2011年 第7話 自分の知らないコト

思ったより時間がかかっちゃったのに、俺が戻るとリジェウェィさんは少しも動かずにそこで待っててくれたみたいだ

「リジェウェィさんお待たせ、ゴメン」

「おかえりセリ、どうだったのだ?」

「なんかいつも通りでいいってさ

本当ビックリしたし焦ったよ

まさかセリカちゃんの恋人が…みたいな!

世間って狭いよな」

俺の話にふふっと小さくリジェウェィさんは笑った

リジェウェィさんはセレン様が想い人イングヴェィに似せて創ったって言ってたケド…

リジェウェィさんはイングヴェィみたいに笑ったりしないよな…

笑わないワケじゃない

今みたいに軽く小さくって感じにしか笑わない

「セリカは可愛い娘だと思うぞ

イングヴェィ様が惚れたのもわかるような気がするくらいにな」

「んー俺もセリカちゃんは可愛いとは思うケド…一般的に見て世界で1番とかじゃないし」

俺の中では1番可愛いって思ってる!

でもそれを言ったら同じ顔の俺はナルシストかよってなるから言わない!

「見た目どうこうより性格があれなのに…いいのか」

心配はそこ

まぁイングヴェィの前では牙も爪も抜けた小ウサギって感じか

逆にそれが危険だ…戦えない君を守れるのは俺だけだな!

「それすらも可愛いと思うのだ…

俺はあの方に似せて創られているのだからそう想わずにはいられない」

見た目だけでなく感情までも…?

リジェウェィさんって……

「何故…お前だけ特別なのか

似せて創られたのだからそれも当然なのだと納得した」

俺がセリカちゃんに似てるからなんだね…

リジェウェィさんには俺以外の友達がいない

なんで俺だけなのかって不思議に思ってたケド理由は好きな子に似てるからだったんだ

「それでも俺はリジェウェィさんと友達になれてよかったよ

理由がセリカちゃんに似てるからでもいいや

リジェウェィさんに1人でも友達ができるならそれが俺しか無理ならずっと友達でいるし」

ふふって笑うとリジェウェィさんも笑ってくれる

「俺も誰1人と友達がいないまま生きるよりお前とだけでも友達になれてよかったと思う

だから…あの時は悲しかったのだ…」

「悲しかった?」

リジェウェィさんはずっと話さないでおこうと思ってたコトを俺に話すと言った

話すきっかけも今だからと…

「元々、お前はバリファ様のものではなかったのだぞ」

バリファ様って一瞬誰?って思ったケド俺のマスターだった

いつもマスターって呼んでたから忘れ…

「ウソ!?俺がマスターのものじゃなかったってどういうコト!?」

信じられないような信じたくない言葉を聞いて俺はリジェウェィさんに詰め寄った

「お前は元は俺のマスターセレン様が創ったものなのだ

あの女には才能がないのに他のマスターに負けまいとお前を創り上げては出来損ないと決め付け壊し捨てた…

お前だけではない、あの女に創られたほとんどが……」

リジェウェィさんがウソをついてるとは思えない

それに俺は前にセレン様にガラクタ呼ばわりされたコトがある

その言葉がリジェウェィさんの言ったコトを証明してるみたいに

俺が出来損ないのガラクタだったから壊して捨てられたってコトだったのか…

他にも俺と同じように創られた仲間が壊し捨てられたなんて…ヒドすぎるよセレン様……

「そしてお前はバリファ様に拾われた」

俺にその記憶がないのは今の俺のマスターが拾って直してくれた時に悲しい記憶を消してくれたんだって

マスターが…俺を救ってくれたコトも知らなかった

優しいマスター…俺を特別に気にかけてくださるのは俺が壊されて捨てられてたからなの…

リジェウェィさんは昔俺にちょっかいかけてた奴らも元はセレン様が創って壊して捨てたから俺のマスターが拾って直したと言った

俺達はセレン様に壊され捨てられたほんの一握り

優しい俺のマスターは全ての子を直してあげたいと思ってるみたいだケド、創り出すより一度死んでしまった(壊された)のを直すにはかなりの時間がかかるらしい

リジェウェィさんは全部教えてくれた

「リジェウェィさん…なんだかいっぱいいっぱいだよ……」

一気に信じられない話を聞いて頭がパンクしそうだ

「すまない」

「ううん、教えてくれてありがとね」

リジェウェィさんがイングヴェィみたいに笑えないのはたくさんの仲間が壊されるのを見てきたからなんだな…

俺は頭の中を整理しながら思った

目の前で自分の仲間が殺されるのをずっと見てたら笑顔もなくなっちゃうのは当たり前だよ

リジェウェィさんがセレン様を嫌いなのもわかった…

あれ…そういえば

落ち着いてくると俺はあるコトを思い出した

「リジェウェィさんは去年でマスターになれたんじゃなかったっけ!?」

俺がセリカちゃんに会いに行く前にリジェウェィさんとした会話を思い出す

100回連続で優秀な人はマスターになれるって…そのリジェウェィさんの100回目が去年だった

なのに何の報告もない…優秀な人に選ばれなかったのかな

「去年は失敗してしまってな

格好悪くてお前には黙っておこうと、また1から頑張るつもりだったが

今日マスターから俺はマスターにはなれないそれは嘘であると聞いたんだ」

「そんな…リジェウェィさんあんなに頑張っていたのに……」

ウソだったなんて…ヒドイよリジェウェィさんのコト騙すなんて

セレン様って…

「もうよいのだ

俺がマスターになると誓った日も理由も今はもうなくなってしまっている」

あまりのヒドさに自然と涙が出る

リジェウェィさんにヒドイ事しないで…って思うから

泣くとリジェウェィさんは俺の手を掴んで顔を覗き込んでくる

無理に笑ってるリジェウェィさんを見ると余計泣いちゃうんだケド!

「マスターになりたかったのは壊されたお前を直したかったからだ

あの女の下ではなく、ずっと俺の傍に置いておきたかったからだ

そしたら悲しむ事も傷付く事も泣く事もないだろうからな

しかし…お前はバリファ様に救われた

そして今…ここにいて幸せだろう?

それで俺は十分なんだ

きっと俺ではお前を幸せにできない、幸せを壊すわけにはいかないから」

そう言ってリジェウェィさんは手を離して距離を取った

イングヴェィがセリカちゃんを幸せにするって誓いがリジェウェィさんにもあったんだろう

だから俺を大切に思ってくれて友達になれた

「そろそろ帰らなければならん」

「リジェウェィさんもココにいたらいいのに」

無理だってわかってても自然と口にしてしまった

「ここに…いられるなら…

無理な話だがな、ありがとう」

リジェウェィさんは俺とは違う

同じ存在でも住む世界は違う

ココにはいられない

「また来年も会いに来てよリジェウェィさん…」

もちろんだって言葉が返ってくると思っていたのにリジェウェィさんは少しだけ笑ってから帰ってしまった

寂れた公園に1つの光が消えて冷たい空気に包まれる

俺は友達のリジェウェィさんの力になれないのか

傍にいるコトもできない…もどかしい

これからみんなでするパーティにリジェウェィさんもいてほしかったな…

なるべく手紙は送るようにしよう

そして次のクリスマスにまた会えればいいな

リジェウェィさんがイングヴェィに似せて創られたのならイングヴェィと同じように笑えるハズ

いつかリジェウェィさんが本当の笑顔を見せてくれる日が来るコトを祈るよ


-シリーズ第2弾・2011年終わり-

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