次の日には、神社

 嘘だあああ。昨日座っていた場所に陽さんが座っている。顔は美人の状態でいてくれているおかげで、昨夜のような衝撃はない。

「えっと…、困りごとでしたっけ? 一応聞かせていただきます」

 俺も昨日と同じ位置に座る。

「…陽には今人間の友達がいます」

 危なかった。もし、彼氏と言っていたら大の字になって寝そべっていた。

「…好きな人もいます」

「そうか〜」

 大の字になって寝そべる。ここから先は中学生に脚本を頼んだような昼ドラな人間関係を聞かされて、さあどうしましょうと言われるのだ。ポケットに入っていたスマートフォンを取り出して、興味はないがニュースを見る。

「…陽は自分のことをずっと皆んなと同じ人間だと思っていました。でも、18歳の誕生日、祖母にお前は大口という妖怪でこれから人の世で生きていくのは難しいと言われました。誕生日の晩に鏡を見たら私のような顔をしながら、耳元まで開いた口をした女が映っていました。私だと気づくのにさほどの時間はかかりませんでした。その日から、人間ではできないようなことがいくつもできるようになりました。今もやっている顔を普通の人にすることも」

 …重いなあ。自分が小さな人間であることをこんな所で再確認するハメになるとは。

 小説や漫画では散々見てきた展開だが、現実に目の当たりにするとなかなか言葉が出てこない。陽さんの顔に落ちた影が安易な発言をしてはいけないと思わせる。

「陽さんの両親は?」

「陽の両親はあの世とこの世の間で生活しているらしいです」

「らしい?」

「家の決まりで7歳になったら一人前として家を出て行かなくてはならないのです。だから寮のある私立小学校に入りました。それ以降両親とは連絡を取っておらず、祖母とだけ連絡を取っていました」

 両親とは長年会っていないということと、2人は人の世では生きていないということがわかった。

「それで、陽さんはどうしたいんですか?」

「…私は人間として生きて生きたいです‼︎」

「わかった。悪いけどまた今夜出直してきてほしいです。ある場所は連れて行きます」

「…わかりました」

 陽さんは今回は玄関から普通に出て行った。扉を開ける前に頭を下げたところを見ると人間以外の何者でもない。今まで住んでいた世界では半分のことしか観ていなかったんだなと思い知らされた。

 夜になるまでは適当なゲームをしながら時間を潰す。頭の片隅で常に自分が他の人とは違っていたらと考えた。しかし、想像の範疇はんちゅうを出ないためにいつまでも答えは出せないでいた。

 夜になるとインターホンが鳴った。扉を開けると口が耳元まである陽さんが立っていた。声が出かけるのをグッとこらえて平静を装う。

「陽さんの悩みを解決できる場所に案内するるので、付いてきてください」

 俺の後ろを気配なくひっそりと付いて歩く。

 到着したのはユキちゃんのいる神社。

 鳥居の下で階段を上ってくる俺たちを見下ろしながらどこか冷たい視線を向けてくる。

「約束通りやって来たよ‼︎」

「いや、困りごと持ってこいなんて一言も言ってないんだけど?」

「まあ、そう言わないでください。俺1人だと力になれる限界がありますから」

「まあ、いいわ。それであなたの後ろにいるのが信者1号?よろしくお願いします。私はここの社の主人です」

「…どうも」

 スッと俺の後ろから陽さんが顔を出す。

 神の使いは小さな悲鳴をあげると地面に向かって、仰向け状態で倒れた。

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