3話 チャット
家に着くと同時、制服を脱ぎ捨てた会長は携帯を取り出すとグループチャットを開いた。
勿論それは文ゲイ部のものである。
『センセイが妖精師になった』
そうとだけ打ち込んでから携帯を机の上に放る。
携帯は卓上で思ったよりも跳ねたため、一瞬強すぎたかと焦ったが、上を向いた画面からは光が漏れている。どうやら故障はしていないようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
そしてハンガーにかけられていた普段着のジャージに着替えたタイミングで、返信を告げるバイブレーションの音が聞こえた。
『詳しく』
ボクシンググローブのアイコンは脳筋さんだ。大体の確率で最初に返事をする。
課金依存の部長は四六時中携帯を触っているが大抵ゲーム中なので返信が遅いこともあり、化け物じみた聴力を誇る脳筋さんの方が早いという仕組みだ。
『センセイの家に妖精が出たんだ。今さっきまでその捕獲に尽力してた』
『成程、理解した。これで文ゲイ部は晴れて全員が妖精師になったのだな』
嘘はついていない。センセイとの交際関係は文ゲイ部連中にも秘密なのでこの表現。
『それで、その妖精は如何なるものであったか』
さっきから口調がいちいち仰々しいのは何故なのか。多分昨晩時代劇でも見ていたのだろうか。
影響を受けやすいのは脳筋さんの悪癖だ。
『《回帰》属性の守護妖精だ』
『ほう、回帰属性とな』
『珍しいですわね。一体何を宿り木に誕生したのかしら』
『さあな』
クマそれもリアルなツキノワグマのアイコンの権力さんが加わった。何故クマなのかは知っている分余計に怖かったりするのは後に語ろうか。
権力さんの疑問は尤もだが、しかし汚部屋が原因なんて口が裂けても言えない。散らかされた物たちの思念が集合して回帰属性なんて希少属性が生まれたなんて明かせば・・・・・・確実に怒られる。物理的に。
『では、明日の仕事はどうするかね。せっかく妖精師になったのなら、その扱い方を学ぶ場も必要だろう』
何かのゲームのキャラクターのアイコンは部長だ。脳筋さんと話し方が若干被っているせいで見分けがつきにくい。分かりづらい。
このまま部室に武士が増えればあの空間はかなり混沌とするだろう。
『連合への妖精師登録も必要だからな。それも兼ねてセンセイには来てもらうべきだろう』
冷蔵庫からお茶を出してコップに注いでいるうちに異論はこなかった。
会長はセンセイのことは自分が先方に伝えておくべきだろうと判断すると、携帯の電源を切った。
「はあ、さてと・・・・・・今日中に課題を終わらせておくとするか。夏休みは長いようで短いしな」
伸びをしながらそう決めて、麦茶を一気にあおる。冷えたお茶が喉を伝っていく。
課題は全教科出ているが、同時に『二つずつ』やれば午前中にほぼ全て終わるだろう。こんな時両利きだと便利だ。いや、そのために両利きになるように特訓した記憶がぼんやりと。まあいい。
課題は僅か二時間足らずで終わった。
「出遅れたです・・・・・・」
その頃、ラッキースケベ現象に巻き込まれていて携帯を見れなかったラベちゃんの哀しげな呟きが空に消えていった。
自分抜きでチャット会議が終わってしまっていたのは、さりげなく寂しかった。
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