向かうは、狭間
俺たちは呆気にとられて一瞬空気が止まる。すると、ユキちゃんが小声で話しかけてきた。
「もしかして、陽ちゃんって残念な子なの?私の話を一切聞いてないっぽいんだけど」
この使いは言葉の含みが分からないのか…。残念な子を見るような視線を向けるが本気で陽さんを心配している顔をしているため、言葉を返すのをやめた。
「陽さんはどうしてそう思うんですか?」
「…どっちかじゃいけないってことは片方の私を捨てるのと一緒。そんなことはしたくない。両方欲しがるのはいけないことでしょうか?」
いい事を言っているようで、その実なんて強欲な。この発想も今の子っぽい。どうしたものだろう…。
突然ユキちゃんが向かい合う俺と陽さんの間に割って入る。そして、両手を腰に当て、堂々を演出する。
「ダメよ‼︎共存はできないの。残酷かもしれないけど、片方のあなたには死んでもらわなくてはなりません。コレは神の意志でもあるのです」
陽さんは顔を伏せて何も話さない。
「ところで、陽ちゃんは今19歳よね?」
「…え、ええ」
脈絡のなさに戸惑っている。俺の視線に残念に加えて、憐れが含まれる。
「20歳は人間にも妖にとっても区切りになっているの。20歳の誕生日には誰かの手を借りて人間か妖かどちらか完全な状態でいなくてはシャボン玉のように消滅してしまうの」
俺も陽さんも驚きの表情をユキちゃんに向ける。なんと、陽さんは年上だと思っていたのに実は年下だったなんて。
ここでもまた自分の考えている世界の狭さを実感させられる。常に自分の内側に向く視線をたまには外に向けなくては。
「陽ちゃんの誕生日は今日よね?」
そんな急な話あるかあああ‼︎こういう時って3ヶ月くらいの猶予が与えられて、どっちがいいのか俺に相談をしていくうちに2人は…、なんて展開まで想像してたのに無に帰した。しかし、
「今は22時だからあと1時間59分の余裕があるわね」
作業に1分かかることが分かった。
「さあ、残酷にもにじり寄ってくる時間の間に悩みなさい。陽ちゃんには必要なことです」
ユキちゃんはいきなり人と妖怪よりも上の視点に立って、重い時間を与えてきた。
陽さんは伏目になり、右手の人差し指の第二関節を噛んでいる。俺は1つ浮かんできた疑問を投げる。
「陽さんは20歳が境目だということは知っていたんですか?」
「…はい。祖母からずっと言われ続けていたことです。しかし、決められずにこんなギリギリになってしまいました」
なんだ、考える時間は十二分にあったんじゃないか。なら、おのずと答えは決まっているのだろう。
「時間があったのなら本当の答えは用意してるんでしょ?陽さんも人が悪いなあ。そっちを言ってくれたらすぐに解決じゃないか」
陽さんがこちらに残念な子を見るような視線を向けてくる。そんな…バカな…⁉︎
「…私の出した答えはさっき言ったように両方を備えた存在です。しかし、無理な事を分かっているから両親に相談に行きたいと思っていたのですよ。話聞いてましたか?」
ユキちゃんからも同じ視線を注がれて立つ瀬がない。
このままでは残念な子で終わってしまう。陽さんにそう思われるのは仕方ないとしても、ユキちゃんにそう思われるのは釈然としない。頭をフル回転させて起死回生の策を打ち出す。
「俺が陽さんの両親に会ってこよう」
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