部屋にいたのは、化生
神の使いが何を言っているのか分かっても、理解できずにたじろいでしまう。
「プププ。私に大声を出させたお返しよ‼︎
気分も晴れたしわかりやすく説明するわ。あなたの1ヶ月から先の寿命を全てもらいました。医者ではないけど余命1ヶ月を宣告する。一ヶ月以上生きたいときは言ってね」
この使いは俺の望みを知った上で言っているのだろうか。肉体からの離脱願望のある人にとってこの上なく良い条件だ。1ヶ月は生きなくてはならないのが唯一の悪条件だが。
「よし、ありがとう‼︎では、俺はこの辺りで退散させてもらおう」
立ち上がろうとすると、つま先を強く踏まれて片膝をつく。あまりの痛みにウっと声が漏れてしまう。
「どうしてここで帰ろうとするのよおおお‼︎ 私のことバカだと思ってるんでしょ⁉︎ 絶対そうでしょ⁉︎ いいわ、そのまま話の続きを聞きなさい‼︎
1ヶ月後に訪れる天寿は苦しみのないものにしてあげます。しかし、1ヶ月以内の自ら選ぶ死は…うわっ、想像する前から痛い…」
一体どんな死に様になるだよ…。
「さて、天寿を全うするためにはこの社のために信仰を集めて来なさい。ゼロでもいいから努力はしなさいね。あ、あと外の話を聞きたいから毎夜この社に来るようにね。何か質問は?」
首を横に振る。
「よし‼︎ じゃあ、明日もちゃんとここに来るように‼︎ 帰り道に
「はあ…。それでは失礼します…」
足の痛みも収まり、スッと立ち上がって神社を後にした。
一人暮らしの家に着いて、誰もいない仄暗い部屋に向かってただいまと呟く。帰り|道に変なものに出会うと言ってたから、少し肝っ玉に力を入れていたが心配しすぎだったようだ。
「…おかえりなさい」
まだ電気を付けていない部屋の奥から声が聞こえた。さっきも言ったが俺は一人暮らしだ。この状況で聞こえてくる声なんてないはずなんだけど。これ以上先に進みたくはない。しかし、今すぐ布団に入って今日あったことの全てを明日の自分にさっさと投げてしまいたい。この場限りの自分の二律がせめぎ合う。結果、廊下の電気を付けて部屋の中へと入っていく。
先ほどの声は若い女のような声だった。霊の類で間違いないだろう。問題は悪霊だったり、容姿がとても怖い場合だ。呼吸を止めて部屋の明かりをつける。
声の主はベランダへ出る窓の前に立っていた。うっかり目が合ってしまった。
「目が合いましたね」
怖い。何が怖いって一言で言うなら全部。二言なら全部全部。真っ白なワンピースにパサついた長い黒髪。前髪が長いために顔を見ることはできない。最も特徴的なのは耳元まで裂けた大きな口だ。髪がかかっていても口の存在感は圧倒的だ。
失神してしまおうか迷ったが、ここまできて布団で寝ないなんて選択肢はない。とりあえず、意思疎通を図って出て行ってもらおう。
「あの…、出て行ってください」
言ってやった、そう思ったが言葉を発した後に急に冷静になる。もし、あの方が非常に気難しかったら呪い殺されるかもしれない。言ってしまった今ではあの方の優しさに全力で賭けるしかない。驚愕の表情を見せないように見えないようは太腿の裏をこっそりつねっておく。
「…私のこの姿を見て悲鳴1つあげぬとは見上げた胆力。この家の主人であろう? どうか少しの間、私の話に付き合ってくれないか?」
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