第2話 救い上げた手の中に
「う~…もう初日から挫折しそうだ~……」
「ミルクで酔えるお前が凄いな…」
リジェウェィさんに連れて来てもらった俺達だけしか入れないホテルのレストランでホットミルクを飲みながらテーブルに俯せる俺
見た目は20歳くらいでも俺はまだ生まれて1年もしない0歳
0歳のうちはミルクしか飲めないんだ
他の食べ物は口にすると吐いちゃうから
ミルクでお腹はいっぱいになるケド、俺だってみんなが食べてるエビフライとかグラタンとかパンケーキとかマカロンとかチョコレートとか食べたいよ
美味しそう…
仕方ない、来年の1月の誕生日まで我慢だな
ミルクは冷たいのよりあったかい方が俺は好き
お酒なんて飲めない俺はミルクでしか酔えねぇんだよ!!!!!!!!クソッ!!!
「だってリジェウェィさん!!俺の担当する女ありえねぇよ!!??
初対面で首絞め殴る蹴る暴言、さらに羽根までむしり取る悪魔のような凶暴女なんだ!!!」
むしられた所をリジェウェィさんに見せて、翼の一部分がハゲてるコトに俺は大きなショックを受けた
「心配ない、セリの羽根は生え変わりの時期であるからまた新しい羽根がすぐに生えてくるだろう」
「そういう問題じゃないんだよ!!!!
あぁ!!!俺は始めてのクリスマスに何もほしくない人間に当たって、クリスマス過ぎてもマスターの元に帰れなかったらどうしよう!!」
通りすがりのウエーターにホットミルクを追加注文して荒れ飲みだ!!
「あのセリにソックリ瓜二つの娘…そうか、何もほしいものがないのか……」
「うん…」
「…俺も今までに何も欲しない無欲な人間に当たった事があるぞ
5人ほど当たっただろうか」
「5人も!?
そん時、リジェウェィさんはどうしたんだよ
先輩の意見を参考に聞きてぇ」
魔法でメモとペンを取り出し俺は身を乗り出して聞いた
俺は1日でもあの女にクリスマスプレゼントを渡して帰りたい
って言うかできればもう会いたくねぇ
でも…クリスマスプレゼントは絶対くれてやる
マスターの元に帰れるってのもあるケド……やっぱりちょっと彼女が気になるんだ
「ほしいものがないならほしいものを作ればいいのだ」
「ほしいものを作る???」
「その時にほしいものがなくとも、少し時間が立てば何かほしくなる事もあるぞ」
なるほど…今日はほしくなくても明日は何かほしくなるかもしれないってコトだな
「俺は何もほしくないと言った人間から全てを奪ってやった
すると人間は奪われたものを返してほしい、失ったものをもう一度自分のものにしたいとそれを欲するようになるのだ」
「1番優秀と言われてる男のやり方が鬼みてぇなんだケド!!??」
メモるのをやめた
リジェウェィさんの性格が悪だってコト…知ってたよ俺
どんな手段を使ってでも1番早く帰って来る人が優秀になるんだろうか…
なんか違うような気がするケド
でも、リジェウェィさんは一度奪ってその大切さを気付かせ返してるから結果は良いのかな
やり方が大問題なだけで……
リジェウェィさんのマスターになるって事情で一度奪われる人間は可哀相だケド
結果はその人が今までと変わらずの幸せを手にしてる…か
「俺はそんなコトできないよ」
「それくらい出来ないと帰れないかもしれんぞ?」
「うっ…でも……一瞬でも何かを奪うなんて……」
俺には出来ない…
って言うか、俺の担当の女の子は幸せそうじゃなかった
何を奪われても…返せなんて言わないような
失うものは何もないような感じだったな…
「まっ、セリにはセリのやり方があるのだろう
バリファ様が彼女をお前の担当にしたのは考えあっての事…
お前にしか出来ない事なのかもしれんな」
やっぱりランダムで選ばれた人間の担当決めはマスターだったのか…
始めてのクリスマスに難易度マックスの何もほしがらない人間を俺の担当にしたマスターはきっと彼女は俺じゃなきゃダメなんだと考えたんだろう
それなら俺はマスターに応えるタメにも彼女に最高のクリスマスプレゼントをしなきゃならない
頑張らなきゃ…こんな所で愚痴ってる場合じゃねぇな
「……ぅわっ!?冷てッ!!??」
彼女のコトを色々考えていると急に頭上から冷たい氷とミルクが降ってきた
最後にはタライのおまけ付きが俺の頭を直撃してスゲー痛い
何コレ!コント!?やってねぇぞ!!
誰だゴラァ!?ぶっ殺すぞ!!!
「フハハハハハ!!
始めてのクリスマス記念にまだミルクしか飲めないお子ちゃまにプレゼントだぁ!!」
「よかったなぁ!オレ達からのクリスマスプレゼントとして受けとってくれよぉ」
少し離れた後ろから聞こえる笑い声はイジメッ子のエーとビーとシーの3人組だ
コイツらはいつも俺に嫌がらせしてくる暇人なんだよ
「大丈夫かセリ?
貴様ら…いつまでこんなくだらない遊びが楽しいと感じているのだ……
バリファ様が悲しむと考えないのか」
リジェウェィさんがパチンと指を鳴らすとイジメッ子3人組は魔法で現れた熱湯風呂に落とされる
熱湯風呂の熱さをリアクション芸人のように素晴らしいリアクションをするコイツらには拍手を送ってしまう……
俺をイジメるからだ
ふん…別にイジメられても気にしねぇケド……(ウソ、ちょっと傷付く)
「気にする事はない…あの者共はバリファ様のお気に入りであるお前に嫉妬しているだけだ」
リジェウェィさんがまたパチンと指を鳴らすと俺の頭にタオルが被さる
「別に…マスターは俺がまだ1歳にもならないから気にかけてくださってるだけで
お気に入りとかそんなんじゃないよ」
あの3人組が嫉妬する気持ちはわからなくもない
俺だって、マスターが特別誰かを可愛がっていたら激しく嫉妬する
イジメはしないケド…アイツ嫌いとか悪く言っちゃうかも
「そんな事はないぞ
バリファ様は今まで誰をも平等に接して来ていたが、1番若いからとか年齢関係なくお前だけは特別なのだ」
「なん…」で?
ってリジェウェィさんに聞こうとしたら急にレストランが騒がしくなり、何事かと思い騒がしい方を見てみる
騒がしくなるのは当たり前だ
だって…こんな所に……
「マスター!!!!??」
がいるんだから
「ほら…セリはやはり特別だ
バリファ様がここに来てくださるなんて俺が生きてきた中では始めてだぞ」
マスターが人間世界に来るコトは滅多にない
マスターにとって人間世界の空気は毒みたいで死にはしないケド息苦しいみたいなんだ
それなのに来てくれるなんて…
「始めてのクリスマスはどうですかと様子を見に来ました
……どうしたのです?その姿は……」
マスターはいつもと変わらない優しい微笑みを俺に見せた後、俺のミルクまみれになった姿を見て驚く
恥ずかしい…マスターにこんなたんこぶ出来たぶざまな姿を見られて
お会いするなら今すぐ風呂入って身なりを綺麗にしてからがよかった
「またあの子達ですね…
私がいけないのでしょう…私がしっかりしていないから……
貴方に辛い思いをさせてごめんなさいね」
マスターは俺の前で屈み、俺を人形のように抱き上げる
「そんな…マスターのせいじゃないです
俺がマスターを……」大好きだから悪いんだ
それもあるから生意気だってイジメられる理由でもあると思う
本当にリジェウェィさんが言うようにマスターが俺だけ特別だと言うならそれはなんでなんだろうか…
わかんねぇ…
俺から見たらマスターはみんなに優しいよ
本当に俺が特別なら俺だけに優しくしてほしい…マスターを独り占めしたい
なんて思ったら俺は自分勝手なイヤな奴なんだろうな
マスターは魔法で俺の汚れた服を新しく綺麗な服に変えてプレゼントしてくれた
髪もお風呂入ったみたいに綺麗サッパリスッキリだし
さらに痛かったたんこぶまで治ってる!!!!
前、アイツらに泥まみれにされた時もマスターはこうして俺を綺麗にしてくれたな
優しいマスター……
「あらあら、貴女が人間世界に何をしに行くかと思いついてきましたら」
さらにザワつくレストランの中にもう1人マスターが現れる
リジェウェィさんのマスターのセレン様だ
セレン様は人間世界の空気をなるべく吸わないように扇で顔を半分隠してる
「そんなガラクタに会う為にわざわざこんな所に来たなんて笑えるお話ですわね~」
高笑いするセレン様の方にマスターは俺を抱いたまま立ち上がって振り返る
ガラクタって…俺か?
マスターをバカにするな!!
セレン様ってこんなちょっと意地悪な方だったんか
「こんな空気の悪い所までガラクタに会いに来るなんて異常じゃありません事?
そんなガラクタを拾って可愛がるなんて気持ち悪い人…
今年もセレンの勝ちは決まりですわね」
ガラクタを…拾って……?
……どういう意味だソレ……?
なんか…イヤな感じがして胸がギューッて絞められる
そんな不安になった俺をマスターはしっかり強く優しく抱きしめてくれた
マスター…セレン様が言う、俺がガラクタってどういう意味なんですか……
拾ったって……俺はマスターに作られたんじゃないの?
「この子をガラクタ呼ばわりするのはやめなさいセレン
マスターなら自分の子を可愛がるのは当然でしょう
貴女には愛がありません」
マスターに愛がないと傍に置いてる子にも愛がなくなると言う
確かに…リジェウェィさんを見てるとわかるかもしれない
リジェウェィさんは俺には優しくしてくれるケド…愛がない…愛が欠けてる
だから他の人に凄く冷たいんだ
「愛?何をおっしゃいますの
道具に愛なんて必要ありませんわ
この子達はマスターの為に働いて、マスターの評価を上げるだけの道具なのですわよ」
セレン様の言う評価ってのは俺には何のコトかわからない
マスターじゃないからマスターのコトはわからない……
「道具…なんて悲しい、そうではありません
この子達はマスターにはなくてはならない大切な存在なのです
この子達を道具と呼び使えないとしたら壊し捨てる貴女の事は理解出来ません
セレンにはきっと永遠にわからない事なのでしょう
可哀相な人……」
その言葉にセレン様はムッとして顔に当ててた扇を閉じマスターに向けた
「セレンより評価の低い貴女に何を言われてもセレンは間違っているとは思いませんわ!」
その評価って何基準で誰が付けてるか知らんケド、評価付けてる奴が絶対間違ってる
セレン様より俺のマスターの方が素晴らしい方なのに
「帰りますわよリジェウェィ!
貴方はもう終わっているのだからこのような所にいるべきではないのですわ
いくら優秀でも勝手な事ばかりしていると壊しますわよ
セレンには貴方に続く優秀な道具はいくらでもいるんですの」
自分は間違ってないって言っときながらセレン様はキー!と言いながらマスターの前から去って行く
「ふん…貴様の道具であるのももうすぐ終わりだ」
リジェウェィさんはボソッと悪態を呟いた後
「セリ、俺は上で待っているぞ
早く帰って来れるよう頑張るのだ」
そう言って、金色の翼を表し天に帰って行ってしまった…
セレン様が来なければリジェウェィさんはココで俺が終わるのを待っててくれたのに
1人は不安だ……
いや!マスターのタメに俺は頑張らないと
俺が早く帰らないとまたマスターがバカにされちゃう……
「マスター…俺…頑張ります
マスターの為に!!だから上で待ってて下さい!!
ココはお身体に悪いですから……
来てくれたコトは素直に嬉しいですケド」
「ありがとうセリ
貴方は担当の女の子の事で悩んでいるみたいですが」
マスターは俺の頭を優しく撫でてくれる
子供扱いされてる感はあるが、抱っこもナデナデも嬉しい
「ほしいものは目に見える形ある物じゃない時もあるのですよ
彼女のクリスマスプレゼントは貴方にしか出来ないのではと私は思うのです」
「やっぱりマスターは何かお考えがあっての事だったんですね!」
マスターの口からそのコトが聞けて、俺のやる気はキャンプファイヤーレベルに激しく燃えた
この言葉を心に深く刻み込んで
「俺、今からもう1回彼女の所を訪ねてみます!!
マスターは上から俺を見ていてください」
「えぇ、私はいつも貴方の事を見守っていますよ
いってらっしゃいセリ」
マスターから額にキスを貰って、俺の顔は耳まで真っ赤に熱くなる
なにこれ、マスター大好き幸せって思うよ
マスターに見送られて俺はまた彼女のオンボロアパートにやって来た
ドアをノックしても開けてくれないから俺はまた瞬間移動的なコトをして彼女の部屋に不法侵入
蹴りが飛んで来るかと思ったケド、部屋の中は真っ暗だった
ちなみに瞬間移動的なコトは約5mくらいまでしか出来なくて、結構魔法力を使うからしんどい
「もう真夜中の2時か…」
部屋の中が真っ暗なのは彼女がベットで眠っていたからだ
加湿器からアロマの甘い香りがするのは少し心地良い
「起こしたら絶対殺されるよな…」
せっかくやる気出したのに
まぁいいや、明日から頑張れば
俺も今日は疲れたし眠いから寝よう
ココに泊まる
いつも夜の11時くらいに寝るから真夜中の2時とか眠いよ
「う~…オヤスミ~……」
この部屋にはベットが1つしかないみたいだから、俺は彼女のベットに潜り込んで寝るコトにする
他に寝るトコないし
それにこんな寒い日は1人で寝るより2人で寝るほうがあったかいだろ
俺に感謝してほしいくらいだ
しかし、朝になると何故か彼女から強烈な鉄拳をプレゼントされて俺は目が覚めた
なんでだ!?
俺が添い寝してやって、あったかかっただろ!!?
どうやら人間の女の子と俺の価値観?はまったく違うみたいだ
-続く-
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