2011年 第3話 運命なんてあるかボケ
2日目の温泉旅行は色々とあった1日目と違って楽しく過ごせた
7つの温泉全部回って「これで良いコトあるね」なんて言ったりして
お土産もたくさん買って「あげる友達なんていないケド…」って君は暗くなったりもして
俺の友達(ウサギや小鳥達)はセリカちゃんの友達でもあるよって励ましたりして
帰りに最後の雪だからって道端に雪ウサギ作って放置して
疲れてほとんど寝てただけの電車に乗って帰ってきた
このお化け出そうなオンボロアパートに…
君の家族になってから俺も仕事してるしココより良い所に引っ越してもいいんじゃないかって思うのにな
まぁ…貧乏なコトには変わりないんだケド…
そんなコトを考えながら楽しかった温泉旅行から帰宅後は俺も君もすぐに寝てしまった
明日は月曜日だけど旅行で疲れるだろうと俺達は仕事の休みを取っておいたから時間は気にしないで眠っていられるかな…
と思っていたが
朝早くから他に誰もいないハズのアパートなのに部屋の外が慌ただしくて起きてしまった
「ハッ…何事だ!?」
「ぬ~…眠いのに…うるさいな~もう」
飛び起きる俺と違ってセリカちゃんはユックリ目をこすりながら起きる
「それこっちー」
「おい気をつけろ、ぶつけるなよ」
「すみませーん!これどこに置いておきますかー?」
な、なんなんだ…?
薄い壁とドアから数人の男の声が聞こえる
「ん?引っ越し?誰かこのアパートに引っ越してきたの?」
セリカちゃんが窓を覗いて外の先を見てみると引っ越し屋の車が見える
キリンさんが好きですでもウサギさんのほうがもっと好きですっていうCMの引越業者じゃないか
こんな曰く付きオンボロアパートに引っ越してくるってどんな奴だよ
音がするのは隣の部屋…ってコトは隣に引っ越してきたのか?
たくさんある空き部屋の中でなんで隣選ぶし!
さすがプロって思うくらいの手際の良さで起こされた時間からパパッと短時間で引っ越しを終わらせて「あざっしたー!」と帰っていく
それを見計らって俺は隣に誰が来たのか確かめようとする前にその本人が俺達の部屋のチャイムを鳴らした
「隣の人が挨拶に来たのかな?」
「たぶんな…」
俺とセリカちゃんは一緒に玄関まで来てドアを開けた
「こんにちは、今日隣に引っ越してき…」
俺は眩しいくらいの笑顔を振り撒くソイツの姿を見た瞬間にドアを閉める
「セリくん!?なんで閉めるの!?」
いや…目の錯覚じゃなきゃ温泉旅行の時に会ったリジェウェィさんソックリの男が……
リジェウェィさんはあんな笑顔を見せたりしないから絶対アイツだ
アイツしかいない
なんでアイツがこんな所にいるんだ!?
ココから遠く離れた温泉旅行中に会ったのになんでココにいるんだよ!?
「隣には誰も引っ越して来てねぇ
セリカちゃんも忘れ…あっ開けるなー!!」
部屋に戻ろうとしたら君がドアを開けた
「あっ…イングヴェィさん……だったんだ
隣に引っ越してきたのって」
ドアの外にいたのがイングヴェィだと知ると急におしとやかな態度になるセリカちゃんだった
おいソイツ男だぞ!セリカちゃんの大嫌いな男!!セリカちゃんは俺以外の男は嫌いだろ!!
なんか…イラッムカッてしたぞ……
「セリカちゃん!とセリくん」
とセリくんってなんか俺おまけみたいな感じで付け足された気がするんだ
セリカちゃんを見るとイングヴェィの笑顔はさらに嬉しいと輝く
「今日から隣に引っ越してきたんだよ
まさかあの温泉街で会った君達にまたこうして再会するなんて
スゴイ偶然だよね…ううん、運命かも」
「運命…ですか…」
微妙にセリカちゃんの頬が赤くなってるような気が…イングヴェィも照れたように頷く
その人男だぞ!セリカちゃんの嫌いな・お・と・こ!!
「運命なんかあるかボケ!
俺はオマエなんかと仲良くする気ねぇから!
セリカちゃんに近付くな人間め!!」
おもいっきりドアを閉めて鍵もかけて2人を引き離す
ありえねぇありえねぇありえねぇ気にいらない気にいらない気にいらない!!!
こんなオンボロアパートに普通の奴なら引っ越してなんてこない
今までだって誰も来なかったんだから
それを偶然だと?アホか
偶然じゃない…イングヴェィはセリカちゃんを追いかけてきてココに引っ越してきたんだ
どうやって俺達の住所を調べたか知らねぇケド、ストーカーめ
1番警戒しないといけないな…
セリカちゃんは俺が守る!
「セリくん!なんであんなコト言うの!」
「えっ!?なんでって…アイツ悪い奴だし…」
急に君に怒鳴られて驚くと同時に悲しくなる
「イングヴェィさんは私達を助けてくれたのよ、悪い人じゃないわ」
人間は最初は良い顔をして騙して裏切るんだって…君が教えてくれたんじゃないか……
それなのになんだよその矛盾
何かおかしいよセリカちゃん…はじめてイングヴェィと会った時もいつもの君じゃなかった
人間は魔法は使えないケド、催眠術とか洗脳とか何かそういうのがあるらしいから…まさかそういうのをかけられておかしくなったとか!?
「セリカちゃん可哀相…」
「えっ何急に…」
「俺が正気に戻してあげるから何も心配しないで大丈夫!!」
君の両肩を掴んで誓う
俺がシッカリしていれば君が傷付くコトもないからな
そうして強く誓ったのは良いが、俺の気持ちも知らないで君の気持ちはすでに奪われていたのかもしれない…
イングヴェィが引っ越してきてから何かと遊びに来るようになった
隣同士だから仲良くしていこうねってするかボケみたいな
セリカちゃんもセリカちゃんでイングヴェィを家にあげるしさぁ…なんなんだよ…
「セリくん食べないの?」
今日はイングヴェィが有名なケーキ屋さんで買ってきたクラシックショコラを持ってきてそれをみんなで食べようって話になった
俺は拗ねてるから2人と距離を取ってツンだ!
セリカちゃんはケーキが嫌いだ
スポンジがマズイんだと
それでもケーキの中で食べられるものもある
それを何故か知ってて買ってくるイングヴェィが気に入らない
セリカちゃんを知っていいのは俺だけなのに…
ケーキ買ってきたって言った時はセリカちゃんの嫌いなもの持ってきて、ざまぁ嫌われろ!って思ったのに
クラシックショコラは大好きなんだセリカちゃん…
「セリくんの分もちゃんとあるから食べたくなったらいつでも食べてね」
部屋の隅っこで友達の小鳥と遊んでる俺にイングヴェィは声をかけてくる
何ともないって感じのいつもの明るい声が空気読めないんだなコイツって思う
俺はさっきから超機嫌悪くして無視ってるのにさ
「いつも色んなもの頂いて…ありがとうイングヴェィ」
「ううん、いいんだよ
それでセリカちゃんが喜んでくれるなら俺も嬉しいからね」
「私が喜ぶとイングヴェィは嬉しい…の?」
「嬉しいよ
もっと君を喜ばせたいし笑顔にしたいし」
横目でチラッと2人の様子を見ると、やっぱりセリカちゃんの頬が赤いような気がする
熱があるのか…風邪なのか?
アイツが来てから今までの君と違うくなるし…変だ
「幸せにしてあげたい」
「っ…そんな…それって…私を幸せにって」
イングヴェィのウソをつけないような純粋な笑顔にさらに君の顔は耳まで赤くなる
何この会話!?何この雰囲気!?壊したい!!なんかムカつく!!
「帰って…
セリカちゃん何か熱っぽいし、明日も仕事あるんだからもうイングヴェィは帰って」
君の隣に座って俺はセリカちゃんの額に手を当てる
ん~…熱いケド、風邪の匂いはしないな
「えっ!別に熱なんてないよ!?
今日はいつも何か持ってきてくれるイングヴェィのタメに夕飯をご馳走しようと思ってるんだから…まだ帰っちゃダメ……」
家族水入らずの夕飯に他人が入るとか許されねぇぞ!?
「セリカちゃん熱があるの?」
「だ、大丈夫ですよ!」
「夕食をご馳走しようとしてくれてたなんて凄く嬉しいコトだケド、熱があるなら早く寝なきゃいけないね
悪化したら大変だもん
俺が代わりに何か作ってあげるよ」
えぇ…居座るつもりかよ!
なんのタメに俺はセリカちゃんに熱があるから帰れって言ったんだよ
「ベッドは隣の部屋?」
そう言って軽々とセリカちゃんを抱き上げるイングヴェィに激しく嫉妬
それは俺の役目なんですが!!
「し…死ぬ……」
本当に死にそうなくらい顔を真っ赤にしてセリカちゃんは固まってしまった
お姫様抱っこしていいのは俺だけなのに…
おかしい…いつもの君なら他人が自分に触れようとした瞬間に「触るな!ボケカス死ね!」って暴言とともに強烈な蹴りを食らわせるのに……
やっぱり何か恐ろしい病気にかかってるんじゃ……
「早めに休んだらすぐに良くなるよ
大丈夫だからね」
セリカちゃんをベッドに運んでイングヴェィは優しく君の頭を撫でてる
「…よくならない……ずっときっと一生このままかも……」
自分のおかしさに自覚があるのか君はそう言ってベッドの中に潜り込んでしまった
「そっか」
一生このままかもって言ってるのになんでイングヴェィは笑うんだ?
セリカちゃんの病気が治らなくてもいいってコトなの?
最低だ…
「今から買い物に行くケド、セリくんは何か食べたいものある?」
寝室にセリカちゃんを1人にしてイングヴェィは出かける前に俺にそう聞いてきた
「南極にいるペンギンが食べたい
行ってきてくれるんだよな?
それでオマエが迷子になって凍死してくれたらスゲー嬉しい」
「ハンバーグはいっぱい練習して得意料理の1つになったから期待しててね」
あれ?俺ハンバーグが食べたいって言った?
イングヴェィがそう言う風に返してきたってコトは言ったのかな
ハンバーグは俺もセリカちゃんも好きだからちょっと楽しみ
「それじゃ行ってくるよ、早く帰ってくるからね」
「いや早く帰ってこなくていいし、道中で滑って何かの角に頭ぶつけて意識不明の重体になってくれるコトを祈ってるわ」
俺がどんなに毒を吐いてもイングヴェィは笑顔だ
イングヴェィが手を振って家を出ると俺は大きなため息を吐いてしまう
なんだろう…アイツがいるとセリカちゃんを取られそうでイライラしてヒドイコトばっか言っちゃう…
いなくなって冷静になるとこんなのダメなのにって思う…
でも、君を守るタメなら俺は良い子のままじゃいけない
「はぁ…なんか病人になっちゃったわね私」
「セリカちゃん!寝てなきゃダメだろ!?」
寝室から出てきた君をベッドに戻そうとしたら
「別に熱なんてないし風邪とかじゃないってば
ただの恋の病よ…
でも、熱があるコトになっちゃってるから大人しく寝るわよ
今はトイレしに起きてきただけ」
コイの病??
おトイレに行く君を目で追ってると
「あっ」
って声をあげるから近付いたら床に落ちてる何かを拾って俺に突き付けてきた
「セリくんってば羽根落としてる!」
「えぇ俺!?ちゃんと気をつけてるんだケドな…」
君の手には真っ白な羽根が輝いてる
「気をつけてよ
最近はイングヴェィが遊びに来るんだからね
いくらイングヴェィでもセリくんが人間じゃないってバレたらどう思うか…」
拾った羽根を俺に押し付けてセリカちゃんはトイレに行ってしまった
「俺が人間じゃないってイングヴェィにも知られたら…ダメなの…?」
人間は悪い奴だからバレたら俺が危険だって君は言っていた
でもセリカちゃんがイングヴェィを良い人って思うなら…知られてもいいんじゃ
良い人にも知られちゃいけないって…
それはイングヴェィと一緒にいたいって君が思ってしまったら
人間じゃない俺はもう君と一緒にいられないの…?
きゅっと押し付けられた羽根を強く握りしめた後に手を開いて見る
「あれ?この羽根…」
よく見てみると俺の羽根じゃない
俺の羽根はほんのり桃色がかってるハズなのに、この羽根はまったく色がついてない真っ白でキラキラしてる
凄く綺麗な羽根…こんな美しい羽根見たコトない
いつの間にか俺の翼の色が変わったのかな?
そう思って俺は翼を出してみた
でも、久しぶりに見た俺の翼は綺麗などころか
「そんな…何コレ……どうして……」
半分以上が黒くなってしまっていた
温泉旅行の時の汚れが取れなくて、まいっかそのうち綺麗になるなんてほったらかしにしてたのがいけなかったんだろうか
マスターに創ってもらった俺の翼がこんな醜くなるなんて…計り知れないショックを受けて血の気が引く
「セリくん…その翼…どうしたの……」
トイレから帰ってきた君に見られても何も言えないし動けない
ショックが大きすぎてその場に泣き崩れる
この手にある綺麗な羽根が…羨ましくて…憎いよ……
-続く-
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