行き着く先は、妖の玄関

 名誉挽回のこの一手により、2人の視線は当然俺に注がれる。

「ま、まああんたがそこまで大声で言うなら…」

 ユキちゃん票は手に入れた。陽さんは?

「…両親の声を聞きにいけない今、それしか私を決心させる方法が見当たらないからそれでいくしかないのね…」

 全く腑に落ちていない様子だが、俺が両親の話を持って帰ってからはきっと。

「決まったから、ユキちゃん早速送ってくださいな‼︎」

「わかったわ。送る前に1つだけ気をつけてほしいことがあります。それは帰りの道中決して振り返らないこと。これもどうしようもない掟のひとつだから決して違えないようになさいよ‼︎私でも助け出すことはできないから」

「それってすごく危なくな…」

「それじゃあ、行ってらっしゃい‼︎私たちはガールズトークに花を咲かせておくわ」

 振り返ると一体どうなってしまうのか。その説明なしに、心の準備もできないまま送り出されてしまった。どうにでもなれと固く目をつむる。

 目がさめるとこの世ではない場所に立っていた。真後ろにお世話になりかけた神社の扉だけがある。おそらく帰りはここなのだろう。

 ここは小高い丘のようで、ほとんど木がない。そのため眼下に広がる街を一望することができる。

 ここで重要なことを思い出す。陽さんの両親のいる場所を知らない。ずっとこの場所で立ち往生して何も持ち帰ることができなくなってしまう。ユキちゃんの奴め…。

 頭を抱えていると、草の頭を撫でるような風が吹いて俺の頬をかすめた。風の行く先へと視線をやる。その時、背後に存在を感じた。振り返ると俺と同じ背丈ほどの女が立っていた。目が合った。

「お主が黒田光輝だな?」

「はは、は、はい…」

「私はここの管理を任されている者で、稲荷神社が奉る神の御使の1人である」

 なんとも仰々しい話し方だ。冗談を言ってやろうという気を全く起こさせない。

 御使様はユキちゃんをシベリアンハスキーと掛け合わせ続けて5代目といった感じだ。長く白い髪、真っ白な肌が特徴的だ。しかし、ユキちゃんと違って隙が全くない。上司になったら実力者主義を徹底するようなタイプに見える。

「何をそんなにジロジロ見ておる。お主の目的は陽という大口の両親に会いに来ることで間違いないか?」

「ええ。その通りです。陽さんの両親に合わせてください‼︎」

「うむ、では」

 指をパチンと鳴らす。身体が一瞬フワッと浮く。瞬きをした瞬間先ほどの丘の上から民家の玄関に立っていた。

「邪魔するぞ‼︎娘の陽から遣わされた男だ」

 家の玄関で大声で叫ぶ。全く隙がないと言ったのはもしかしたら大変な間違いだったのかもしれない。一般常識が大きく欠けているのかもしれない…。

 家の奥から初めて合った時の陽さんのような妖怪が現れた。そして、俺たちの前で立ち止まると礼をする。

「私が陽の母でございます」

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