2011年 第2話 君を守りたい

「さっきより雪も風も強くなってきたな…」

いくら温泉街の中だとしてもこんな夜と雪で視界も悪くクソ寒い外にいたらヤバイだろ…

どんなに遠く離れてたって視界が悪くたって、君がドコにいるのかは俺ならわかる

迷うコトなく君を見つけて手を掴んだら

「痛ッ!?」

殴られた

「あら…セリくん?敵かと思ったわ」

久しぶりに君のパンチを喰らってよろける

昔より威力は落ちてると感じるケドそれでもめちゃくちゃ痛すぎる

その細腕からどうやったらこんな強烈なパンチが打てるのか

蹴りもだケドさ

「敵って何!?何に追われてるの!?あっ…」

自分以外の全てが敵って言い切る君だからたぶん特定な敵はいないと思ってたら

君の腕が刃物に切り付けられたような傷があって血が出てる

「どうしたのソレ!?本当に敵が!?誰がこんなコト!」

よく見ようとセリカちゃんの腕を掴むとパッと振り払われた

「たいしたコトない」

たいしたコトあるだろ

振り払われたのショックなんだケド…やっぱりまだ怒ってるのか

「さっきのナンパクソ野郎にやられてね…

相手にされなかったのがムカついたんだってさ

最近の若者は何するかわからなくて恐い恐い」

「相手にされなかっただけでこんなコトされるなんて…」

そういえば、ちょっと前テレビでやってたニュースに女の子をナンパした男が相手に無視されてナイフで刺したってあったのを思い出した

テレビの中はいつも悪いコトばかりで、でも自分の周りではそんなコトないから別世界のように感じてた…

でも…でも…実際にあるんだ

こんなコト…

君を守らなきゃいけないのに少しでも離れて傷付けてしまうなんて

俺はやっぱりダメな奴だ…

「早く逃げないと、奴はまだ追ってきてるから」

悪い視界の中に人影を見たセリカちゃんは俺の服を引っ張った

泊まる旅館まで逃げ帰れば安全みたいだケド適当に走り回って迷子になってた俺達はさらに迷う

「い、行き止まり…」

民家の間にあった細道を入ると民家の裏側にたどり着いて道がなくなってしまった

「もう逃げられませーん

女のくせに男を馬鹿にする方が悪いからな」

セリカちゃんを追いかけてるこの男はしつこすぎるな!

男が持ってる暗闇で光るナイフは微かに赤く染まってる

それでセリカちゃんのコト傷付けたんだ…許せない…

俺が生まれて始めて人間が憎いって思った瞬間だ

「仕方ないわねぇ…殺られる前に殺ろう」

はぁっとため息を吐きながら言う君を俺は止めた

俺も許せないって思ってるケド、でもやっぱりそれはいけないコトって留まる理性はある

「人殺しはスゲー悪いコトだってマスターが言ってたからダメだ!

逃げ道はまだある!

地上で行き止まりなら行き止まりのない空に逃げればいい!」

俺はセリカちゃんを抱き上げると久しぶりに翼を出した

君の家族になって人間として生きるなら翼も魔法も使っちゃいけないって君に言われたケド

今なら許してくれるよね

「風が強いケド大丈夫なの?」

久しぶりに飛ぶし視界も悪いし強風だし不安定に飛ぶ俺に捕まるセリカちゃんの声が心配そうだ

大丈夫…と言ってあげたい所だけど、正直厳しい

寒さで手の感覚もなくなってきてるし

「待てこらーーー!!!!!」

空に逃げてるにも関わらずしつこく男は追いかけてくる

今降りたら確実に捕まるんだからココはなんとしても逃げ切らないと

そう思っていたのに不意打ちのように襲ってきた突風に大きくバランスを崩し

「ぅわッ!?」

俺の腕からセリカちゃんがすり落ちてしまった

「きゃー!?」

ハッとしてすぐに追い掛けて手を伸ばす

死ぬような高さで飛んでなかったケド、このまま落ちたら怪我しちゃうしアイツに捕まってしまう

早く掴まないと…いや…間に合わない…!

「セリカちゃん…!」

もうダメだって思った時、君が落ちる場所の暗闇に人影が見える

「うっ…あれ?痛く…ない?」

「可愛い女の子が雪と一緒に降ってくるなんて」

地面に落ちる痛みの恐怖に目をつむっていたセリカちゃんは誰かに受け止められて地面に落ちるコトなく助かった

「セリカちゃんゴメン!大丈夫か!?」

地上に降りて駆け寄るとセリカちゃんを受け止めてくれたのは…リジェウェィさん?

相手の姿を確認して俺は目を疑った

ウソマジで!?

なんでリジェウェィさんが人間世界に…あっもうそろそろこっちの世界に来れる時期になったのか

知った人でほっとしたのにその安心感はすぐに失われる

「ちょこまか逃げやがって」

まだいたのかって呆れるくらいしつこい男が追いついた

男の姿を見たセリカちゃんはヤバイとリジェウェィさんの服を強く掴む

それを見ると、やっぱりいつも強がってるだけで本当は弱い女の子なんだなって思える

「追われてるの?」

「うん、アイツ悪い奴なんだ!

セリカちゃんのコト傷付けたからね

リジェウェィさんはセリカちゃんを連れて逃げて

コイツは俺がなんとかする

翼も見られちゃったから記憶がなくなるまでボコってやるぜ!」

どんなコトがあっても人間に危害を加えちゃいけないってマスターから言われてるケド

でも、セリカちゃんを守るタメならどんなコトだってしなきゃならないんだ…

今度はちゃんと守るから

嫌いなんて言われたくない

君にいらないって言われるコトが1番恐いって思ったよ

「待って、君はそんなコトしちゃいけないよ

俺に任せて」

リジェウェィさんは俺にセリカちゃんを渡して俺達の前に立った

…あれ?リジェウェィさん何か雰囲気が違うくないか?

いつも俺のコト守ってくれたり庇ってくれるのは一緒だけど

「彼女達を追い掛けるのはもうやめてあげてくれるかな?」

「はっ?なんだおま」

「お願いだよ…」

めっちゃキレまくってた男はリジェウェィさんの言葉を聞くとみるみる表情を穏やかに変え

「はい!すんませんした!」

何故か笑顔で謝り頭を下げ来た道を軽やかなステップを刻みながら戻っていた

急に何!?呆然としてしまったわ!!

リジェウェィさんの言葉に魔法でもかかったような変貌振り…

でもリジェウェィさんってこんな魔法の使い方してたっけ??

っつーか!俺もそういう風に魔法使えばよかった!!

…テンパると何もできなくなる俺ってダメだな…ヘコむ

「リジェウェィさん!助けてくれてありがとう!」

ホッと安心した俺はリジェウェィさんに駆け寄ったが、えっ?て顔をされた

「リジェウェィ?ううん、俺の名前はイングヴェィだよ」

「人違い…?そんな!だって」

リジェウェィさんじゃないと目の前の人が言うからジックリ顔を見てみると瞳の色が違うコトに気付いた

姿形はソックリなのに…この人はリジェウェィさんじゃない

それじゃただの人間だ…

人間世界では自分に似た人が3人はいるってウソかホントかわからん話を聞いたコトがあるし

実際にこうして俺とセリカちゃんだってソックリ瓜二つだからリジェウェィさんにソックリな人間がいたってありえない話じゃない

「あの…助けてくれてありが」

セリカちゃんがリジェウェィさんじゃないイングヴェィって男にお礼を言おうとするから俺は君の手を強く引っ張った

「ダメ!!人間なんかに近付いちゃダメ!!」

「ちょっとセリくんいきなりどうしたの!?」

「他人はみんな敵なんだろ!?

俺はいつもセリカちゃんの言うその言葉を今日知ったよ!

コイツだって俺達を助けるようなフリをしてるだけで何か裏があるんじゃないかって考えないと…」

さっきのコトで俺は一気に人間不信になってしまった

君以外の人間は全て敵であるのだとまだ狭く浅い自分の視野だけで全てがそうだと決めつけ思い込む

そんな俺を君は驚いて戸惑い見る

「いや…この人は悪い奴には見えないし裏があるなんて……」

君らしくない言葉だな…

セリカちゃんだって完璧じゃない騙される時だってあるのかもしれない

「良い奴だって証拠なんてねぇだろ

最初は良い奴に見えても人間は君を裏切って傷付ける…そういう存在なんだって君が言ったんだ」

「……………。」

俺の言葉に何も言い返せなくなった君の手を掴み帰ろうとすると

「セリカちゃん、また会おうね」

後ろからイングヴェィの明るい声が君の名前を呼んでイラッとした

「また…会う…?」

「セリくんも」

「はっ?もう二度と会わねぇ…し…あれ?」

振り向くと声がした場所にはもうすでにイングヴェィはいなくなっている

帰ったのか、早いな

まぁいいや

不思議な感じはするケド…考えないようにしよう


迷子になってた俺達はなんとか旅館に戻ってこれた

「せっかく温泉に入ったのに色々あってスッカリ身体が冷えちゃったね」

「セリカちゃん…」

寝る準備をしてるセリカちゃんを見るともう怒ってなさそうだケド

やっぱり嫌いって言われた言葉は心に引っ掛かる

傍に来てと呼ぶと来てくれるからもう許してはくれてるとは思うケドね…

「どうしたの?」

「俺はもう人間なんか信じない

君に守られるんじゃなくて俺が君を守らなきゃいけないんだ

お兄ちゃんだし

弱いケド…どうしようもない時は魔法を使ってでも君を守るから……」

俺はバカだからわかんなくてまたダメな時もあるかもしれない

でも、君に嫌いなんて言われるのはもうイヤだ

君が俺を必要としなくなったら…いらないって言われたら…消えてしまいそうだから

ずっと一緒にいたい

「無理しなくていいよ

お兄ちゃんかもしれないケド、セリくんまだ実年齢2歳でしょ?

わからないコトのほうが多くて弱くて当たり前だよ

セリくんに守ってもらおうなんて思ってないしそこまで求めてないから」

頼られてないと知って羽根が全部抜けるようなショックを受ける

そんな……泣いちゃうぞ……

「あっセリくん、ココ汚れてる…」

出しっぱなしにしてた翼の先をセリカちゃんが触れる

そこを見てみると少し黒ずんでるじゃん!

いつ汚しちゃったんだろ…

「綺麗な翼だから目立つね」

「俺の身体も翼もマスターが創ってくれたものだから汚しちゃいけないのに」

セリカちゃんは濡らしたタオルを持ってきて汚れてる羽根を拭いてくれたケド全然綺麗にならない

「これじゃ落ちない」

「明日お風呂入って綺麗にするよ

今日はもう寝よう

セリカちゃん疲れてるだろ」

俺はショックで早く休みたい

君に頼られてないコトを知って、さらに翼まで汚しちゃったらもう泣けてくるよ

寝たら少しは気持ちもスッキリするだろうしさ…

「うん、今日は寝ましょ」

「一緒の布団で寝ていい?」

部屋にはちゃんと2つ布団あるケドね!

今日は1人で寝たくないんだもん

「別にいいケド」

ヤッタ!不安になっても君がそうして俺を受け入れてくれるなら少しだけ不安な気持ちが紛れる

君にはそこまで求めてないって言われたケド、それでも俺は守るから…

クリスマスプレゼントだから家族だからお兄ちゃんだから…当然のコト

「セリカちゃんとずっと一緒にいるんだ…」

「急にどうしたの?

私もセリくんはずっと一緒にいてほしいって思ってるよ」

2人分の体温で温かくなった布団の中で君の手を握る

消えない不安が恐いんだ

いつか君がダメな俺を必要としなくなったらって…考えて暗くなる

頑張らないと、もっと頑張れ俺



-続く-

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