第6話 君は君が嫌い

あれからセリカちゃんは料理が下手クソでも夜は俺が食べれるようなミルクを使った料理に挑戦してくれた

「私は天才だから最初から何でもできるのよ」

とか言ってたケド、正直味は悪い意味で唸ってしまう

でも、それなのになんでかなスッゴく美味しく感じたりなんかしちゃって

セリカちゃんの手料理好きだよ

俺もいつもできる範囲で簡単なコトを手伝ってるかな


今日は23日で休日らしい

うわ…クリスマスまで後2日しかねぇ

日を聞くとちょっと焦るな

この調子だとクリスマス過ぎちまう

そうなってから帰ったら無能ゴミカス落ちこぼれって言われるのは確実

そんなのは絶対イヤだ!!!!

マスターにだって迷惑かけちゃう…

「セリカちゃん、今日はどっかお出掛けしないか?」

今だにほしいものがないセリカちゃんに何かをほしがるようにするにはウインドウショッピングとかして見て物欲を刺激するのもいいかもしれない

「イヤよ寒いのに」

「イルミネーションとか見に行こうぜ!!

ほらコレとか綺麗じゃん!!」

セリカちゃんがいない時にパソコンで色々調べてプリントアウトしたやつを見せる

ウインドウショッピングも行くケド、セリカちゃんにクリスマス気分にもなってほしいし

「それ東京だろ、行けねぇよ」

「トウキョウ…???」

ココは大阪だから行くにはお金も時間もかかるクソボケって言われた

「じゃあこっちは?」

「北海道とかもっと無理」

「じゃあコレ!」

「関西以外は行けねぇよ!!」

何処が関西とか関東とか俺は知らねぇよ!!!

なんだよ~…お金なら俺の1000万があるクセに……

ただ面倒だから行きたくないだけなんだろ

「む~………」

部屋の隅でウジウジイジイジ拗ねてると、暫くして

「イルミネーション…行ってあげてもいいケド」

セリカちゃんの気が変わったのか、優しさなのか

そう言って俺がプリントアウトした中から数種を選んで並べる

「アンタって私にしか見えないのよね?」

「うん…今はセリカちゃんにしか見えないようにしてるよ」

マスターが翼があるコトを悪い人間に見られたら危険だからって言ってた

翼を消しとけばいいんだケド、いつでもちょっと飛んだり浮いてたりしたい俺なんだ

だから翼は基本的に無意識で出しっぱなしにしちゃうからそれなら姿をセリカちゃんだけに見えるようにしてたらいいかなって

「今は?

じゃあアンタが普通にみんなにも見えるようにできんの?」

「できるケド、なんで?」

「イルミネーションを1人で見に行くとか寂しい女アピール全開でしょ

変な男が声かけてくるナンパ率も高くなるしね」

「男はセリカちゃんの可愛い見た目に釣られて声かけてボコられ…」

まだ最後まで言ってないのに殴られた

「行くならアンタの姿をみんなに見えるようにしてよ

男避けにもなるし

同じ顔だから恋人同士なんてキモイ勘違いされるコトもないだろうしね」

もし俺が同じ顔じゃなかったら絶対行ってくれないだろうし、絶対姿を他の人間に見せるなって言うんだろうな

そんなに男が嫌いか

「じゃあお出かけ行ってくれんの!?」

「暇だしね、ゲームムカついたし」

ゲームがムカついたから気分転換にってか…

俺のタメにじゃないんだな……

「この中からのイルミネーションを選びなさい」

並べたやつを指さされ、俺はドコにしようかちょっと悩む

「じゃあコレ!!」

「神戸か…ちょっと遠いケド、その辺まで行かないとイルミネーションなんてないわよね

言っとくケド、私は地図苦手だからアンタが見て連れて行きなさいよ」

「任せろ!俺も地図は苦手だケド、そんな俺達に便利なナビがある!!」

魔法だけどな!!

出掛けるコトが決まって、俺とセリカちゃんは着替えるコトにする

俺の持ってる服は人間世界じゃちょっと浮くからパソコンで適当に俺に似合いそうなやつを見つけて魔法で出す

それを見たセリカちゃんも自分が着たい服を俺の魔法で出させた

「完璧ッ!」

「羽を出さないコトだけ気をつけてよ

変な奴連れてるって思われたくないから」

「変な奴って……

大丈夫!1日だけなら気合い入れて翼は出さないように頑張るさ!!」

「そのショコラ色のピーコート可愛いね

似合ってるよ、ピーコートって似合うの難しいから…

まっ私の顔なんだから似合って当たり前か」

「それって、俺を褒めてるんじゃなくて私が可愛いからって言ってる?」

「私が可愛くて美しいのは真実でしょ」

ふと、全身が写る鏡を見てみると俺とセリカちゃんはどっから見ても兄弟にしか見えない感じだった

「やっぱ俺達ってソックリだよな

兄弟みたいに…見た目の年齢が同じくらいだから双子の方がシックリくるか?

似過ぎ」

「……はっ…?気持ち悪、アンタなんかと双子なんてありえない

こんなバカと血が繋がってるとか」

なんでもかんでも俺の言ったコトをムカつく言葉で返してくるなんて…

「例えただけで俺だってオマエみたいな凶暴女と血なんか繋がりたくねぇよ」

なんて俺も返したケド、俺はセリカちゃんと双子でも良いと思ったんだケドな…


俺が選んだイルミネーションは神戸って所にあるらしくて、その近くにあるショッピングモールを見て夜になってから行くコトにする

セリカちゃんはショッピングモールで服とか雑貨でほしいものが何個かあったみたいだケド

それは彼女の1番ではなく、どうしてもほしいワケでもないから俺の魔法の袋からは出てこない

結局セリカちゃんの1番ほしいものなんて今日も見つからずわからなかった

「イルミネーションーーー!綺麗!!

やっぱクリスマスって言ったらイルミネーションだよな!!」

俺は今年がクリスマスはじめてだが、マスターからクリスマスはこんなんだって写真で見せて貰ったコトがあったから

こうして、外で見る憧れのイルミネーションは感動だ

写真で見た青とか白の寒色系のイルミネーションもよかったケド、俺はココの赤とか金の暖色系のイルミネーションを選んだ

セリカちゃんの心があったかくなるようにって思って…

でも、イルミネーションを目の前にしてはしゃぐ俺と違ってセリカちゃんはボーッとしてる

あんまりイルミネーションとか興味ねぇのかな?

「……カップルばっかりだな」

確かにイルミネーションを見に来てる8割り程度が男女のカップルと残りが家族だった

たまに女の子の友達同士もいるケド、さすがに1人で見に来てる人はちょっといない(通りすがりに足を止める人はいるケド)

「家族とか友達とか…みんな幸せそうで楽しそう」

「セリカちゃん…?」

みんなが笑顔なのに、セリカちゃんの表情は冷たい

やっぱり…家族とか友達とか……羨ましいって思うの?

1人が好きって君は言うケド、本当にそれは……

「ん…?」

急にセリカちゃんはイルミネーションから外れた所に目をやる

「……どうか…したのか…?」

セリカちゃんの表情が険しくなっていく

どうしたんだ急に

俺はそんな君の鋭い視線を追うとそこには見るからに怪しい40代くらいの男がいるのだ

イルミネーションを見に来たんじゃないただの通りすがりのおっさんみたいだケド

「アイツ…まさかこんな所で……会うなんて……」

「ど、どうしたんだセリカちゃん!?」

なんか凄くイヤな予感がするぞ

俺はそんな気がしてならなくて彼女の手をシッカリ握った

「………私の……1番ほしいものって言うか、願いを教えてあげる」

男を睨みつけたままセリカちゃんは俺の手を振りほどく

「えっ…?」

聞きたい…のに、ずっと聞きたいと思ってたコトなのに

イヤな予感がしまくって、今は聞きたくない

でも、そんな俺の気持ちなんて無視してセリカちゃんは言ってしまう

「殺して、命を奪って……」

何を言ってるんだ……?

過去の辛い記憶を思い出してるのか、セリカちゃんは頭をおさえて怒りと悲しみを混ぜる

「あの男は…結夢ちゃんを……乱暴して、殺したの!」

「結夢ちゃんって…セリカちゃんの友達の?」

殺された…?ウソだろ…あのおっさんに?

乱暴ってなに…?どういうコト?どんなコト……

いや、だから俺がクリスマスは友達で過ごすのかって聞いた時に友達はいないって言ったのか…

友達がいないってのは喧嘩したからとかじゃなくて……

本当にいないから…殺されたなんて……

「絶対に忘れたりなんかしない

あの顔…あの男で間違いない

去年のクリスマスに結夢ちゃんと休みを取って私は旅行に行ったの」

目の先にいる男と何があったのかセリカちゃんは怒りと悲しみをはじめてぶちまけるように言葉が溢れ出す

結夢ちゃんとセリカちゃんはクリスマスに旅行に行ったんだ

そこで殺人事件に巻き込まれた

結夢ちゃんは犯人の顔をバッチリ見てしまって、しかもそれを犯人に気付かれた

結夢ちゃんは警察に通報する余裕もなく、自分がすぐに殺されるコトがわかっていてセリカちゃんにかくれんぼしようなんておかしなコトを言って、セリカちゃんを部屋のドコかに隠れるように言った

そこですぐに殺人犯が部屋に入ってきて結夢ちゃんは殺されたみたい…

ただ殺されただけじゃない、殺される前に彼女は……

セリカちゃんは隠れた場所の隙間からその一部始終を見てしまったんだ

犯人の顔を見て、それを警察に伝えても犯人は今だに捕まってない

そして、何の偶然なのかセリカちゃんは今ココでその犯人に会った

「アンタは!私の1番ほしいものをくれるのよね!!?

だったらちょうだいよ!!今すぐ!!」

犯人に会ってしまったセリカちゃんの心は過去の悲しみと怒りに囚われてしまった

「それって…あの男の命がほしいって……言うのか……?」

1番ほしいものって言われて俺は確かめずにはいられなかった

セリカちゃんの口から聞いたケド、命がほしいなんて信じたくない

それは1番じゃないって…悲しくても悔しくても……セリカちゃんは誰かを殺せなんて言わないんだって……

だから俺は魔法の袋に手を突っ込んだ

…信じたくないからその言葉

そんなもの出ないって確認するんだよ

でも、魔法の袋には何か入ってる…?

手が何かを掴んだコトにドキッとする

それを取り出したら…俺のショックは大きく悲しかった

本当に…セリカちゃんは命を奪ってほしいと思ってる

その証拠に袋から出てきたのは死神の鎌だった……

「あら…素敵ねその鎌…」

「ウソだ…こんなの俺は認めない

君がそれを1番望んでるコトなんて……そんなのありえない」

「何言ってるのよ!!アンタは私が1番ほしいものをくれるんでしょ!?

帰れなくてもいいの!!?」

「マスターの元には帰りたいよ

でも…」

君が1番ほしいものとして命をあげたのは今の状況だからだ

君はずっとあの犯人を殺したいなんて思ってなかった

思ってたら会った時に最初からこの鎌が出てくる

今は君があの犯人を見て感情的になってるから…今だけの1番ほしいものとして出てくる

「あげない…君が1番ほしいものと言っても

幸せになれないものなら絶対あげたくない!!」

友達の結夢ちゃんだって、セリカちゃんに復讐してほしいとか思ってないだろ!!

俺が結夢ちゃんなら友達に復讐なんてしてほしくないね!!!

俺はセリカちゃんの手を掴んで、ココから離れるタメに走った

息が切れてもう走れないってくらい走って走って

君が俺の手を振りほどこうとしたり引っ張ったり抵抗しても、俺は絶対に離さなかった

君をあの犯人と引き離したんだ

そうすれば、君のほしいものもまた変わると思ったから


「離して!…なんなのよアンタ!!」

もう走れない、しんどい

セリカちゃんの体力も限界だって所で足を止める

気付けば人気のない小さな公園にいた

「なんなのって……俺は…」

「私はイヤなの!!

どうして殺してくれないのよ!!?」

「あんな奴を殺した所で君の心は…!」

俺は大きな勘違いをしていた

君が本当に殺してほしいと望んだのはあの男じゃなかった

セリカちゃんはついに泣き出してしまって

「私を…私の命を奪って……殺してほしいのに、なんでできないの?

私のほしいものは自分の死だわ」

弱くなってしまった

いつも強気な君のはじめて見る弱い所

いや、本当はとっても弱い女の子なのかもしれない

「私は結夢ちゃんがあの男に襲われて殺されるのを見たの

恐かった…凄く恐くて、黙って隠れて私は逃げた

助けてあげれなかったんだよ

私は最低な人間だわ

目の前で大好きな友達が殺されると言うのに恐いからって見殺しにしたのよ!!

そんな私大嫌い…

結夢ちゃんはそんな弱い卑怯な私をきっと憎んでる……」

「セリカちゃん……」

君が望んだのは、あの男の命じゃなかった

自分自身が死ぬコト

何も出来なかった友達を見殺しにした自分が許せないんだ

きっと今までは思い出すのも恐かったんだろう

でも、あの犯人に会って強く思い出してしまった

君が男を憎むほど嫌いなのも、あの犯人が原因なんだろう…

「結夢ちゃんは憎んでなんかいないよ

セリカちゃんにかくれんぼしようなんておかしなコト言ったのは君を守るタメ

きっと、結夢ちゃんはあの時にセリカちゃんが出て来たほうが怒ると思うな」

俺は涙の止まらない君を優しく抱きしめる

友達を作らない君がずっと1人で生きて来た意味がわかったような気がするな

まぁ性格がアレだから友達できないのかもしれないが

誰とも関わらないのはもしまた同じようなコトがあった時に友達を見殺しにしちゃう弱い自分がイヤだからなんだろう

「結夢ちゃんは優しいから…そう思ってくれてるかもしれない

でも、結夢ちゃんが許してくれても私が私を許せない

どうして私はこんなに弱くて勇気がないんだろう

結夢ちゃんのコト…助けたかった……心の弱い私大嫌い……」

見えないパンチも強烈な蹴りももしかしたらそんなコトがあったから強くなろうとしたのかも

でも、心はずっと弱いまま…

君はそんな自分が嫌いと言うケド

「君が助けたいと思ったなら、彼女は守りたいと思った

結夢ちゃんのコトは助けられなかったって自分を責めるんじゃなくて、守ってくれてアリガトウって感謝しなきゃ

君のタメに命をかけた結夢ちゃんが浮かばれないだろ?」

「………結夢ちゃん…」

「結夢ちゃんになって考えてみるんだ

君が結夢ちゃんだったら、命をかけて助けた友達が何年後も自分を責めてたらイヤじゃないか?」

「………イヤだ……私の分まで幸せに生きてほしい」

「なら結夢ちゃんだってそう思ってるさ

命をかけちゃうくらい君のコトが大好きなんだから…」

納得してきたケドまだ涙が止まらない君に俺は額にキスをしてあげた

「な、何すんの!?」

「元気が出る魔法

いつも俺が泣いてるとマスターはそうしてくれるんだ

だから誰かが泣いてたら俺も一度は使ってみたかった魔法だよ」

ほら、俺がキスすると君はビックリして涙が止まった

それから元気になってくれたら魔法は成功なんだ

「………ある意味魔法だけど……本物の魔法じゃないでしょ……」

彼女は両手で俺にキスされた額を抑えて言う

ちょっと照れてる所が可愛いかも

「でも…元気が出るってのは本当……

貴方が言ってくれた言葉…結夢ちゃんが言ってくれてるみたいで気持ちが凄く軽くなったよ」

「そっか、それならよかった」

急に君の知らない所を見て戸惑ったケド、なんとか解決?してよかった

そして

「……ありがとう………セリくん……」

はじめて俺の名前を呼んでくれたセリカちゃんが笑った

「……………。」

ちょっとドキッとする

なんだ…スゲー可愛く笑えんじゃん

そうやっていつも笑ってればいいのに

「うん…それじゃそろそろ帰るか」

「帰る!!」

あんだけ魔法の袋からプレゼントが出るコトを願っていた俺だケド、君の命を奪う死神の鎌なんて却下だ却下

そんなんで彼女の1番ほしい死を与えて帰りたくないっての

それにきっと今はもう魔法の袋から鎌なんて物騒なものは出ないだろうからさ…



-続く-

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