選んだのは、自分
「ちょっと‼︎なんで気絶したフリなんてするのよ‼︎さっさと聞いてきたことを話しなさい‼︎」
この程度の狸寝入りだと通用しないか。尻についた
「両親は陽さんにはどっちの道を選んでもらってもいいと言っていました。僕たちのことは心配しなくていいとも」
ユキちゃんが視線を陽さんに移す。彼女は首を横に振る。
「…それじゃあ、決められない。私は友達とも両親との時間も欲しいの」
「人間になって両親に俺みたいに会いに行けばいいじゃないですか」
「…人間と
ケータイを取り出して時間を見る。23時50分。時間が差し迫っている。他に両親が言っていたことは…。
「陽さんが話していた家の掟、アレは嘘らしい。その嘘は君に自分の意志で人間か妖怪か決めてもらいたかったかららしいです。そして、人間の友達がいるなら人間になりなさいって言っていた。
あ、あとどうでもいいかもしれないけどお母さんは元人間らしい。契りを交わすと妖怪になるらしいです」
陽さんは視線を足元に向けて、フッと笑った。
「…ありがとう。決めた。私は…
「じゃあ早速、
えっ?淡い青白の光に包まれて最初に出会った時の姿になった。気づいたら妖怪へのアップデートが済んでいた。人間の美人から大口になった陽さんが目の前にいた。人間の姿とのギャップにうっと悲鳴が漏れかける。しかし、あの世とこの世の狭間に行った俺はこの程度で心中を察せられはしない。やっぱり、人間の陽さんの方が良かったかも…。
「あなた、人間の陽さんの方が良かったみたいな顔をするんじゃないわよ」
くっ…。ここまで察しがいいなんて俺の情報にはないぞ。ユキちゃんのプロフィールを上方修正しておく。
陽さんは口を耳元まで大きく開けて微笑んでいる。
「…私は何も諦める気にはなりません。私が欲しいものは全て手に入れてみせます。両親がどうしてあの世とこの世の間で暮らしているのか知ることができました。私も大切な人と妖の時間を過ごしたい‼︎
人間を辞めます。私は大口の陽」
陽さんと会った時から感じていた日陰のような
ユキちゃんは目尻にうっすらと涙を浮かべながら、陽さんの両手を取ってぴょんぴょんと跳ねる。
「よかったわ‼︎
とても長い1日だった。疲れがどっと押し寄せてくる。目を閉じればすぐに光の刺さない雨雲のような暗いところに落ちてしまいそうになる。しかし、今日に限っては気持ちの良い眠りになるかもしれない。
「それで、陽ちゃんに今回の依頼料についてなんだけど…」
うっわ。このまま終わればいい話だったのにいきなり嫌な現実を持ってきたな。陽さんも一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。
「今回の依頼料は、陽ちゃん、毎年1回以上この
「ええ、お安い御用です」
笑った陽さんはとても綺麗だった。妖怪になって恐怖の対象でしかなかったのが、今は1人の友人のように思える。
心の中がほのかに暖かい。小さな頃に忘れてしまった感覚だ。今だけは、この世もは悪くないなと思っている。
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