4話 集合

「遅いですよ部長。五分前行動を心がけるよう何度言ったら分かるんですか」

「いや、すまない。朝から期間限定イベントが来ていてな、周回してたら遅くなってしまった」

「受験生の台詞とは思えないわね・・・・・・」


 日曜の朝、炎天下に昇降口の前に立つ五人のもとにTシャツに短パンというラフな装いの部長が駆け寄ってきた。

 五人のうちセンセイ、ラベちゃん、権力さん、脳筋さんも似たような格好だが、会長だけは相変わらず制服を着ている。

 しかし、その四人と明らかに違う点が一つ、薄い生地で包まれた部長の胸元はこれでもかと存在をアピールしているのだ。開いた襟から覗く谷間は何とも艶かしい。

 平たい者たちの妬み嫉みの視線がその一点に集まっている。それを遅刻を責めるものと勘違いした部長はバツが悪そうに頬をかいた。


 そんな女たちの静かな抗争に気づきもしない会長はさっきから携帯片手に誰かと通話している。

 通話を切った会長は携帯をポケットに納めると、無言の女子連中に語りかけた。


「迎えの車がもうすぐ来るそうです。そろそろ準備してくれ・・・・・・ってどうした?」

「私が聞きたいよ」


 困惑気味の部長は視線から逃れるように胸を抱いている。そのせいで余計に胸が圧迫されてそれはもうすんごいことになっている。


「部長は後で始末するとして・・・・・・ではわたくしたちも校門へ行きましょうか」

「今何か不穏な発言が聞こえた気がするよ」

「何ごたごた言ってるんすか。ほら、来ましたよ」


 エンジン音をふかせて学校敷地内へと入ってきた一台の白色のワンボックスカー。それは鞄を担いだ会長たちの前まで走り停車した。


「お久しぶりです、文ゲイ部の皆様。いえ、こうして全員と文ゲイ部としてお会いするのは初めてでしたね」


 車から降りてきたのは、小太りの人当たりの良さそうな五十くらいの男性。

 会長は一歩進みでると手を差し出して握手を求めた。


「今日はよろしくお願いします。課長さん」

「ええ、会長さんもお元気そうでなりよりです」


 課長さん・・・・・・七角堂で広報課長をしている。食材や服飾、その他多方面で広く商売をするこの大企業は、妖精師を統制管理する連合にも多額の支援をしており、広報部はそれを裏で行うための部署であったりする。


「それで、そちらがこの度新しく妖精師となられたセンセイさんでしょうか」

「は、初めまして。私が文ゲイ部の顧問を務めさせていただいています、み・・・・・・」

「センセイなに緊張してるんですか。少しは余裕のある立ち振る舞いをして下さい」

「し、仕方ないでしょう」


 何分妖精という存在に触れたばかりのセンセイなのだ。その元締めとされる連合の人間を前にしてどのような態度をとるべきか掴みかねていた。

 更には先程からの会長のフレンドリーな声音に少し怯えていたりもする。


 会長が横からセンセイに軽く手刀を落とすと、センセイの手刀が無言で会長の腹部を深く鋭く貫いた。文字通り刀のような切れ味は一撃で会長の膝を折らせた。

 

「・・・・・・いや、まじで痛い・・・・・・。たまには加減してくれても・・・・・・」

「あらあら、会長は相変わらずですわね」

「大丈夫ですか、会長さん」


 権力さんはそんな会長を見下ろしながら愉しげに笑い、ラベちゃんは心配そうに駆け寄ってきた。

 そこへ一陣の風が吹き、ラベちゃんのミニスカートの端を摘み上げた。


「・・・・・・黒のTバックはもう少し大人になってからにしなさい、ラベちゃん」

「きゃ、きゃああっ!?」

「権力・・・・・・余計なことを・・・・・・被害に遭うのは俺だ肩甲骨っ!?」

「これはこれは、仲がよろしいことで」


 顔を真っ赤に染め上げたラベちゃんの蹴りと、センセイの制裁が同時に同箇所に落ちた。

 痛みに悶える会長に課長は愉快そうに笑い、それにつられて脳筋さんや部長もつられる。センセイの口元もどことなく緩み、空気があっという間に弛緩した。


「これも予想通りですか、会長?」

「そんな計画を立てるなら、もっと主に俺が無事な方向で考えるっての・・・・・・まあ、結果オーライならそれでいいさ」



「では皆様乗ってください。多少手狭ですがね」


 課長に促されるまま、文ゲイ部は車へと乗り込んでいく。女性陣が全員入った後で最後に会長が助手席へと座った。


「では、今から向かいます。一時間程かかりますのでどうぞごゆるりと」

「そういや、今日の場所についてまだ何も聞いてなかったすね。依頼は妖精の捕獲でしたっけ?」

「はい、それがですね。先日から我が社の工場に妖精が忍び込んだようでして、度々悪戯をして社員も困っているのです。『師団』に任せてもよかったのですが、事を穏便に済ませるなら文ゲイ部の皆様が適任だと思い、依頼した次第ですよ」

「それはそれは、いつもお世話になっております」


 そんな様子をみながら、センセイはふと湧いた疑問を隣の脳筋さんにぶつけた。


「会長君と課長さんはどういった仲なのかしら」

「昔馴染みらしいぞ。オレが聞いた話じゃ会長殿が連合に加入した時からとか」

「そう言えば昨日から何度も聞いているのだけれど、連合とは一体何なのかしら?」

「連合は連合ですわよ。妖精師がその力を許可できるレベルを超えて行使しないよう、妖精師を登録し統括するのですわ。もちろん加入の義務はありませんわ。その代わりに連合から監視されることは避けられませんですけど」

「私、まだその登録をしていないのだけれど」

「だから今日はそれも兼ねているのですわ。登録と一口で言ってもそこまで大したことをするわけではありません。連合に関わる施設で妖精の力を使えばそれでほぼ登録は終わりです」 

「簡単なのね。もっと面倒なのを予想してたわ・・・・・・だけどそんなやり方で問題は無いのかしら」

「今までは何も起きたことないなぁ。妖精残滓を使って識別するから識別が簡単なんだよ、ですよ」


 脳筋さんは言った直後に自分の隣にいるのが教師であることを思い出して慌てて言い換える。

 そこへ、ラベちゃんが思い出したようにポンと手を叩くと身を乗り出してセンセイに顔を近づけた。


「あ、わたし、センセイの妖精さん見てみたいです」

「オレもオレも、センセイの見たーい」

「ちょっと、喧しいわよ」


「騒がしい連中ですみませんね」

「いえいえ、楽しくっていいじゃないですか」


 愉快な喧騒は車が止まるまで続く。

 彼らはどこにいようと彼らなのだ。

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