2011年 第4話 俺だけが特別でいたかった

翼が半分以上汚れてるコトに気付いた日から俺はショックから立ち直れなくて元気をなくしてしまう

こんな汚い翼になってしまったコトをマスターに知られたくない

どうしたらいいんだろう…

イングヴェィも邪魔だし…なんでこんなイヤなコトばっかり……

人間世界なんて大嫌いだ…

「最近セリくん元気ないみたいだケド、どうしたの?」

「う…うん…ちょっとね…」

今日も仕事が終わってから当然のように家にやってくるイングヴェィ

俺の翼が汚れたコトで元気がないって知ってるセリカちゃんは軽く答える

それもだケド、イングヴェィがいるコトも憂鬱なんだよな

「ねっ2人とも、次の3連休は予定空いてる?」

「次の3連休って…クリスマス?」

クリスマス…!クリスマスは俺とセリカちゃんの記念日!!

クリスマス大好き

1年で1番大好き

今年もセリカちゃんと一緒だよね!

「空いてるかな

毎年セリくんと家で過ごしてるから今年も予定はないです」

えっ…クリスマスは俺と2人っきりで過ごすんじゃないのセリカちゃん…

クリスマスは家族と一緒だよね?なんで他人のイングヴェィも……

「本当?

それじゃ遊園地のチケットが3枚あるんだケド一緒に行かない?」

「はい!行きます!」

「嬉しい~ありがとうセリカちゃん

ココの遊園地のクリスマスはスゴイって人気なんだよ

とくにクリスマスツリーが」

俺の予定も聞かずに勝手に行くって決めるなんて…

2人の会話が耳に入ってこない

頭の中が真っ黒になる、心が冷たくなる

「きっとセリくんも元気になるよ」

「はい、セリくん遊園地好きだから嬉しいと思います」

君のそんな柔らかい笑顔見たコトない

君が日に日に可愛くなっていくのが…今は嬉しくない

昔の悪かった君を良い子に変えたのは俺なのに

俺は2人が一緒にいるのをこれ以上見たくなくて、さっさと寝るコトにした


いつも夢を見るケド今日の夢はやけにリアルで、真冬の夜だから寒くて暗いハズなのに暖かくて明るかった

気付いたらマスターが目の前にいる

「ハッ!?久しぶりにマスターに会えるなんて…」

夢だとわかっていてもリアルすぎてちょっと嬉しいかも

去年はクリスマスに直接会いに来てくれたんだよ

今年はクリスマスの日じゃなくて、しかも夢の中か…

「最近、手紙の返事が来ないので心配で様子を見に来たのだけれど…」

手紙…リジェウェィさんにもだけど…書く元気がなくてそのまま放置しちゃってたんだ

マスターに心配かけてしまうなんて

でも今返事を書いたらきっといっぱい愚痴っちゃって醜い心の俺になってるコトを2人に知られたくなかった

「その翼は…」

マスターは俺を見ると目を疑うようにして言葉を失う

言われて俺は自分の翼が勝手に出てるコトに気付く

黒い羽根…もう前のような少しピンクがかった羽根は少ししか残っていない

「す…みません……マスターに創ってもらった翼をこんなに汚してしまって

洗っても綺麗にならなくて……」

見られてしまった…1番見られたくない知られたくない人に

「何があったのですか?」

マスターは俺を優しく抱き上げると頭を撫でてくれる

マスターに抱っこされて嬉しいハズなのに、今はセリカちゃんのコトで頭がいっぱいで嬉しくない

「何も…ないです」

セリカちゃんに好きな人ができてソイツが邪魔だなんて言えない

「翼は心の表れ…それ以上、翼を黒くしてはいけません

消えてしまいますよ…」

消える…死ぬってコト?

マスターは俺達の存在は心が悪に染まってしまったら消えてしまうんだと

人間に危害を加える前にと言うコトらしい

それは…今の俺が悪者だと言われているような気分だった

「俺だってこんな気持ちになるのはいけないって思ってます!

アイツがいなくなったら冷静でいられるケド、そこにいると感情が言うコトきかなくなって

嫌いなんです憎いんです

セリカちゃんのコト取られるのがイヤだ…

セリカちゃんには俺しかいなかったのに

俺以外の誰かを必要としたらもう俺なんていらなくなっちゃう

ただの兄より、恋人のほうが上なんだろ…」

マスターには自分の醜くく嫉妬している気持ちを知られたくなかったのに

苦しくて我慢の限界で涙と一緒に吐き出してしまった

俺は何のタメに生まれてきたのかわからなくなってくる

君のクリスマスプレゼントとして生まれたんだって思ってるから…

必要とされなくなったら消えてしまいそうなんだ

嫉妬にまみれて翼を黒く染めて消えちゃうのとどっちが早いか…

結局、どっちにしろ俺は今年までの…

「信じるのです

貴方の大切なセリカさんの恋人の事も

最初から否定しないで目を向ければ貴方にも何か見えるはず…」

マスターの声が遠くなったと思ったら人間世界で朝が来ていたらしく俺は自然と夢から目が覚めていた

君の恋人…か

夢の中だとしてもマスターが会いに来てくれたのは夢じゃない

言われた言葉もハッキリと覚えてる

もちろん久しぶりに抱っこしてもらったコトも

認めたくなかったケド、やっぱりイングヴェィはいつの間にかセリカちゃんの恋人になってたんだ…

薄々は気付いてたよ…そうじゃないかなって

俺の目を盗んでいつ告白したのか知らねぇケドさ

なんで…君は男嫌いなのになんでイングヴェィだけは特別なんだ

特別なのは人間じゃない君のクリスマスプレゼントの俺だけで十分だろ

家族がほしいって望んだのは君なのに…どうして他人なんか……

ただの人間なんかを……

心を悪に染めてはいけないってマスターに言われても止まらないよ

どんどん深く強く嫉妬していく

君が他の奴なんかを見るから……


どんなに俺がイヤだと思っていても必ずイングヴェィは君と一緒にいる

最近は君と2人っきりになるコトは少ない

今日は一緒に外食しようって寒い夜に外を歩かされてる

わざわざ俺を誘わなくても2人で行けばいいじゃん

お邪魔虫なんでしょ俺

「私のマズイ料理よりたまには外の美味しい料理のほうがセリくんも嬉しいよね」

前をイングヴェィと君が並んで歩いていたケド俺のほうを振り向いて笑う

君の料理はマズイけど外のご飯より全然好きだ

マズくったって食べたくなる

後ろ向きに歩いて俺に話しかけるから君は何かに躓いてこけそうになった

「わっ!?」

危ない!と思って咄嗟に手を伸ばしたケド

俺より先に君の隣にいたイングヴェィが手と腰を掴んで支えた

「ビックリした…ありがとうイングヴェィ……」

君を守るハズの伸ばした手が届かない

俺がいなくても君には…君を守ってくれる人が

今はいるんだな……

「セリカちゃんが怪我しなくてよかったよ」

「嫌い…」

君の隣にいるのはオマエなんかじゃない

こんなの見たくない

君は俺の隣にいるべきなのに…

「えっ何か言った?セリくん?」

「なんでもない

早く行こ、お腹空いた」

無意識に呟いた言葉は2人には聞こえなかったみたい

いつか爆発してしまいそう

そしたら…俺は死んじゃうのかな……



マスターからの忠告も聞けないまま日が過ぎていき12月24日のクリスマスイブがやってきた

今日は3人で遊園地に行くんだったっけ

また2人が一緒にいるのを傍で見なきゃいけないのか

最近は身体の調子がよくない

思うように動けないって言うか…

大好きだった遊園地も楽しくないし…

「うわ~クリスマスツリー超綺麗!

セリくん写真撮ろうよ」

超巨大な輝くクリスマスツリーを見てテンションを上げる君が俺の手を掴む

夜を背景にしたクリスマスツリーは昼間見た時より一段と綺麗だと俺も一瞬感動した

「いいよ俺は、イングヴェィと撮れば」

せっかく君が誘ってくれたのに拗ねてる俺は冷たい態度を取ってしまう

周りも兄妹よりカップルのほうが多いし

俺なんている意味あるのか…

「写真は俺が撮ってあげるからセリくんとセリカちゃんは並んで」

イングヴェィがまた俺とセリカちゃんの手を繋いで笑う

その明るくて太陽のような笑顔が俺は嫌い

ムカつく…

君がその笑顔が好きって言うなら俺は嫌いだ…

「いいって言ってるだろ

俺はマスターとリジェウェィさんのお土産見てくるからまた後でな」

どうせココは周りもカップルばっかで俺は場違いなんだし

…イングヴェィに出会う前ならカップルばっかの場所に君といても気にならなかったのに

今は気になる……

俺と君の2人だけの世界を見ていたのに

他人のイングヴェィが入ってきて、現実を見ているようだからなのか

俺はお土産を見に1人でショップ巡りをはじめた

2人と離れるコトで少し心が楽になる

「は~可愛いのいっぱ~い!」

可愛いクリスマスグッズを見れて楽しい

1年で1番クリスマスが好き!

ハロウィンも好きだケド、やっぱりクリスマスは可愛いよね!

「これセリカちゃん好きそう!」

たくさんいる遊園地のキャラクター達をぬいぐるみにして山積みにしてある所に来るとウサギの女の子がクリスマスをイメージしたワンピースを着てるやつがいる

大中小巨大と大きさも選べるのか

俺は真ん中にいた両手いっぱいの巨大なウサギを抱っこしてみた

「これはセリカちゃんに買ってあげよう

きっと凄く喜ぶよね」

君のありがとうって笑顔が頭に浮かぶとそれだけで嬉しくて、まだ渡してもいないのに俺まで嬉しくなってきた

…値段は結構高いケド……今日はイブだし今年はこれを君にクリスマスプレゼントするよ

「マスターはこの写真立てをお土産にする~」

可愛いというより幻想的なクリスマスの写真立てだ

もちろん俺の写真付きで贈ります!

いつも俺を傍に置いてみたいな

「リジェウェィさんは…」

………リジェウェィさんの好きなものがわからない……って言うかないような気がする

リジェウェィさんも写真立てでいいのかな~

俺の写真もいる?なんちゃって

いくつか巡ったショップでお土産をゲットして満足な俺は久しぶりに機嫌を良くしていた

お土産を渡した時にみんなが喜んでくれる笑顔を想像したら嬉しい気持ちになるよ

そろそろ遊園地も閉園の時間だし

セリカちゃん達と合流するかな

遊園地で1番大きくて綺麗なクリスマスツリーが遠くからでも見える

それを目印にして俺はクリスマスツリーの元まで帰ってきた

たくさんの人間がいても君のコトだけはすぐに見つけられる

いつも君だけしか見ていないから

俺は君のクリスマスプレゼントだから、俺には君しかいないんだもん…

早く君に今年もプレゼントを渡して喜んでもらおうって思って走って帰ってきた

君を見つけられて一瞬は嬉しかった

ケド…俺の足は君が気付かない距離で止まってしまう

「セリカ…ちゃん………」

2人が抱き締め合ってる所を見てしまった

君が俺には見せない幸せそうに笑う顔をする

見たくなかった

認めなきゃいけなくなるから

イングヴェィとセリカちゃんが恋人同士なんだって

イングヴェィは君の大嫌いな人間の男なのに、どうして特別な存在になれるの?

どうして……なんでなんだ

それでも、もう…俺なんていなくったって……君には守ってくれる支えてくれる助けてくれる幸せにしてくれる人ができた

「あっセリくん帰ってきたのね」

「おかえりセリくん、素敵なお土産は見つかった?」

俺に気付いた2人がココで足を止めてる俺の所まで寄ってくる

「イヤだ…」

「セリくん?どうしたの?」

俯く俺の顔を心配そうに覗き込む君を見ると我慢してた涙が溢れそうになるよ

「イヤだよ!セリカちゃん!そんな奴のコトなんか嫌いになれよ!

いつも俺と君の2人一緒だったのに、どうして他人なんか加えるの

君を守るのは俺じゃないの!?

俺を必要としてくれない君なんて嫌いだ!大嫌いだよ!!

イングヴェィはもっと嫌いだケドさ!」

何を最初に言ったらいいのかわからないしもっといっぱい言いたいコトもある

でも俺が喋ると君は凄く悲しい顔をするから

そんな顔をさせたいワケじゃないのに

それでも自分の思ってるコトが感情が爆発しちゃう

これ以上、君の悲しい顔を見たくなくて俺は君の前から逃げるようにして立ち去った

言っちゃった…言っちゃった……もうダメだ

嫉妬にまみれてイヤなこんな俺なんてきっともう嫌われた

君を笑顔にするクリスマスプレゼントだった俺が君を悲しい顔にするなんて失格だね

君のタメに生まれてきたハズだから

嫌われたら…生きていけないのに……



-続く-

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