2011年 第5話 君からの贈り物
寒くて暗くて閉園間近の遊園地は人が少なくなっていく
みんな笑顔でココから家に帰る
きっと笑ってないのは俺と君だけなんじゃないかって思うくらいみんな幸せなクリスマスイブを過ごしてるんだな
翼を出して少し高い所にある大きなウサギのオブジェの背中辺りで三角座りしてしまう
俺の翼…真っ黒だ…輝くコトももうない
根本が微かにまだ元の輝きを残しているケド、マスターの言ったコトが本当なら今夜には全ての羽根が真っ黒になりそう
もう身体も思うように動かない…
寒いのは平気なように創られてるハズなのに今日は凍えそうなくらい寒い
これが死ぬってコトなのかな…
1人で消えてしまうのを待つのも恐い
消えたくないよ
ずっと君と一緒にいたいよ
でも、アイツがいる限りそれはできないコトかな…
「セリくん…
こんな所にいたんだね、探したよ」
下から声が聞こえて誰かと思ったら…イングヴェィ、オマエか
人の気配を感じてセリカちゃんが捜しに来てくれたのかなって少し期待してたのに
「セリカちゃんが君を待ってるから一緒に帰ろう、ね?」
「オマエが消えてくれたら帰るよ
もうセリカちゃんに近付くな
人間のオマエはいつか絶対に彼女を裏切り傷付けるから
セリカちゃんは騙されてる…」
人間なんかが君を幸せになんてできるハズがないのに!
人間じゃない俺しか君を幸せにするコトなんてできない!!
このまま俺の存在が消えて死んでしまうならコイツを道連れにしてでも君を守る…
「セリくん…その翼……」
見られたってもう構わないよ
「ダメだよ
そんな悪い風に考えちゃ思い込んじゃダメ…」
「オマエのコト信じろって?ふざけんな
…セリカちゃんのコトを守るんだって誓ったのに
そこまで求めてないって言われた俺の気持ちなんてわかんねぇだろ
それって必要とされてないってコトじゃん…
オマエが現れてからますます俺のコトなんて……見てくれない…」
君がいつも見てるのはイングヴェィで、君が俺には向けてくれない笑顔を見せるのもイングヴェィで、愛も…イングヴェィにしかない
俺は君と恋仲になりたいワケじゃないケド、誰よりも愛してほしいんだ
ワガママだけど…俺は君のクリスマスプレゼントだもん
君が俺の全て…君がいるから存在できる
「セリカちゃんが君を必要ないって思ったり言ったりしないよ絶対に
そこまで求めてないって言葉の意味は…」
「うるさい!黙れよ!人間の言うコトなんか信じられるか!!」
「俺は黙らないよ!
セリカちゃんのコト幸せにするって誓ったんだもん!
彼女を傷付けるのは誰だろうと許さないから!
俺自身も…だから俺は彼女を絶対に傷付けない
信じてなんて言わないよ
言葉で信頼を得られるなんて思ってないからね
セリくんには見ててほしいんだ
ずっと、永遠に
いつか俺を信頼してくれるまで
俺が彼女を傷付けるコトがあるなら君がどうしたっていい
だから君をココで死なせるワケにはいかない
今セリカちゃんを悲しませてる君を許さない
そして、君が悲しいとセリカちゃんも悲しいから…俺は君も救いたい
だから黙らないよ……」
人間なんて…みんな悪い奴…そうセリカちゃんが教えてくれた
実際に俺も人間は悪い奴なんだって思った
なのに…イングヴェィを見てるとウソのないいつも感情に素直な表情が今は真剣で押されてしまう
俺は…あのセリカちゃんが心を許す人間が存在するってのを認めたくなかったんだ
俺だけを信じてくれるコトが心地好かった
口だけの人間なんて嫌い…
でも長いコト見ないとそれが本当なのかウソなのかわからない
今の所、イングヴェィは小さなウソすらついたコトがない……
「……俺を救うなんて……アンタじゃ…無理だな……」
急に目眩がして俺はバランスを崩しウサギのオブジェから転落する
「そうだね…俺は全ての人を救うコトなんてできないって知ったよ」
落ちたハズなのに痛みはない
イングヴェィが俺を受け止めてくれたから
「その人にとって必要だったり求めてるものじゃないと救えないコトもあるんだなって
だから…俺は」
イングヴェィは何かを言いかけたようだケド
「うん…君を救えるのはセリカちゃんだけだね」
話しを戻して笑った
「セリくんはココで待ってて」
イングヴェィが俺を置いて来た道を戻っていった
シーンとした薄暗いこの場所で言われたまま待っていると
君が…来てくれたんだ……
やっと……
君の姿を見て少しだけ楽になると同時に目を疑う
「話はみんなから聞いたわ」
「セリカちゃん…そのカッコ……」
「変?」
いや変じゃないケド…どうして君が…
俺が君のクリスマスプレゼントになった時の服を着てるんだ?
その服はマスターが俺のタメに創って着せてくれて、頑張るのよって言ってくれた
今はもうマスターのお手伝いができなくなったからお返ししたのに
「さっきね、セリくんのマスターが私に頼みに来たのよ」
「えっ?」
「私は人間だから貴方みたいに魔法なんて使えないし翼もないから空も跳べない
でも、私にしかできないコトがあるの
私にしか貴方にクリスマスプレゼントをあげられないよね」
「俺にクリスマスプレゼントなんて…」
クリスマスプレゼントの俺がクリスマスプレゼントを貰うなんて変な話だ…
「クリスマスプレゼントはみんなが貰えるもんなの!!
貰えるもんはなんでも貰っとけ!!」
「は、はい…」
君に強く言われると弱くなるよ
逆らったら殺されそうだし
イングヴェィの前ではそんな所見せないのに
「………帰ろ……」
そう君は俺に手を伸ばしてくれる
嬉しい…嬉しいケド、すぐにアイツのコトが頭を過ぎる
今帰ってもまた毎日嫉妬するよ
それに…もう翼をこんなに汚しちゃったから…
死ぬんでしょ俺…
「……帰れない……イヤだよ
俺がいなくても君にはイングヴェィがいればいいんだろ…
俺なんてもう必要ない…
君に必要とされなくなったら俺は消えちゃうんだから……」
君の顔が見れなくて俯いてしまう
だって…直接聞いちゃったんだもん
これでハッキリ必要ないなんて言われたら…もう君のクリスマスプレゼントじゃない俺は……消える
「必要だよ!!何言ってんの!?バカなの!?いつまでもウジウジウジウジ拗ねて女々しい!ウザイ!!」
強い口調で君が怒るから顔を上げるととても悲しい顔をしていた
久しぶりの暴言、なんか逆に落ち着くわ~心地良さすら感じる
「必要じゃなかったらココに来ないし!!
って言うか…最近セリくん素っ気ないし冷たいから……さっきだって私を嫌いって言うから…私が嫌われたのかと思ってた……」
「俺がセリカちゃんを嫌いになるなんて絶対ない!
さっきの嫌いなんてのはウソ…」
そう思ってたなんて…俺の嫉妬で取ってた行動がこんなにも君を悲しませていたなんて…わからなかった
君を守るって言っておいて、傷付けてるのは俺だったなんて…
「…イングヴェィに……嫉妬してた……
君を取られたのが凄くイヤだった
どう頑張っても兄の俺じゃ恋人のアイツには君の中での順位は敵わないって…
守らなくていいって言われて俺は頼りにされないから…
それなら俺なんて必要ないんじゃないかって思って……」
「あの時のコトを…
セリくんは私を守らなくていいんだよ」
やっぱり…君の中でその気持ちは変わらないのか
「家族って…私の勝手なイメージだケド、助け合うコトなんだと思うんだよね」
君は俺の前で腰を下ろして目線を合わせてきた
「だからセリくんが無理して私を守ろうとしなくていいんだよ
貴方は誰かを守るタイプって言うよりは守られるタイプだと思うんだよね
バカだし2歳だし」
ぐっ…バカで2歳も本当のコトだけど!
これでも俺は男なんだぞ!!?
「私は…イングヴェィに出会えて幸せだよ
私を守ってくれる助けてくれる救ってくれる
そんな人に出会えたのは奇跡で運命だって思うわ」
惚気かよ!!聞きたくねぇし!!
「そう思えるのはセリくんがちゃんと傍にいてくれるから」
「?俺は関係ねぇだろ…」
「関係あるよ
セリくんがいなかったら心に余裕ないわ
恋なんてできないくらい
大切なお兄ちゃんだもの家族だもの
恋人にはないものがあるんだよ
血は繋がってなくても私達は…」
心で繋がってる…か
君が笑うと俺も嬉しくなる
「セリくん大好きだもん
私には必要なの
ずっと傍にいて…消えないで…そんなのは悲しいから……」
ずっともう一度言われたかった言葉
イングヴェィが来てから好きって言ってくれなかったケド、やっと言ってくれたね
今までの好きより今のが1番言われて嬉しいよ
「もっと言って…」
弱った俺が涙とともに出る言葉
「うん好き、セリくん好きだよ」
好きって何?って言ってた君が、愛を知って言葉にする
違う意味を持つ2つの愛の1つが自分に向けられているんだと知って心が満たされていく
こんなに可愛い君を傍で見れて…幸せだ
「俺もセリカちゃん大好き…」
弱った身体、醜くなった心、真っ黒になった翼が元に戻っていく
「ありがとう
それからゴメン…俺、バカだった
君のコト誰よりもわかってるつもりだったのに全然わかってなかったな」
優しく君を抱きしめると君も抱きしめ返してくれる
温かい…寒かった身体に君の体温が伝わってくる
君の愛を知って俺は無敵だね
もう負けたりなんかしない
自分の弱い醜い心に
「ううん、私もセリくんの立場なら同じように嫉妬して拗ねてたと思う」
君を嫉妬させたらいらないって思われそう!恐いな
「…セリくんのほしいものって何?」
「セリカちゃんが傍にいるだけでいい
他には何もいらねぇよ」
俺は君のクリスマスプレゼントなんだから
ほしいものなんて欲はないように創られてる
って言ったら君はやっぱりって笑う
「聞いてた通りだね
クリスマスってイブも合わせて2日あるから
本番の明日のクリスマスは2人で過ごそうね」
「それって…」
どうやらマスターは今年は俺にクリスマスプレゼントをくれたみたいだ
君が来てる服がその証
俺のクリスマスプレゼントは君だった
クリスマスを一緒に過ごしてくれるなら幸せだよ
今日は君の気持ちを聞けてスッキリできた
スッキリすると不思議なコトにあれだけ真っ黒になってた翼が綺麗な元の色に戻ってる
イングヴェィへの嫉妬心が今はないからかな
今の俺ならアイツの行動が少しだけわかったような気がする
セリカちゃんだけじゃなくて俺までちゃんと気にかけてくれた
心配もしてくれるし優しい奴だとは思う
でも…やっぱりまた嫉妬するかな…と心の中で苦笑
マスターはなんで俺をこんな嫉妬深い心にしたんだ…
こういうのは人間…らしいから?
君が救ってくれるから、それでもいいかな
死なない程度に人間らしく生きろってコトだよね
-続く-
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