第二節 うらもおもても

 人には定められた寿命というものがある。皇帝とその一族は〝天戸てんこ百八年〟、それ以外の臣民は〝地戸ちこ七十二年〟、ただし功労などにより最大百年まで延長は可能。

 その半ばで命を落とした時、呼び戻すべき【魂】を失ったニングでもない限り、死者は鬼郷きごうを訪れる。ウーたち三人は、その最も外縁にあたる宿場街へ到着した。


 冥界の闇を穴だらけにするような、おびただしい灯籠の明かり。

 その下を老いも若きも活き活きと行き交い、立ち並ぶ露店からは威勢のよい呼び声。食べ物を焼いたり揚げたりする匂いは、街路を幕のように何重にも覆っている。

 がしゃがしゃと音を立てて奮われる調理器具、地鳴りのような幾百の足音、話し声に笑い声。たまに喧嘩の怒鳴り声。


 誰もが陰気に黙って歩く様子を想像していたウーは、賑やかさに面食らった。ついでに食欲を刺激されてお腹が鳴りそうだが、それを堪えて話題を探す。


「これ、ぜんぶ死んだ人なんですか? 師父しふ

「中には仙人やら、冥吏めいりもいるぜ。ほら、あっちのノッポとか」


 冥府で働く官吏、略して冥吏。コージャンが顎で指した方には、身の丈三、四公尺メートルもの長身痩躯が歩いていた。なるほど、どう見ても人間ではない。


陰界あっち陽界こっちは裏と表、案外、どっちも差はねえのさ」

「……でも変ですね? 冥界は初めてじゃないのに、僕ぜんぜん思い出せないです」

「それはそうだよ」


 狗琅くろう真人しんじんが口を挟んだ。


「今の生きている君は自分の頭で考えているが、鬼郷に居た時は肉体を離れていた。記憶が残っているのは【魂】だけで、頭じゃない。生きた体には残らないのさ」

「道士の修行でも積めば、死んでいた間のことを思い出せるらしいがな」


 三人はそんな会話を交わしながら、宿場街を抜けて城市じょうしへ進んだ。閻国えんこくで多くの都市がそうであるように、冥界の町もまた、三重の城壁によって守られている。

 一番外側が先ほどの宿場街と兵営、真ん中と内側の城壁の間には、現世であるならば貧民街が。そして一番内側の城壁内に、冥府が座す城市がある。


 城市の概観シルエットは天に向かってぎざぎざと波打っていた。

 望楼ぼうろう城郭じょうかくが立ち並び、白い壁に黒い瓦屋根の素朴な家が軒を連ねたかと思えば、ぴかぴか銀色に輝く洋楼ビルが突き出す。通りをゆっくり歩く馬車を、自動車が蒸気発動機エンジンふかして追い越し、その車は路面電車に道を譲る。


 あちらこちらに茶館カフェがあり、舞踏庁ダンスホールに映画館といった娯楽施設も充実。通りはゴミもなく清潔で、そこらへんの太鼓橋までどこかの庭園のようだ。

 すっかりウーは感心して、あたりをキョロキョロと見回した。


「なんか……思ったより都会的なんですね」

「つうか、治安がいいんだよな。ここの生活は冥府が面倒見てくれっから楽だし、悪さをすりゃ反魂はんごんを取り消される。喧嘩っぱやいのやら、恨みがあるのやらいるだろうが、大人しく過ごすほうが得なんだよ」

「あまり悪事が過ぎると、【魂】を破棄されるしね」


 狗琅真人が口にした単語の意味が分からず、ウーは「はき?」と繰り返した。


てるってことさ。その後は、我々がもらうんだよ。【魂】を」


 若仙じゃくせんは、眠り猫のような顔で微笑んだ。


「現世でも、【魂】を欠いたニングは、物に閉じ込めて蔵魂器ぞうこんきにしたり、使鬼しきに変えたりするだろう? 同じように、罪ある【魂】は我々の実験材料になったり、道具として加工されたりする。そうして開発された術や道具はたくさんあるよ」

「へー……」


 狗琅真人はウーにべさせるため、にえの罪人を何度も連れてきた。あれと同じということだろう。


 年に一度の中元節ちゅうげんせつが来ると、神霊庁しんれいちょうに招かれた仙人が各地の寺院を訪れ、神灵カミを仲介して反魂の儀を執り行う。鬼郷での生活は、それまでの仮初めに過ぎない。

 寿命を全うすれば、【魂】は次の転生へと進む。【魂】を失ったニングや、ウーに喰われた者たちには、関係のない話だが。まったく世の中不公平なものだ。


「それより二人とも、冥府が見えてきたよ。急ごう」


 言われて、ウーは町の中央に鎮座するその威容に気がついた。それ一つで城市全体の半分に達しそうな、巨大で壮麗な宮殿。まるで皇帝の居城のよう。


                 ◆


 大門をくぐり、水路にかかった橋を渡ると、面積数公里キロに及ぶ石畳の広場に出た。案内図を見ると、膳房ちゅうぼう、作業所である作房さくぼう庫房そうこなどなど、一千以上もの建物が敷地内にある。狗琅真人の案内で、一行は小さな庭園へ出た。


「ここで担当の〝鬼仙きせん〟と待ち合わせているんだ。七殺しちさつ不死ふしの戸籍を作る前に、軽く身体検査して、問題なしと許可をもらわなくちゃならなくてネ」


 地上に住む仙人を地仙、天へと飛び立った仙人を飛仙、天仙と呼ぶように、冥界に暮らす仙人を鬼仙と呼ぶ。冥仙ではない。閻においてとは、死者の霊を指すのだ。

 そして、この鬼仙たちが冥府を切り盛りし、死者の【魂】を管理している。……と、狗琅真人作のしおりには解説されていた。


 池の傍に立つ四阿あずまやに、鹿のような枝角を生やした人影あり。枝の一つ一つに、びっしりと文字が書き込まれた白い帯を結んで、いくつも垂らしている。

 その鬼仙は右拳を左手で包んで上下させ、挨拶した。左手の陽が右手の陰を包み込む――狗琅真人も同じように返す。


「どうも、耿月こうげつきょう狗琅子くろうし殿」


「卿」とは六位階ある仙人の階級の内、上から四番目の位だ。齢二百の若さで卿位に達する者は少ない。


「検分役の嘆蝉たんぜん道人どうじんです。そちらが七殺不死ですね」


 嘆蝉道人の姿は、近づいてみるとよりいっそう異様だった。角を除けば長い黒髪と青い道服姿なのだが、両目の下から顎にかけて、符呪のような入れ墨の文様がある。

 更には、その目玉は白目も黒目もない、翡翠一色の球体だった。


「これを」


 言って、嘆蝉道人は自分の目を抉り出す。差し出された手には、眼球ではなく少し湿った翡翠の玉が乗っていた。思わずウーは狗琅真人を見る。


「あの、しおりのお約束って」食べない・もらわない・持って帰らない。

「今は忘れていい。受け取って、口に入れなさい」


 げえー、と声に出したいのをこらえて顔を歪めていると、コージャン師父は「がんばれ」と弟子を励ました。諦めて、ウーは嘆蝉道人の手から玉を受け取る。

 舌にかかる冷たい重みは、本当に翡翠の玉そのものだ。幸い生臭くはない。


「もぼぉっ!?」


 その玉は、勝手に喉の奥へ潜り込んだ。やや間を置いて、腹に鈍い痛みがじんわりと染みる。コージャンは「大丈夫か」とウーの背中をさすった。

 嘆蝉道人は目を閉じて、「ふむふむ」などと興味深そうに唸っている。瞼の上にも文様があり、頬のそれとひと繋がりになっていた。


「ここの十七段目の式ですが……」

「発素仙部の参照ですネ。帰還増幅原理の……」


 二仙、専門用語まみれの会話を交わすことしばし。


「よろしい」


 嘆蝉道人が目を開くと、そこには元通り翡翠の双眸があった。袖から法印ほういんを取り出し、ウーの額にくっつける。四角い印面はひやりと冷たく、濡れた感触がした。


「……なにするんですか」恨みがましい声が出た。

「見た目にはすぐ消えるので安心なさい。さて、そちらの方は」


 嘆蝉道人はコージャンの方を見て、目を瞬かせた。訝しげだ。


「これは……剣の変化へんげ……ではなく人間ですか。ずいぶんと剣気の強い。何か神剣宝刀のたぐいをお持ちで?」

「俺が持ってんのは、神魁流のわざぐらいだよ」


 特にかしこまる様子もないコージャンに、嘆蝉道人は「はは」と笑った。


「このまま剣技を極めれば、〝剣仙けんせん〟を得ることも出来ましょう。しかし、貴道あなたのお弟子さんには見えないようですが」

「友人です。彼は仙風道骨せんぷうどうこつのものではないので」

「友人?」


 初めて聞いた言葉のように、鬼仙はオウム返しに呟く。

 ゆっくりと回すように首を傾げ、嘆蝉道人はしげしげとコージャンをつま先から頭のてっぺんまで眺めた。師弟はそろって顔をしかめる。


「なんか文句あんのか、冥府の偉い仙人サンよ」

「いえ。つくづく耿月卿はと」

「彼は私の友人、【大事だいじもの】です。無礼は慎んで頂きたい」


 狗琅真人の声はいつになく鋭かった。一刀両断されたように、嘆蝉道人の侮るような雰囲気が切り捨てられる。


「それは失礼を」


 すっと距離を取り、謝意を示すように鬼仙は瞑目した。続く声音は、痛みを堪えるように重く沈痛で、ウーはその急な変化についていけない。


「無礼を承知で言葉を重ねさせていただきますが、貴道は危険だ。たかだか百年も生きぬものを、【大事之物】になど」

「それでも、今さら変えられぬことなのです。変える気もありませんし」


 幸福に眠る猫のように穏やかな表情は、狗琅真人から拭い去られていた。何百年も形を変えない岩の彫像のように、静かで乾いて冷たい。こんなことは初めてだ。

 ぎしりと、鬼仙の角が軋む音を立てて枝を伸ばす。


「ならばうしなった際には、目玉が腐れるまで嘆かれるがよろしい。私のように!」


 嘆蝉道人は伏せていた瞼を開けた。皮でも剥ぐように、血の涙を流さんばかりに、空っぽの眼窩を三人に見せつける。さっきまであった翡翠の代わりに、そこにはかすかに赤い虚ろな闇が広がっていた。


                 ◆


 身体検査は序の口。本番は受け付け巡りと大量の書類仕事だ。

 嘆蝉道人の一件に釈然としないものを覚えながら、なんとなく聞きづらく、ウーは不機嫌な顔をしていた。さっきまでは。今は猫を目で追いかけるのに忙しい。

 冥府の受け付け窓口はどんなものかと思えば、そこは黒猫天国だった。


 異形ひしめく窓口行列の間、巨大な列柱の間、瀟洒しょうしゃな調度類の間をてしてしと、あるいはすたたたたと、肉球を踏みしめ、長いのやら短いのやらかぎのやら、しっぽを揺らして黒猫たちが行く。みんなキリッとした顔つきで、耳をピンと立て、「私、お仕事してます」という感じだ。しかし可愛い。


「こいつら、みんな無常猫むじょうねこって冥吏なんだよ」


 師父の解説に、へぇぇぇーとウーは今日一番感心した声を出した。狗琅真人と三人で受け付けに並ぶ列の中、猫たちを眺めるだけで何時間でも過ごせそうだ。


「冥府ってのは万年人手不足だからな。冥吏のことを〝無常鬼むじょうき〟ってんだが、まだ生きてる人間やら鴉やら猫やら狐やらを、冥吏代行や臨時雇いの〝走無常そうむじょう〟にするんだ。正規の冥吏もいるんだろうが、この黒猫はほとんどが走無常だな」

「へええ。でも、なんで黒猫だけなんでしょう?」

「白いのもいますよ」


 足下から柔らかな声。視線を落とすと、一匹の黒猫が愛想よくこちらを見上げていた。と思えば、ぐっと背を伸ばして後ろ足で立つ。無常猫は伊達ではない。


「黒とか白とかは、ボクら無常猫の制服なのです」

「あ、猫さん。ご親切にどうも。でも……服? 毛の色が?」

「我ら人間と違って立派な毛皮があるので、服は着ません。代わりに、毛皮を着替えます。ボクは元々黒いけど、本当は尻尾と足の先が白いんですよ」

「へえええ。ちょっと触っていいですか」もふもふしたい。

「やめてくださいよ。性騒擾セクハラですよ。現世のしゃべらない猫も、勝手に触ったりしっぽ掴んだらだめですからね! それじゃー失礼しまーす」

「可愛い……」


 去っていく黒猫を見送って、ウーは嘆息した。その背後に不穏な気配。


「猫、好きかネ? 尻尾と耳ぐらいなら、君にもつけられるが」

「いりませんよ、気色悪い!」


 ずざっと後退って、ウーは距離を取る。いい気分だったのが、狗琅真人の一言で台無しだ。まったく心が動かない訳ではないが、体に直接生えるのは困る。

 狗琅真人はおおげさに肩をすくめた。もう、いつも通りの飄々とした調子で。


「私は君ともう少し、仲良くしたいのだがネ」

「自分が僕になにしたか、考えたらどうです。おかまいなく!」

「ンン……リーくん、彼は何をそんなに怒っているのかネ?」

「そこは話すと長いから、とりあえず放っておいてやってくれ」

「長い。つまり複雑なんだネ? 分かる、分かるよ」


 我が意を得たりとばかりに、ぱっと狗琅真人は笑顔になった。良いことを思いついたのだろう、ウーにとっては嫌な予感しかしない。


「リーくん、もう少しこの子の記憶を削っていいかい?」


 心臓と入れ替わった爆弾が、腹の底まで爆轟ばくごうを響かせた。怒りにぜ跳ぶ蹴り足が狗琅真人のすねを捉え、お前なんか嫌いだという気持ちを力の限り燃やす。

 それ以上言うことは何もない。ウーは列を抜け出し、待合室へ向かった。背後で、コージャン師父がやれやれと嘆息するのが聞こえる。


「今のはさすがに、お前が悪い」


 コージャンは友人の肩を軽く叩くと、説明して欲しそうな表情を無視した。


「俺たちゃあっちで待つからよ。受け付け任せるわ」

「うん、後でネ」


 狗琅真人は殊勝にその背中を見送ると、何事もなかったような顔で列に並んだ。


「なんなんですか、あの人。あのクソ仙人」


 待合室の長椅子、隣にコージャンが腰かけるなり、ウーは吐き捨てる。


「さっきの鬼仙の時もよく分からない話してましたし。師父のことが大事大事って言いますけど、あいつ、人の記憶を消せるじゃないですか」

「狗琅が、俺の記憶も消してるんじゃねえかって、そう思うのか?」

「そうです!」


 さすが師父は話が分かる。ウーは勢い込んだ。


「師父にひどいことしたりとか、なんか都合の悪いことを、消したりしてるんじゃないですか? 狗琅真人は、師父をいいように利用してるかも!」

「かもな」


 コージャンは何も否定しなかった。ウーは目を輝かせて次の言葉を待つ。


「まあ、それはそれで、いいんじゃねえか。俺もあいつにゃ世話ンなってるし」

「そんな!」


 落ち着け、とコージャンは手のひらを突き出して弟子を制止した。


「なんつーか、ホラ。俺とあいつは十年来のつきあいになるんだよ。仙人にとっちゃ大したことねえ長さなんだが、その間に色々あったんだ。本当に色々な」

「じゃ、色々を話してください」

「冗談じゃねえ、恥ずかしい」

「なんで!」


 一体何があったのだろうか? 先の苛立ちを、ウーの好奇心が押しのけた。それを察して、コージャンは重い口を無理やり開く。


「ええとな。俺は昔、あいつに命を拾われた」

「それは聞きました」

「そんで、俺を助けたのは役に立つと思ったからで、実際俺は期待通り、あいつの助けになった。で、そん時は無茶苦茶大変で、そろって死にかけて、まあ何とかなった。その時のことを、あいつはずっと感謝してるって訳だ。これでいいか?」

「もっとくわしく」

「メンドくせえー……」


 話し始めたことを後悔しながら、コージャンは天を仰いだ。


                 ◆


 再三のむかつき。コージャン師父がうだうだしている間に、書類を抱えた狗琅真人が戻ってきて、結局それ以上の詳しい話は聴けなかった。


「なあ、狗琅ちゃんよ。前に言ってた時より増えてねえか」

「怒らないで聞いてくれるかネ? 以前、別件で提出した書類に不備があったと叱られてネ。訂正書類を追加されたよ」

「『されたよ☆』じゃねーよバーロー!」

「ポンコツ仙人だあ」


 数センチの厚みがある書類を一枚つまんで、ウーは呆れた。

 待合室の一角には、書類を書くために椅子と机が数脚設置されている。三人はそこで紙束を広げて、作業に取り掛かった。

 と言っても、九歳児のウーに出来るのは、お茶をいれたり、墨をすったりがせいぜいだ。現世と違って圓珠筆ボールペンなぞ無いのが、冥府の恐ろしい所である。


「いつも洞で使ってる人形はどうしたんですか。あれがあれば楽なのに」

「私もそう思うが、冥界に持ち込むだけならまだしも、冥府内で使おうとすると、一体ごとに山ほど書類を書かされるんだよネェ~」

「ひどい話ですね……」

「お役所ってな、あの世もこの世もメンドくさくていけねえ」


 狗琅真人は腕を五本六本と増やして一人で数枚の書類を書き上げていったが、それでもなかなか紙の束は減らない。

 数時間後、疲れたウーは長椅子に横たわって寝始めた。それを羨ましそうに横目で見ながら、コージャンはゲッソリとうめく。


「…………死にてえ」

「おめでとう、冥府で言われた一番面白くない冗談だネ」

「俺は書類ってヤツが大嫌いなんだよ!」

「私も好きじゃない。がんばろうネェ」

「チキショウ」


 実のところ、コージャンに就学経験はなく、狗琅真人に出逢うまでは、事務書類のたぐいとも縁がなかった。それから十年になるが、いまだに苦手だ。

 幸い、読み書きそろばんは神魁流で教わったので、特に不自由はない。


 とさり、と何かが落ちた気配にコージャンは傍らを見た。そこには、長椅子の上で寝るウーと、落っこちて床の上で寝ているウーがいる。


「あァ?」

 

 二人の弟子を上下見比べていると、床に三人目が落ちて転がった。


「おい、狗琅、見ろ!」

「あっ」


 事態に気づいた狗琅真人は、椅子を蹴って机を飛び越えた。

 袖口から蛇のようなものが飛び出し、五人に増えたウーをまとめてぐるぐる巻きにする。最後に、音を立てて額に札を貼ると、青い火花が散った。


「いや驚いたネ。冥界だと【魂魄こんぱく】の結合が弱まって、離れようとするらしい。多分、眠らなければ大丈夫だろうが」

離魂りこんびょうみたいなもんか。起こした方がいいのか?」

「いや、法鞭ほうべんと霊符で固定したから、しばらくこのままにしよう」


 ウーは一見、一人に戻っているようだった。麻縄で隙間なく巻かれた少年を長椅子に座らせながら、狗琅真人が眉根を寄せる。


「……不妙まずい……」

「どうしたよ」


 若仙の声にはいつにない焦りがあった。


「本体がいない。コージャン・ウォンの【魂】が離れている」

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