第9話
翌日。
カナはピザパーティ計画を実行すべく、ワゴン車に食材を乗せ妖精森に向かった。
「ピザは半年間バイトした店で教わった、私が唯一作れる料理。お店特製のピザ生地にピザソース、後は具材を乗せて焼くだけ。三種類のチーズに旬のナスと完熟トマトの夏野菜は準備したけど、お肉はどうしよう?」
とても手料理とは呼べないが、元バイト先は美味しいと評判のピザ店なので、同じ材料を使えばカナでもまともなピザが作れる。
そうして妖精森前の広場に到着すると、普段ほとんど車の通らない道の端に、一台の宅配車が停まっていた。
宅配車から眼鏡をかけた青年が額の汗をぬぐいながら降りてきて、カナのワゴン車に近づくと困った表情でたずねる。
「すみません、この別荘地の方ですか? 実は配達物があるのですが、中に車の乗り入れができなくて荷物が届けられないんです」
「そうですか、ワタシはこの別荘地の管理人です。荷物ってもしかして、大叔母さん宛のお中元かな。別荘地の道は狭くて車の乗り入れが出来ないので、荷物はココで私が受け取ります」
カナは手慣れた様子で車に乗せた台車を降ろし、宅配車の前に運ぶ。
宅配青年は助かったと呟くと、安堵した様子で台車に荷物を載せ始める。
その荷物は二、三個ではなく、台車に数十個のお中元が山のように積まれた。
なるほど、この量では宅配青年も途方に暮れるはずだ。
カナは宅配青年に、自分がいないときには道向かいの雑貨店に荷物を預けるように頼んだ。
「さすが大叔母さん、ものすごい数のお中元。夏別荘のお客様が増えたから、タオルや洗剤はとても助かるわ。それとお米や食料品が多い……こ、これは新潟魚沼の高級米!! はっ、ダメダメ、今日はピザパーティの予定よ」
大量のお中元受取証のサインをしながら、台車に積まれたお中元をチェックしていたカナの目に一つの箱がとまる。
「これは某有名牧場のパッケージ、中身もずっしりと重い。もしかして、もしかして、うわぁ大当たりだ」
ベリベリと乱暴に包み紙を破き、中から取り出したブツを見て、カナは思わず歓喜の声を上げる。
「予想通り、中身はベーコンとハム。通販のお取り寄せランキングで常に十位内に入っている、花華牧場まん丸豚のじっくり熟成させた絶品ベーコンと生ハムの詰め合わせ!! 綺麗な桜色の生ハムにリンゴのように鮮やかな肉色の熟成ベーコンをピザに乗せて、石窯でカリカリに焼いたら、うはっ、絶品ピザが出来上がる」
ベーコンの賞味期限は三週間で、大叔母さんは来年までニホンに戻る予定はない。
他にタイミング良く届いたビールやワイン、某有名店のバームクーヘンまであり、ピザパーティの食材はすべて揃った。
「大叔母さんありがとう。これで今日のピザパーティは大成功よ」
カナは上機嫌で歌を歌いながら台車を押して夏別荘に運んでいった。
大魔女からの突然の贈り物はエレーナ姫たちを驚かせ、箱に書かれた異国の文字が読めなくて、中身の分からない箱を一つづつ開いては歓声を上げる。
まるでクリスマスのサンタのプレゼント状態になった。
バラの香りのする高級シャンプー&リンスのボトルを手にしたエレーナ姫の姿は、テレビのシャンプーCMを見ているようだ。
蜂蜜入りの手作り石鹸をお菓子と勘違いして食べようとしたメイド娘を慌てて止めたりと、多少のアクシデントはあったが、お中元はほとんどが別荘暮らしに役立つモノばかりだ。
「私たちは大魔女さまとカナさまのお世話になりっぱなしで、本当によろしいのでしょう? 城を焼かれ金品も持たず着の身着のまま逃げてきたのに、大魔女さまに住み心地の良い素敵な館と、充分すぎるほどの食べ物を与えられています。私たちはどうすれば、ご恩に報いることが出来るのでしょう」
「ワタシは大叔母さんからバイト代を貰っているから、エレーナ姫さまが気にすることありません。そうだ、もし私がお姫様や王子の国に遊びに行った時に、お家に泊めて下さい。それで良いでしょう」
カナの言葉にエレーナ姫は一瞬真顔になるが、隣にいる侍女長と目を合わせ、微笑みを浮かべながら会釈した。
「では、もしカナさまがアチラの世界にいらっしゃるのでしたら、私たちは精一杯おもてなしいたします」
その言葉は契約になる。
カナが、アチラの世界へ招かれた瞬間だった。
***
カナのいる妖精森は真夏だが、アチラの世界は真冬。
村の子供たちを逃がすため、そして妖精森に住む大魔女の呪いを解くために、少年はおとりになる。
凍ることのない沼地に取り囲まれた森の中へと続く一本道は、所々膝まで泥が溜まり、少年はその中を歩かなくてはならなかった。
妖精森の結界は侵入者を押しつぶそうと、見えない重力が少年の肩や背中にのしかかる。
泥に足を取られ倒れそうになるが、少年の首に巻かれた縄に引かれて体を後ろに反らす。
奴隷の呪いをかけられた首の縄は、決して切る事がない。
背後を振り返ると、縄の端を握りしめ自分の姿をあざ笑う領主の姿を見た。
「僕はなにがなんでも、大魔女と会って呪いを解いてもらう。兄上、いいや、お爺さまや皆を苦しめるアノ男から、村を開放するんだ」
巨大なドーム状の結界に包まれた妖精森の中は、真冬だというのに深い緑に異国の花が咲き乱れ、色鮮やかな蝶が舞っている。
しかし結界は侵入者を拒み、妖精森に近づけば近づくほど重圧を増す。
少年は氷のように冷たい泥に膝上までつかり、体は凍えて震え、足の感覚もなくなってきた。
それでも前に進めと急かすように、首の縄がギリギリと締め付ける。
次第に意識はもうろうとしてきて、体が前のめりになり両手が泥の中に沈んだ時、指先になにか細長いモノが触れた。
引き上げると細い鎖に見えたモノは、白銀に光る蛇に変化して手首にからみつく。
「なんで……こんなトコロに白蛇が、いるんだ。ここは呪われ……残酷な土地。お前も早く逃げろ」
その瞬間、少年の首の戒めがゆるみ体を押しつぶしていた力が消え、結界の内側へ転がり出た。
妖精森の中へと続く白い石畳の細い道が目の前に現れる。
森の中から何かが焼ける香ばしいかおりが漂い、少年は残された力を振り絞り森の入口までたどりつくが、そこで意識が途切れた。
***
アシュたちが丁寧に作った石窯に火入れして温まるまで、カナはピザ生地に具材をトッピングをして料理の準備をしていた。
「ほう、コレはずいぶんと大きな肉の塊ですな。どれ味見を、おおっ、旨い。とても濃厚な肉と脂が、口の中でとろけるようだ」
油断大敵、側から手を伸ばした隊長はベーコンを摘み上げると、がぶりと一口かじる。
「やめて隊長!! それは通販お取り寄せ予約二ヶ月待ちの、絶品まん丸豚のじっくり熟成ベーコン。ああっ丸かじりした歯形がついている」
たった一口でベーコンの五分の一をかじられ、仕方なくその部分は切り落として端切れを隊長にあげた。
ピザを焼く前に具材が全部食べられそうな状況に、カナは焦る。
「隊長はルーファス王子と釣りに行ったんでしょ。石窯で釣ってきた魚を焼くから、ここに持ってきて」
しかしカナの言葉に隊長は気まずい顔で、その後ろで不機嫌そうなルーファス王子がいた。
どうやら今日の漁果はゼロで、王子はふてくされているようだ。
特に王子は意地になって、お昼もおやつも抜きで魚を釣っていたらしい。
お腹がぺこぺこでご機嫌斜めの王子様は、メイドたちがなだめても言うことを聞かない。
「魚はぜんぜん釣れないし、もうお腹が空いて我慢できない。僕もその大きな肉をかじる」
「隊長が変な事するから、王子が真似するじゃない。まだ石窯の炭にちゃんと火がつかないの、あと三十分待ちきれない?」
着火材を使って炭に火をつけたが、石窯全体が温まるまで少し時間がかかる。
石窯が温まればピザは数分で焼けるけど、お腹が空きすぎて半分涙目の王子はカップ麺を食べると言い出す。
それではピザが焼ける頃にはお腹いっぱいになってしまう。
「あら、カナさま。それでしたら【炎の結晶】を使えば、すぐ火が付きます」
そういうとアシュが小さな袋から、まるで石の中に炎が閉じこめられた巨大なルビーのような、今までカナが見たことのない石を取り出した。
その宝石を、アシュは無造作に石窯の中へ投げ入れる。
「ええっ、アシュさん、そんな綺麗な宝石を炭の中に捨てたら……あっという間に火が付いた!」
「魔力で火を操る【炎の結晶】が珍しいのですか? 私たちには魔力を込める必要もなく、誰でも炎が扱える火打石(ライター)の方が珍しいです」
【炎の結晶】のおかげで石窯は数分で温まり、カナは一枚目のピザを焼いた。
夏別荘前の広場に作られたピザ石窯の煙突から煙が立ちのぼる。
ピザ生地は薄くて軽くサクッとした食感のクリスピー生地に、しっかりとトマトの風味するソース。
お腹の空いた王子のために、子供の大好物具材のコーンと卵、じっくり熟成させた絶品ベーコンの焼ける香ばしい匂いと三種チーズにマヨネーズが絡みあう。
そしてピザの焼ける香ばしいかおりが周囲に漂った。
カナは焼きあがったピザをナイフで八等分に切り分けて紙皿に乗せ、みんなに配り始めた。
「ピザはチーズがすごく熱々だから気をつけて、サンドイッチみたいに手で持って食べるの」
そしてカナは紙皿に乗せたピザを直接かじると、とろけたチーズが糸を引く。
ゴクリ、誰かが唾を飲む音が聞こえ、隣にいたルーファス王子はさっそくカナを真似てピザを食べ始めた。
「ぱくっ、はふはふっ、熱っ。オヤカタ、トマトソースの薄焼きパンとカリカリしたベーコン、一緒に食べたらとても美味しいぞ!!」
「王子様、そのような食べ方は行儀が悪いです……でも美味しそう。私も一口、ぱくり、パンがサクッと焼けて香ばしくて、白いマヨネーズが濃厚な味を出しています」
テーブルを外に運び出してセッティングしたが、ルーファス王子や護衛の者たちは石窯の周りに集まり、焼けたピザを石窯から取り出した側から食べてしまう。
優雅なパーティとはほど遠い状態だけど、皆が喜んでピザを食べる姿にカナは満足する。
しかし、何かがパンチが足りない。なんだろう。
「あれっ、肝心なモノを忘れているような気がする? 思い出した、タバスコがない。タバスコ抜きのピザなんてタコのないタコ焼のようなもの。コンおじさんの雑貨店に売っているから、急いで買ってこよう」
忘れ物に慌てたカナがその場を離れようとすると、ピザを食べてお腹が落ち着いた王子は、自分も一緒について行くという。
「王子、森の外に出ては危険です!! ウィリス隊長、王子の付き添いをお願いします」
「なんだアシュ、俺を呼んだか? もぐもぐ、分厚く切ったベーコン&エビのピザが焼きあがったばかりなんだ」
巨漢で大食漢の彼らは、焼きあがった大きなピザ一枚を丸ごとひとりで食べる。
この調子ではタバスコを買って来るまでに、すべてのピザが食べ尽くされてしまいそうだ。
「ちょっと待って、急いでタバスコを買いってくるから、ワタシが戻るまでピザは焼かないで。王子は後から付いてきて」
「はい、では私が王子の護衛に付きますので、カナさまは先に行かれて下さい」
ルーファス王子は、カナが白い自転車に乗って石畳の道を走る後ろ姿を見た。
自転車は黄金色のまばゆいオーラを放ちながら、まるで宙を駆けるように走る。
王子はふと夏別荘を振り返ると、館の開け放たれた子供部屋の窓から外を眺めている高位の魔獣【黄金獅子】の姿が見えない。
「アイツ、知恵を働かせたな。白い自転車に憑依すれば、いつでもオヤカタと一緒に居ることができる。異界の魔獣の分際で、勝手に僕のオヤカタに近づくな!!」
やきもちを焼いた王子はカナを追いかけて一生懸命自転車をこぐが、片方の補助輪を外した自転車はバランスを崩す。
二人の差はどんどん開いてゆき、先を行くカナの姿が見えなくなると、王子は自転車ごと派手に転び泣き出しそうになる。
付き添いのアシュは王子をなだめると、自転車の後ろを押して白い石畳の道を進んだ。
妖精森の道向かいの雑貨店の扉には、『配達中』の札がかかっている。
「忙しくて忘れていたけど、コンおじさんもピザパーティに誘いたいなぁ」
仕方がないので勝手に店の中に入り、タバスコと一緒に売られていたハバネロを取ると代金をショーケースの上に置いた。
カナが買い物をしている間、店の番犬が足下にまとわりつき普段以上にじゃれつく。
「オジサンが居ないからお前も退屈しているのね。そういえば王子にケルベロスを見せると約束したし、おじさんのかわりにお前をピザパーティに連れて行ってあげる」
ケルベロスというダークな名前の小さな柴犬は、艶やかな黒い毛並みに足先が白、まるで靴下をはいているように見える。
しっぽがクルリと巻いて耳がピンと立ち、大きな赤い目をしていた。
カナは小犬を抱いて店の外に出ると、ケルベロスはその腕をすり抜けて妖精森の中へ駆けだしてしまう。
「えっ、ケルベロスどうしたの。猫でも見つけた?」
妖精森の入り口で小さな柴犬がワンワンと激しく吠え、カナに何かを知らせようとしていた。
この場所は……カナは胸騒ぎを感じながら白い自転車を押して、犬が吠える場所に向かう。
予感的中。
最初ルーファス王子が倒れていて、次は隊長を自転車で曳いた森の入り口に、痩せて手足が泥だらけの少年がうつぶせに倒れていた。
「君、一体どうしたの、大丈夫!! 雨が降ったみたいに全身濡れて泥だらけ。この子の髪の色に顔立ちは地元の人じゃない、外人さんだ。それに首に縄が巻かれて繋がれて、誰がこんなヒドいことを……」
カナは倒れた少年をのぞき込み、何回か声をかけて体を揺さぶるが、苦しげにうわごとを呟く少年はなかなか意識を取り戻さない。
「もう少しで起きそうなんだけど、私の声が聞こえないの? ちょっと刺激が強いかもしれないけど、この方法で目を覚ますかな」
そういうとカナは手に持っていたタバスコを指先につけ、口を半開きにした少年の舌にたらす。
苦しげにうめいていた少年は一瞬押し黙ると、その味を確認するように口を閉じモゴモゴ動かしたあと、突然跳ね起きた。
「うぐぅ、うわぁーああ、大魔女の呪いがぁ、舌が地獄の業火で焼かれるぅ!! 大魔女さま、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」
「あっ、目を覚ました。ねぇ君、大丈夫?」
ここはどこだ……大魔女の住む呪われた妖精森の中?
さっきまで凍えるほど寒い泥の中にいたのに、今は汗ばむほど暑い。
体を起こし顔を上げた少年は、黒い大きな瞳で自分を心配そうに見つめる茶色い髪にレースのドレスを着た妖精を見た。
「良かった、意識を取り戻したのね。少し口の中が辛いけど、タバスコを舐めさせただけよ。ここに倒れたままでは熱射病になってしまう、起きて立てる?」
「あ、貴女は誰、人間ですか? 僕は妖精森の大魔女に、呪いを解いてもらうために来ました。どうか大魔女と会わせて下さい」
少年の言葉にカナは首を傾げた。
前にも同じような会話をした。
この男の子もルーファス王子と同じ事を聞いてくる。
「大叔母さんは妖精森にはいないのよ。南の島へバカンスに出かけているの」
「ええっ、まさか大魔女がいないなんて、そんな!!」
カナが「大叔母さんはいない」と返事をすると、少年は酷く落胆した声を上げる。
この少年も王子たちの国のクーデターに巻き込まれ、大叔母さんを頼って逃げてきたのだろうか?
そこへ、やっとカナに追いついた王子とアシュは、カナが泥まみれの少年を助けるところを見た。
「カナさま、その子供から離れて下さい!! お前は何者だ、どうやってあの強固な妖精森の結界を越えてきた」
アシュはルーファス王子を後ろに庇い隠し持っていた短剣を構える。
少年の服装は、カナたち大魔女の世界のモノではなく自分たち国の平民服だ。
大魔女の結界を破り妖精森へ侵入してきたという事は、例え子供でも油断ならない。
「ちょっとやめて、子供に刃物を向けるなんて、アシュさんどうしたの!! この子は今まで気を失っていたのよ」
短剣を突きつけられた少年は声にならない悲鳴を上げ、カナはアシュを止めようと前に出る。
その時、獰猛な獣のうなり声がして草むらから何かが飛び出してきた。
小さな黒い犬が全身から膨大なオーラを放ち、鋭い牙をむき出しにした三首の巨大な猛犬に変化する。
妖精族の祖先帰りの魔力を持つルーファス王子には、それが罪人の魂を引き裂く地獄の番犬ケルベロスだと分かった。
ケルベロスは牙をむき出しにして、短剣を構えるアシュに襲いかかろう身構えている。
「アシュ、剣を引け。ケルベロスの牙にかかり、魂を引き裂かれるぞ!!」
制止の言葉にアシュが反射的に剣を下ろし、後ろの王子を振り返った瞬間、地獄の猛犬は大口を開けて女騎士に噛みつこうとした。
そのケルベロスの首輪がいきなり引っ張られる。
地獄の猛犬の頭を鷲掴み、後ろに放り投げて悲鳴をあげさせたのは、小柄な魔女だった。
「コラ、ケルベロス。いきなり人に飛びかかるな。ごめんねアシュさん、そういえば護衛の人たちは犬嫌いだったよね」
カナには、巨大な三首の地獄の番犬の姿は見えない。
じゃれてきた小犬に王子とアシュが酷く怯え、それで慌ててケルベロスの首を捕まえて放り投げたのだ。
カナにしかられたケルベロスは、地獄の猛犬からただの黒い子犬の姿に変化をといた。
地面に座り込んだまま立ち上がれない少年に、ルーファス王子は近づく。
「その精霊はどこで手に入れた? お前の腕に巻き付いている白蛇は、僕の使い魔だ」
「白銀の髪に妖精族のお姿、貴方はルーファス王子さまですね。私の兄である領主に結界を越えるように命じられ、泥の中を歩いていた時に蛇を見つけました」
少年の手首に巻きついていた小さな蛇は、王子が手を差し出すと身を震わせながら飛び移ってきた。
「そうか、オヤカタに蹴飛ばされて行方知らずになった僕の使い魔を、お前は泥の中から助けてくれたのか」
「えっ、蛇はどこにいるの!! 害獣駆除しなくちゃ」
蛇という言葉に反応したカナに、王子は大慌てで使い魔の白蛇をポケットの中に押し込む。
ルーファス王子の守護精霊を連れていたので、アシュも少年は敵ではないと納得した。
アシュは歩けない少年を背負い、夏別荘に連れて行くことになった。
「お恥ずかしい話、兄はこの地の領主で、僕は腹違いの弟です。大魔女に兄の行為を詫びるため、弟である僕が来ました」
「この辺の地主がお兄さんで、君は義理の弟なのね。大叔母さんとお兄さんが喧嘩して、弟を謝りによこすなんてふざけた話だわ!!」
少年はカナより少し背が低いが、とてもやせ細り衰弱している。
両親と死別し兄に虐待され、お爺さんに育てられたという話だ。
歩きながら少年の話を聞いたカナはプリプリ怒っていた。
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