハッキリしない寝ぼけた頭でも自分の視界に映るのは見慣れた景色じゃないってコトに気付く
太陽の光が凄く近くにあって、フカフカの白い雲の上……
ハッ!?ココってもしかしてマスターがいる天界じゃ!?
見慣れた場所は人間世界の俺とセリカちゃんの部屋なのにココはそこじゃなくて、でも知らない場所でもなかった
「ど、どうして!?」
マスターに創られた俺は元はココにいたケド、3年前にセリカちゃんのクリスマスプレゼントになったワケだからココには帰ってこれないハズ
慌てふためいても何が何やらわからないまま
とりあえず、俺は自分の頬をつねってみた
「あっ痛い、普通に痛い
ってコトは夢じゃないってコト…だよな…?」
夢じゃないなら現実?
色々と考えていたら友達の白い小鳥が俺の肩に止まる
朝の挨拶に来たんだろうケド…
俺は今それどころじゃなくて、挨拶に来た小鳥が首を傾げて暫く呆然としている俺の様子を見ていた
少し落ち着いた俺はマスターに話を聞けば何かわかるかもしれないとすぐに飛んでいく
「マスタ~~~!!」
「あらあらどうしました、朝からそんなに慌てて」
いつもと変わらないマスターに優しく微笑まれて見惚れている間に、マスターは俺を抱き寄せて頭を撫でて可愛がってくれる
はぁ…幸せな時間……
もうずっとこうして甘えていたい
…………………って、そんな幸せな時間過ごしてる場合じゃない!!
今の俺は一大事なんだよ!!
「ま、マスター…もうナデナデはいいんで、お話を……」
子ウサギをあやすように接してきていたマスターは俺が口を開くと手を止めた
「はい?」
「あの…俺は3年前にセリカちゃんのクリスマスプレゼントになってそれからずっと人間世界で暮らしてましたよね
なのに、さっき目が覚めたらココにいて…どういうコトなんでしょうか」
セリカちゃんのクリスマスプレゼント、家族の俺が離れるなんてありえない…
彼女が死なない限りは帰れないんだろ……
「セリカ…さん?
今まで貴方が担当してきた人間のどなたかのお名前でしょうか?
……しかし、そのようなお名前の方は記憶にありませんが……」
マスターは困った顔をしながらも記憶を辿り答えてくれる
ウソをついているようにも見えないし、マスターはウソをつけるような人でもない
記憶力の高いマスターがたった3年しか生きてないうちで俺が担当する人間を忘れるなんてのもないだろうし…
「そ、そうですか……」
困った時はすぐマスターに相談してたケド、マスターの次に頼ろうと思うのはリジェウェィさんだ
俺はマスターと別れてリジェウェィさんのいるセレン様の神殿へと向かった
「なんですの?お前のようなガラクタがここに足を踏み入れるなんて不愉快ですわ」
リジェウェィさんを捜していると悪意を込められた言葉が上から降ってくる
声からしてわかるケド、映る影に顔をあげるとやっぱりセレン様だ…
かなり嫌そうな表情で俺を睨む
いつもリジェウェィさんはどんな時でも神殿の出入口辺りにいてくれてたからセレン様と鉢合わせするコトがなかった
リジェウェィさんは俺がセレン様に見つかるとこうなるとわかっているからいつでも配慮してくれていたんだよな…
でも、今日はいなくて神殿の中まで入ってしまってこうなった
俺は1秒でも早くリジェウェィさんに会って相談したかったから考えなしに……
「セレン様…すみません……」
本能で恐いと感じて後退りをするが、すぐに意思をシッカリ持ち直す
ココで引くワケにはいかねぇ
俺はセリカちゃんに会いたいんだよ
「あの、リジェウェィさんに会いに来たんですが…」
弱々しくなりながらもセレン様の目を見ながら言うと、リジェウェィさんの名前を聞いたセレン様が吹き出すように笑う
「そういえば、お前はあの子の友人でしたわね
……いいですわ、会わせて差し上げますの
ついてらっしゃいな」
さっきまで俺を嫌った視線で見ていたのに、急に何か閃いた様子でパッと笑顔で態度を変える
俺はセレン様がついに女神らしく優しい一面を見せたのだと思って、釣られて笑顔になった
いつも恐いイメージがある厳しいセレン様はこうして笑ってるほうが良いな
セレン様に案内された場所は地下へと続く暗い階段を下りた先
「ここですわ」
地下の扉を開けると真っ暗で目が慣れないとよく見えないかも…
「ココにリジェウェィさんが?」
誰かの気配も全然感じないし…
「えぇ…ここはあたくしの失敗作を捨てるゴミ置き場ですもの」
セレン様にそう言われて耳を疑いそうになったケド
徐々に暗闇から目が慣れるとこの部屋がどれだけ酷い光景であるかが認識できる
たくさんの数え切れないくらいの死体の山……
みんな無惨に壊されて、ショッキングな姿に俺は息をのむ
誰かの気配なんてするワケない…みんな死んでいるんだから
この中にリジェウェィさんがいるって言うのか…?
リジェウェィさんが死んだってコト…?
「元はお前もここにいたのですわ」
セレン様の楽しそうな意地悪な声が静寂で冷たいこの部屋に響く
「あたくしの失敗作ですもの
何が楽しいのかわからないけど、お前のマスターはこのゴミ置き場を漁りに来てる事がありますわ
そうしてお前の所はほとんどがあたくしの失敗作だった物達…」
そう言いながらセレン様は魔法でマッチを取り出し火を点けた
高笑いをしながら火の点いたマッチを死体の山へと放り投げる
「最初からこうして処分しておけばよかったですわね」
「や…やめて……」
予感はしてたケド、思考がそれを認めたくなくて言葉が出遅れてしまう
もうその時には投げられたマッチの火が死体の山に燃え移り一瞬にして猛火となる
セレン様の魔法力で地下のこの冷たかった部屋は溶けそうなほど熱くなった
「お前も元はあたくしの物だったのだから、どうしようとあたくしの勝手ですわ
清々しますわね…これであたくしの邪魔なゴミは全部片付けれて……」
セレン様は俺を残したまま部屋から出て行きドアを頑なに閉めた
暫くはセレン様の笑い声が聞こえたケド、それも徐々に消えていく
「ど、どうしよう……ドアは開かないし……」
ショックを受けてて頭が上手く回らない
火は今にも俺も飲み込もうとするのに、熱さでやられるのが早いか…
俺の魔法力じゃセレン様の魔法力には敵わない
この火の勢いは抑えられても時間稼ぎにしかならない
火から遠ざかっていると足が何かに当たったコトに気付く
煙が充満しててよく見えないのに、なんとなくイヤな予感がしてしゃがみ込み当たった何かを確認してみると
「リジェウェィ…さん…そんな……」
変わり果てた動かないリジェウェィさんの身体が横たわっていた
自分の目で確かめるまでは心の中で
もしかしたらリジェウェィさんのコトだから大丈夫って思ってたケド
ダメだ…見ちゃったら、もうその事実を受け止めちゃって涙が止まらない
リジェウェィさんは俺の友達なのに…なんでこんなヒドイ事に、ヒドイよ…
今日、目が覚めて失ったものがたくさんある
たった一晩で変わるなんて……
リジェウェィさんが死んだなんて信じたくない
セリカちゃんがいないなんて信じられない
もう…どうでもいい
この部屋で焼け死ぬコトを決めるような
生きるコトを諦めてしまった俺は顔を俯かせたままになってしまう
そんな時
「諦めちゃダメだよ」
頭に響いてる?心に響いてくる声が聞こえた
この声は知ってる…人……
煙で何も見えない
ドコから声がするのかもわからないケド、その声を思い出そうとしながら俯いていた顔を上げるとシッカリと手を掴まれて引っ張られる
「うわッ…!?」
さっきまでいた火の中の部屋から澄み切った空へと視界が変わった
手を掴んだ誰かが外へと助けて出してくれたんだ
そして、俺の手を掴み連れ出したのは
「イングヴェィ!?」
セリカちゃんの恋人でマスター達のリーダーのその人だった
俺を助けてくれたってコトはイングヴェィならセリカちゃんの記憶があるハズだよな?
「あれ?君は俺のコトを知ってるの?不思議な子だね」
淡い期待をしたのに…
何かこの口ぶりからするとイングヴェィからしたら俺は初対面みたいな…おいどういうコトだ
イングヴェィは相変わらず太陽のような笑顔を向けてくる
眩しいんだよ!!腹立つわ~
でも、違和感があるのはマスターとはサイズが違って俺達と同じなんだな(人間サイズ)
マスターから見たら俺達は人形のように小さいから…
「助けてくれたコトには感謝するよ…
ケドなんで俺があそこにいるってわかって、初対面っぽいのに助けてくれたんだ?」
困ってる人を助けるのは当たり前って立派な答えが返ってくるなら
リジェウェィさんたちは…って突っ込んでやる
「……どうしてかな?」
イングヴェィは笑いながら首を傾げてるケド、茶化してるワケでもなくたぶんマジで言ってるんだと思うな
そういう奴だし…
セリカちゃんは気が強いのにこんなアホが恋人でいいのか?
……イングヴェィの前では大人しいケド…セリカちゃん
「君を死なせちゃいけないって思ったんだよね
俺の大切な何かとの繋がりがあるような気がして……」
「……………。」
「よくわからないよね
ゴメンね、俺も上手く言えなくて…
わからないのに…君を死なせちゃダメだって強く感じるんだ……」
切ない表情と俺を困らせないようにと無理に笑ってみせたり…イングヴェィは何も覚えてなくても
セリカちゃんのコト…心から愛してるから、運命の人だから
わからなくても感じるのかな……
なんか…ムカつく……
俺はちゃんと覚えてるのに、負けた気がするから……
忘れても心のドコかに強く愛が刻まれてるって言うのが、勝てる気しねぇんだよ
「……イングヴェィのそのモヤモヤした気持ちスッキリさせてもいいぜ」
「君は…何か知ってるの?」
「セリカちゃん
イングヴェィの大切な何かはそれ、人間の女の子」
俺がその名前を口にするとイングヴェィは一瞬驚いてから頬を緩めて瞳を揺らした
「その子の名前…知らないのに、聞いただけですっごい心がドキドキするね」
あっそ!!!!!!
人間と聞いてイングヴェィは俺を秘密の書庫に連れてきてくれた
秘密と言ってもマスター達はクリスマス近くになると出入りしてるから
秘密なのは俺のような存在だけ
その書庫には全ての人間のコトが書かれている書物があるんだってさ
「これ…俺が想像してたよりめっちゃ広い………」
全ての人間なら想像を超える量だってわかってるのにビックリするくらい書庫は広く大きい
「これだけあれば同姓同名とかい…」そう
って言おうとしたらイングヴェィは迷うコトなくセリカちゃんのコトが書かれた書物を持ってきた
「この子だね…」
そこには写真もついてるから俺が確認すると同姓同名の人違いではなく本当のセリカちゃんの書物だ
「なんでわかるんです?」
「愛の力?なんちゃって」
書物の1ページ目で愛しそうに写真を見ていたと思ったら、アハハと俺に陽気な笑みを見せる
うぜぇ……
「セリカちゃんと同姓同名の子は少ないケドいたよ
でも、間違えたりしないよ
だって…俺の運命の人だもん」
恐いわ…なんかコイツ恐いわ
知らないのに運命の人とか言い出してる辺り危険人物間違いなし…
イングヴェィはさらにページをめくっていくと途中で白紙のページになる
俺は横から本を覗いていて、イングヴェィが手を止めるから顔を見上げるとあのいつもの笑顔は壊れてしまっていた
「イングヴェィ?」
いつも明るいイングヴェィじゃないとちょっと心配になる…
「2009年の12月初めに…彼女は死んでるって……?」
「はっ…?イングヴェィそれは冗談でも…」
書物に書いてあるコトを読み上げてるのに疑問形なのは信じたくないからなのかもしれない
イングヴェィがこんな冗談を言う奴じゃないってわかってるのに、俺も疑ってる言葉を口にしてしまう
「3年前にセリカちゃんは…」
イングヴェィの震える声に、俺はどうして今自分がココにいるのかがわかった
3年前の12月始めなら俺はセリカちゃんとまだ出会ってなくて、出会わなければクリスマスプレゼントとして人間世界で生きるコトがないから…
昨日までのコトは夢?
そう思ってしまうくらい信じたくない現実だった
-続く-
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