14話 変貌の1

 会長さん改め九条帝。

 部長改め桐原深琴きりはらみこと

 脳筋さん改め館脇椿たてわきつばき

 ラベちゃん改め瑞生蓮たまきれん


 互いの名前を確認しあい、互いの呼び方を改めた新生文ゲイ部は帝の自宅でトランプに興じていた。


「・・・・・・まさか、急に吹雪いてきて帰れなくなるとは」


 部長・・・・・・桐原は窓の外を眺めて鬱屈と肩を落とした。その拍子に手の内、つまりはジョーカーの姿がお目見えし、帝は多少悪いとは思いつつも一抜けした。


「やっぱ強えなあ、会ちょ・・・・・・帝さんは」

「これで十連勝です」


 慣れぬ呼び名に戸惑いつつも、輪を深め、いつも通りを貫くためにはと桐原の提案で始まったこのババ抜き大会は、ポーカーフェイスを得意とする帝の絶対的な優勢で進んでいた。

 元々この手のゲームが強すぎるが故に文ゲイ部の恒例行事に関しては解説の立場に回っていた帝だ。

 更に本気を出せば、相手の瞳に反射した光から視覚的な情報の一切を引き出せたりするが、それは流石にチートが過ぎるので却下。


「だけどよかったのか、お前ら。男の家に泊まるってのは」

「でも帝さん、これじゃあオレたちも迂闊に外に出られないしなぁ」


 窓を叩く雪は先程から勢力を弱めるどころかどんどん激しさを増していく。下手に外へ一歩でも足を踏み出せば生命の危機すら感じるレベルの大災害。

 これまでに見たこともない、この辺りではそうそう観測されない。場合によっては初かもしれない。


「すみません、かい・・・・・・九条さん。今日はどうかお願いします」

「それとも何だ、九条。何かやましい気持ちでもあるのか?」

「これいずれにしても俺の負けじゃねえか」


 そう言い放って帝はベッドへと背を預けた。本心を言えば始めから拒むつもりは無い。そんなつまらない劣情を抱いて友好を崩す、彼には自分本位の感情を持つ独善性はなかった。

 かと言って、いきなりウェルカムになれる程彼の築き上げてきたプライドは脆くはない。


 ★  ☆  ★

 

 しかし、瑞生のスカートが短くなっているのはなんでだろうか。

 大会が終わり、本棚の本を確かめる作業に移った帝に、ストレッチを始めた椿を他所に、縮こまる瑞生を観察しながら、桐原はそんなことを思った。

 よくよく考えると今日は一度としてラッキースケベ現象も起きていない。男子生徒に追いかけられていた件といい、多くの違和が存在していた。


 これが時が歪み、過去へ遡ったことによる影響であることは間違いないだろうが、それでもこの変化は度し難いところがあった。

 それは帝にも同じことが言えるが、椿や自分自身に特に起きなかった事実としての変化が起きるのはなんというか、帝だけな気がしていた。

 そんな桐原はさて置いて、帝はもうひとつの眼前の疑問を解消しにかかっていた。


「・・・・・・で、ふと思ったんだが」


 本をパタリと閉じて、帝は桐原と椿へと視線を滑らせた。


「なんでお前ら、髪をそんな色に染めているんだよ!!」


 紫色に染め上げられた桐原に、そして若草色の椿の髪へと絶叫を吐き捨てた帝に、瑞生も同調するように頭を何度も振った。

 日本人の筈なのにやたらカラフルな髪をした、アニメのキャラクターのような容貌になってしまった二人に、帝は心底微妙な顔でその心情を体現する。

 どうやらこの中に変化していない人間はいないらしい。全員変わっているという二重の意味で。


「「えっ!? ホントだ!!」」

「気づいてなかったのかよ!!」


 テコ入れ、それは突然二人を襲った。

 

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