心の持ちようは、強く

「ユキちゃん起きてくださいな〜」

「…っは⁉︎私はどうして地面に倒れて…。っていうか光輝、私の名前をちゃん付けで呼ぶなんて何考えてるのよ‼︎神の使いなのよ私は‼︎もっと敬意を持って‼︎」

 上体を起こした状態で両手をふんだんに使って抗議してくる。陽さんがユキちゃんの肩をトントンと叩く。

「何よ‼︎」

「…久しぶり、ユキちゃん」

「ああ‼︎陽ちゃんじゃない‼︎久しぶりね‼︎もしかして、困りごとのお客さ…人はあなた?」

「…ええ。私は人じゃなくて妖怪なのだけど」

「ええ‼︎だって、普通の人間の見た目をして…」

 すると、陽さんは手の平で一瞬顔を隠すと大口の姿を現した。ユキちゃんから、ひっという小さな悲鳴が漏れたが先ほどできた少しの耐性に全力で頼って威厳を保とうとしている。小さな咳払いをして固まってしまいそうな空気を流す。

「陽さんは両親に会うためにあの世とこの世の間に行きたいらしいのです。神の御使いならばどうってことないでしょう?そう思って連れて来ました」

 ユキちゃんは俺と陽さんの顔をそれぞれ見てから、アゴに手を当てて深く考え込みだした。

「もしかして、使いのユキちゃんではできないのですか?」

「いいえ、とても容易たやすいことです。しかし、1つだけ懸念材料があります。それは、半端者は狭間にいる間命を吸われ続けるのです」

「それなら、サクッと行って帰ってくればいいのでは?」

「それでいいならこんなこと言わないわよ‼︎ストローで命が吸われると思っているんでしょう?違うから。世界で最も新しくて吸引力の高い掃除機ばりに吸われるの」

「…陽は行くだけですぐに死んでしまうというのですね」

 ユキちゃんは小さく頷く。陽さんの顔に前髪がかかって表情が見えない。

 ここまで陽さんを連れてくるのに何度心臓が止まりかけたか。そうまでしたのにこのまま引き下がるなんて心臓の止まりかけ損だ。理由は完全に自分本位だが、それでいい。一度は現世卒業しかけた残り1ヶ月の命なのだ。自分の為に動いてついでに誰かの為になれば思い残すことは何もなくなるだろう。もともと思い残すこともそんなにないけど…。

「ユキちゃん、そこをどうにかすることはできないのですか?」

 自然と下がった声のトーンに今まで俺のことを下に見ていたユキちゃんの目に対等の者を見る目に一瞬変わった。

「何度言えば…。ツッコむのも面倒になってきたわ。方法はただ1つ。陽ちゃんがどっちで生きていくか決心すること。これ以外にないわ。狭間の掟はずっと昔から決まっていることでたとえ私の主人が赴いても変えることは難しいでしょう」

「よし、じゃあ陽さん早く決心してくれる?」

「…え?そんな急には…」

「あんたは鬼の子か‼︎陽ちゃんはその辺でクズってるおっさんじゃないのよ‼︎か弱い女の子様なんだから、もっと慎重に言葉を選びなさいよ‼︎」

 おっさんに失礼だし、女の子様ってなんだよ…。こいつの偏った思想はこの件が終わったらキツめに矯正してやろう。

「陽ちゃんは今はどう考えているの?」

「…私は、人間にも妖怪でもいたい」

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